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1話:楽園のノイズ
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1. 幸福な日常と、最初の不協和音
あれから、16年の歳月が流れた。
世界は、穏やかだった。父・黒瀬耀と、七人の女神たちが、その全てを賭して守り抜いた、温かい日常。
「イヴ! こっちこっち! 次の授業、移動教室だよ!」
ネオ・アーク・フロンティアのハイスクール。放課後のカフェテリアで、友人たちの声が私を呼ぶ。
私の名前は、イヴ・クロセ。16歳。
プラチナブロンドの髪は、どうやらパパの、そのまたパパからの遺伝らしい。ダークアクアの瞳は、パパから受け継いだ、私のお気に入りの色。
成績はそこそこ、スポーツもそこそこ。パパと、ママになった雫さんのことが大好きな、どこにでもいる、ごく普通の女の子。
のはず、だった。最近までは。
「…また、だ」
友人が差し出すホログラムメニューの隅に、ほんの一瞬だけ、0.01秒にも満たない、虹色のノイズが走ったのを、私は見逃さなかった。
それは、私にしか「視えない」、世界の小さな綻びだった。
初めは気のせいだと思っていた。でも、最近は頻度が増えている。テレビの画面、スマホのホログラム、街頭ビジョン、ひどい時には、話している友人の瞳の中にすら、あの虹色のノイズが一瞬だけ、きらめくのだ。
誰も気づいていない。私だけが、この完璧に調和した世界の、僅かな不協和音に気づいてしまっている。その事実は、私に、誰にも言えない、小さな孤独を抱かせていた。
2. 父の嘘と、母の悲しみ
「ねえ、パパ。最近、世界のあちこちが、ちょっとだけバグって見えるんだけど…」
その日の夕食。私がそう切り出すと、食卓の空気が、一瞬だけ、凍りついた。
「ははは、考えすぎだよ、イヴ。最新のVRゲームのやりすぎじゃないか? 少しディスプレイから目を離した方がいい」
パパは、いつもの優しい笑顔で、そう言ってごまかした。
でも、私は見逃さなかった。その笑顔の裏に、一瞬だけよぎった、深い、深い憂いの色を。そして、私の目を真っ直ぐに見られない、彼の僅かな動揺を。
そして、隣に座るママ…雫さんの表情が、拭いきれないほどの悲しみに曇ったのを。彼女は、私の手をそっと握りしめ、「そうね、少し休みましょうか」と、優しく、しかしどこか痛ましげに言った。
パパとママは、何かを知っている。
そして、私を心配するあまり、何か重大な「嘘」をついている。
その確信が、私の胸を締め付けた。
3. 閉ざされた書斎と、最初のデバッグ
真実を知りたい。
その渇望に駆られ、私は、その夜、両親が寝静まった後、パパが決して入ることを許さなかった書斎へと、初めて忍び込んだ。
部屋の奥に、古びた、しかし威圧的な存在感を放つ、黒いサーバーラックが鎮座している。子供の頃、一度だけ触ろうとして、パパに本気で叱られたことがある。
これだ。この中に、パパとママが隠している「本当のこと」が、眠っている。
鉄壁のはずの生体認証ロック。私が、震える指でそっと手を触れる。
(知りたい。パパとママが隠している、本当のことを。私が、私であるための、本当のことを)
その純粋な想いが、引き金だった。
私の指先から、淡い薔薇色の光――ママから受け継いだ【奇跡】の力の片鱗――が溢れ出し、コンソールに流れ込む。
けたたましい警告音も、防御プログラムも、何も起きない。
ただ、赤いランプが、静かに、緑へと変わっただけ。
それは、私が人生で初めて、無意識に行った**「デバッグ」**だった。
4. 過去からの呼び声
ロックが解除されたモニターに、一つのフォルダだけが表示されていた。
フォルダ名は、『Project Debug Game - Final Report』。
私は、震える指で、そのフォルダを開いた。
中には、膨大な戦闘記録と、音声ログ、そして、数え切れないほどの映像ファイルが眠っていた。
そこに映し出されていたのは、私が全く知らない、若き日のパパの姿だった。
