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レオナルドの呼び出し
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朝食を終えた頃、エレナの部屋に一通の手紙が届けられた。
『南棟の応接室で待っています。どうか他言なさらぬよう』
手紙は、厚手の羊皮紙に淡い香りが染みついていた。封蝋には何の紋章もなく、差出人の名も記されていない。
けれど、その文字を見た瞬間、エレナの目が止まった。
この筆跡、見覚えがある。
均整のとれた筆運び、癖のない端正な書きぶり。
それはレオナルド殿下の文字だった。
昔、セシリアが「体調が悪いから」と言っては遊びまわっていた頃、恋文の返事を何通もエレナに代筆させていた。文面は姉の言葉、だが中身はエレナが書いていたのだ。
そう、何度も見て、返してきたその文字。見間違えるはずがない。
南棟の応接室は、確か今は使用されていない場所のはず。
なぜそんな場所に呼び出されたのだろう。
扉をノックして入った時、レオナルドは窓辺に立っていた。
やはりレオナルドだったかと思いつつ、エレナは小さく一礼する。
柔らかな照明に照らされた彼は、相変わらず優美だったけれど、その眼差しにはいつもの軽やかさがなかった。
「来てくれて嬉しいよ。忙しいところ、ありがとう」
「いえ……何かご用でしょうか?」
「うん。最近、あまり話す機会がなかったから……少し、君のことを知りたくてね」
そう言って、彼はソファを指し示す。座るように促されたが、エレナは丁寧に一礼して、立ったまま答えた。
「必要なことがあれば、どうぞ」
レオナルドはその態度に少しだけ眉をひそめたが、すぐに微笑みを取り戻す。
「君は変わったよね。最初に会った時は、あんなに静かでおとなしかったのに……今じゃ、皆の注目を集めている。ヴィクトル兄上まで、あんな表情を見せるなんて」
彼の声に、かすかな苛立ちが混じる。
「……殿下、それが本題ではないのでしたら、私はこれで」
言い終える前に、レオナルドの手が伸びた。エレナの手首を取る。
「待って、帰らないで。少しだけ、話を……いや、話さなくてもいい。ただ……君の隣にいたいんだ」
その手の力は思っていたより強かった。思わず足が止まる。
「殿下。離してください」
「君が気高いことはわかってる。でもね、僕だって、王族としての覚悟がある」
そう言って、レオナルドはもう一歩距離を詰めてくる。
「あ、もしかしてカーラのことを気にしてる?それなら気にしなくていいんだよ。あれはもう切り捨てた。僕には不要だったんだ」
レオナルドの声には、焦りを隠すような笑みが混じっていた。
「兄上は冷たい人だよ。あんな人といても、君は幸せになれない。僕なら……君が僕のものになってくれるなら」
エレナが微動だにしないのを見て、彼は言葉を強める。
「君が僕と一夜を過ごせばいい。それだけでいいんだ。そうすれば、周りは納得する。兄上だって……きっともう口出しできない」
「やめてください!」
エレナの声が、鋭く空気を裂いた。
その瞬間。
「レオナルド。……その手を離せ」
低い声が、部屋の奥から響いた。
扉の前に立っていたのはヴィクトルだった。
光を背にして、静かに、しかし確かな威圧感を纏っていた。
レオナルドの手が、わずかに震える。
「兄上……なぜここに……?」
「王家の影に監視させていた。気づかなかったか?お前が動く気配は、とうに察知していた」
レオナルドの顔から血の気が引く。
言葉を失ったように沈黙するレオナルドに、沈黙を破ったのはエレナの方だった。
「レオナルド殿下、私は誰にも所有されるつもりはありません。たとえ命じられても、私の意志まで従わせることはできません」
淡々としていながら、言葉の奥には揺るがぬ決意が滲んでいた。
ヴィクトルがエレナの前に歩み出て、彼女を背に庇う。
「レオナルド、二度と彼女に手を出すな。その先に踏み込めば、兄弟の間の話では済まない。……わかるな?」
沈黙が流れた。レオナルドは口を開いたが、何も言葉が出てこなかった。
