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237 2 天然とマリアと香水屋。
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『お待たせ、はい、どうぞ』
「はい、では、失礼して」
香水の事は良く知りませんが。
軽くて柔らかい。
コレも。
けど少し華やかと言うか、お花みたい。
『どうかな』
「香水ってもっと強くて甘いのかと思ってました、軽くて柔らかくて、コレなら使えそうな気がします」
『やっぱり、コレは薄めただけなんだ。けれど付けると体臭と混ざって、もっと個性が出る』
「あぁ、そうなんですね。でも、体臭、ですか」
『難しいよね、出身地によって薄かったり濃かったりするし、好きな匂いと合う匂いは違うから』
「その、好きな香りを嗅ぎたい場合は、どうすれば?」
『体臭によるけれど、やっぱり相手に付けて貰う事だね』
「ウチのに合いますかね」
『勿論、お買い上げありがとうございます』
「凄い、完璧じゃ」
《流石です~、お相手の方の香りに合わせて、なんて凄く素敵だと思います~》
『いや、当初の望みは薄い香りへの反応だよ、コレはあくまでも副産物だから』
《でも~、やっぱり~、調香も出来てちゃんと売る手腕も有るだなんて。本当に、素敵だと思います》
コレが上目遣い。
後でヒナちゃんにやって貰いましょう。
『ありがとう、それで君の仕事の方はどうかな。効率化を極めれば、昇給も有るそうだけど』
《ちゃんとやってるんですけど~、どうしてか》
『では今度、皆さんで見学に行きましょう』
『そうだね、不当な扱いなら、そのまま僕らが直訴すれば良いのだし』
「はい、ですね」
《いやそこまで巻き込むワケには、いかないって言うか。まだそこまで慣れてるワケじゃないし、もしかしたら、私が何か見逃してるかもなんで大丈夫ですから》
『そう、残念だけれど邪魔をしても悪いしね』
「ですね」
『では慣れた頃にまた教えて下さい、皆で職場見学に行きますよので』
「あぁ、学校で、ですかね?」
『はい』
『楽しみだね』
『はい、知り合いが居る職場見学は楽しみです』
《あ、じゃあシイラさんのは。あ、ごめんなさ~い、確か働いて無いんでしたよね~》
『本来、女性は妊娠し出産するからね、したい事を続けられない事に関してはとても同情するよ。君も働き続けたいんだよね』
《えっ、まぁ~、ですけど》
『けれど大丈夫、無理に辞める事は無いよ。労働組合に正式に認められたら、申請期間中の復職は認められているから』
「じゃあ安心ですね、王宮では何をなさってるんですか?」
《今は、まだ、清掃だけだけど》
「となると将来は何でも出来るメイド、ですかね?」
《まぁ、理想は、ね。けど》
「香水屋さんだと、どうですかね?」
『僕なら辞めさせないよ、折角の生き甲斐を取り上げるなんて、とても出来無いからね』
《でも~、妊娠とか出産って》
「切迫早産の危険性やお腹の張りが無ければ、寧ろ動いた方が良いそうですし、寧ろ安産に最適ですね」
《ま、まぁ~。けどやっぱり、お腹の子の事を考えると、ゆっくり過ごすのも良いかな~。なんて、考えたりもしますよね~》
『働く事が好きなら、寧ろ余計に辞めない方が良いそうだよ』
「鬱になっちゃう方も居るそうですしね」
《あ~、ね~》
焼き菓子。
美味しい。
「どれが1番気に入りましたか?」
『やっぱりフィナンシェです』
《分かる~、凄く美味しいよね》
『あぁ、そうなんだね、僕は凄く苦手なんだ』
《えっ、あぁ~、何が好きなんですか?》
『やっぱりハギスだね、作り方を知ってるかい』
『はい、羊の胃袋に内臓を詰めて煮込みます』
「やっぱり食の好みが合う方が良い、ですかね?」
『そうだね、羊の脳を一緒に食べれると特に最高だね』
「ですよね」
《あの~、こんなに長居しちゃって、本当に大丈夫ですか~?》
『はい』
「私も、大丈夫ですが」
