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第十三話,戦争狂!? の皇帝陛下の素顔

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 次の日、王宮からの馬車がギルドに来るというので、カイオスと一緒に出迎える。勿論、ジーヴェルも一緒だ。ジーヴェルは、魔剣士の姿だ。カイオスが王宮までの付き添いとして、カイオスとジーヴェルが同行できるように申請してくれていた。
 暫くすると、ギルドの目の前に豪華な馬車が止まり、馬車を引いていた騎士団らしき人が降りて来た。

「ヴァイキール帝国、皇帝陛下の命により伝説の光の勇者、ルカ・スピリアーズ様を迎えに参りました!」

 カイオスが頭を下げる。

「こちらが伝説の光の勇者、ルカ・スピリアーズ様です」

「貴殿はギルド長のカイオスであったな。私は騎士団長のバルディンだ。出迎え感謝する。して、あなたがルカ様ですか?」

 そう言って、ジーヴェルに右手を差し出す。

(そうだよな⋯⋯美形だし、魔剣士だけど見た目は勇者っぽいもんな。俺でも間違えるわ)

 等と思いながら、少し残念な気持ちになる。ジーヴェルは慌てて弁解し、俺に一礼する。

「いえ、私の名はジーヴェル、魔剣士です。こちらにおられる方が勇者ルカ様です」

 ジーヴェルがそう言うと、バルディンは慌てて頭を下げ、俺に右手を差し出す。何だか複座な気持ちになりながら、右手を出し握手する。

「これはこれは、失礼致しました。三人とも横に並ばれていたので⋯⋯」

(何か言い訳がましいな。まぁ、もう良いけれど)

「いえ、よろしくお願いします」

「はい! ルカ様、よろしくお願い致します。さぁ! 馬車にお乗りください。皇帝陛下がお待ちです。皆様もご一緒に」

 バルディンが馬車の扉を開け一礼する。俺とジーヴェル、カイオスの三人で馬車に乗り込む。扉が閉まると、ジーヴェルが怒っていた。

「あのバルディンとかいう騎士団長? ルカ様と私を間違えるなんて。あってはならないですよ!」

「まぁ⋯⋯仕方ないよ。ジーヴェルの方が見た目は勇者っぽいもん。俺なんて、ジーヴェルやカイオスに比べたら背も低いしな」

 そう言うと、カイオスがハハハっと笑って俺の肩をポンポンと叩く。

「ルカ、大丈夫だ。確かに背は低いかもしれない。だけどな、ルカが発しているオーラは誰よりも凄いぞ。見る人には分かる。だから大丈夫だ」

「カイオス、ありがと。うん、自信持つよ」

 その後、カイオス、ジーヴェルと他愛もない話をしていると、約一時間位で王宮に到着した。王宮の中に案内され、客室に通された。客室で待っていると、部屋がノックされ、バルディンが入って来た。

「皇帝陛下がお待ちです。ここからはルカ様お一人でお願い致します」

 バルディンにそう言われ、バルディンと共に陛下の待つ玉座の間へ入る。部屋の中には皇帝陛下と数名の騎士が居た。前皇帝陛下が隠居し、代替わりをしたばかりだという陛下は、思ったより若く見えた。三十代位だと思われる。バルディンが陛下に俺を紹介し、それに続いて、俺も陛下に挨拶をした。

「カティエル・ヴァイキール陛下、こちらが伝説の勇者ルカ・スピリアーズ様です」

「お初にお目にかかります。ルカ・スピリアーズです」

 挨拶すると、陛下は不敵な笑みを浮かべた。

「君がルカ・スピリアーズか。よく来てくれた。伝説の勇者だそうだな。我が国のため、勇者としての活躍を期待しているぞ」

(本当は何もしたくないけど、カイオスからは何を言われても反発はするなと言われているし、気を付けなきゃな)

「陛下の仰せのままに」

 そう言って頭を下げると、陛下は一瞬ニヤリとはしたが、その後、ウーンと唸った。

(あれ? 俺、何か間違ったか?)

 不安になりながら、次の言葉を待つ。

「面白くないな」

「え!?」

「もう少し何か言ってくると思ったんだけどな」

「と、言いますと?」

「少し待て」

(何!? 俺、やっぱり何かした!? って、え?)

 様子を伺っていると、周りに居た騎士やバルディンに話しかける。

「ルカと二人きりにさせてはくれぬか?」

(俺と二人きり?)

