エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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197 貪食の村。

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 貪食の村の者は、顔に大きな口の刺青を入れている為、直ぐにも貪食の村の住民だと知る事が出来る。

 主な生業は狩猟。
 そして皮を物々交換し、生きている。

 食事当番のみ、男女に関係無く、全員の持ち回り制で行い。
 男はその殆どが狩りをし、狩りが苦手な女は皮鞣し等を担うが、農作業等は殆ど行わない。

 特徴の1つに、唯一の掟、と言って良い程の決まりが有る。
 余所者とは食事を共にしてはならない。

 そして村長は隣の村の者が代理で行い、村長に認められた者だけが、外に狩りに行く事が出来る。

 だが、そこでも掟は守られ無ければならず、食事の同席の強要は強要罪が直ぐにも適応される為。
 誰も、食事には誘わない。

 そして貪食の村に入るには、幾つかの決まりが有る。

 1つ、余所者に食事を提供する事を禁止されている為、飲食物の持ち込みは自己責任。
 2つ、村人に飲食物を与えた場合も、自己責任。
 3つ、飲食物の持ち出し、毒物の持ち込み禁止。

 尚、破った場合、自己責任となるが。
 とある男は、食べ物を持ち込んだ。



「な、無い」

『どうしましたか』

「持って来た、僕専用の下剤入りの干し肉が無くなっているんです。僕、便秘気味で、だから持って来たのに」

『あぁ、それはそれは、ご愁傷様で』
「いえ、でも、窃盗で捕まえる事が出来無いんですよね?」

『ですねぇ、飲食物の持ち込みは自己責任、ですから』
「では、僕には何か罪が負わされるんでしょうか?」

『無いですねぇ、下剤は毒では無いですから』
「良かった。あ、もう帰りますね、便秘は体に悪いので長居は難しいですから」

『ですねぇ、次はもう少しお気をつけて』
「はい、では」

『はい、では』

 その日に食事当番だった者が、1日中トイレに籠もり、出て来なかった為。
 食事当番はズレる事になったが、次の日は2日連続で、食事当番になれば良いだけ。

 なので、誰も何も言わない。
 そう、誰も。



「お邪魔します、今回は完璧に準備して来ました」
『そうですか、それは結構な事で。では、どうぞ、ごゆっくり』

 以前に下剤入りの干し肉を持ち込んだ男は、再び貪食の村を訪れ。
 手土産にと、干し肉をとある村人に手渡そうとした。

「お世話になります、どうぞ手土産です」
《い、要らないわ、結構よ》

「そうですか。今日はお食事当番なんですね」
《はい》

「様子を伺わせて頂きますね」

《料理に手を出さないなら、勝手にどうぞ》

 女は他の当番と共に、食事の支度をした。
 村人全員の食事を。

 それはかなりの量だった。
 勢い良く平らげられている最中でも、当番の者は一心不乱に料理をし、大皿に盛りテーブルへと差し出す。

 それを何度も何度も、何度も、作っては出しを繰り返した筈が。
 食事当番が食べられる量は、僅か。

 食事の時間が明確に決められており、村人の残りしか、当番の者は食事をしてはならないからだ。

「あんなに作ったのに、コレしか残らないんですね」

《はい》
「いつも、こうなんですか?」

《はい》

 なので、料理は1日中行われる。
 朝は前日の残りだが、それらが残る事は無い為、朝から夜まで料理は作られ続けるが。

 どんなに作ろうとも、翌日に残る事は無い。

「あぁ、おはようございます、今日も当番ですか?」

《はい》
「そうですか、頑張って下さい」

《はい》

 貪食の村の食事は質素だ。
 けれども肉が有る、魚が有る、キノコが有る。

 物々交換で仕入れた根菜類、それと自家製の小麦粉から作るパスタやパン。

 基本はスープ、パン、それと焼いた肉か魚。
 若しくは茹でたパスタを後入れする、煮込みか。

 ほぼ同じ味付け、ほぼ同じ食事内容が、毎日続く。

 けれども村人達は、勢い良く平らげてゆく。
 そして僅かに残し、再び仕事に戻る。

「狩猟が主な村なのに、どうして干し肉が無いのか分からなかったんですけど、全て食べちゃうからなんですね」
『そうですねぇ、誰も節制はしませんから、今年はかなり大変でしょうねぇ』

「ですよね、また来ますね」
『はい、お待ちしております』



 男が来たのは、まだ春が訪れるには随分と先の時期だった。
 けれど、村人の数は僅かになっていた。

「あぁ、すっかり淋しく成りましたね」
『ですねぇ』

 例え幾ら保存食を作ろうとも、誰かが食べてしまうのが、貪食の村の特徴。
 だからこそ、干し肉も無く、パスタすらももう無い。

 けれど売れる皮も無く、村人は飢える他に無く。
 ただ、飢え死を待つだけ。

 そう、いつも、こうなってしまう。

「保存食は越冬の為に残すモノ、ある程度、計算して食べないと後が困る。そう教えてから、ココに送っているんですけどね」
『まぁ、子の分まで食べてしまう、限りなく獣に近い者達ばかりですから。仕方が無いかと』