「ちょっと良いかしら」
『はい。すまないね、少し失礼するよ』
『はい』
悪意から守られるべきだ、と。
今の私は悪意を感じ取る事は出来ませんが、マリアは凄く態度が悪いです。
《はぁ~、子供には分からないのは仕方無いけど、独身同士を2人きりにするのがマナーじゃない?》
「あぁ、では戻ってらしたら帰りましょうか」
良く分かりませんが、幾ら作戦だとしても、マリアに従うのは何だか気に入りません。
ですが、撤収の合図をマリアが出してしまったので、合意するしかありません。
『分かりました』
とても不満ですが。
顔は膨らませられません。
『すまないね、何度も』
「いえ、お忙しい所を失礼しました」
『お昼寝に帰ります』
『そう、残念だけれど助かるよ、あの方にココを使わせる事になってね』
「あ、そうなんですね」
『コチラはこのままで、お見送り致しますね』
「あ、はい」
憎々しげです。
学校ではココまで悪意を表に出す子は必ず叱られますが、躾けられてこなかったのでしょうか。
『お待たせ致しました』
「構わないわ、ふふふ、良い焼き菓子ね」
『直ぐに新しい』
「コレで構わないわ、それにお茶も、ウバよね」
『はい、では直ぐに淹れて参ります』
本当に、面白い逸材と関わっているのね。
けれど、進んで関わっているワケでは無い。
「どなたの指示、かしらね」
『お待たせ致しました、どうぞ。サレオス様にお任せ頂きました』
「けれど、アナタには少し荷が重い。だからこそ、あの女性とお子さんが手伝いに来て下さった」
『はい、お恥ずかしい限りで』
「ふふふ、アレには技術が要るもの。そうね、確かに貴族にぴったりな女性、ね」
なんて素晴らしい、悪しき見本。
アレを眠らせておくなんて、本当に勿体無いわ。
『もう既に、どう活かすか案が出てらっしゃるのですね』
「勿論よ、何も唯一無二では無いのだし。だからこそコレは、再演、久し振りに古い舞台も上演出来るわ」
あの子が主役の、あの子の物語。
注目を集め、一身に人々の心を占領する。
その物語に、あの子以上の主演は居ない。
『では、以降は』
「暫くしたら舞台に立って貰うわ、それまで頑張りなさい」
『はい、ありがとうございます』
「ふふふ、安心した顔をして。さ、先程の出していた香りを私にもお願いするわ。来訪者様が好む香りを知れる、とても貴重な機会なのですから」
『はい、ただいま』
アレと別れた瞬間、ふくれっ面か。
《ご不満かヒナ》
『はい、退出を促され、言う事を聞き入れなければいけない事が不愉快でした』
「素晴らしい言語化能力」
『シイラは気にしていませんでしたが、私は気に入りません』
《おぉ、プチ怒りだな》
『プチかは分かりませんが、シイラに与えようとした不快感を味わって欲しいです』
『大丈夫だよ、彼女はいずれ自業自得となるのだから。お疲れ様、シイラ』
《本当にな、俺よりスルースキルが高い》
「アレだけですよ、あの系統だけ、慣れているだけですから」
《軽めの雑音かよ》
「電車の音、位ですかね」
《油断すると寝るか》
「まぁ、近いかと、油断すると完全に無視しちゃうので。少し気を付けてました」
《お前は対ぶりっ子戦に於ける最強種だ》
「パワーワード満載」
《ぶりっ子の天敵は天然、長年の議論に終止符が打たれた》
「どうしようも無い議論が実を結んで、何になりますか」
《いや重要だろう、アレの対処は難しい。逆に言えば、逆鱗に触れるなんて簡単だろ》
「いやー、どうでしょう。文字情報なら、後からなら可能だとは思いますが」
《ちょっとイメトレするか》
『ダメです、シイラには楽しいを味あわせます』
『そうだね、シミュレーションは追々で。さ、戻ろうか』
《もう帰ったのか、あの客》
『そうだね』
悪魔、便利が過ぎるが。
一体、どうやって察知を。
と言うか。
《なぁ、あの客は》
『君にすれば稀有な存在だろうね、あの会話に不快感を示さなかったのは、シイラと彼女だけ』
『香水屋さんにも楽しいを提供します』
