エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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213 3日目。

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 今日で3日目なんですが、ヒナちゃんは相変わらずで。

『うん、まだ少し熱は有るけれど、かなり落ち着いてきたね』
『いえ未だです、シイラが居ないと落ち着いて眠れません』

 コレが同族意識、なんですかね。

《だそうだ、もう暫く頼んだ》
『僕は構わないよ』
「あ、はい」

『今日はシイラに兎の着ぐるみを着て貰います』
《氷嚢カバーにしてるソレだ》

「え、コレを」
《大丈夫だ、ソレはヒナ用。しかも伸縮性が凄いから、大きさは問題無い》
『ヴェールを付けたままで構いません、白と黒のを着て貰います』

「まぁ、それで良いなら」
『レンズ、見ないでくれるよね』

 あぁ、伸縮性が有るから、体にピッタリフィットしてしまうと。

《はいはい》

 そして、レンズさんが退室後、白黒の兎の着ぐるみを着たんですが。

「兎って、鳴き声、有りますかね」
『ピーピープープーと鳴る場合が有ります』

「鳴る、成程」

『準備はどうですか』
「あ、はい、お邪魔します」

 真っ白い美幼女が真っ白いネグリジェを着て、灰色の兎の着ぐるみで覆われた氷嚢カバーを抱きつつ、ベッドで寝てる。
 何だか、ファンシーの一部になった気がする。

『ふかふか、スベスベは好きですか』
「あ、はい、好きになりました」

 まっさらなシーツ一択、だったんですが。
 良いかも知れない、スベスベの寝具。



《まだ、至る事は難しい様ですね》

 俺の直近の悩みは、虐めについて。
 シイラに説明するには先ず、する側の理屈や感情を俺が理解する必要が有るだろう、と。

 だが向こうでも、そうだったんだが。
 やっぱり、俺には良く分からない。

《シトリー、正直、困ってる》
《ですが、理屈だけなら、お分かりにはなっていらっしゃるかと》

《支配されているからこそ、不満や不安を支配欲で満たそうとする、誤魔化そうとする。家で認められないから認められたい、家の中の事が思い通りにならないから権力を行使し、不能感を掻き消したい。それらが無意識に無自覚に暴走する、或いは意識的に行い、自傷行為に使う場合も有る。それは分かるんだが》

《無意識に無自覚に、弱さを自覚している、だからこそ力で捻じ伏せたい》

《弱さを認めたら崩れてしまうかも知れない、虚勢、自己防衛》
《或いは、公正世界仮説。不幸な目に遭っているのなら、その被害者に何か落ち度が有るのかも知れない、火のない所に煙は立たぬ》

《だからって》
《反応は反応、何も被害者だけ、の反応を求めているワケでは無いかと。周囲の反応も含め、自己が起こした行動に対し、反応が顕著に現れる。某所に集まり集団を形成する、それと勘助や痴漢、時には正論だと思い込んだ暴言を吐く者と同じかと》

