エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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184 父親とレンズ。

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 ココ、地獄では。
 車による酷い交通事故は無い。

 そして、監督所、とは。
 雨風が凌げる安全な場所であり、しかも、衣食住が賄われる。

 あまりに不公平じゃないか。
 時には救急車が来るまで、20分以上掛かる場合も有ると言うのに。

 あんまりに不公平じゃないか。

『たっ、たす、け』

 だが、幸いにもココは地獄。

「直ぐ治療されてしまうだなんて、あんまりにも不公平だとは思いませんか」

 ココに外科的治療方法はさして無い。
 けれど、死者は蘇る。

 自らの血で溺れるのは、さぞ苦しかったでしょう。

『何でアンタ!直ぐに助けてくれなかったんだよ!!』
「急患が病院に搬送されるまで、都市部では約18分、最も遅い場所では100分も掛かるんだよ」

『だからなんだよ』
「刑務所だと、直ぐなんです、恵まれ過ぎだとは思いませんか」

 娘は、約8メートルも飛ばされ、娘とは言い難い姿をしていた。
 しかも、即死では無かった。

『けど、ココは』
「向こうには医者の道徳理念が有る、ですがココは、地獄ゲヘナですから」

 数年して出所した加害者を、私は殺しました。
 そしてココでも、また会えたら、必ずなぶり殺すつもりです。

 何度でも、何度でも。

『そ、そんなの、俺には』
「おや、君のカルテには交通違反者の隠匿、と有りましたが。もしかして、間違いでしょうか」

『俺は殺して無い!』
「ですが、アナタのせいで加害者のアルコール摂取量が不明となり、減刑されてしまった」

『だとしても、俺が減刑を望んだワケでも』
「本当に頭の悪い方ですね、アナタのせいで犯人が楽になってしまった。なので、アナタにはココで償って貰います」

『なん、何で俺が』
「今、説明した筈ですが。成程、愚かだからと言っても許されませんよ。なんせ、ココは地獄なんですから」

『な、止めろ、止めてくれ』
「話せたら、被害者の方も懇願していたでしょうね。止めてくれ、殺さないでくれ、と」

『俺は違う、俺じゃない』
「刑が軽くなった時点で、アナタも共犯ですよ、遺族を苦しめる加害者だ」

『謝る、謝るから』
「いえいえ、結構ですよ。どうせ恐怖心から謝っているだけ、でしょうし。反省されましてもね、帰ってはきませんから」

『だからって、何で』
「あぁ、コレは単なる憂さ晴らし、八つ当たりですよ」

 今の私を見て、あの子は悲しむ事でしょう。

 ですが、私とて悲しい。
 そして子に悲しまれた程度で、この怒りは収まらないのです。

 大事で有れば有った程、愛しければ愛しい程。

『や、やめ』
「いえ無理ですね、もっともっと、苦しんで下さい」

 何処かの遺族の為、そうした大義名分を使い、私は患者を苦しめています。
 そして救い、また、殺すのです。

 何度でも何度でも、本当に理解して貰う為。
 私の願いの為に、死んではまた生き返るのです。

『頼む、もう』
「蘇生が本当に救いになるのか、ふと考えてしまう時が有ったんですが。もう私に悩みは無い、幾らでも死んで下さい、脳の損傷無しに蘇生が可能ですから。馬鹿が死んでも治らないなら、治るまで、死に続ければ良いだけなんですから」