「まぁ、ですよね」
『ですねぇ』

 そうして幾度もの全滅を繰り返した貪食の村でしたが、やっと、力の有る者が現れました。



《先ずは保存食作りが最優先だ、1日の食事の配分はコレ、文句が有る奴は前に出て来い》

 大柄の巨人属の様な大男の前に、誰も出ては来なかったが。
 食料を前にすると、飢えた獣以下になる者は、どうしても欲には抗えなかった。

「いや、だって、量が少ないから」
《ほう、それだけ脂身を蓄えていると言うのに、まさに獣以下だな》

 大男の前に誰も成す術も無く、盗み食いをした男は吹き飛び、以降は補填出来るまで休む事は許されず。
 誰も、手助けはしませんでした。

 ですが、こう厳しい状況を目の前にしながらも、また大量の盗み食いが発生しました。

『ごめんなさい、つい、味見をしていたら』
《獣も言葉が話せたなら、同じ事を言うだろうな》

 狩りをしない者は、舌を切られ。
 補填が終わるまで、休む事は許されませんでした。

 そして、その成果も有り備蓄は十分、今年は冬を越せそうだったのですが。
 我慢を強いられている、と感じた村人達は、大男を殺そうと計画しました。

「吊るし上げられた」
《アレが居なきゃ、もっと余裕が出る筈だ》
『アイツは隠れて食べているんだ』

《私達を虐げている》
「殺すしか無い」
『殺すしか無い』

 大男は殺されました。

 あぁ、可哀想な大男。
 可哀想な貪食の村人達の為に、知恵を貸し、指導したと言うのに。

 刺され、殴られ蹴られ、切られて亡くなり。

 村人は自由に食料を食べ。
 今年も冬は越せませんでした。



「そろそろ溜まった頃合いですし、暫く転生させてみましょうか」
『そうですねぇ』

 今度は生まれ変わった者だけを集めた、新しい貪食の村が出来ました。
 そして、そこは意外にも上手くいきました。

 なので、古い村と合流させる事にしました。

 ですが、やはり前途多難。
 幾人かは死にましたが、殆どが生き残りました。

 そして以降は外に狩りに行ける者も現れましたが。
 今度は、逃げ出そうとする者が現れました。

《もう勘弁してくれ、何度も何度も》
『何度も何度も、言われた筈ですよ』
「コレは娘の為のケーキ、コレは息子の為の唐揚げ、絶対に手を出さないで」

《本当に申し訳無い事をした、悪かったと思ってる、だから》
『また、次はどんな条件が揃えば、食い尽くしが発動するのか分かりませんから無理ですよ』

《もうしない!もう、どうなろうと絶対に》
『まぁ、良いでしょう、どうせ直ぐに戻って来る事になるんですから』
「でしょうね」

 今度こそ、今度こそは、と男は心に固く誓った。
 けれど、本能には抗えなかった。

 娘が生まれ、3つの祝い料理を、男は食べ尽くしてしまった。

「ほら、やっぱり」
《ち、違うんだ》
『まぁ、死んでも治らない事が有りますからねぇ。さぁ、戻りましょう』

《嫌だ、頼む、お願いだ》

「無理、さようなら」

 すっかり冷めた顔の妻は、娘を男に渡すと背を向けた。
 そして男は、娘と共に村に帰る他に無かった。

 今度は娘が居る。
 次こそは、次こそは、と。

 けれど、自分だけではどうにもならなかった。
 幾ら我慢しようとも、他の者が、全てを食い尽くしてしまう。

《頼む!少しは娘の為に》
「大丈夫だって、まだ小さいんだし」
『食ってはいるんだろ、なら気にし過ぎ、考え過ぎだろ』

 男は絶句しました。

『そんなに言うなら、もっと狩ってくれば良いじゃないか』
《そうそう、アンタが頑張れば良いだけなのに、俺達に負担を強いるなよ》
「食わせたいなら、早く食べさせれば良いだろ」

 全て、自分が言ってきた事です。

《頼む、協力してくれ。今は良くても、このままじゃ、確実に冬は越せなくなるんだぞ》

「じゃあ、アンタが我慢すれば良いじゃないか」
《アンタが努力すれば良いじゃないか》
『アンタが、もっと狩って、もっと作ってやれば良いだろ』

 本当にマトモになった村人は、全て外に狩りに行き、戻っては来なくなった貪食の村は。
 今年も、中に残った村人は、生き残る事は出来ませんでした。

 ですが、相変わらず春先の村は大賑わいです。
 今年も、大勢の新人、転生者がいつまでも送り込まれるのですから。
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