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【第一部】第一章 憤怒の黒炎

神が動いたその理由

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どうも皆様、ご機嫌麗しゅう。
皆さんは今どんな状況ですか?、儂は。

「まずは体を冷やしましょう!、あちこち火傷しているはずです!、脱いで!、もちろんフンドシもですよこんな時に何恥ずかしがってるんですか!?」

身包みを剝がされています。
「うるさぁい!、脱げるもん!、大丈夫だもん!」
「んなわけないでしょう馬鹿じゃないですか⁉」
アメリアは半場パニックになりながら、信長のほっぺを引っ張る。
「ほひゃひゃひゃひゃ」(特別意訳・痛い痛い痛い痛いっ!)」
信長はもう何かを悟り、抵抗するのをやめた。
大人しくなった信長の背中に、アメリアは濡れタオルを押し付ける。
「・・・・・・なあ、何処も痛くないし風呂入れば大丈夫なんじゃよ、ホント、火傷なんてしてないじゃろ?」
「・・・・・・・・、・・・・・・」
「痛いって、そんな削るようにせんでも・・・・・・・」
「ごめんなさい」
ぴたり、と、タオルを動かす手を止め、アメリアは言う。
「殴って、ごめんなさい」
「・・・・・・・・・」
出来れば、言わないで欲しかったと、正直に思った。
はっきり言ってこの少女は何も悪くない、微塵も、これっぽっちも。
でも、たぶん。
自分が「ああ」なってしまったのは、自分のせいだと思っている。
混乱していたのだろう、そう思うしかなかった。
・・・・・・・でも、嗚呼。
何処か嬉しい気もする。
こんなに心の籠った謝罪を受けたのは初めてだからかな。
儂に謝ってくる者は大抵皆、儂が怖くてその場をやり過ごすために頭を下げるのだ。
許してください、殺さないで下さいと。
「・・・・・・・・・・・・・・」
信長は、背中にタオルを押し付け続けるアメリアに、何か言おうとした。
だが、うまく言えない気がして、ぽかんと開いた口を閉じた。
そして。

「おーいアメリアちゃん、俺の服と鎧がねぇんだが、何処に置いたか知ってるか?」

風呂に入っていた筈の少女、アキレウスが全裸でリビングにやってきたのだ。
唖然とする信長とアメリアの目線に対し、不思議そうに首を傾げる。
「お前ら何見てんだ?、そんなことより鎧、あれ大事なもんだから返してほしいんだけど」
「・・・・・えっとな」
「ツッコミどころが多すぎるので人が来るまでこれを着ていてくださいどうぞこれをっ!」
アメリアはそう言って、来ていた赤いパーカーを脱ぎ、落ちていたパンティーと共にアキレウスの顔面にぶん投げた。
それを難なくキャッチしたアキレウスは、少し不満そうにパーカーを見た。
「・・・・・・アメリアちゃん、確かに服が欲しいとは言ったけどよぉ、あんたが脱ぐことは・・・・・」
「良いんです!、信長公が鼻の下伸ばしてあなたのこと見るよりは百倍マシですから」
「お、おう?」
アメリアは百獣の王の如く顎を開き、雄叫びのような声でアキレウスを威圧した。
流石の大英雄もこれには吃驚した様子、まだパーカーの前が開いており、平均的でいてとてつもない破壊力を持った谷間が丸出しである。
「前を、閉める」
「あっはい」
ぽかんとしていたアキレウスは、ちょっと乱暴にチャックを閉めた。
ちなみにこの時、この二人に背を向けていた信長が青ざめた顔をしていたのは此処だけの話だ、ナイショだよ☆。
「・・・・・・こんな空気の中言うのは本当に申し訳ないんだけどさ、その子は誰かな?」
ドアを開けたところが修羅場だったことにビビっている、ミスター踏んだり蹴ったりのナポレオンがやってきた。
アメリアは引きつった眼でナポレオンを睨みつけ、次にアキレウスを睨みつけた。
威圧的な目線を本能的に感じ取ったのか、アキレウスはほぼ反射的にナポレオンの方を向いた。
「おっ・・・・・俺はアキレウス!、ギリシャ最強、天下無双の大英雄だ!、よろしくな兄ちゃん!」
苦笑いのままアメリアに背を向けているあたり、よっぽど圧がすごいんだろうなーと信長はぶるぶる震える、いや精神的にも肉体的にも、だって今裸だもん服返してよ。
ぶるぶる震える信長、それを半ば忘れているアメリアが、口をぽかんと開けたナポレオンに言った。
「この人が言っていることは嘘ではありません、この少女は、恐らく全盛期であろう信長公の斬撃を受け、こうして物理的に正気に戻しました」
「・・・・・・・・・」
アメリアの言葉を聞き、ナポレオンはアキレウスの方を見た。
だらしない格好で、アメリアの方を見ていた彼女は、こちらに気づいて手を振った。
「確かに伝説通りの姿や性別ではありません、ですが実力は本物、たとえ彼女が本当にそうであれ嘘であれ、戦力にはもってこいです」
「・・・・・そうか」
ただ一言、そう言ってナポレオンはアキレウスの目の前に立った。
「Mr.アキレウス、いや、ここはMs.アキレウスかな?」
「呼び方なんてどうでもいいさ、それより、力を貸せってことかい?」
それを聞き、ナポレオンは笑った。
片手を伸ばし、握手を求める。
「よろしく頼むよ、ギリシャ最速最強の大英雄」
それを聞き、気持ちよさそうにアキレウスはナポレオンの手を掴んだ。
力強く、パァンと気持ち良い音を鳴らして。
「ああ、オレはそのために来たんだからな」
そう言って、アキレウスはソファーにどさっと座った。
「んじゃ、お仲間になったことだし俺から情報をやるよ、あんたらを呼んだ女神テティスが、呼ばれた俺たちが倒すべき敵の名をな」
腕を組み、足を組む。
大胆で色気のある太ももなど気にならないほどの緊張が、部屋全体を包んだ。
「たった一人、それが存在するだけで神が動いた、その理由」
それは――――――――――――――――。

「妻木煕子、明智光秀の奥さんだよ」








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