推しが神様になりまして

チャビューヘ

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秋の気配

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 夏が終わり、秋が近づいていた。

 大銀杏の葉が、少しずつ黄色に変わり始めている。

 社務所でちひろと事務作業をしていたら、ちひろが言った。

「ひなたさん、最近独り言多くないですか」

 手が、止まりそうになった。

「そう?」

「本殿の方見て、なんか話してること多いなって」

 息を止めた。

「気のせいじゃない?」

「そうですかね」

 ちひろは、それ以上聞かなかった。

 でも、その目は何かを探っている。

 夕方、ばあちゃんと縁側でお茶を飲んでいた。

「七五三の準備、そろそろ始めないとね」

「七五三」

「11月だよ。千歳飴の発注もしなきゃ」

 ばあちゃんが、お茶を啜った。

「あんた、知ってる?」

「何を」

「小さい子には、神様が見えることがあるんだよ」

 その言葉に、息を呑んだ。

「神様の気配がわかるのかねえ。大人になると見えなくなるんだけど」

「ばあちゃんは」

「私も昔は見えたよ。今はもう、駄目だけどね」

 ばあちゃんが、笑った。

「七五三で、子供が神様に話しかけることもあったよ。昔は」

 本殿裏で、朔さんに話した。

「子供に、見えるかもしれないって」

「へえ」

 朔さんの光輪が、わずかに揺れた。

「子供の声、嫌いじゃなかった気がする」

「そうなんですか」

「うん。なんでかは、わかんねえけど」

 朔さんが、空を見上げた。

「そういえば」

「はい」

「俺が考えてた誰かのこと」

 光輪が、くすんだ色に変わった。

「色を覚えてる」

「色?」

「地味な、黒」

 私は、息を止めた。

「黒っぽい何か。派手じゃなくて、地味で」

 朔さんが、私を見た。

「お前みたいな」

 言いかけて、朔さんは口を閉じた。

「いや、なんでもない」

「朔さん」

「思い出したら、お前に言う」

 その言葉に、何も言えなかった。

 地味な、黒。

 私の髪の色。
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