エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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239 シイラの功績。

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 王侯貴族専用の、個室のみの飲食店。
 初めて使いましたが、予約が本当にギリギリで、実際も満員御礼でした。

「すみません、いきなりお呼び出しをしてしまって」
「いえいえ、今日は偶々、外出し。レヴィア」
『気配だけだよ、念の為』

「コレ、道理で今日、豪華だと思ったんですよ」
『香水屋に人助けに行っていてね、例の女性だよ』
「あぁ、意外とちゃんと間は空けるんですね」

『と言うより、外出の為に負債を精算していただけだよ』
「どんだけサボって。あ、大丈夫でしたか」
「はい、全く。ですがレンズさんと香水屋さん、それとヒナちゃんが憤っていまして」

『シイラに与えようとした不快感についてね』
「あ、ですが何とか収めて頂きました、お腹いっぱいのオヤツとお昼寝で」
「成程」

 きっと、シイラさんが気にしていない。
 その事が効いた面も大きいと思いますが、本当に、日々成長しているんですね。

『それで』
「あぁ、失礼しました。コチラについて、先ずはご説明致しますね」

「あの、多分、色んな言語で持ち出し禁止と書いているのでは」
「大丈夫です、例外的に、例えば私の様な者は申請すれば一時的に持ち出せる。ですから」

「あの、何故」
『僕らへの配慮だよ、初めて国を出るなら、良い思い出だけにしたい』
「はい、ですが気にしないで下さい、元老院だとか書庫への申請手続きの練習。それと抜け穴探しも兼ねて行った事、ですから」

「ご苦労様で」
「いえいえ。どうしても、この存在をお知らせしたかったんです」

 ユノノート。
 悪魔が居れば無用と言えば無用なんですが、逆に言えば、悪魔や精霊の手を煩わせる必要が無くなるノート。

 向こうで出会った危険人物を記録する、ユノちゃん発端のノート。

「知りませんでした、こうした名簿が有るとは」
「ですよね、コレは本来、限られた王侯貴族のみが閲覧出来ますから」

「えっ」
『君は僕の妻だから大丈夫だよ』
「はい、です。それに、もし書き加えるべき者が居たら、協力して頂こうかと」

「あぁ」
「私は見ていませんが、明らかにコチラでも警戒すべき方が、幾人か要るかと」

「あー、んー。あ、犯罪者は」
『それは僕らの範囲だね』

「んー」
「あの、失礼を承知で言うんですが。その、お母様、とか」

「あぁ、けど器が変われば劇的に変化するかも、ですし。正直、そこまで家族を責めてはいないんですよね。母の事も、実は父が何かして、とか。祖父母が何かしたかも知れないので、はい」

 なんて眩しい。
 私なら、例の虐め加害者を絶対書き込むんですが。

 シイラさん。

 優しい。
 しかも知識と経験に基づいた優しさ、けど多分、まだ受け入れ態勢が整っていない。

「では、もし思い出したり、やっぱりアレはヤバいと思ったらご連絡下さい」
「はい」

「では、失礼します、お食事を楽しんでいって下さい」
「えっ」

「遅ればせながら、結婚祝いです」
『ありがとう』

「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、では」

 加害者意識だけで、ココまで純化出来るんだろうか。

 いや、それなら原罪が有る者全て、こうなる筈。
 けど違う。

 難しいですね。
 安心安全に、シイラさんみたいに育てる方法。



《おう、どうした》

 今日会ったばかりで、しかもこんな時間に。
 本当にどうした。

「どうも、夜分遅くにすみません、ネネさんから結婚祝いにとお食事を頂きまして」
『それと、ユノノートについても』

《あぁ、ヤバい奴名簿か》
「あぁ、やっぱり知ってるんですね」

《だな、俺も要注意人物を幾つか提供したしな》
「私、そこがどうも、自信が無くて」

《あぁ》
『それとお返しについて』
「それは、追々で」

《いや大丈夫だ、けど先ずはユノノートだろ》
『そうだね』

《特に誰も書く気は無いんだな》
「はい、ですが良く考えてみると、あまりにもお人好しな気がして」

《いや、それはそれで正しい判断だと思う。人間関係が希薄で、それこそ家族の事も殆ど知らないなら、優劣の判断は難しい。例え加害者だと思ってても、それは正しいとは思うが》

「が」
《あの母親は流石にヤバい》

「あぁ、けど」
《何かのせいで捻じ曲がったのかも知れないが、元から、アレだったか》

「ですよね」
《だから要注意人物、絶対にヤバいかどうかも、結局はその次代の誰かが見極める事になる。なら、ヒントだヒント、あのノートは包丁で箸だ》

「となると、あの子達も」
《そこはもう、相関図と一緒に危険度を付ければ良いんじゃないか?》

「あぁ、モンスター図鑑」
《そうそう、しかも一生現れないかも知れないし、現れる頃には変わってるかも知れない。けど結局は、もし自分の子供と関わらせるなら、どうしたいかだな》

