エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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250 ジュリアの家。

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《いらっしゃい》
「いらっしゃい」
『さ、どうぞ』
『お邪魔します』

 今日からジュリアの家で過ごします。
 ロミオが居ないので少し不思議な感覚です。

《じゃ、先ずは家の中を案内するね》
『はい、宜しくお願いします』

 今回シイラはお休みです。
 ジュリアに慣れていないので、元からシイラはお休みの日です。

『あ、ジュリアのお古なのだけれど、大丈夫かしら?』
《あ、そっか、先ずは座ってみて》
『はい』

 座高や足場が調節出来る、子供用の椅子が用意されていました。
 丁度良かったです。

《大丈夫、そうかな?》
『はい、丁度良いです、ありがとうございます』
『そう、良かった』
「そうだね」

 バンシーが嬉しそうな顔を引っ込めました。

 理由は知っています。
 バンシーは生前、何度も理不尽な目に遭ったからです。

《はいはい、じゃ、案内再開で》
『はい』

 ココには使用人が居ません。
 そしてシルキーとバンシーの足音はしないので、とても静かです。

《ココが以前の私の部屋、だったんだけど、普通に大人用のを使う?》

『大人用と言う事は、コレは子供用ですか』
『そうなの、可愛いでしょ、ふふふ』

『可愛いベッドです、大きさも丁度良いと思います』

 薄いピンクの糸で花柄が刺繡されたベッドカバーに、木枠も花柄に彫られています。
 向こうでもココでも、大人と同じ物を使っています。

《けどお古だし》
『使っても良いのでしょうか』

《勿論》
『勿論よ、その為にも綿は新品に入れ替えたし、しっかりお洗濯もしてあるわ』
『ありがとうございます、使わせて頂きます』

『ふふふ、こうなるとジュリアの小さい頃の服も』
《お母さん》

『だって、まだ孫は先でしょ?それに女の子が産まれるとも限らないし』
『着ても良いのでしょうか』
《いや無理に着なくて良いからね?》

『嫌ですか』
《いや全然、嫌じゃないけど、着る物に困ってるワケでも無いのに》

『私が着ても嬉しいですか』
『そうね、きっと似合う筈だから』
《もー》

『良いじゃない、あの1着だけ』
《どれを着せるつもりなの?》

『あの赤地に白の、アレなら殆ど新品同然よ?』
《まぁ、アレなら、良いかもだけど》
『見せて貰えますか』

『勿論よ、待ってて』
《もう、他を案内してるからね》

『はいはい』
「2人で探してきなさい、アレもコレもとなるかも知れないのだから」
《あー、うん、行ってくる》



 精霊は妖精や精霊種を守り、悪魔は悪魔を守る。
 その恩恵は女王にも既に及んでいる。

「どうやら僕だけに、君の感情が分かる様に抑えられているらしいね」

『そうでしたか、ご迷惑をお掛けします』
「良いや、僕で良かったと思う、あの2人ではどちらも君と増幅作用が出てしまうだろうから」

『アナタも悲しそうです』
「何故、どうして、あんな風に仲良く出来無かったんだろう。僕にも、その思いは今でも有るから」

『まだバンシーはアナタを受け入れませんか』

「少しずつ、お礼を言ってくれる様にはなったけれど、まだまだだね」

 男達に翻弄された彼女が、僕と言う男を警戒するのは寧ろ当然の事。

 愛していると言った後、君を幸せにする為だと虐げられ、捨てられ。
 また、愛していると告げられた。

 虐げられれば、より大きな幸せを掴めるだろう。
 そんな妄想に取り込まれてしまった男達に、幸せにする為だからと、酷い扱いを受けていた。

『何故、彼女の祖母は狂った本を収集していたのでしょうか』
「復讐の為、らしい」

 彼女の祖母は結婚から3年経っても妊娠が叶わず、離縁を告げた。
 けれど夫は、僕が守る、大丈夫だからと離縁を受け入れなかった。

 愛されている。
 コレから先も一生守られるのだろうと喜び、感謝すらした。

 けれどもその後、既に産まれていた愛人の子を引き取らされ。
 夫は殆ど家に帰らなくなった。

 預けられたのは、女の子。
 夫は男児を欲しがり、預けた直後から愛人宅に通い詰めた。

 乳母や使用人は居ても、身内が来たなら世話をする姿を見せるのが、その時代の通例だった。

 そして夫の身内は頻繫に通い、孫を可愛がった。
