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勇者がクズなので俺が勇者になろうと思います!

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 俺の父親は勇者だ…

 世間では立派な勇者だともてはやされているが、実際は違う!

 ほとんど家に帰らず…
 偶に帰って来ると、母や俺に暴力を振るったり、酒ばかり飲んで暴れている…

 勇者の力で暴力を振るわれ、母も俺も何度死にかけたかわからない…

 それでも母は

「お父さんは勇者という立派な仕事をしているんだから…
 お母さんの誇りよ…」

 と、身体中包帯だらけの姿で微笑んでいた…


 そんな日々が続く中
 運命のあの日…


 いつも通り父が帰って来た
 この日は普段より酔っていて、普段より荒れていた…
 激しく暴れまわり家中を破壊していたので、流石に母が止めに入った……

「うるせぇ~
 誰も俺の気持ちなんかわからねぇよ!!」

 バシッ!!!

 いつも通り母を殴り飛ばした…

 ただいつもと違うのは母は何時まで経っても起き上がる事は無かった

 打ちどころが悪かった…

 いや、魔物達を殺す勇者が本気の力で殴ったのだ、か弱い母が無事に済むわけ無い…

 母は身体を激しく殴られたのか骨を砕かれ亡くなっていた…

 母を殴り殺した父は気にせずに酒を飲みながら騒いでいる

 人殺しっ!

 酷い扱いをされていたにも関わらずに、父を尊敬していた母を殺しておいて、気にせず酒を飲んでいるクズめっ!!

 こんな奴が勇者で良い筈がない…

 こんな奴でも勇者ともてはやされるなら、俺でもいいよな…


 ……………

 ……

 俺は静かに父の背後に立つ

 そして手に父の剣を持ち、憎しみを込めて父の背中を斬りつける…

 その瞬間、父は確かに笑った…

 そして父は自らが殺した母の横に倒れ込む…

 父は二度と起きる事は無かった

 ひ弱なガキの俺の攻撃なんて勇者である父にとって簡単に避けられた筈なのに、何故か避ける事もせずに俺に殺された…

 そして何故か笑っていた…

 分からない…

 何故?

 どうして?


 ………

 いや、父は酔っていた

 酔っぱらいの気持ちなんか分からない…


 ~~~~~~~~~

 数年後

 俺は父の代わりに勇者になった…

 魔物を倒し、人々を助け、誰もが認める勇者に…


 ……

 立派な勇者に慣れた筈だった…

 それなのに…

 俺は昔あんなに憎んでいたクズの父のようにならない!
 そう思っていた筈なのに……


 俺は今、最愛のひとに暴力を振るっている…

 あんなクズみたいな事はしたくないのに……

 勇者としての重圧

 勇者としての責任

 勇者としての期待…

 全てが重くのしかかってくる…

 その重圧から逃れる為に酒に逃げ、鬱憤を晴らす為に最愛の人に暴力を振るう…

 嫌だ!

 嫌だ! 嫌だ!!

 本当はもう勇者なんてやりたくない!

 逃げ出したい!

 でも逃げ出す事なんて出来る筈もない…

 これは父を殺して勇者になった事の罰なのか……

 ふと、殺気を感じ背後を見る

 そこにはが俺の剣を振り上げている…

 ああ、そうか…
 
 あの時、何故父は迫りくる剣を避けなかったのか
 何故最後笑っていたのか
 わかった気がする…

 父は勇者の重圧から逃れたかったのだ…

 息子の剣が迫ってきた時、やっと勇者から逃れられる…

 そう思い、笑ったのだ…

 あの時の父の気持ちがようやく分かった…

 そして俺も父と同じく、笑いながら意識を手放した……


   ~~完~~

 

 

 
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