「あぁ」
《折角だ、俺に解説しながら情報を纏めてみろよ、不安なら助言もする》

「お爺ちゃん」
《おう、ほらお爺ちゃんが見てやるから、宿題をさっさと終えちまえ》

「はい」

 祖父の役割も。
 いや、嫌な記憶と自分を関連させたくないのか。

 本当に面臭い奴だな。



《まぁ、直ぐに完璧にする必要は無いんだし、今日はこの位にするか》
「はい、ありがとうございました。ヒナちゃんは、大丈夫でしたか」

《おう、今はもう寝てる筈だ》
「早い」

《今日は珍しく憤ってたから、運動の後に早めに風呂、それから瞑想させたらしい》
「完璧では」

《まぁ、今回は上手く組み合わさったみたいだ》
「成程」

《それとネネへの贈り物は、アレは何でも喜ぶ》

「凄い自信」
《アレでも友達が少ないから、大概の物ならマジで何でも喜ぶ》

「言い切りますね」
《いやコレはマジだ、それこそ他と被ろうが、それすら喜ぶ派だ》

「何を贈っても文句を言う派」
《お前の母親な》

 分かっているのに、どうしても、自信が持てない。
 けど、悩み続けても仕方無い。

 いつか、決断しないといけない。
 けど、でも。

 でもでも、だって。

 こんな自分が、更に嫌になる。
 肯定なんか、とても出来無い。

「私も、少しは何か功績を残せば、少しは自信が持てるんでしょうか」

 ネネさんのユノノートの様に。
 共有ノートの様に。

《まぁ、出来るだけ価値が崩れ難いなら、そうだろうな》
『価値の崩壊と共に、自信も崩れてしまうからね』

《アレだ、共有ノートみたいなのが良いんじゃないか?アレもネットの申し子が生み出したらしい》

 アレを超えるモノ。



「いやー」

 シイラには、実績が必要。

《頑張れ、応用だ、応用を利かせろ》

 けれど、僕が手出しをするワケにはいかない。

「えー、んー、あ」
《言え》

「いやー」

《言え》

 僕はシイラの愛する相手。
 けれど救い、教え、導く事は出来るだけ控えたい。

 そう愛されたくない。
 必要とされたいのは、僕の能力では無く、僕自身。

「私は、良く知らないんですけど。例の、名前を入れると書き込みの全てが見れるシステム。コッチにも有れば、良いかなーと」
《出来るだろ》
『そうだね、じゃあもう少し詰めてみようか』

《良かったな、功績確定だぞ》
「えっ、いや、こんなんで」
『例のノートも似たようなモノだよ』

「けど、作用機序と言うか」
『そこは詳しくは言えないけれど、悪魔が関わっている』
《よし、なら余裕だな》

「いや、コレ、明らかにレンズさんが」
《俺は要らないし、そもそも書き込み系はお前だろう、俺は慣れて無い》

「お爺ちゃん」
《俺は補助しただけだ、案は誰でも思い浮かべられるが、実現しようとするかどうかだ》

「だとしても」
《正直、関わる興味は無い》
『だろうね、そしてシイラが居たからこそ知れた事』

《そうそう、ガチで根本って言うなら、寧ろお前だシイラ》

「でも、別に私は、困ってませんし」
《良いのか、ココで既に困ってる誰かの役に立つかも知れないんだぞ》

「かも、ですけど」

《あまり関わりたくないなら、俺が知った成果をお前に教える》

「凄い、甘えた結果に」
《知らないのか?持ちつ持たれつ、それと甘えは全然違う》
『そうだね』

「じゃあ、悪用されない様に、抜け漏れを指摘して貰えますか」
《おう、それはヤる気有るんだけどな、掲示板とかネットはどうにも興味が湧かない》
『匿名性を勘違いした者が多かったからね』

《もう、本当にな、何の為に開示請求が有ると思ってんだか》
「あぁ、してましたね、そう言えば」

《決算日だとか言ってな、毎年、件数と掛かった総額。年齢と性別と職業を円グラフで表示して、アレな、妊娠中の妹が始めたんだ》

「すげぇ」
《当時の口調か》

「あ、はい」
《妊娠を期に解雇になって、イライラしてた時期にな、お陰で動画が伸びまくった》

「超、愛されてませんか」

 そうだね、君は確かに愛されていた。
 けれど、そう認める事が苦痛で堪らなかった。

《まぁな、仲は良かった》
「ですよね」
『さ、そろそろ今日は引き上げようか』

「あ、すみません」
《シイラ、俺の前職を言ってみろ》

「夜王。いや、お年寄りに夜更かしなんて」
《まだハゲて無いから問題無い》

「すみません、本当にありがとうございましたお爺ちゃん」
《流れる様な年寄り扱い、覚えてろよ》

「はい、おやすみなさい」
《おう》

 祖父でも無く、父親でも無く、ましてや兄弟でも無く。
 僕を愛して欲しい。

 恋人として、夫婦として。
 僕を必要として欲しい。

「お付き合い頂きありがとうございました」
『構わないよ、君と僕の為だからね』

「後で、ちゃんと要望を言って下さい、考えますので」

 まだまだ、もどかしい距離に居る。
 けれど満たされて、喜びが溢れそうになる。

『ありがとう、考えておくよ』

 もう少し。
 切ない距離では有るけれど、もう少しで、しっかりと手が届く。

《やっぱり解せん》
「ひっ、ビックリした」

《途中まで邪魔してやる》
「意味不明な兄の行動」

《おう、散歩だ散歩、行くぞ》
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