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【02】完璧な悪役令嬢は、今日も断罪されない
最終話:そして伝説(盛大な勘違い)は永遠に
ヴァルド侯爵の断末魔のような叫びが完全に遠ざかり、大講堂の重厚な扉がパタン、と静かに閉ざされた。
嵐が過ぎ去ったあとのような静寂。
私は呆然と、扉の方角を見つめていた。
(……嘘でしょ。私の用意した最高の断罪イベントが、ただの『空気の読めない乱入者のつまみ出しイベント』にすり替わった……?)
「さあ、無粋な邪魔者は消えた」
鼓膜を甘く震わせる声にハッと振り返ると、ルファス殿下が私の手を取り、その甲に恭しく、しかし熱を帯びた唇を落としていた。
「セシリア。先ほどの情熱的な『愛の告白』の続きを聞かせてくれないか。君がどれほど俺を愛し、俺の気を引くためにどれほど可愛い悪戯(いじめ)を仕掛けてきたか……そのすべてを」
「い、いや、可愛い悪戯ではなくてですね、普通に陰湿な犯罪――」
「素晴らしいです、セシリア様!!」
私が言葉を紡ぎ終える前に、今度はマリーさんが特等席(私たちの目の前)で滝のような涙を流しながら拍手を送ってきた。
「身を挺してヴァルド侯爵の陰謀を炙り出し、同時にルファス殿下への愛を証明し、さらに私への究極のファンサービスまでこなす……! ああ、なんという深謀遠慮! なんという慈愛! 私、セシリア様の後援会長として、お二人のご成婚を一生涯推し続けるとここに誓います!!」
「えっ、後援会長? いつ発足したの? ていうか被害者のあなたが結婚を推進してどうするの!?」
私のツッコミは、マリーさんの号泣と、それに呼応するように巻き起こった会場中からの割れんばかりの拍手によって、完全に掻き消されてしまった。
「おお、なんという尊い愛だ」
「侯爵の乱入すら計算ずくだったとは、さすが次期王太子妃であらせられる」
「マリー嬢の懐の深さも素晴らしい。これぞ完璧なトライアングル……!」
貴族たちが口々に、ありもしない美談を捏造し、ハンカチで涙を拭っている。
誰も私を断罪しない。誰も私を咎めない。
それどころか、私の悪役令嬢としての好感度が、カンストを超えてバグの領域に突入している。
「みんな、祝福をありがとう」
ルファス殿下が麗しい微笑みで会場に応えた後、私に向かってスッと片膝をついた。
まるでおとぎ話の王子様のような、完璧なプロポーズのポーズで。
「君のその不器用で、激しくて、重すぎる愛……俺は全身で受け止める覚悟ができている。卒業後、すぐに結婚式を挙げよう。そして二人で、この国を導いていくんだ」
「…………」
差し出された彼の手を前に、私は完全にフリーズしていた。
おかしい。
乙女ゲームのシナリオでは、私はここで「この顔も見たくない! 国外追放だ!」と怒鳴られ、平民に身をやつして自由に生きるはずだったのだ。
それがなぜ、王太子からの熱烈なプロポーズと、ヒロインからの狂信的な拍手、そして国中の貴族からのスタンディングオベーションを浴びているのか。
「さあ、セシリア。君の答えは?」
甘く、どこまでも逃げ場のないルファス殿下の笑顔。
マリーさんが「早く! 早くその手をお取りになって!」と念を送ってくるのが視界の端で見える。
私は悟った。
どれだけ正論を叫ぼうが、どれだけ悪逆非道に振る舞おうが、彼らの分厚すぎる『プラス思考フィルター』を破壊することは、未来永劫不可能なのだと。
「……はい、喜んでお受けいたしますわ、殿下」
私は引きつった完璧な令嬢スマイルを浮かべ、彼の手を取った。
会場が今日一番の歓声に包まれ、ルファス殿下が私を強く抱きしめる。
ああ、誰か。
誰でもいいから、この壮大な勘違いにツッコミを入れてくれ。
私の心の悲鳴は、祝福の鐘の音にかき消され、王都の青空へと虚しく吸い込まれていった。
完璧な悪役令嬢は、今日も、そしてこれからも絶対に断罪されない。
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どれか1つだけでも読んでもらえたら嬉しいです。
そして、最後まで物語に付き合ってくださった皆さま、本当にありがとうございます。
もし少しでも心に残ったなら、いいねをいただけるとこれからの創作の大きな励みになります。
嵐が過ぎ去ったあとのような静寂。
私は呆然と、扉の方角を見つめていた。
(……嘘でしょ。私の用意した最高の断罪イベントが、ただの『空気の読めない乱入者のつまみ出しイベント』にすり替わった……?)