『そうだね、そうしよう』
再びレンズ達が戻って来たのは、丁度、新しくお湯が沸き。
テーブルセットを整えた直後。
きっと、僕の後見人か誰かが、悪魔サレオスに知らせてくれたのだろう。
『お帰り』
《おう、お疲れ》
『香水屋さんは何が面白いですか』
『んー、少し考えてみるよ。さ、どうぞ』
僕は如何に、ココで平和に平穏に生きてきたか、良く分かった。
そして、アレだけ不愉快さを感じたのは、寧ろ初めてだったかも知れない。
《はぁ》
「お疲れ様でした」
『笑わせたいです、何で笑いますか、最近の趣味です』
『あぁ、成程。けれど、今は少し難しいかな』
『何故ですか』
『まぁ、最近だと、レンズで笑った程度だからね』
《アレか》
『何ですか』
『見世物小屋の夜市で、瓶を立てる遊びが有るんだけれど』
《コイツ、1発で成功させやがった》
『本当に、見た事も無い顔をしたから、ついね』
『やってみせて下さい』
《無理だ、アレは俺を唖然とさせられたご褒美だ》
「あ、抗議のふくれっ面」
『物凄い数を失敗して、だからね、ふふふ』
『つまり私が成功すれば、唖然としますか』
《どうだかなぁ》
『何で意地悪しますか』
《アレは意識して出せない、勝手に出た》
『何とかして下さい』
《イヤだ、他に無いのか》
『そうだね、良くも悪くも、本当に穏やかだったから。如何に僕が平和に過ごせていたか、本当に痛感させられたよ』
「あ、くすぐりは?」
『せいっ』
『残念、僕には効かないよ』
『じゃあシイラにします』
「お待ちを、アレは、特別な日限定です」
《だな、アレは皆で笑う日だった、そう言う日限定だ》
『あぁ、あの後の事だね』
『私は良く知りませんが、悲しい涙や楽しい涙が混ざってました』
『そう、大変だったんだね』
《本当に、殆ど全員、笑い死にしかけた》
『にらめっこをしました、変な顔をして笑わせます、私が優勝しました』
《2位がシイラだ》
「笑う場所が、ちょっとズレてまして」
『あぁ、僕もだよ、喜劇を見ても全く笑えないから』
《あー、アレは出身地にもよるだろ》
『らしいね、だからなのか、僕もそうあまり笑った事が無いんだ』
『私と同じです』
『笑う事は、経験が少ないと難しい事だから』
『はい、ですが悔しいです』
『ありがとう、僕ももう少し経験を積ませて貰うよ』
『はい、待ってて下さい、いつか笑わせます』
『ありがとう』
僕にも気を使える子。
だからこそ、あの発言の連続が許せなかった。
それに正直、僕も許せない。
『シイラは、もうご機嫌です』
「あぁ、本当に平気だったので。あ、アレ、お願いしたかったんですよ。少し良いですか」
内緒話。
珍しい、いや寧ろ、初めてかも知れない。
『はい、分かりました、ですが私で効果が有るでしょうか』
「少なくとも私とネネさんには、効果絶大です」
『分かりました』
「では、どうぞ」
例の彼女がしていた仕草。
《上目遣いか、成程な》
『どうですか』
『する者によって、全く違うね』
《だな、確かにネネには効果覿面だな》
「男性陣の評価が低い」
《ヒナだといきなり絵画レベルになる》
『そうだね、実に絵になる姿だったけれど。この仕草にな、どんな狙いや、意味が有るんだろうか』
《ふふっ、そこからか》
『せいっ』
《俺にも効かん》
「あ、アレは強請る仕草や、可愛さを強調する仕草ですね」
『あぁ、成程』
こうして彼女の様に気配りが出来無いからこそ、彼女を疎ましく感じるんだろうか。
それとも。
『シイラ、どうすればあの騒音に慣れますか』
「あー、慣れない方が良いかと」
《だな》
『そうだね、アレは稀有だろうし、稀有であって欲しいしね』
『対策を、もう少し考えてみます』
《だな》
「あ、そう言えば1つ、質問を良いですか?」
『はい、なんでしょうか』
「ヒナちゃんは五月蝿い場所ではなく、比較的綺麗な場所で過ごしていたのでは、と」
『はい、そうだと思います、どうやって分かりましたか』
