【完結*R-18】あいたいひと。

瑛瑠

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ここではないどこかで話をしよう

ブルームーン

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ーーーーーside Man



前の支店の上司に誘われてるから、俺そっちいくわって、
ニヤニヤする後輩を蹴っ飛ばし、タクシーに詰め、駅に送り出した。


ロビーに戻ると、薄暗いロビーのソファーに彼女は座ってた。

「お待たせ。どうする?
…とりあえず、ここはアレだから、上のラウンジでも、行こっか。」

まだポツリポツリと参加者が残ってるここでは、誰に見られるかわからない。
見られたところで、何もないなら問題ないのだけれども、
俺はその時、知り合いに見られることを避けたかったんだ。


彼女を促して、エレベーターホールへ向かう。
ラウンジは最上階だ。


エレベーターの扉の前ギリギリに、俺に背を向けて黙って立っている彼女をじっと見る。

濃いブルーの上品なワンピースは、肌の白い彼女によく似合ってる。
腰に巻かれた同色の細めのリボン。
背中のファスナーにつけられているであろう、同じ同色の長めのリボンの先には小さな白いパールがついてる。
ドレスの生地にも同色の素材互いのレースが重ねてあり、一見シンプルだけど少し凝ってるかわいさを求めてた彼女が好きそうなデザインだ。

あの頃から随分伸びた長い髪は、緩く巻いてサイドに流し、白いパールのアクセサリで飾ってある。

白いうなじに落ちてるおくれ毛。
不意にその1束に手を伸ばす、と同時、

ポーン____

到着の案内が鳴り、
急いで手を引っ込める。


照明の落ちた薄暗いラウンジは、何組かの恋人たちがそれぞれ、クスクスと笑いあいながら、時に口づけを交わしながら、自分たちの世界に入ってるようで、

窓際の夜景の見えるカウンターは都合が良かった。
今、彼女と正面向かい合っていられる自信がない。


「なんか飲む?」
「あ…じゃあ、ブルームーンで。」
「俺はジントニックを。」

久しぶりに声を聞いたなと、思い、
そういえば、迎えにいった時から、
いや、ロビーで声をかけた時を最後に、ここまで彼女はずっと無言だった。
何を思っていたのだろう。



「で、話って。」

そう切り出すと、彼女はビクッとして、飲みかけたカクテルグラスをテーブルに置いた。

「や、あの。なんていうか…」


下を向いてグラスの脚に指を絡ませ、歯切れの悪い彼女。


その問いかけは意地悪だったのかもしれない。

あの時渡されたのは、
どうしようかすごく悩んだであろう、
ぐしゃぐしゃのレシート。
たった一言、書いてあった、話がしたいって文字。
俺の手にメモを押し付けた時、彼女の手はちょっと冷たくて、湿ってて、震えてた。
そして決定的は俺の手に乱暴に押し付けた時の彼女の顔。
ただのゴミじゃないのはすぐ分かった。
戸惑いと、不安と、期待とを混ぜた、
欲情したオンナの顔だったから。


俺はそれを知っててここに来た。
正直求められてると感じて、嬉しかった。
初恋のあの時のように、心臓が高鳴った。


俺の前に彼女がいる。
あの時取れなかった手。
望んではいけなかったもの。
それは今も変わらないのだけど。


ジントニックのグラスを傾け、一気に半分くらい飲んで、
トンッ、音を立ててテーブルに置いた。


「俺さ、昔から、知ってた。」

口にする。
決して伝えるはずのなかったあの時の事を。

「…なにを??」
「お前、俺のこと好きだったでしょ?」
「えっ!」

「俺もお前のこと、かわいい後輩だと思ってたよ。そんなお前を手放したくなかったから、ずるかったけど、結婚してからもそのまま、知ってて、突き放しもせずに、手元に置いてた。
お前に期待もたすようなことも言った。スキンシップも多かった、ような気がする。
大事にしたかったんだ。でも。選べなかった。
ごめん。」

そう、一気に告げる。
正面向いたまま、顔を合わす事なく話をするのはずるいけど許してほしい。
とってもかっこ悪い話だから。


グイッ
少し黙ってた彼女が突然、俺の上着を引っ張り、彼女の方を見ると、合わさる視線。

「…いいの。」

彼女は俺の目を見て、はっきりと言った。

「いいの、そんなんいいんです。
それより、ごめんなさい…
なんか、わたし、突然で、びっくりしてて、
今、隣にいることが信じられなくて、こんな状況が信じられなくて、
わたし、何してんだろうって感じで、
あんな手紙で、考えなしに子供みたいなことして、
いい大人なのに、なに考えてるんだろう、
さっきまで会えたことにびっくりしてて、
でも今、わたし、ほっとしてて、すごく嬉しくて……
あれでさよならだったら、絶対後悔してたから。
…勇気出して、よかったー。」

震える手を握りしめ、きっとぐるぐる頭の中にあるであろうこと、全部を言い切った。
潤んだ瞳で俺をみた彼女は、綺麗に笑ってて、


もう限界。
タガがはずれるって、こういうことだ。


無言で抱きしめた。
首元に埋めて、感じた彼女の匂い。
なにこれ、腰にくる。
そのまま首すじに唇をつける。

彼女の体がこわばる。


「お願い、嫌なら振りほどいて…」

耳元でささやく。

「おれ、もう、自分じゃ無理…」

「ずるい…あたしも、チカラ入んない、です。
どうしよ、わたしたち、どうかしてるよ…」
「……そうだな。」
「そうだよ。」

ふーーーーっ。
そのまま深い深い深呼吸をして、ゆっくりと、離れた。
また彼女の体がビクッと揺れた。

そのまま無言で、残ったジントニックをあおり、彼女の手を取って、席を立った。
どこいくの?なんて彼女は言わなかった。

結局口をつけなかったブルームーンに、月の光が揺れてたなんて、
今の俺たちには綺麗すぎる話だ。




彼女の手を握ったまま、エレベーターホールへ早足で歩く。
狭い歩幅で小走りでついてくる彼女。
そういえば彼女はハイヒールだったんだ。
気遣いを忘れるくらい、自分の余裕のなさに呆れる。

ピタッと止まった俺に寄り添う彼女。

そういえば、
「荷物、どうした?」

ずっと前のことのように思えるけど、確かに今日参加したはずの結婚式で、
必ずといっていいほどもらう、大きな紙袋が見当たらない。
しまった、ラウンジに忘れたか?
あ、俺みたいに送る派か?

「や、あの、部屋に…」
「えっ?」
「わたし、ここに、部屋とってます…」

聞こえるか聞こえないくらい小さい声で、そう、言って、俺の手をぎゅっと握った。
これから先、どうなるかなんて分かりきったこの状況で、それを教えてくれた彼女には感謝しかない。

急いで連れ出したはいいけど、俺はまだ行き先を考えてなかったんだから。
ここではないどこかへ、2人でいられる場所に、今、すぐに行きたかったんだ。



ちょうど来たエレーベーターに素早く乗り込み、
「…何階?」
彼女は無言で、23階のボタンを押す。



さすがに部屋に入ったら引き返せないのは、わかる。
本当にいいのか、俺は、彼女は、後悔しないのか?
さっきまでの勢いは何処へやら。
一瞬。改めて今更そんなことを考え止まった俺の横から、
スッと手が伸びてきて、ピッとカードキーをかざした。

「どうぞ。」

小さな声で言って室内に入っていく彼女の後に続いた。
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