機械殺しのカルナ

キリン

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鉄仮面の「機人」

目覚めと出発

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「……あぁ」

 どうやら俺は気絶していたらしい。曖昧な記憶を縫い合わせていくうちに、俺が九死に一生を得ていたことが分かった。酷く痛い体中の嘆きが、むしろ自分自身の存在を証明してくれる強い根拠となってくれている。薬の匂いがして頭の位置を変えると、そこにはレインがいた。

「気が付いたか」

 汚い衣服の下には美しい白い肌があった。女性というよりは、子供の華奢な体……だがどうだ、無垢な裸体の上には包帯が巻かれ、背中には血が滲んでいるではないか。俺は、我慢できずに起き上がった。

「お前、俺を庇って……」
「地面に頭を擦りつけるぐらいには感謝したまえ。……と言っても、ガラクタの中にあった鉄の棒で切った程度だ。思ったよりも出血が多く止血に苦労したが……君みたいに鳩尾に穴が開いたわけではない」

 ――そんな事より、自分の心配でもしたらどうだ。と言いたげな背中だ、言われてみれば胸板の下あたりに痛みを感じる……だが、そこまで痛くは無かった。義手の影響で体が強くなっているのもあるとは思うが、それを加味しても酷い傷だったはずだ。

「あまり動くんじゃないぞ。歩けるようにはしたが、激しく運動したり戦ったりするのはやめてほしい……少なくとも、一日は安静にしておいてくれ」
「でも、もしまた「機人」が来たりしたら……」

 俺が拳を握りしめて言うと、レインはそっと、その上に手を置いた。

「その時は、逃げればいい」

 だから、戦うな。レインは頼み込むように俺の手を掴んだ、発音が悪く声も小さい……目に覇気も無くまさに真面目というべき彼女が、一瞬別人のように見えた……いいや、レインという女性の見方が、変わっていた。

「……分かった」

 考えることを止めたい気持ちでいっぱいになった。レインは目を逸らした俺の方を見て、「ありがとう」と言った。

(それにしても、あの「機人」の動き……いや、まさか。そんな事無いよな)
「……喋る事も動くこともできる。戦うなんて言えるってことは、立ち上がって歩くことぐらいはできるよね?」
「? まぁ歩けるが……今すぐどこかに行く必要があるのか?」
「当たり前だろう? 君の寿命はあと一年かもう少し短いか……ここから「機械の国」までどれだけ距離があると思っているのかな? だったら、今すぐ移動を始めるのは普通だと思うが」

 自分の顔が厳しいものになっていくのが分かる。ああそうだ、俺に休んでいる暇は無い……一刻も早く「機械の国」に行き、今も尚鉄の体を動かし続けるエルメスを、父さんの仇をスクラップにしてやるのだ。

「とまぁ、そんな訳で私たちはこれから汽車に乗る。乗ったことはあるかい?」
「いや……名前だけしか」

 いかにも田舎者を嘲るような目を向けられている。

「……歩くよりは汽車に乗った方が早い、だから乗る。安心したまえ英雄、切符の金ぐらいは出してやるさ」

 そもそも切符という単語、もっと言えば汽車という存在がどのような物なのかも分からない俺は、何となく話を合わせながら、ボロボロの服の上に、比較的綺麗なコートを羽織ったレインの後ろを歩いた。
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