 余計訳がわからなくなってきた。

「この者と二人ですか? 危険では?」

(そうだよな。今日会ったばかりの俺と二人とか心配だよな。どんな奴かも分からないんだし)

「大丈夫だろう。まぁ、もし、何か俺に危害を加えようとしたら、処刑すれば良いだけだ」

「しかし……」

「俺の頼みが聞けぬか? そんなに俺一人では頼りないと?」

「いえ、決してそんな事は……」

 暫くやりとりをした後、側近と思われる騎士達とバルディンは渋々部屋の外へ出ていく。出ていく時に騎士の一人に睨まれたが、俺が陛下に対して何か出来るわけがない。皆が部屋から出るのを確認した後、陛下は近くに来るよう、俺に手招きをする。

(粗相が無いようにしないとな。さっき処刑とか聞こえたし)

「陛下、私に何か?」

「驚かせてすまない。ルカ、君のことを知りたい。伝説の勇者というのに、威張ったりも、自分の力を見せつけようともしない。こんな奴に俺は会ったことがない」

「私のことですか? 私は伝説の勇者ではありましたが、最近は白魔術師として他のパーティーで活動しておりましたし……」

 言葉が詰まる。パーティーに裏切られて、為す術なく崖から突き落とされたなんて、言っても良いものか悩んだ。しかし、きっと陛下は知っている筈だ。

「……勇者イグニのパーティーの戦闘中に崖から落ちたと聞いている。しかし、俺はその話を聞いた時納得がいかなかった。伝説の勇者ともあろうものが、そんなに簡単に落ちるものかと」

 陛下は俺をじっと見詰める。俺はカイオスや司祭様に話した通り、またイグニとの話をした。すると、陛下は怒りを露わにした。拳が震えている。


「……陛下?」

「ルカ、君はイグニをどうしたい?」

「どうしたいといいますと?」

(陛下の顔が怖い)

「言葉の通りだ。イグニは許しがたい事をした。君が伝説の勇者であるからとかではない。弱いものをそうやって追いやるなどと。しかも、死んだ事にしてただと!? 君が望めば処刑することも出来るが? どうする?」

(陛下は本気だ。俺が処刑を望んだら、イグニは……)

 イグニは憎いが、殺したくはない。俺のせいでとも思いたくはないし、これ以上関わりたくもない。

「陛下、甘いと思われるかも知れませんが、私はイグニの処刑は望んでおりません。ただ、もう関わりたくないだけです」

 俺はそう言うと、陛下はククッと笑った。

「そうだな。ルカ、君は甘い。しかし、無駄な殺生を避けたいと思うのも分かる。この件は俺に任せてくれるか? もう、ルカに関わらせないようにしよう。安心してくれ。殺しはしない」

「はい、ありがとうございます。全て陛下にお任せします」

 イグニの話を終えた後、陛下はさっきまでの難しい顔ではなく、柔らかい……どこか照れたような顔になった。

(陛下? どうしたんだろ?)
 
「して、ルカ? 少し頼みがあるのだが……」

「はい。何なりと」

「もっと近くに……目の前に来てくれるか? 君を近くで見たい」

(!? 心なしか顔が赤い!?)

 俺は恐る恐る、陛下の前に行く。すると、陛下が急に抱きついてきた。俺はパニック寸前だ。声も裏返る。

「へ、へへへ陛下!?」

「あ。つい。悪い」

 そう言って、陛下は俺を離す。

「どうしたんですか?」

(これが、暴君、戦争狂といわれているヴァイキール陛下なのか?)

「ファンなんだ」

「へ?」

「幼い頃、写し絵が描いてある本で、あなたを見てから。ずっとずっと憧れでした。それが、目の前にいるなんて、信じられなくて」

(君でもなく、ルカでもなく、って言っちゃってますが!? 敬語だし!? 大丈夫なのか!?)

「あ、あの……」

「すまない。こんなの、陛下らしくないよな」

「あ、いえ、私も驚いてしまって。陛下も私なんかの事を」

「なんかではない! っと、大きい声を出してすまない。それくらいルカの事は憧れだったんだ。後、陛下ではなくカティエルと呼んでくれないか?」

「か、カティエル様?」

「様も要らない」

「い、否、流石にそれは……畏れ多いです」

 俺が申し訳なさそうに言うと、今度は柔らかくフフと笑った。

「困らせてすまない。けど、いつかはそう呼んでくれると嬉しい。それと、ルカ、君は戦闘は好きか? 正直に答えてくれ」

 戦争狂といわれている、カティエル様に正直に言って良いものかかなり悩んだが、嘘を付くわけにもいかなかった。

「申し訳ございませんが、私は戦闘は好きではありません。勿論戦争も。しかし、カティエル様のご命令とあらば、この国の為に……」

「否、それ以上は言わなくて良い」

 言いかけたところで、カティエル様に言葉を遮られる。

「すいません」

「否、謝らなくて良い。何となく分かっていたからな。それに俺も戦争は嫌いだ」

「え!?」

 それは戦争狂といわれているカティエル様の意外な答えだった————。

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