 向こうでは、死刑が最高刑でしたが。
 ココには、無間地獄が有りますから。



『お邪魔します』
「あぁ、いらっしゃい、どうしたのかな?」
《知恵熱が続いてるだけだとは思うんだが、念の為、診断を頼みたいんだ》

『はい、不安です、宜しくお願いします』
「そうなんだね、じゃあ診せて頂きましょうか」
《はい、宜しくお願いします》

 監督所の医務員。

 人の良さそうな爺さんだが。
 何処か、既視感が。

「あぁ、アナタでしたか」
《あぁ、アンタか、そうか》

 子を亡くし、自らの手で復讐した医師。
 しかも、直ぐに自害したんだよな。

「まぁ、何の因果か分かりませんが、ご安心下さい。今は医師として、ココにおりますから」
《あぁ、任せた》

 俺と同い年だった筈だが。
 そうか、やっぱり時系列通りじゃないんだな。

「今は平熱。ですが、記録を読む限りですと、微熱の波が有りますね」
『レンズは考え易い性質だそうです』

「成程、しかもお相手は、いらっしゃる様ですが」
《今は期間限定で、面倒を看て貰ってるだけなんだ》

「そうですか、成程、では喉を見せて頂きましょうかね。はい、あー」
《あー》

「はい、赤み無し、腫れや発疹も特に無いですね。では次は鼻を見ましょうかね」

 本当に、向こうの評判通りの良い医者なのにな。
 いや、アレは流石に、殺したくもなるよな。

『綺麗ですか』
「そうだね、けれど念の為、全身も見せて貰おうかな。痣や発疹が有るなら、別の病気かも知れないからね」
《あぁ、分かった》



 レンズは健康体でした。

『では帰ります』
《そんなに心配か》

『はい、それに何が起きたかも気になります』
《ごめんな、治ったら必ず話す》

『いえ、レンズが悲しむなら待ちます、私は待てます』
《ありがとう》

 悲しいは、かなり少なくなりました。
 でもまだ、奥や下の方に残っています。

『まだまだ油断出来ません、帰りましょう』

 知りたい事より、レンズが優先です。
 レンズがあんなに悲しむなら、私は知らなくても構いません。

《アイスもダメか》

『だけです』
《おう、アイスだけな》



 ココは。
 私は、夢を見ているんだろうか。

『君、君!』
《何だアンタ》

『その子の顔を見せてくれないか』
《何でだよ》

『娘に、似ているんだ』

 失ってしまった娘の面影に似ているだけ、かも知れない。
 けれど。

『顔を見れば気が済みますか』

『あぁ、本当に』

 娘と瓜二つだった。
 けれど、なのに。

《お父さん、帰ろう》

『君は、誰だ』
《アナタの娘よ、お父さん》
『じゃあお任せします、さようなら』

『まっ、待ってくれ』
『はい、何でしょうか』

『私に、見覚えは無いかい』
『はい全く』

『じゃあ、君の、お父さんは』
『まだココには居ない筈ですが』

 娘に良く似ているのに、違う。
 そしてこの有り得ない深緑色の髪色をした子供が、私の、娘。

《お父さん、帰ろう》

 違う。
 違う筈だ。

 あの子は、地獄に行く筈が無いのだから。

『本当に、私の娘なら』
《多佳子、幸せが多く訪れます様に、お父さんが考えてくれたんだよね》

『あぁ』

《じゃあ、俺らは行くか》
『はい、失礼します』



 私は自死した。
 生きる事が罪だと理解したから。

『多佳子、何故、こんな所に』
《最善を選んだの》

『最善』

《お砂糖は毒、電磁波は害、ネットには嘘しか無い。石油を使うのは悪、でも生きるには石油製品は避けられない、じゃあ死ぬのが1番でしょう?》

『何て事を』
《だって、生きてるだけで二酸化炭素を吐き出しちゃうなら、生きていない方が良いでしょ?》

『違う、そうじゃないんだ』
《地球を汚すのは人でしょ?なら少しでも減らすべきじゃない?》

『だからと言って』
《だから樹になったの、地球に害悪にならないし、二酸化炭素も吸収するし》

『違うんだ、より良く生きる為』
《だから樹になったの、素敵でしょ?》

『違う、違うんだ』

《何が違うの?》

『お前を苦しめるつもりは無かったんだ、ただ、守る為に』
《携帯電話は電磁波が出るからダメ、お菓子は怪しい物質が使われているからダメ、ゲームやマンガは洗脳の道具だからダメ。友人は選べ、外食は体を穢す、ニュースに踊らされるな。全部、ちゃんと守った結果だよ?》

『だからと言って、自死を』
《それ以外無いよ?だって、何もかもダメなんだから、コレしか道は無いよ?》

『違うんだ』
《何が?》

『こんなつもりは、本当に無かったんだ』

《じゃあ、どうなると思ったの?》

『健康に』
《ジュースを飲んでても長生きした人も、ファーストフードばかりでも健康な人も居るのに、タバコもお酒も嫌いだったお母さんは病気で死んだ》

『だから』
《運や遺伝子だよ、なのにお父さんは私を縛った、私の幸福の為だと言って都合の良い様に躾けようとした》

『違うんだ』
《お父さんのやり方、凄く異常だよ?孤島で電磁波も砂糖も無い場所でも、感染症が広まったら死ぬんだよ?》

『悪かった、私が間違ってた』
《でも、そうやって犠牲になったのは、私。お父さんじゃない、お父さんだけが、そう生きれば良かったのに私を巻き込んだ》

『違うんだ、本当に守る為、自死させるつもりなんて』
《外と隔絶させたのに、孤立して死を選ぶワケが無いだなんて、予測が甘過ぎるよ?》

『本当に、すまなかった』
《子が死なないと反省しないんだね、親のクセに。でも大丈夫、親は神じゃないって、ココでやっと知れたから》

『多佳子』
《けどね、私には復讐する権利が有ると思うの。お父さんが1番嫌がってた事、売春して生きて行くの、病に罹って死ぬまで》

『頼む、そんな事は』
《他の男に取られるのが本当に嫌だったんだね、気持ち悪い。じゃあね、お父さん》

『違う!待ってくれ、頼む!待ってくれ!!』

 お父さんの願いは、私の幸せ。
 もう幸せだけれど、決して教えてあげない。

《ふふふ》
「あぁ、コッチを見てるよ」

《じゃあアナタはお客さんね》
「そう言う事にしておくよ、奥様」

 売春はしない、してもいない。
 それにもう結婚して、子供も居るなんて。

 一生、知らずに苦しめば良い。

 この地獄ゲヘナで。
 一生、苦しめば良い。
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