「さあ、無粋な邪魔者は消えた」
鼓膜を甘く震わせる声にハッと振り返ると、ルファス殿下が私の手を取り、その甲に恭しく、しかし熱を帯びた唇を落としていた。
「セシリア。先ほどの情熱的な『愛の告白』の続きを聞かせてくれないか。君がどれほど俺を愛し、俺の気を引くためにどれほど可愛い悪戯(いじめ)を仕掛けてきたか……そのすべてを」
「い、いや、可愛い悪戯ではなくてですね、普通に陰湿な犯罪――」
「素晴らしいです、セシリア様!!」
私が言葉を紡ぎ終える前に、今度はマリーさんが特等席(私たちの目の前)で滝のような涙を流しながら拍手を送ってきた。
「身を挺してヴァルド侯爵の陰謀を炙り出し、同時にルファス殿下への愛を証明し、さらに私への究極のファンサービスまでこなす……! ああ、なんという深謀遠慮! なんという慈愛! 私、セシリア様の後援会長として、お二人のご成婚を一生涯推し続けるとここに誓います!!」
「えっ、後援会長? いつ発足したの? ていうか被害者のあなたが結婚を推進してどうするの!?」
私のツッコミは、マリーさんの号泣と、それに呼応するように巻き起こった会場中からの割れんばかりの拍手によって、完全に掻き消されてしまった。
「おお、なんという尊い愛だ」
「侯爵の乱入すら計算ずくだったとは、さすが次期王太子妃であらせられる」
「マリー嬢の懐の深さも素晴らしい。これぞ完璧なトライアングル……!」
貴族たちが口々に、ありもしない美談を捏造し、ハンカチで涙を拭っている。
誰も私を断罪しない。誰も私を咎めない。
それどころか、私の悪役令嬢としての好感度が、カンストを超えてバグの領域に突入している。
「みんな、祝福をありがとう」
ルファス殿下が麗しい微笑みで会場に応えた後、私に向かってスッと片膝をついた。
まるでおとぎ話の王子様のような、完璧なプロポーズのポーズで。
「君のその不器用で、激しくて、重すぎる愛……俺は全身で受け止める覚悟ができている。卒業後、すぐに結婚式を挙げよう。そして二人で、この国を導いていくんだ」
「…………」
差し出された彼の手を前に、私は完全にフリーズしていた。
おかしい。
乙女ゲームのシナリオでは、私はここで「この顔も見たくない! 国外追放だ!」と怒鳴られ、平民に身をやつして自由に生きるはずだったのだ。
それがなぜ、王太子からの熱烈なプロポーズと、ヒロインからの狂信的な拍手、そして国中の貴族からのスタンディングオベーションを浴びているのか。
「さあ、セシリア。君の答えは?」
甘く、どこまでも逃げ場のないルファス殿下の笑顔。
マリーさんが「早く! 早くその手をお取りになって!」と念を送ってくるのが視界の端で見える。
私は悟った。
どれだけ正論を叫ぼうが、どれだけ悪逆非道に振る舞おうが、彼らの分厚すぎる『プラス思考フィルター』を破壊することは、未来永劫不可能なのだと。
「……はい、喜んでお受けいたしますわ、殿下」
私は引きつった完璧な令嬢スマイルを浮かべ、彼の手を取った。
会場が今日一番の歓声に包まれ、ルファス殿下が私を強く抱きしめる。
ああ、誰か。
誰でもいいから、この壮大な勘違いにツッコミを入れてくれ。
私の心の悲鳴は、祝福の鐘の音にかき消され、王都の青空へと虚しく吸い込まれていった。
完璧な悪役令嬢は、今日も、そしてこれからも絶対に断罪されない。
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どれか1つだけでも読んでもらえたら嬉しいです。
そして、最後まで物語に付き合ってくださった皆さま、本当にありがとうございます。
もし少しでも心に残ったなら、いいねをいただけるとこれからの創作の大きな励みになります。
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