推しが神様になりまして

チャビューヘ

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りんご飴と盆踊り

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 祭りの日が来た。

 境内には提灯が揺れている。

 参拝客がいつもより多い。御神酒ソーダの出店には行列ができていた。

 ちひろが嬉しそうに報告してくる。

「涼守、完売しそうですよ」

「本当?」

「あと10個くらい」

 涼守。ひなたが考えた夏限定のお守り。青い布に、水の模様。

 SNSで「映える」と話題になっていた。

 夜になって、人波が落ち着いた。

 私は本殿裏に向かった。

 朔さんが、ベンチに座っていた。

 光輪が、金色に輝いている。

「すごいですね、今日」

「ああ」

 朔さんの声が、いつもより力強い。

「人の念が、すごく濃い」

「力が強くなってますか」

「たぶん」

 朔さんが、手を見た。

「物に触れそうな気がする」

 遠くから、盆踊りの音が聞こえてきた。

「朔さん」

「ん」

「……せっかくの祭りですから」

 私は、立ち上がった。

 理由を言葉にするのが怖かった。

「朔さんは出られないから、私がここで踊ります」

「一人で?」

「朔さんも」

 そこで言葉が詰まった。

 朔さんが、私を見ている。

「お前、馬鹿じゃねえの」

「馬鹿じゃないです」

「誰も見てねえからって、恥ずかしいだろ」

「朔さんが見てます」

「だから恥ずかしいんだろ」

 光輪が、赤く染まった。

 盆踊りの音が、近づいてくる。

 私は、手を差し出した。

 何も言わなかった。言葉にしたら、壊れそうだった。

 朔さんは、しばらく私の手を見ていた。

 そして、ゆっくりと立ち上がった。

「一回だけだからな」

「はい」

 私たちは、盆踊りの音に合わせて踊った。

 ぎこちなくて、たぶん下手で。

 でも、朔さんの光輪は、温かい金色に輝いていた。

「お前」

「はい」

「りんご飴、買ってこい」

「え?」

「去年、買えなかったんだ。たぶん」

 私は、頷いた。

「買ってきます」

 りんご飴を持って戻ると、朔さんはベンチに座っていた。

「はい」

「ありがとな」

 朔さんは、りんご飴を見ていた。

 触れない。食べられない。

 でも、光輪が穏やかな夕焼け色になっている。

「去年も、こうやって見てたのかな」

「そうかもしれませんね」

「一人で」

 その言葉が、胸に刺さった。

「今年は、一人じゃないですよ」

 朔さんが、私を見た。

「そうだな」

 その声が、少しだけ震えていた。
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