DEEP FRENCH KISS

名古屋ゆりあ

文字の大きさ
15 / 15

エピローグ

しおりを挟む
7月の終わりが近いその日は、松本さんと外山さんの結婚式だった。

「おめでとう」

ウエディングドレスに身を包んだ松本さんは招待客からの祝福の言葉に笑顔で答えていた。

その光景はとても幸せそうだ。

「僕たちももうすぐだね」

幸せそうな2人の様子に、社長が声をかけてきた。

「そうですね、もうすぐですね」

私は社長に返事をした。

社長と愛しあった週末を終えた週明け、私は婚約をしたことを周りに報告した。

その相手が社長であることも何もかも全て、周りに打ち明けた。

当然のことながら、周りはものすごく驚いていた。

中には財産目当てで婚約をしたんだ、なんて言うひどい人もいた。

だけど、そう言う時は松本さんと森田さんがかばってくれた。

「やっぱり、おつきあいをしている人がいるんだなって思いましたよ」

森田さんはそう言って私に笑いかけた。

「チョコレートが恋人だなんて、発言が痛過ぎるにも程がありますもの」

…ごもっとも過ぎるその意見に言い返せなかったのは、言うまでもない話である。

日が経つに連れて、彼女たちの尽力も手伝って、周りは私と社長の婚約話を受け入れてくれたうえに“おめでとう”と声をかけられるようになった。

次の週末、社長と一緒に実家に帰って両親にあいさつをした。

私の相手が勤務先の社長だと言うことを知った時、両親と兄はものすごく驚いていた。

だけど、驚いたのはほんの一瞬のことだった。

「でかしたぞ、心愛!」

父は大喜びだった。

「まるでドラマか映画のような出来事だわ…!」

母は感激していた。

「こんな形でチョコレート好きが生かされるとは…」

兄は感心していた。

家族は社長、そして私たちの婚約を受け入れてくれたのだった。

「てっきり、君のお父さんに1発くらいは殴られるかなって思ってたんだけどね」

帰りの車の中で社長は笑いながらそんなことを言った。

「殴られるって、どうしてですか?」

その意味がよくわからなくて聞き返したら、
「ドラマとか小説とかでよく見かけるから、もしかして…なんて思ってたんだ。

殴られる覚悟をしてたよ」

社長は答えた。

「詩文さんが殴られたら嫌です」

私が首を横に振りながら言い返したら、
「だから殴られなくてよかったなって思って。

もしくは、“君にお父さんと呼ばれる筋合いはない”なんて言う発言も期待していたんだけどな」

社長はアハハと笑いながら答えた。

「詩文さん、ドラマと小説の見過ぎです…」

私が呆れたと言うように呟いたら、
「そう言うのにちょっとばかり憧れていたんだ」

社長が言い返した。

松本さんと外山さんの結婚式が終わると、私たちは手を繋いで家に向かって歩いていた。

これからはもう隠れなくていい。

堂々と手を繋いで歩くことができるんだ。

そんなことを思っていたら、
「いい結婚式だったね」

社長が声をかけてきた。

それに対して、
「2人共、幸せでしたね」

私は返事をした。

「僕たちももうすぐか」

「もうすぐですね」

チラリと、私は社長に視線を向けた。

「どうかした?」

首を傾げて聞いてきた社長に、
「腕を組んでもいいんですか?」

私は聞き返した。

「どうぞ」

社長が返事をしたのを確認すると、自分の手を彼の腕に絡ませた。

手を繋ぐのはいいけれど、こうして腕を組んでみると密着していると言う感じだ。

「距離が近いね」

そう言った社長に、
「ダメですか?」

私は聞いた。

「ううん、とってもいいよ。

腕が大きな胸に当たってるし」

「なっ…!?」

その発言に腕を離そうとしたら、
「ごめんごめん」

社長が慌てて謝ってきた。

「変なことを言わないでくださいよ…」

「でも事実だから…って、待って待って」

離れようとしたら、彼はその距離をつめてきた。

「もう何も言わないから、ね?」

「仕方ないですね」

簡単に社長のことを許してしまったけれども、仕方がないことである。

何故なら、社長のことが好きだから。

「詩文さん」

社長の名前を呼んだら、
「心愛?」

それに答えるように、彼も私の名前を呼んだ。

「好きです」

そう言った私に、
「僕も好きだよ」

彼は微笑んで返事をしてくれた。

「だから、何があってもよそ見をしないでくださいね?」

「僕は心愛しか見えないよ。

君も何があってもよそ見をしないでね?」

「…もし、よそ見をしちゃった場合は何をされるんですか?」

期待をしているって言う訳じゃないけれど、何となく気になったから聞いてみた。

「んーっ、チョコレート禁止令とか?」

フフッと笑いながら言った彼に、私の頬がピクリと引きつったのを感じた。

「えっ、そうなんですか…?」

とてもジョーダンには聞こえないその発言に、ただ恐怖を感じるばかりである。

「それが嫌なら、お仕置きを一晩中かな?」

「何ですか、それ…」

もっと質の悪いものが出てきちゃったよ…。

「だから、よそ見をしないでねって」

「そ、そうですよね」

そうだ、私がよそ見をしなければいいだけの話である。

「うん、いい子」

彼はそう言って私の頭をなでてくれた。

私の頭をなでている大きな手と華奢なその指が好き。

「心愛」

私の名前を呼ぶテナーのその声と私を見つめるその目も好き。

意地悪だけど、優しいところも好き。

ウェーブのかかった黒い髪も、白玉のようにキレイで柔らかそうなその肌も好き。

私も何だかんだで社長のことを言えないなと思った。

社長の好きなところをあげればあげるほど、本当にキリがない。

「家に帰ったら、結婚のことについていろいろと話そうか?」

そう言った彼に、
「はい」

私は返事をした。

「私の意見もちゃんと考えてくれるんですよね?」

「尊重するよ」

チョコレートと同じくらい…いや、チョコレート以上に彼のことが好きだ。

出会って恋をして躰を重ねて、再会したところが就職先の会社で、相手が社長だったと言うことに驚いた。

でも彼は私が好きで、私も彼が好きだから、お互いの思いを受け入れた。

恋をする楽しさや幸せはもちろんのこと、苦しみや悩みも知った。

この先もいろいろなことで悩むことや苦しむことはあるかも知れないけれど、彼と一緒ならば乗り越えれると思う。

「心愛」

「はい」

「愛してる」

「詩文さん、私もです」

そんなことを2人で言いあって、微笑みあった。

☆★END☆★
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

真面目な王子様と私の話

谷絵 ちぐり
恋愛
 婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。  小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。  真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。 ※Rシーンはあっさりです。 ※別サイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

処理中です...