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妖精の国編
無能勇者、囚われの少女を救い出す
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そこは、訪れた事のある町だった。かつては水と緑に溢れた美しい景観は、見る影も無くヘドロと枯れた大地に変貌していた。楽し気に踊っていたはずの妖精たちの代わりに血の気の多いドラゴン。魔法で作られた頑丈な家は、瓦礫の塊と化していた。
その中心から、助けを求めていたであろう存在が、檻の中に閉じ込められていた。
年は俺と同じか、それより少し上だろうか? 美しい顔立ちの中に力強さを感じる……白銀の短髪の少女。それを縛っているのは鋼鉄の鎖だった、狭い檻の中にこれでもかというほど堅牢に閉じ込められている。
(ひどい、あの様子だと水すら飲めてなさそうだ)
一刻も早く助けなければなるまい。しかし、そう簡単ではなさそうである……何しろ檻を中心にして、武装したドラゴンが三体も徘徊していたのだ。もちろん俺にはドラゴンを単独撃破するほどの実力も力も無いし、何より正面突破なんて考えるだけで恐ろしい。
(どうする? 気配を消す魔法、使えるっちゃ使えるけど……ドラゴンの嗅覚なんて誤魔化せるのか?)
やるとすればあまりにも危険な賭けだった。成功する保証はどこにもない、成功したとしても、囚われているはずの人間がいないことが、ドラゴンにバレてしまえばお終いだ。戦闘になった時、聖剣すらまともに振れない俺は即死するだろう。
頭を悩ませていると、俺は取り敢えず自分の持ち物を探る事にした。ドラゴンたちから距離を取りながら、とにかく、こっそりと。
予想通り、中にはいい物なんて一つも入っていない。我ながら無駄のない……食料、金銭、自分の身分を証明するもの、マッチが二箱。この状況を打開できるようなものは、何にも……。
(……いや、待てよ?)
そういえば、父さんと母さんが持たせてくれた魔法のバッグがあった! この中に何か、凄い物でも入っているのかもしれない。二人の話によると、『必要な時に、必要そうなものが出てくる』という仕組みになっているらしい。
取り出したカバンに、恐る恐る手を突っ込む。そして、中から出てきたのは――。
「……これは、こんがり肉!?」
何これ、どういう事? もう一度手を突っ込んでみる……だが、何も無い。この状況は、これで解決できるとでもいうのか? いやいや、こんなみんな大好きな食べ物如きで、あのドラゴンたちを潜り抜ける事ができると思うか普通。
せめて、あいつらがどこか遠くに行ってくれればなぁ。――心の中で突いた溜息は、じわりじわりと俺の中で変化していった。
(……! そうか、分かったぞ!)
俺は、心の中で両親に感謝した。取り出されたこんがり肉に一人頷きながら、俺は檻の中の少女を見据え、必ず助けると誓ったのだった。
◇
こんがり肉は全部で十本。その内の三本を手に取り、残りをポケットの中に戻す。
次に俺は、香りが倍増する魔法をかけた。普通なら料理人が使うような魔法だが……今から俺がやろうとしているのは、本来の使い方とは全く違う。
(上手くいってくれよ)
祈りながら、俺は旨そうな匂いのする肉を投げた。
『グァォォオオ―――!!』
三匹のドラゴンの内、一体がこんがり肉に向かって走っていく。それに釣られた二体も後をついていき、気が付けば檻の周辺には俺だけが居た。――作戦は大成功。食べ物に釣られたドラゴンたちは、俺になんか気づかないまま看守の役目を放棄した!
(今だ!)
気配を消す必要も無く、俺は折に向かって走り出した。あの陽動はすぐにばれるだろう……持って三分。その間にあの檻を破壊し、中にいる少女を救い出す!
「大丈夫ですか⁉」
意識は無いが、息はしている。顔色も……良くは無いが、すぐに死にそうなわけではない。問題はこの鋼鉄の檻を、どうやって破壊するかという話だ……曲げることは不可能、破壊するにも俺なんかの剣術じゃ不可能。無理やり聖剣を使うという手もあるが、加減ができないため中にいる少女ごと切ってしまうかもしれない。
(畜生! ここまで上手くいったのに……肝心な所を考えていなかった!)
