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公の裁きの場
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突然、国政会議の開催が告げられた。
クローネンブルク王国の中心、王宮の大広間には、選ばれた貴族たちが揃い、重苦しい空気が漂っている。
磨き上げられた大理石の柱、天井を彩る壁画、深紅の絨毯。どれも王家の威光を象徴していたが、今日はその輝きが色褪せて見えた。
玉座には国王と王妃が並び、その隣に王太子ユリウスが座っている。
王弟ジークフリートは玉座の前に立ち、さらにその後方にクラリス・ヴェルディとレオン・ヴァルシュタインが控えていた。
「本日は、王家の財政運営について説明を求める」
ジークフリートの重い声が響き、広間が静まり返る。
貴族たちの視線が王家に集まる中、ユリウスはわずかに背筋を正した。
表情を崩さず、ただ正面を見据えている。
その静寂を破って、クラリスが資料を手に進み出た。
「ここ数年、各領地から徴収された年貢と税の記録をまとめました。ですが、収支の流れは不自然です。王家の財庫には莫大な金銭が積まれ、民の生活は逼迫しています」
役人が資料を広間に配り、読み上げていく。
静まり返っていた貴族たちがざわめき始めた。
「まさか……そんなことが」
一人の伯爵が震える声を上げると、レオンが冷静に続ける。
「各領地から直接集めた記録だ。すべて原本と照合済みだ。南部の商会からは、王家の名を騙った収奪の証言も得ている」
次々と突きつけられる証拠に、貴族たちの動揺は広がっていく。
中央に座る国王は苦々しい表情で眉をひそめ、王妃は俯いたまま動かない。
「これは陰謀だ……王家を貶めようとする者たちの企みだ」
ユリウスが震える声で反論する。
その言葉に、ジークフリートが一歩進み、厳しい視線を王家三人に向けた。
「では、国王陛下。これらの記録はすべて偽造だとお考えですか?」
国王はジークフリートの問いかけにも動じず、ただ静かに側近に視線を向けた。
その瞳には責任を負う意志もなく、まるで他人事のような静けさが宿っている。
国政の多くを側近や王太子に任せ、己は安楽の中に身を置いてきた愚かな王。その姿が、今や露わになっていた。
口元を固く結んだまま、答えることもできず、ただ沈黙を続けるだけだった。
「……まさか、父上がこれを?」
ユリウスが呆然と国王を見つめた。
「ぼ、僕は何も知らない!」
「知らなかったと、誰が信じる?」
レオンが冷ややかに問いかける。
「陛下も王太子殿下も、王家はこの国を統べながら、民の苦しみに目を向けなかった」
「ジークフリート! こんな形で、王家の名を汚すなんて!」
王妃は震える声で呟き、肘掛けを掴む手に力を込めた。
けれど、その目は恐怖に揺れ、責任から逃れようとする色が滲んでいた。
「この国を蝕んだのは誰だ」
ジークフリートが低く問いかけ、貴族たちを見渡す。
「民を搾取し、蓄えを肥やしてきた王家こそ、裁かれねばならない。たとえ王族であろうと、例外はない」
国王は口を開こうとしたが、何も言えなかった。
その沈黙に、貴族たちは次々に顔を伏せ、重々しく頷き始めた。
今日、王家の膿が白日のもとに晒された。
民の生活を顧みず、私腹を肥やしてきたその醜悪な姿が、隠し通せなくなったのだ。
クラリスは静かに息を吐き、沈黙する国王と怯えた王妃、そして顔色を失ったまま俯くユリウスを見据えた。
かつては婚約者として隣に立つはずだった男も、今はただ、責任から逃げ惑う一人にすぎない。
この場に立つ誰もが気づいている。
クローネンブルク王国は、今まさに大きな転換点に差し掛かっていた。
クローネンブルク王国の中心、王宮の大広間には、選ばれた貴族たちが揃い、重苦しい空気が漂っている。
磨き上げられた大理石の柱、天井を彩る壁画、深紅の絨毯。どれも王家の威光を象徴していたが、今日はその輝きが色褪せて見えた。
玉座には国王と王妃が並び、その隣に王太子ユリウスが座っている。
王弟ジークフリートは玉座の前に立ち、さらにその後方にクラリス・ヴェルディとレオン・ヴァルシュタインが控えていた。
「本日は、王家の財政運営について説明を求める」
ジークフリートの重い声が響き、広間が静まり返る。
貴族たちの視線が王家に集まる中、ユリウスはわずかに背筋を正した。
表情を崩さず、ただ正面を見据えている。
その静寂を破って、クラリスが資料を手に進み出た。
「ここ数年、各領地から徴収された年貢と税の記録をまとめました。ですが、収支の流れは不自然です。王家の財庫には莫大な金銭が積まれ、民の生活は逼迫しています」
役人が資料を広間に配り、読み上げていく。
静まり返っていた貴族たちがざわめき始めた。
「まさか……そんなことが」
一人の伯爵が震える声を上げると、レオンが冷静に続ける。
「各領地から直接集めた記録だ。すべて原本と照合済みだ。南部の商会からは、王家の名を騙った収奪の証言も得ている」
次々と突きつけられる証拠に、貴族たちの動揺は広がっていく。
中央に座る国王は苦々しい表情で眉をひそめ、王妃は俯いたまま動かない。
「これは陰謀だ……王家を貶めようとする者たちの企みだ」
ユリウスが震える声で反論する。
その言葉に、ジークフリートが一歩進み、厳しい視線を王家三人に向けた。
「では、国王陛下。これらの記録はすべて偽造だとお考えですか?」
国王はジークフリートの問いかけにも動じず、ただ静かに側近に視線を向けた。
その瞳には責任を負う意志もなく、まるで他人事のような静けさが宿っている。
国政の多くを側近や王太子に任せ、己は安楽の中に身を置いてきた愚かな王。その姿が、今や露わになっていた。
口元を固く結んだまま、答えることもできず、ただ沈黙を続けるだけだった。
「……まさか、父上がこれを?」
ユリウスが呆然と国王を見つめた。
「ぼ、僕は何も知らない!」
「知らなかったと、誰が信じる?」
レオンが冷ややかに問いかける。
「陛下も王太子殿下も、王家はこの国を統べながら、民の苦しみに目を向けなかった」
「ジークフリート! こんな形で、王家の名を汚すなんて!」
王妃は震える声で呟き、肘掛けを掴む手に力を込めた。
けれど、その目は恐怖に揺れ、責任から逃れようとする色が滲んでいた。
「この国を蝕んだのは誰だ」
ジークフリートが低く問いかけ、貴族たちを見渡す。
「民を搾取し、蓄えを肥やしてきた王家こそ、裁かれねばならない。たとえ王族であろうと、例外はない」
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その沈黙に、貴族たちは次々に顔を伏せ、重々しく頷き始めた。
今日、王家の膿が白日のもとに晒された。
民の生活を顧みず、私腹を肥やしてきたその醜悪な姿が、隠し通せなくなったのだ。
クラリスは静かに息を吐き、沈黙する国王と怯えた王妃、そして顔色を失ったまま俯くユリウスを見据えた。
かつては婚約者として隣に立つはずだった男も、今はただ、責任から逃げ惑う一人にすぎない。
この場に立つ誰もが気づいている。
クローネンブルク王国は、今まさに大きな転換点に差し掛かっていた。
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