 更には、決して虐げてはならないとも、何度も何度も忠告された。

 夫は、その時も愛人宅。
 誰も彼女を守ってはくれなかった。

 男児が産まれるまでは。

 以降は夫も家に帰り、まるで何事も無かったかの様に妻と接した。
 愛されているのだと勘違いしていた頃と同じ様に、接してくれた、と。

『自伝か何かが有りましたか』
「もう僕が焼いてしまったけれど、有ったそうだよ。悪魔により復元され、次は彼女が燃やしたから、もうココには残ってはいないんだ」

『悲嘆の図書館に有りますか』
「そうだね」



 子供は育った。
 娘は婚約し、息子は良い婚約相手に恵まれた事で、この家を継ぐ事となった。

 やっと、肩の荷が降りた。
 コレで、やっと忘れられる。

《アナタ、どうか息子も水入らずでお過ごし下さい、私は先に別荘地に》
「いや、君にはコレからも支えて貰えると助かるよ、どうも僕は息子に甘いと母に注意されてね。僕の方こそ、先に子離れすべきだと、僕が別荘地に移動するよ」

《ですが》
「大丈夫、君の方がしっかりしていると母さんも言っていたし、皆も同意見なのだから」

 屈託の無い笑顔で、なんて残酷な事を言うのだろうか。
 裏切りと痛みと、まだ、付き合えと。

《ですがやはり、実母では無い以上、厳しくし過ぎてしまうかも知れませんし》
「いや、甘やかすよりずっと良いじゃないか、君は心配し過ぎだよ」

 義母から、決して虐げない様にと。
 何度も何度も注意された、だからこそ私が関わるのは最低限にとお伝えした際は、その通りだと私を監視させていたのに。

 今更。

 いや、また愛人と過ごしたいだけ、なのだろう。
 そうして面倒事は全て、私に押し付ける。

《では、愛人の方と行かれるのですね》
「幾ら愛人と言えど息子の生母だからね、それなりに扱っていると思われる方が、方々の為になるだろう?」

 悪意も害意も無い。
 けれど、酷く自分勝手で、酷く無神経な男。

 母親の言いなりになるだけの、無能な男。

《そうですわね》
「息子に3年以内に子供が出来たら、次は君との人生だよ。大丈夫、愛してるよ」

 愛とは、何だろうか。
 コレが、愛なのだろうか。

《はい、どうも》

 もう、夫からの愛なんてどうでも良かった。
 まだ続く地獄に耐える為、私は逃げ場を探した。

 そして娘の為、息子の為にと本を読み漁り。
 結婚や愛について理解し、学ぼうとした。

 けれど本の中でも、綺麗事ばかり。

 愛すれば愛される。
 努力をすれば報われる、と。

 最も欲した時期に得られなかったと言うのに、その後、一体何が報われると言うのだろうか。
 もう必要としていない夫からの愛が得られたとしても、私は、どう有り難がれと言うのだろうか。

 そんな事を考えていると、ふと小さな冊子を見付けた。
 手刷りでそう厚くも無い、恋愛書。

 そこにも綺麗事が書かれていた。
 けれど同時に、希望が有った。

 もし、私に誰かが手を差し伸べてくれたなら。
 もし大きく状況が変わり、立場が逆転したなら。

 もし、人生をやり直せるなら。

 そこには希望が有り、夢と愛が有った。
 だから私は、その作家に支援した。



「あ、ありがとうございます、こんなに」
《良いの。アナタは本当に、私に夢と希望、そして愛を与えてくれた。本当に、ありがとう》

 私は転生者。
 けれども得意な事は何も無い、何となく働いて生きていた、だけ。

 でも趣味が有った。
 恋愛の話なら、何でも読んでいた。

 だから本を書いた。
 少しでも生活を楽にする為。

 女が男を捨てるなんて、有り得ない。
 そんな世界だったから、売れる筈は無いだろう話は安い印刷所に頼み、売れるだろう話は大手の印刷所に頼んだ。

 けれども売れるだろうと思った話は、他と同様に安く買い取られて終わり。

 貴族の支援や後ろ盾が無ければ売れない。
 そんな世界だったと知ったのは、随分と後だった。

 でもパトロンを得た。
 だから私は嬉しくて、彼女が喜びそうな本を何冊も書いた。

 何冊も何冊も。

 そして後ろ盾のお陰か、小さな印刷所でも多く刷って貰える様になり。
 ちゃんと売れる様にもなった。

 でも売れる事なんて、どうでも良かった。
 書き続けてさえいれば、どんなに模倣品が増えても、一生面倒を見ると言ってくれたから。

 だから私は書き続けた。
 ありとあらゆるパターンを。
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