《虐めに、時には同類が反応する。そうして仲間意識が生まれ、孤独から逃れる事が出来る》
《単なる錯覚ですが、紛らわすには十分かと》

《でも、けど、なんだよなぁ》
《全てお分かりになる必要は無いかと、既に彼女は成人済み、しかもお相手もいらっしゃる》

《あぁ、だよな》

《ふふふ、正直、そう考えると言う行為で気を紛らわせたいだけでは。確認したいのでしょう、事実について、彼女の真実について》

《正直、確認したい、何が有ったか特に》
《けれど、ご自身への負担も加味し、敢えて周囲から糸口を探そうとしていらっしゃる》

《あぁ、多分、そうだと思う。流石、良く分かるんだな》
《いえいえ、艱難辛苦は私では無く、寧ろサレオスの分野ですから》

 アイツ。

《本当に、何がしたいんだか。いや、分かるんだけど、分からん》
《まぁ、悪魔、ですから》

《で、天使》
《ですね》

 シイラは天使や悪魔と、良く一緒に居られるな。
 流石に、俺には無理だ。

 何でも知られるのは、何か、無理だ。

 けど、俺は勝手に知ろうとしてるんだよな。
 本人が恥じてる過去を、何が有ったかを。

『全く、意地が悪いねアンタ達は』
《どうも、オリアス、お元気そうで何よりです》

『そう老人扱いするんじゃないよ、同じ年だろうに』
《ふふふ、失礼致しました》

《シトリーでも笑う時が有るんだな》
《まぁ、天使でもありますから》
『はいはい、さっさと本題に入るよ、コレがあの子の本だ』

 シイラの、実際の書。

《ほら、まだ早いんですよ》
『だろうね、アレは痛みで傷だ。けどね、アンタのじゃない、あの子の傷だ』

《ですが、受けた痛み、受けた傷は彼のモノ》
『問題は分離すべきだ、分かってるだろうに、あの子の罪悪感はあの子のモノだ』

《励ましつつ殴るのが本当に上手いな》
『あぁ、伊達に年は取って無いからね』
《ですね、では、失礼致します》

 正直、読む事に不安と抵抗感が有るのは確かだ。
 シイラの過去を勝手に覗く事は勿論、俺の罪悪感も刺激されるだろう、その事に不安が有る。

 あの件で、俺がどうにか潰れないでいられたのは、ヒナが居たから。

 けれど、シイラには手足が有る、逃げる手段は幾らでも有る。
 もし、シイラから拒絶されたなら、俺の中の罪悪感を消化する手段が遠退く。

《はぁ》

 こう考えるから、俺は主人公じゃないんだよな。
 ネネもシイラも、それこそヒナだって、主人公らしく他人の為と言いながらも直ぐに動く。

 けど所詮、俺は単なるモブ。
 本当だったら、首輪付きの中の1人だったかも知れないのに。

 偶々、選ばれただけ。
 きっと、似た様なのが居たら、ヒナは俺じゃなくても。

 あぁ、コレがプレッシャーか。
 薄い本なのに、クソ重い。

 すまん。
 自分の罪悪感、シイラの罪悪感について、もう少しだけ考えさせてくれ。



「おぉ、ぽい」

 シイラは汚すかも知れないからと、兎の着ぐるみを脱いで元の服に戻りました。
 コレからお昼ご飯です。

《豆腐と納豆の温泉卵丼、ヒナのはお粥だ》

『具が少ないです』
《ちゃんとしたのはまた今度な、お腹壊したら困るだろ》

『はい、頂きます』
「頂きます」
《おう》

 噛んでると、直ぐに無くなります。

『美味しいですが物足りないです』
《だろうな、普通に炊いた米で食った方が美味い》
「ですね、美味しいです」

《刻み海苔も有るぞ》
「はい失格、そこは男らしく海苔を揉んで散らして下さい」

《はー、そこまでか》
「はい、そこまでです」

『何の事ですか』
「親父料理をレンズさんに習得して頂いている最中なんです」
《シイラの中の親父料理、な》

「はい、独断と偏見で親父料理を作って貰っています」
《昨日は焼きそばだった》

『レンズのナポリタンはどうですか』

「未だ、ですが」
《多分、お母さん料理だな》

『お料理に性差が有りますか』
「完全に個人の独断と偏見です、お母さんの料理は凄い不味くて冷凍食品やインスタントばかり、お父さんの料理は知りませんから」
《殆ど家に居なかったらしい》

『私と同じです、あんまりお母さんの味を知らない仲間、お父さんが殆ど居ない仲間です』
「ですね、なのでもしかしたら、ヒナちゃんのお母さんも料理が凄い下手だったのかも知れない」

『はい、かもです、うどんやおにぎりばかりでした』
「分かります、ウチもでした」

『コレが、シイラの理想のお父さん料理』
「はい、コレからも作って貰おうかと」

 私の知らない、未知の料理。

『はい、お願いします』
《おう》

 お姉さん料理、弟料理。
 アンバーのお料理、ネネさんのお料理。

 確かに、少し違うかも知れません。

 お父さんのお料理。
 私の、理想のお父さん料理。



「あ、おそようございます」

 本当に、オヤツの時間に目が覚めるなんて凄い。
 流石腹時計。

『おそようございます。眠る前に、私も考えてみました、お父さん料理』

「ほう、あ、お水をどうぞ」
『はい。おにぎりが食べてみたいです、レンズの手は大きいので、本気を出せば凄いのが出来ると思います』

「成程、ですが私の中では、お兄ちゃん料理ですね。お父さん料理は、そこに本気は出さない、出すならカレーやチャーハンです」

 ゴクゴク飲んでる。
 こう言う時こそ、ジュースとか飲んで欲しいんですが、本当に飲み慣れた水の方が良いらしく。

『何故ですか』
「手軽にも凝る事も出来るから、みたいです」

『定番ですか』
「らしいです、なので唐揚げの順位は下の方です、揚げ物だし後始末が大変なので」

『他には何が有りますか』
「ラーメン、お好み焼き」

『まだレンズに作って貰った事が有りません』
「ココだとラーメンは難しいので、麺類、ですかね」

『それだと、お父さん料理のパスタは何になりますか』
「タラコパスタ、だそうです、凝るのも簡単に作るのも両方出来ますから」

『次はタラコパスタをお願いしてみますが、ミートソースはお兄ちゃん料理ですか』
「あー確かに入るかも、それと流し素麺、ですかね」

『まだ共通点が分かりません』
「私もです、何となく雰囲気で。いや、もしからしたら、好んで食べる層かも知れません」

『サンドイッチはどうなりますか』
「妹料理ですね、そしてハンバーグは弟料理、お赤飯はお祖母ちゃん料理」

『最後は分かります、お祖母ちゃんがお赤飯を作ってくれました、お餅みたいでした』
「じゃあ、お祖父ちゃん料理」

『焼き鳥』
「あー良いですねぇ、でも私としては、手作りの蕎麦かうどん」

『お年寄りが良く食べますか』
「それもですが、蕎麦打ちが趣味、そうした層が有ったらしいです」

『其々の定番が有りますか』
「かも、ですからね、実際はネネさんやレンズさんに確かめてみて下さい」

『はい、そうします』

 それからはまた寝て。
 起きて、寝て、また起きて。

「良さそう、ですね」
『お菓子は誰料理ですか』

「お姉さん料理か、妹料理ですね」
『他のお姉さん料理は何ですか』

「んー、ラザニア」

『叔母さん料理は有りますか』
「あー、んー、おこわ」

ちまきみたいなヤツですか』
「ですね」

『叔父さん料理は……、何ですか』

「んー、最も難しいかも知れないです。多分、あ、角煮」
『手間が掛かりますか』

「ですね、祖父母や親戚は、逆に手間を掛けるイメージですね」
『分かります、お祖母ちゃんは凄いお料理を作ってくれました』

「羨ましいです、私は誰も居なかったし、何も無かったから」

『亡くなっていましたか』
「分からないんです、生きてるか死んでるかも、何も分からない」

『どうしてだと思いますか』

「多分、絶縁される様な何かをしたのかも知れない、ですかね」

『それは私より可哀想です』
「ですねぇ」

『元気になったら一緒に夏休みをしましょう、キャンプをして、スイカ割りをします』
「はい、しましょう」
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