「今日、ふと思い付きました。私は静かな場所、誰も怒らない、綺麗な場所に感謝しました。ですがヒナちゃんは、そうした事に言及が無かったかと」
『はい、やはり経験は予測が出来るんですね』
「はい、稚拙ですが、どうやら成功しました」
『香水屋さんはどうでしたか』
『そうだね、雑音や騒音、雑踏に慣れていた筈なのに。今はすっかり苦手だね』
慣れる事が難しい。
そう感じていた事が、とても昔に思える。
《よし、この先は男同士の話し合いだな》
『何故ですか』
《男同士じゃないと話にならない事も有る、ヒナは勉強か、若しくは夏休みの計画の続きだ》
『分かりました』
『おや、素直だね』
『最近レンズは我儘を言います、甘えです、なので大人しく我儘を聞いています』
《おう》
「成程」
『そろそろ僕らも行こうか、折角なのだし買い物に出掛けよう』
《だな、お洒落してんだし行ってこい》
「じゃあ、私も我儘を聞いて差し上げましょう」
『はい、私もシイラも良い子ですから』
「ですね」
素直で、優しい。
それは当たり前で最低限だと思っていたけれど、それはあまりにも日和見が過ぎる。
僕は守られ、平和の中に居る。
気を付けさえすれば、本来は怯える必要は無い。
「はい、では、失礼して」
香水の事は良く知りませんが。
軽くて柔らかい。
コレも。
けど少し華やかと言うか、お花みたい。
『どうかな』
「香水ってもっと強くて甘いのかと思ってました、軽くて柔らかくて、コレなら使えそうな気がします」
『やっぱり、コレは薄めただけなんだ。けれど付けると体臭と混ざって、もっと個性が出る』
「あぁ、そうなんですね。でも、体臭、ですか」
『難しいよね、出身地によって薄かったり濃かったりするし、好きな匂いと合う匂いは違うから』
「その、好きな香りを嗅ぎたい場合は、どうすれば?」
『体臭によるけれど、やっぱり相手に付けて貰う事だね』
「ウチのに合いますかね」
『勿論、お買い上げありがとうございます』
「凄い、完璧じゃ」
《流石です~、お相手の方の香りに合わせて、なんて凄く素敵だと思います~》
『いや、当初の望みは薄い香りへの反応だよ、コレはあくまでも副産物だから』
《でも~、やっぱり~、調香も出来てちゃんと売る手腕も有るだなんて。本当に、素敵だと思います》
コレが上目遣い。
後でヒナちゃんにやって貰いましょう。
『ありがとう、それで君の仕事の方はどうかな。効率化を極めれば、昇給も有るそうだけど』
《ちゃんとやってるんですけど~、どうしてか》
『では今度、皆さんで見学に行きましょう』
『そうだね、不当な扱いなら、そのまま僕らが直訴すれば良いのだし』
「はい、ですね」
《いやそこまで巻き込むワケには、いかないって言うか。まだそこまで慣れてるワケじゃないし、もしかしたら、私が何か見逃してるかもなんで大丈夫ですから》
『そう、残念だけれど邪魔をしても悪いしね』
「ですね」
『では慣れた頃にまた教えて下さい、皆で職場見学に行きますよので』
「あぁ、学校で、ですかね?」
『はい』
『楽しみだね』
『はい、知り合いが居る職場見学は楽しみです』
《あ、じゃあシイラさんのは。あ、ごめんなさ~い、確か働いて無いんでしたよね~》
『本来、女性は妊娠し出産するからね、したい事を続けられない事に関してはとても同情するよ。君も働き続けたいんだよね』
《えっ、まぁ~、ですけど》
『けれど大丈夫、無理に辞める事は無いよ。労働組合に正式に認められたら、申請期間中の復職は認められているから』
「じゃあ安心ですね、王宮では何をなさってるんですか?」
《今は、まだ、清掃だけだけど》
「となると将来は何でも出来るメイド、ですかね?」
《まぁ、理想は、ね。けど》
「香水屋さんだと、どうですかね?」
『僕なら辞めさせないよ、折角の生き甲斐を取り上げるなんて、とても出来無いからね』
《でも~、妊娠とか出産って》
「切迫早産の危険性やお腹の張りが無ければ、寧ろ動いた方が良いそうですし、寧ろ安産に最適ですね」
