異世界転移の特権!能力が付与されなかった俺~召喚されたら、俺でなく自転車が最強になっていた件、しかし俺も得意の弓で脅威を倒す!~

猫兎彩愛(ねこうさあやめ)

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3.ステータスUP! 暴れる自転車

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「さぁ! 成、こちらへおいで。成の能力について説明してあげよう」

(ばあちゃんは凄いけど、俺は魔力もないし……って話かな?)

「はい、俺の魔力や能力が低いって事ですよね?」

 しかし、じいちゃんは優しく笑う。

「案ずるな、成よ。確かにお前の能力はまだ低い。しかし、わしと稽古をすれば必ず強くなる。それと、その魔石はな、実は澪の魔力や力が込められており、それを封印しておる。それを解放する時も来たようじゃ」

「魔石に魔力の封印ですか?」
「そうじゃ。それを貸してくれるかの?」

 じいちゃんがそう言うので、ペンダントを渡すと、じいちゃんは何やら唱え始めた。暫くすると、ペンダントから強い光が放たれ、その光は俺の身体を包み込んだ。

(わぁっ! え? え? どうなってるの? けど、これあったかい。何だか、ばあちゃんに包まれてるような気がする……)

『成、辿り着いたのね。きっとあなたは私と同じ運命を辿ると思ったわ。あなたに神のご加護を』

 どこからか声が聞こえた。

(ばあちゃん? いや、ばあちゃんより若い声。けど、ばあちゃんなのかな?)

 俺を包んでいた光が消えた。何故か涙も溢れてくる。

「お、俺、どうしたんだ?」

 振り向くと、じいちゃんが優しい目をしている。

「成功した様じゃな。さて、ステータスを見てみようか。うん、MP300、強さ300強くなっておるな。ちゃんと澪の気が入った様じゃ。これは返そう。ちゃんとこれからも大切に持っておくのじゃぞ?」

 そう言い、じいちゃんはペンダントを俺に渡した。

「ばあちゃんの? そういえばさっき声がしたんだ。でも、ばあちゃんよりかなり若い声だと思う」

 俺はまだ、不思議な出来事に何だかふわふわしていた。

「その声は澪が地球に帰る時のものだろう。だから若くても不思議ではない。成、どうだろう? わしと共に修行し、この国を、この世界を救ってはくれまいか?」
「はい! 俺も早く地球の家族の元に帰りたいので、頑張ります! 魔王デルモを倒して、絶対に家族の元へ帰ります!」

 じいちゃんは、何だかすまなそうな顔をしている。

「成、あのな。魔王デルモを倒さんでも地球には帰れるんじゃぞ?」
「え? 帰れるんですか?」

 驚いた顔を見て、じいちゃんが教えてくれた。

「正確にはこの国の周りの脅威、デルモゴンは倒さなくてはならないのじゃ。国に結界を張ったままじゃ、この国から成を外へ出すには難しいのじゃ。直ぐに帰してやりたいのはやまやまじゃが、帰るために結界を解いてしまっては、この国にデルモゴンが入ってきてしまうからの」

(そうだったんだ。けど、魔王デルモは倒さなくても良いんだな。まぁ、脅威は倒さなきゃだし、修行はしっかりしないとだよね)

「俺、頑張ってこの国に来ようとしてる脅威デルモゴンを倒すよ! じいちゃん、修行よろしくお願いします!」
「勿論じゃ!」


 *


 次の日から修行が始まった。じいちゃんに連れられて、今は練習場に来ていた。他の剣士達と一緒に素振り練習をしている。修行は思っていたよりキツい。と、いうより慣れない剣に苦戦していた。じいちゃんが隣に来て、一緒に剣を握ってくれる。

「成、やはり剣は慣れないか?」
「うん、今まで触ったことないからやっぱり難しいや」
「そうか。成は弓が得意だと言っておったな? やはり、弓を極めた方が良いかのう」
「うん! 弓というよりは弓道だけど。あ! でも、剣も頑張るよ! せっかく教えてもらってるし」
「そうか、成は偉いな」
「そんなことないよ! 確かに弓を使ってみたいけど、やった事ない事をするのも楽しいよ」

 すると、じいちゃんは何か考えた様な素振りを見せた後、何か唱えると弓が現れた。弓には龍の彫刻が掘られており、銀色に輝いていた。

「成、これを使ってみるか?」
「わー! すっげー、何これ? じいちゃんの? すっごく格好良いじゃん」
「気に入ったか? ではこれを与えよう。少し使いこなすまでには時間がかかるかもしれんが、きっと成ならできる」
「うん、ありがとう! じいちゃん、俺頑張るよ」

 そうして渡された弓は思ったより重量もあり、持ち上げるのがやっとだった。

「ははっ。やはり重かったか。なに、ゆっくり慣れていけば良い。それと、その自転車とかいう乗り物だがな、面白いものもあるものじゃな」

 じいちゃんが言うので、自転車の方を見てみるが、いつもの自転車と変わらない。至って普通の自転車だ。

(自転車が面白い!? 異世界こっちに無いから、不思議なのかな?)

