義姉の身代わりだった私

雨雲レーダー

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守りたいもの ※ヴィクトル

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 日差しが差し込むバルコニーに、二人分の影が伸びていた。
 エレナと公爵夫人が会場を回るのを見守りながら、ヴィクトルとロイランは人目を避けた静かな場所でグラスを交わしていた。

「エレナ嬢は、ずいぶんと母上に気に入られたようだね」

 ロイランが笑みを浮かべながらグラスを傾ける。

「彼女は、根が素直で不器用なだけだ。いつも義姉の代わりに立たされて、自分の気持ちなんて押し殺してきたんだろう。……でも最近はああやって自分の言葉で話し笑うようになってきた」

 ヴィクトルは視線を会場の一角に向けたまま、静かに続けた。

「本来の彼女を知れば、誰でも惹かれる。俺が惚れたのも、きっとそういう部分だ」

「なるほど。ずいぶんと惚気てくれるね」

「からかうな。……本気なんだ。彼女を絶対に手放したくない」

 そう言うと、ヴィクトルは初めてロイランの方に目を向けた。その瞳には覚悟のような光が宿っていた。
 その視線を受けて、ロイランが軽く肩を竦める。

「そんな真剣な顔で言われると、婚約の報告かと思ってしまうよ。もう彼女には伝えたのか?」

「まだ言葉にはしていない。先に、終わらせておくべきことがあるからな」

 ロイランはグラスを揺らしながら苦笑した。

「まあ、先日の晩餐会で君の隣に座った時点で、誰もが察してるだろうけど」

「察するだけで済めばいいがな。王宮では、気づいた者から邪魔を始める」

「……第二王子派か」

「ああ。セシリアを通じてグリセリア家があちらの後ろ盾になってる。だからこそ、あの家からエレナを完全に引き離す必要がある」

「グリセリア家の件は……例の通り?」

「ああ、第二王子派としての立場を使って、少しずつ影響力を広げている。セシリアとの婚約を盾に、王宮の外部にまで手を伸ばしている節がある」

「王位継承権が現時点で優位にない以上、ヴィクトルを引きずり下ろすために何か仕掛けてくるだろうな」

「問題は、グリセリア家がエレナの活躍を面白く思っていないことだ。最近は、排除する動きも見え始めている」

 ヴィクトルの目が、会場の片隅にいる貴族たちを冷静に見やった。
 ロイランはグラスを置き、静かに息をついた。

「……つまり、彼女には守ってくれる後ろ盾が必要ってことだね。あの家に潰される前に」

「そうだ。どれだけ努力しても、あの家の娘だというだけで邪魔される。何の後ろ盾もないままでは、守りきれない」

「まあ、ずっとヴィクトルの庇護下にいれば反発する貴族も出てくるしね。そこでノルステッドの名があれば、簡単には手出しできないということかい?」

 ヴィクトルは小さく頷いた。

「頼めるか?彼女が自分の力で立てるようにしてやりたいんだ」

「君が頼みごとなんて珍しいね。もちろん協力するよ。母上はすでに心を許しつつあるし、父上も彼女の立ち居振る舞いを見ていたし問題はないと思う」

「正式に迎え入れてくれるなら、これ以上にない後ろ盾になる」

 ロイランは小さく笑った。

「この手の話は嫌いじゃないよ。それにヴィクトルがそこまで言うとは思ってなかったから、ちょっと驚いてる」

「……必要だと思っただけだ。彼女の未来のために」

 二人の視線が再び、館内で談笑するエレナと公爵夫人に向けられた。
 これから先、何かが動き出す気配があった。だからこそ、彼女に確かな居場所を用意しておきたかった。
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