《ま、まぁ~。けどやっぱり、お腹の子の事を考えると、ゆっくり過ごすのも良いかな~。なんて、考えたりもしますよね~》
『働く事が好きなら、寧ろ余計に辞めない方が良いそうだよ』
「鬱になっちゃう方も居るそうですしね」
《あ~、ね~》
焼き菓子。
美味しい。
「どれが1番気に入りましたか?」
『やっぱりフィナンシェです』
《分かる~、凄く美味しいよね》
『あぁ、そうなんだね、僕は凄く苦手なんだ』
《えっ、あぁ~、何が好きなんですか?》
『やっぱりハギスだね、作り方を知ってるかい』
『はい、羊の胃袋に内臓を詰めて煮込みます』
「やっぱり食の好みが合う方が良い、ですかね?」
『そうだね、羊の脳を一緒に食べれると特に最高だね』
「ですよね」
《あの~、こんなに長居しちゃって、本当に大丈夫ですか~?》
『はい』
「私も、大丈夫ですが」
「ちょっと良いかしら」
『はい。すまないね、少し失礼するよ』
『はい』
悪意から守られるべきだ、と。
今の私は悪意を感じ取る事は出来ませんが、マリアは凄く態度が悪いです。
《はぁ~、子供には分からないのは仕方無いけど、独身同士を2人きりにするのがマナーじゃない?》
「あぁ、では戻ってらしたら帰りましょうか」
良く分かりませんが、幾ら作戦だとしても、マリアに従うのは何だか気に入りません。
ですが、撤収の合図をマリアが出してしまったので、合意するしかありません。
『分かりました』
とても不満ですが。
顔は膨らませられません。
『すまないね、何度も』
「いえ、お忙しい所を失礼しました」
『お昼寝に帰ります』
『そう、残念だけれど助かるよ、あの方にココを使わせる事になってね』
「あ、そうなんですね」
『コチラはこのままで、お見送り致しますね』
「あ、はい」
憎々しげです。
学校ではココまで悪意を表に出す子は必ず叱られますが、躾けられてこなかったのでしょうか。
『お待たせ致しました』
「構わないわ、ふふふ、良い焼き菓子ね」
『直ぐに新しい』
「コレで構わないわ、それにお茶も、ウバよね」
『はい、では直ぐに淹れて参ります』
本当に、面白い逸材と関わっているのね。
けれど、進んで関わっているワケでは無い。
「どなたの指示、かしらね」
『お待たせ致しました、どうぞ。サレオス様にお任せ頂きました』
「けれど、アナタには少し荷が重い。だからこそ、あの女性とお子さんが手伝いに来て下さった」
『はい、お恥ずかしい限りで』
「ふふふ、アレには技術が要るもの。そうね、確かに貴族にぴったりな女性、ね」
なんて素晴らしい、悪しき見本。
アレを眠らせておくなんて、本当に勿体無いわ。
『もう既に、どう活かすか案が出てらっしゃるのですね』
「勿論よ、何も唯一無二では無いのだし。だからこそコレは、再演、久し振りに古い舞台も上演出来るわ」
あの子が主役の、あの子の物語。
注目を集め、一身に人々の心を占領する。
その物語に、あの子以上の主演は居ない。
『では、以降は』
「暫くしたら舞台に立って貰うわ、それまで頑張りなさい」
『はい、ありがとうございます』
「ふふふ、安心した顔をして。さ、先程の出していた香りを私にもお願いするわ。来訪者様が好む香りを知れる、とても貴重な機会なのですから」
『はい、ただいま』
アレと別れた瞬間、ふくれっ面か。
《ご不満かヒナ》
『はい、退出を促され、言う事を聞き入れなければいけない事が不愉快でした』
「素晴らしい言語化能力」
『シイラは気にしていませんでしたが、私は気に入りません』
《おぉ、プチ怒りだな》
『プチかは分かりませんが、シイラに与えようとした不快感を味わって欲しいです』
『大丈夫だよ、彼女はいずれ自業自得となるのだから。お疲れ様、シイラ』
《本当にな、俺よりスルースキルが高い》
「アレだけですよ、あの系統だけ、慣れているだけですから」
《軽めの雑音かよ》
「電車の音、位ですかね」
《油断すると寝るか》
「まぁ、近いかと、油断すると完全に無視しちゃうので。少し気を付けてました」