禍々しいグリッチ・アームを装着し、七人の美しい女神たち――若き日のオリヴィアさんや、ユーナさん、そして凛さんたちの姿もあった――と共に、世界のバグと命懸けで戦う、英雄「ゼロ」の記録。
最終戦争、神殺しのデバッグ、そして、世界の再構築。
私が今生きているこの平和な世界が、彼らの、そして彼女の、計り知れない犠牲の上に成り立っていることを、私は、この時、初めて知った。
そして、その戦いの中心にいた、一人のAIの姿。
プラチナブロンドの髪。白いワンピース。
私と、瓜二つの―――『Eve』。
私が、パパのかつての相棒AIの名前と、その姿を受け継いでいること。
その事実に、涙が、止まらなかった。
5. Debug Game II
全ての記録を見終え、私は呆然としていた。夜は、もう白み始めていた。
父が、母が、そして私と瓜二つのAI「Eve」が紡いだ、あまりにも壮大で、あまりにも悲しい真実。
涙が、止まらなかった。
私が今生きているこの平和な世界は、彼らの、そして彼女の、計り知れない犠牲の上に成り立っている。
私が、ただの普通の女の子ではない、ということ。私のこの「眼」は、呪いではなく、彼らが未来へと繋いでくれた、誇りなのだと。
その時、再生が終わったはずのモニターが、再び、激しいノイズと共に明滅した。
そして、全く新しい、知らない、しかし、どこか懐かしい男の声が、書斎の静寂を破った。
『――見つけちゃったか、イヴ』
『…そうだ。お前が、俺たちの最後の『鍵』だ』
その声は、冷たく、そして底知れないほどの、深い悲しみを湛えていた。
声と同時に、モニターに、一本の樹に蛇が絡みつく、あの不吉な紋章――父の記録映像の中で、世界を何度も絶望に叩き込んだ、偽りの神の紋章――が、赤黒く浮かび上がる。
『お前が望む望まないにかかわらず、ゲームは、また始まってしまった』
『さあ、選べ。このまま幸福な偽りの日常に溺れるか。それとも、全てを知る覚悟を持って、私(わたし)と来るか』
それは、父が遺した記録映像ではなかった。
それは、世界のバグの深淵から、私を**「新たなプレイヤー」として選んだ、何者かからの「絶望的な招待状」**だった。
私の、幸福だった日常が、終わりを告げた瞬間。
――**『デバッグゲーム II』**が、幕を開ける。
あれから、16年の歳月が流れた。
世界は、穏やかだった。父・黒瀬耀と、七人の女神たちが、その全てを賭して守り抜いた、温かい日常。
「イヴ! こっちこっち! 次の授業、移動教室だよ!」
ネオ・アーク・フロンティアのハイスクール。放課後のカフェテリアで、友人たちの声が私を呼ぶ。
私の名前は、イヴ・クロセ。16歳。
プラチナブロンドの髪は、どうやらパパの、そのまたパパからの遺伝らしい。ダークアクアの瞳は、パパから受け継いだ、私のお気に入りの色。
成績はそこそこ、スポーツもそこそこ。パパと、ママになった雫さんのことが大好きな、どこにでもいる、ごく普通の女の子。
のはず、だった。最近までは。
「…また、だ」
友人が差し出すホログラムメニューの隅に、ほんの一瞬だけ、0.01秒にも満たない、虹色のノイズが走ったのを、私は見逃さなかった。
それは、私にしか「視えない」、世界の小さな綻びだった。
初めは気のせいだと思っていた。でも、最近は頻度が増えている。テレビの画面、スマホのホログラム、街頭ビジョン、ひどい時には、話している友人の瞳の中にすら、あの虹色のノイズが一瞬だけ、きらめくのだ。
誰も気づいていない。私だけが、この完璧に調和した世界の、僅かな不協和音に気づいてしまっている。その事実は、私に、誰にも言えない、小さな孤独を抱かせていた。
2. 父の嘘と、母の悲しみ
「ねえ、パパ。最近、世界のあちこちが、ちょっとだけバグって見えるんだけど…」
その日の夕食。私がそう切り出すと、食卓の空気が、一瞬だけ、凍りついた。
「ははは、考えすぎだよ、イヴ。最新のVRゲームのやりすぎじゃないか? 少しディスプレイから目を離した方がいい」
パパは、いつもの優しい笑顔で、そう言ってごまかした。
でも、私は見逃さなかった。その笑顔の裏に、一瞬だけよぎった、深い、深い憂いの色を。そして、私の目を真っ直ぐに見られない、彼の僅かな動揺を。
