義姉の身代わりだった私

雨雲レーダー

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空回る野心 ※セシリア

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 セシリアは、侍女に髪を整えさせながら鏡を見つめていた。
 完璧な微笑に、欠けるところのない化粧。今日のドレスは淡いミント色の上品な絹でできていて、肌の白さを際立たせる、誰もが振り返る装いだ。

 エレナがノルステッド公爵家の養女になったと、取り巻きたちからその事実を耳打ちされたとき、セシリアはあえて驚かなかった。
 むしろ、楽しげに微笑んでみせた。

「当然じゃない。あの子は私の妹ですもの。多少は品もありますし、ね」

 そう答えると、セシリアの顔色をうかがっていた取り巻きたちは一斉に笑った。
 気の利いた姉。器の大きな令嬢。誰もがそう思うように、セシリアは仕向けた。

 だが、胸の奥では何かが燃えていた。

 なぜ、あの子なの?
 なぜ私じゃなくて、あんな地味で愛想もない、目立つことすらできなかった子が、公爵家の養女だなんて。
 しかも筆頭公爵家よ? まるで称賛されるべき人物みたいに、褒めそやされて。
 あの子は我が家から除籍されて、貴族籍すら失ったはず。本来なら、今頃どこかで泣き暮らしてるはずだった。惨めで、哀れで、誰にも相手にされずに。
 なのに……どうして、あの子だけが……?

 ほんのわずかに震えた指先を、セシリアは無理やり押さえ込んで微笑んだ。

「ふふ。エレナったら……公爵家の娘になっただなんて」

 そう呟いた声は妙に低かった。上澄みだけ甘く濁ったその声音に、隠しきれない何かが滲んでいる。
 鏡の前で髪を整えていた侍女の手が、ぴたりと止まった。
何気なく視線を上げた先、鏡に映ったセシリアの顔と目が合う。
 口元は静かに釣り上がっていたが、目はまるで笑っていない。その瞳の奥には、暗く沈んだ光が宿っていた。底の見えない黒、ふいに覗いた素顔のようなものが、微かに揺れていた。

 鏡越しに視線が合い、侍女は息を詰める。ブラシを握る手が、かすかに震えた。

「どうしたの?」

 セシリアはそのままの笑みで問いかける。声はいつもの、穏やかで澄んだトーンだった。
 侍女は小さく首を振り、すぐに手を動かし直した。

「申し訳ございません……少し、力が入りすぎてしまいました」

「気をつけてね。女は髪が命でしょう?」

 鏡の中で、セシリアの微笑みは完璧に整っていた。
 けれどその奥に、ほんの一瞬だけ垣間見えた素顔がある。
 どれほど繕っても覆い隠せない、これがセシリアの本性なのだろうと侍女は感じていた。

 王子妃教育の再開は、少し前から始めていた。
 エレナの噂が立ち始めた頃から、セシリアは慌てるように語学や礼儀作法のレッスンを増やしはじめた。
 ヴィクトルが王妃と共にいるときは、なるべくその場に呼ばれるよう根回しもした。

 そして今日。
 王妃が開いた、小規模ながら格式あるお茶会に、セシリアは満を持して姿を現した。

 新調したばかりの、艶やかなミントグリーンのドレス。宝石はあえて控えめにして、メイクもヘアスタイルも清楚な印象を与えるための綿密な計算がされていた。
 挨拶の言葉は、今朝だけで三度繰り返して練習した。

 まさに完璧なグリセリア家の令嬢として、隙のない立ち居振る舞いで、誰の目にも優雅に映るはずだった。
 今日はすべてを魅せる舞台。セシリア自身、そう信じて疑っていなかった。

 だが、サロンの扉を開けた瞬間。
 そこには、今一番会いたくない人物がいた。

「……エレナ」
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