考えろ、考えろ、考えろ! 何かあるはずだ、この子を傷つけず、それでいて迅速に救い出せる方法が! 心音がひどくうるさかった、地面が震える度に……背後を見るのが怖くなった。
(そうだ、ポケット!)
さっきもこのポケットで打開策を手に入れた、今度もきっと何かあるはず! 俺は急いでポケットの中に手を突っ込み、何かを、掴んだ。
「こ、これは……!?」
いくらなんでもそれは無いだろ。そう言いたかった俺の手が握っていたのは、本ぐらいの厚さと大きさの粘土だった。
◇
(粘土、だと……!?)
いくらなんでも無茶苦茶すぎる! 粘土なんかでどうしろって言うんだ⁉ 駄目だ、少しも打開策が思いつかない……大体何なんだこれさっきから! もしかして、さっきのこんがり肉も、俺がただ機転を利かせただけだったのか⁉
(クソっ、どうすればいいんだよ!)
不幸中の幸いなのか、まだ見張り役のドラゴンは戻って来てない。速く、本当に早く何か考えなくては! ――せめて、鍵があれば! 俺はヤケクソ交じりに粘土を握り潰した。こんな事をしている場合じゃないのに……と、そんな俺は、信じられないモノを見た。
「これ……鍵!?」
――そうか。これは魔法の粘土だ! この粘土は欲しいものを念じながらこねると、わずかな間だけそれになってくれるのだ! 壊さずとも、鍵は手に入った。――そうと決まれば、やる事は一つだった。俺は鍵で牢を開け、再び粘土をこね回し、少女を縛る鎖を全て開錠することに成功した。
(やった! あとは……逃げるだけ!)
粘土まみれなんて気にも留めず、俺は少女を抱えて走り出した。とにかくこんがり肉が飛んでいった方向の逆、その方向に向かって、俺は走り出した。
(頼む、頼むから……来ないでくれよ……!)
ただただ祈り続ける俺は、とにかく走った。走って、走って、止まったら死ぬというような感情の中、走り続けた。
「……はぁ、はぁ」
とうとう走れなくなり、俺はその場に膝をついた。振り返っても、辺りを見渡しても……そこには、悪趣味な景色が広がっているだけだった。
(ドラゴンは、来ていない)
――助かった。安堵を全身で表現し、俺は少女を抱きかかえながらその場に倒れ込んだ。
その中心から、助けを求めていたであろう存在が、檻の中に閉じ込められていた。
年は俺と同じか、それより少し上だろうか? 美しい顔立ちの中に力強さを感じる……白銀の短髪の少女。それを縛っているのは鋼鉄の鎖だった、狭い檻の中にこれでもかというほど堅牢に閉じ込められている。
(ひどい、あの様子だと水すら飲めてなさそうだ)
一刻も早く助けなければなるまい。しかし、そう簡単ではなさそうである……何しろ檻を中心にして、武装したドラゴンが三体も徘徊していたのだ。もちろん俺にはドラゴンを単独撃破するほどの実力も力も無いし、何より正面突破なんて考えるだけで恐ろしい。
(どうする? 気配を消す魔法、使えるっちゃ使えるけど……ドラゴンの嗅覚なんて誤魔化せるのか?)
やるとすればあまりにも危険な賭けだった。成功する保証はどこにもない、成功したとしても、囚われているはずの人間がいないことが、ドラゴンにバレてしまえばお終いだ。戦闘になった時、聖剣すらまともに振れない俺は即死するだろう。
頭を悩ませていると、俺は取り敢えず自分の持ち物を探る事にした。ドラゴンたちから距離を取りながら、とにかく、こっそりと。
予想通り、中にはいい物なんて一つも入っていない。我ながら無駄のない……食料、金銭、自分の身分を証明するもの、マッチが二箱。この状況を打開できるようなものは、何にも……。
(……いや、待てよ?)