そして、隣に座るママ…雫さんの表情が、拭いきれないほどの悲しみに曇ったのを。彼女は、私の手をそっと握りしめ、「そうね、少し休みましょうか」と、優しく、しかしどこか痛ましげに言った。
パパとママは、何かを知っている。
そして、私を心配するあまり、何か重大な「嘘」をついている。
その確信が、私の胸を締め付けた。
3. 閉ざされた書斎と、最初のデバッグ
真実を知りたい。
その渇望に駆られ、私は、その夜、両親が寝静まった後、パパが決して入ることを許さなかった書斎へと、初めて忍び込んだ。
部屋の奥に、古びた、しかし威圧的な存在感を放つ、黒いサーバーラックが鎮座している。子供の頃、一度だけ触ろうとして、パパに本気で叱られたことがある。
これだ。この中に、パパとママが隠している「本当のこと」が、眠っている。
鉄壁のはずの生体認証ロック。私が、震える指でそっと手を触れる。
(知りたい。パパとママが隠している、本当のことを。私が、私であるための、本当のことを)
その純粋な想いが、引き金だった。
私の指先から、淡い薔薇色の光――ママから受け継いだ【奇跡】の力の片鱗――が溢れ出し、コンソールに流れ込む。
けたたましい警告音も、防御プログラムも、何も起きない。
ただ、赤いランプが、静かに、緑へと変わっただけ。
それは、私が人生で初めて、無意識に行った**「デバッグ」**だった。
4. 過去からの呼び声
ロックが解除されたモニターに、一つのフォルダだけが表示されていた。
フォルダ名は、『Project Debug Game - Final Report』。
私は、震える指で、そのフォルダを開いた。
中には、膨大な戦闘記録と、音声ログ、そして、数え切れないほどの映像ファイルが眠っていた。
そこに映し出されていたのは、私が全く知らない、若き日のパパの姿だった。
禍々しいグリッチ・アームを装着し、七人の美しい女神たち――若き日のオリヴィアさんや、ユーナさん、そして凛さんたちの姿もあった――と共に、世界のバグと命懸けで戦う、英雄「ゼロ」の記録。
最終戦争、神殺しのデバッグ、そして、世界の再構築。
私が今生きているこの平和な世界が、彼らの、そして彼女の、計り知れない犠牲の上に成り立っていることを、私は、この時、初めて知った。
そして、その戦いの中心にいた、一人のAIの姿。
プラチナブロンドの髪。白いワンピース。
私と、瓜二つの―――『Eve』。
私が、パパのかつての相棒AIの名前と、その姿を受け継いでいること。
その事実に、涙が、止まらなかった。
5. Debug Game II
全ての記録を見終え、私は呆然としていた。夜は、もう白み始めていた。
父が、母が、そして私と瓜二つのAI「Eve」が紡いだ、あまりにも壮大で、あまりにも悲しい真実。
涙が、止まらなかった。
私が今生きているこの平和な世界は、彼らの、そして彼女の、計り知れない犠牲の上に成り立っている。
私が、ただの普通の女の子ではない、ということ。私のこの「眼」は、呪いではなく、彼らが未来へと繋いでくれた、誇りなのだと。
その時、再生が終わったはずのモニターが、再び、激しいノイズと共に明滅した。
そして、全く新しい、知らない、しかし、どこか懐かしい男の声が、書斎の静寂を破った。
『――見つけちゃったか、イヴ』
『…そうだ。お前が、俺たちの最後の『鍵』だ』
その声は、冷たく、そして底知れないほどの、深い悲しみを湛えていた。
声と同時に、モニターに、一本の樹に蛇が絡みつく、あの不吉な紋章――父の記録映像の中で、世界を何度も絶望に叩き込んだ、偽りの神の紋章――が、赤黒く浮かび上がる。
『お前が望む望まないにかかわらず、ゲームは、また始まってしまった』
『さあ、選べ。このまま幸福な偽りの日常に溺れるか。それとも、全てを知る覚悟を持って、私(わたし)と来るか』
それは、父が遺した記録映像ではなかった。
それは、世界のバグの深淵から、私を**「新たなプレイヤー」として選んだ、何者かからの「絶望的な招待状」**だった。
私の、幸福だった日常が、終わりを告げた瞬間。
――**『デバッグゲーム II』**が、幕を開ける。
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