「自転車の何が面白いの?」
「成が剣の修行をしてる間に調べてたんじゃが、乗ってみるとこの自転車の意思を感じてな、飛べと念じると、羽が生えて飛べるし、このベル? みたいなものを鳴らすと、ビームが出る」
「へっ!? 自転車、そんな事になってるの!?」
「そうじゃが、元々こうじゃなかったのか」
「うん、乗って漕いでただ前に進む……確かに、漕ぐ速度によって速くなったりはするけど」

(俺の自転車、凄いことになってたんだな)

「そうなんじゃな。じゃあ、転生付与なのかのう? 召喚士も言っておったし、MPも1000あるそうだしのう」
「そうだよ! 俺の付与されるはずだった魔力持って行っちゃってるんだから」

(だから、俺は強くない)

「そうか。けど、物は考え様じゃぞ? こんな珍しくて凄い乗り物を手に入れたんじゃからな」
「そっか。そうだよね! 最強自転車持ってるなんて凄いよね!」
「そうじゃ! きっと成の最強武器になると思うぞ」

 そんな話をしていて、じいちゃんに見守られながら自転車に跨ると、急に自転車が暴れ出し、羽根が生え、急上昇。

「うわっ! わーっ! た、助けてーっ」
「こ、こりゃいかん!」

 じいちゃんが慌てて魔法で鎖を出し、自転車目掛けて放つ。しかし、自転車に届くと思った瞬間、バリアが出て弾かれた。

「わあっ!」

(何だよあれ。じいちゃんの魔法弾いちゃった)

 落ちないように、自転車に必死にしがみつく。次第に自転車は大人しくなり、地上に着いた。じいちゃんが慌てて走ってくる。

「成! 大丈夫かっ!?」
「う、うん。ちょっとビックリしたけど。バリアまで出ちゃったし、これ凄いや。でも、俺の知ってる自転車じゃない、まるで生きているみたいだし、乗りこなす自信がないよ」
「これも練習が必要じゃな。それにしても、意思を持つ乗り物か。やはり面白い、まるで暴れ馬じゃのう」

 自転車から降り、息を切らして座っていると自転車から声が聞こえた。

『思ったより意気地なしなんだな。もっと根性ある奴だと思ってたのに』

(へっ? 今、自転車から声がした!?)

 不思議に思い、自転車を良く見てみるとハンドベルの上に黒い羽の生えた角がある小さな男の子が座っていた。

(なんか居る。今の声って、もしかしてあの子かな?)

「じいちゃん、自転車のハンドベルの上に何かいる。あれって何?」
「ハンドベルの上じゃと? あ! こらっ! サクル、何しとるんじゃ!」
 
 じいちゃんが小さな男の子に話かけると、慌てて自転車から飛び降りた。じいちゃんが、飛び降りたサクルという男の子の首根っこを掴む。

「やべっ! 大魔導師様、ごめんなさい~!」

(何か可愛いな、ジタバタしてる。まぁ、口は悪いけど)

「じいちゃん、この子もしかして自転車の精とかなんかな?」
「否、此奴はサクルというんじゃが、アゼルの使い魔じゃ。さて、サクル? どうしてここに来たんじゃ? アゼル達は何処じゃ?」

(使い魔っ! 何か格好良いな、流石異世界だ! ファンタジーだっ!)

 使い魔という言葉にワクワクして、じいちゃんとサクルのやり取りを見ていた。

 しかし、じいちゃんの問いにビクついたサクルは、更に小さくなりながら、もごもごと申し訳なさそうに話し始めた。

「アゼル達が話してるのを聞いたんだ。異世界人が自転車とかいう、面白くて強い乗り物に乗ってきたって。だから見たくなって……それと、異世界人ってどんなのかも気になって……」
「サクルが自転車を動かしたのか?」
「ち、違うよっ! 俺、ちょっ、ちょっと、自転車に触ったりして遊んでたんだ。そしたら乗ってきたから、ちょっと驚かして遊んでやろうと、自転車蹴ったら急に飛んじゃって……」

(って事は、こいつが蹴ったから急上昇しちゃったって訳か)

「サクルーっ! やっぱりお主の仕業じゃないかっ!」

 じいちゃんの大きな声が響き渡る。

「ごめんなさいーっ! で、でもっ! 空飛べるし、この異世界から来た人の乗り物だし、格好良いところも見れるって思ったんだもんっ! こんな事に成るって思わなかったんだもんっ!」

(あー、だからか)

「だから、俺に意気地なしとか言ったんだ?」
「成、それは本当か?」

 俺がサクルに問いかけると、じいちゃんはまた怒り出し、サクルを目の前に正座させた。サクルはさっきまでの威勢は何処にいったかというくらいに、小さくなり、今にも泣き出しそうになっていた。

(あ。ちょっと可哀想かも)

「うん、自転車から『思ったより意気地なしなんだな。もっと根性ある奴だと思ってたのに』って聞こえて、ベルの上のサクルに気が付いたんだ。あ、でも、怒ってないからサクルを許してあげて?」

 じいちゃんは、ため息を吐いてサクルを睨みつけた後、俺に視線を移した。

「成はそれで良いのか? なるほど、澪に似て優しい子じゃの。サクル、今回は成に免じて許すが、もうこんな事するんじゃないぞ。冗談では済まないこともあるのじゃ。何かあってからでは遅い!」
「ごめんなさい……」
「わしだけじゃなくて、ちゃんと成にも謝るんじゃ」
「成、ごめんなさい。もうしないよ、悪かった」
「良いよ、もうしないなら」

 サクルが反省したところで、向こうから中世ローマの戦士みたいな格好をして、剣を持った男性が走ってきた――――
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