そういえば、父さんと母さんが持たせてくれた魔法のバッグがあった! この中に何か、凄い物でも入っているのかもしれない。二人の話によると、『必要な時に、必要そうなものが出てくる』という仕組みになっているらしい。
取り出したカバンに、恐る恐る手を突っ込む。そして、中から出てきたのは――。
「……これは、こんがり肉!?」
何これ、どういう事? もう一度手を突っ込んでみる……だが、何も無い。この状況は、これで解決できるとでもいうのか? いやいや、こんなみんな大好きな食べ物如きで、あのドラゴンたちを潜り抜ける事ができると思うか普通。
せめて、あいつらがどこか遠くに行ってくれればなぁ。――心の中で突いた溜息は、じわりじわりと俺の中で変化していった。
(……! そうか、分かったぞ!)
俺は、心の中で両親に感謝した。取り出されたこんがり肉に一人頷きながら、俺は檻の中の少女を見据え、必ず助けると誓ったのだった。
◇
こんがり肉は全部で十本。その内の三本を手に取り、残りをポケットの中に戻す。
次に俺は、香りが倍増する魔法をかけた。普通なら料理人が使うような魔法だが……今から俺がやろうとしているのは、本来の使い方とは全く違う。
(上手くいってくれよ)
祈りながら、俺は旨そうな匂いのする肉を投げた。
『グァォォオオ―――!!』
三匹のドラゴンの内、一体がこんがり肉に向かって走っていく。それに釣られた二体も後をついていき、気が付けば檻の周辺には俺だけが居た。――作戦は大成功。食べ物に釣られたドラゴンたちは、俺になんか気づかないまま看守の役目を放棄した!
(今だ!)
気配を消す必要も無く、俺は折に向かって走り出した。あの陽動はすぐにばれるだろう……持って三分。その間にあの檻を破壊し、中にいる少女を救い出す!
「大丈夫ですか⁉」
意識は無いが、息はしている。顔色も……良くは無いが、すぐに死にそうなわけではない。問題はこの鋼鉄の檻を、どうやって破壊するかという話だ……曲げることは不可能、破壊するにも俺なんかの剣術じゃ不可能。無理やり聖剣を使うという手もあるが、加減ができないため中にいる少女ごと切ってしまうかもしれない。
(畜生! ここまで上手くいったのに……肝心な所を考えていなかった!)
考えろ、考えろ、考えろ! 何かあるはずだ、この子を傷つけず、それでいて迅速に救い出せる方法が! 心音がひどくうるさかった、地面が震える度に……背後を見るのが怖くなった。
(そうだ、ポケット!)
さっきもこのポケットで打開策を手に入れた、今度もきっと何かあるはず! 俺は急いでポケットの中に手を突っ込み、何かを、掴んだ。
「こ、これは……!?」
いくらなんでもそれは無いだろ。そう言いたかった俺の手が握っていたのは、本ぐらいの厚さと大きさの粘土だった。
◇
(粘土、だと……!?)
いくらなんでも無茶苦茶すぎる! 粘土なんかでどうしろって言うんだ⁉ 駄目だ、少しも打開策が思いつかない……大体何なんだこれさっきから! もしかして、さっきのこんがり肉も、俺がただ機転を利かせただけだったのか⁉
(クソっ、どうすればいいんだよ!)
不幸中の幸いなのか、まだ見張り役のドラゴンは戻って来てない。速く、本当に早く何か考えなくては! ――せめて、鍵があれば! 俺はヤケクソ交じりに粘土を握り潰した。こんな事をしている場合じゃないのに……と、そんな俺は、信じられないモノを見た。
「これ……鍵!?」
――そうか。これは魔法の粘土だ! この粘土は欲しいものを念じながらこねると、わずかな間だけそれになってくれるのだ! 壊さずとも、鍵は手に入った。――そうと決まれば、やる事は一つだった。俺は鍵で牢を開け、再び粘土をこね回し、少女を縛る鎖を全て開錠することに成功した。
(やった! あとは……逃げるだけ!)
粘土まみれなんて気にも留めず、俺は少女を抱えて走り出した。とにかくこんがり肉が飛んでいった方向の逆、その方向に向かって、俺は走り出した。
(頼む、頼むから……来ないでくれよ……!)
ただただ祈り続ける俺は、とにかく走った。走って、走って、止まったら死ぬというような感情の中、走り続けた。
「……はぁ、はぁ」
とうとう走れなくなり、俺はその場に膝をついた。振り返っても、辺りを見渡しても……そこには、悪趣味な景色が広がっているだけだった。
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