「……これ以上、ここにいる理由はありません。失礼します」
エレナはゆっくりと踵を返し、扉に向かって歩き出した。
『南棟の応接室で待っています。どうか他言なさらぬよう』
手紙は、厚手の羊皮紙に淡い香りが染みついていた。封蝋には何の紋章もなく、差出人の名も記されていない。
けれど、その文字を見た瞬間、エレナの目が止まった。
この筆跡、見覚えがある。
均整のとれた筆運び、癖のない端正な書きぶり。
それはレオナルド殿下の文字だった。
昔、セシリアが「体調が悪いから」と言っては遊びまわっていた頃、恋文の返事を何通もエレナに代筆させていた。文面は姉の言葉、だが中身はエレナが書いていたのだ。
そう、何度も見て、返してきたその文字。見間違えるはずがない。
南棟の応接室は、確か今は使用されていない場所のはず。
なぜそんな場所に呼び出されたのだろう。
扉をノックして入った時、レオナルドは窓辺に立っていた。
やはりレオナルドだったかと思いつつ、エレナは小さく一礼する。
柔らかな照明に照らされた彼は、相変わらず優美だったけれど、その眼差しにはいつもの軽やかさがなかった。
「来てくれて嬉しいよ。忙しいところ、ありがとう」
「いえ……何かご用でしょうか?」
「うん。最近、あまり話す機会がなかったから……少し、君のことを知りたくてね」
そう言って、彼はソファを指し示す。座るように促されたが、エレナは丁寧に一礼して、立ったまま答えた。
「必要なことがあれば、どうぞ」
レオナルドはその態度に少しだけ眉をひそめたが、すぐに微笑みを取り戻す。
「君は変わったよね。最初に会った時は、あんなに静かでおとなしかったのに……今じゃ、皆の注目を集めている。ヴィクトル兄上まで、あんな表情を見せるなんて」
彼の声に、かすかな苛立ちが混じる。
「……殿下、それが本題ではないのでしたら、私はこれで」
言い終える前に、レオナルドの手が伸びた。エレナの手首を取る。
「待って、帰らないで。少しだけ、話を……いや、話さなくてもいい。ただ……君の隣にいたいんだ」
その手の力は思っていたより強かった。思わず足が止まる。
「殿下。離してください」
「君が気高いことはわかってる。でもね、僕だって、王族としての覚悟がある」
そう言って、レオナルドはもう一歩距離を詰めてくる。
「あ、もしかしてカーラのことを気にしてる?それなら気にしなくていいんだよ。あれはもう切り捨てた。僕には不要だったんだ」
レオナルドの声には、焦りを隠すような笑みが混じっていた。
「兄上は冷たい人だよ。あんな人といても、君は幸せになれない。僕なら……君が僕のものになってくれるなら」
エレナが微動だにしないのを見て、彼は言葉を強める。
「君が僕と一夜を過ごせばいい。それだけでいいんだ。そうすれば、周りは納得する。兄上だって……きっともう口出しできない」
「やめてください!」
エレナの声が、鋭く空気を裂いた。
その瞬間。
「レオナルド。……その手を離せ」
低い声が、部屋の奥から響いた。
扉の前に立っていたのはヴィクトルだった。
光を背にして、静かに、しかし確かな威圧感を纏っていた。
レオナルドの手が、わずかに震える。
「兄上……なぜここに……?」
「王家の影に監視させていた。気づかなかったか?お前が動く気配は、とうに察知していた」
レオナルドの顔から血の気が引く。
言葉を失ったように沈黙するレオナルドに、沈黙を破ったのはエレナの方だった。
「レオナルド殿下、私は誰にも所有されるつもりはありません。たとえ命じられても、私の意志まで従わせることはできません」
淡々としていながら、言葉の奥には揺るがぬ決意が滲んでいた。
ヴィクトルがエレナの前に歩み出て、彼女を背に庇う。
「レオナルド、二度と彼女に手を出すな。その先に踏み込めば、兄弟の間の話では済まない。……わかるな?」
沈黙が流れた。レオナルドは口を開いたが、何も言葉が出てこなかった。
「……これ以上、ここにいる理由はありません。失礼します」
エレナはゆっくりと踵を返し、扉に向かって歩き出した。
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