《お前は対ぶりっ子戦に於ける最強種だ》
「パワーワード満載」
《ぶりっ子の天敵は天然、長年の議論に終止符が打たれた》
「どうしようも無い議論が実を結んで、何になりますか」
《いや重要だろう、アレの対処は難しい。逆に言えば、逆鱗に触れるなんて簡単だろ》
「いやー、どうでしょう。文字情報なら、後からなら可能だとは思いますが」
《ちょっとイメトレするか》
『ダメです、シイラには楽しいを味あわせます』
『そうだね、シミュレーションは追々で。さ、戻ろうか』
《もう帰ったのか、あの客》
『そうだね』
悪魔、便利が過ぎるが。
一体、どうやって察知を。
と言うか。
《なぁ、あの客は》
『君にすれば稀有な存在だろうね、あの会話に不快感を示さなかったのは、シイラと彼女だけ』
『香水屋さんにも楽しいを提供します』
『そうだね、そうしよう』
再びレンズ達が戻って来たのは、丁度、新しくお湯が沸き。
テーブルセットを整えた直後。
きっと、僕の後見人か誰かが、悪魔サレオスに知らせてくれたのだろう。
『お帰り』
《おう、お疲れ》
『香水屋さんは何が面白いですか』
『んー、少し考えてみるよ。さ、どうぞ』
僕は如何に、ココで平和に平穏に生きてきたか、良く分かった。
そして、アレだけ不愉快さを感じたのは、寧ろ初めてだったかも知れない。
《はぁ》
「お疲れ様でした」
『笑わせたいです、何で笑いますか、最近の趣味です』
『あぁ、成程。けれど、今は少し難しいかな』
『何故ですか』
『まぁ、最近だと、レンズで笑った程度だからね』
《アレか》
『何ですか』
『見世物小屋の夜市で、瓶を立てる遊びが有るんだけれど』
《コイツ、1発で成功させやがった》
『本当に、見た事も無い顔をしたから、ついね』
『やってみせて下さい』
《無理だ、アレは俺を唖然とさせられたご褒美だ》
「あ、抗議のふくれっ面」
『物凄い数を失敗して、だからね、ふふふ』
『つまり私が成功すれば、唖然としますか』
《どうだかなぁ》
『何で意地悪しますか』
《アレは意識して出せない、勝手に出た》
『何とかして下さい』
《イヤだ、他に無いのか》
『そうだね、良くも悪くも、本当に穏やかだったから。如何に僕が平和に過ごせていたか、本当に痛感させられたよ』
「あ、くすぐりは?」
『せいっ』
『残念、僕には効かないよ』
『じゃあシイラにします』
「お待ちを、アレは、特別な日限定です」
《だな、アレは皆で笑う日だった、そう言う日限定だ》
『あぁ、あの後の事だね』
『私は良く知りませんが、悲しい涙や楽しい涙が混ざってました』
『そう、大変だったんだね』
《本当に、殆ど全員、笑い死にしかけた》
『にらめっこをしました、変な顔をして笑わせます、私が優勝しました』
《2位がシイラだ》
「笑う場所が、ちょっとズレてまして」
『あぁ、僕もだよ、喜劇を見ても全く笑えないから』
《あー、アレは出身地にもよるだろ》
『らしいね、だからなのか、僕もそうあまり笑った事が無いんだ』
『私と同じです』
『笑う事は、経験が少ないと難しい事だから』
『はい、ですが悔しいです』
『ありがとう、僕ももう少し経験を積ませて貰うよ』
『はい、待ってて下さい、いつか笑わせます』
『ありがとう』
僕にも気を使える子。
だからこそ、あの発言の連続が許せなかった。
それに正直、僕も許せない。
『シイラは、もうご機嫌です』
「あぁ、本当に平気だったので。あ、アレ、お願いしたかったんですよ。少し良いですか」
内緒話。
珍しい、いや寧ろ、初めてかも知れない。
『はい、分かりました、ですが私で効果が有るでしょうか』
「少なくとも私とネネさんには、効果絶大です」
『分かりました』
「では、どうぞ」
例の彼女がしていた仕草。
《上目遣いか、成程な》
『どうですか』
『する者によって、全く違うね』
《だな、確かにネネには効果覿面だな》
「男性陣の評価が低い」
《ヒナだといきなり絵画レベルになる》
『そうだね、実に絵になる姿だったけれど。この仕草にな、どんな狙いや、意味が有るんだろうか』
《ふふっ、そこからか》
『せいっ』
《俺にも効かん》
「あ、アレは強請る仕草や、可愛さを強調する仕草ですね」
『あぁ、成程』
こうして彼女の様に気配りが出来無いからこそ、彼女を疎ましく感じるんだろうか。
それとも。
『シイラ、どうすればあの騒音に慣れますか』
「あー、慣れない方が良いかと」
《だな》
『そうだね、アレは稀有だろうし、稀有であって欲しいしね』
『対策を、もう少し考えてみます』
《だな》
「あ、そう言えば1つ、質問を良いですか?」
『はい、なんでしょうか』
「ヒナちゃんは五月蝿い場所ではなく、比較的綺麗な場所で過ごしていたのでは、と」
『はい、そうだと思います、どうやって分かりましたか』
「今日、ふと思い付きました。私は静かな場所、誰も怒らない、綺麗な場所に感謝しました。ですがヒナちゃんは、そうした事に言及が無かったかと」
『はい、やはり経験は予測が出来るんですね』
「はい、稚拙ですが、どうやら成功しました」
『香水屋さんはどうでしたか』
『そうだね、雑音や騒音、雑踏に慣れていた筈なのに。今はすっかり苦手だね』
慣れる事が難しい。
そう感じていた事が、とても昔に思える。
《よし、この先は男同士の話し合いだな》
『何故ですか』
《男同士じゃないと話にならない事も有る、ヒナは勉強か、若しくは夏休みの計画の続きだ》
『分かりました』
『おや、素直だね』
『最近レンズは我儘を言います、甘えです、なので大人しく我儘を聞いています』
《おう》
「成程」
『そろそろ僕らも行こうか、折角なのだし買い物に出掛けよう』
《だな、お洒落してんだし行ってこい》
「じゃあ、私も我儘を聞いて差し上げましょう」
『はい、私もシイラも良い子ですから』
「ですね」
素直で、優しい。
それは当たり前で最低限だと思っていたけれど、それはあまりにも日和見が過ぎる。
僕は守られ、平和の中に居る。
気を付けさえすれば、本来は怯える必要は無い。
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ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
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生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
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その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
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事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
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異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
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自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
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当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
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