エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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253 大きな穴。

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《すまん、大変だったろ》
「2人が影響を受けるより、僕だけの方がマシだし、良く分かる部分も有るから心配は要らないよ」

 このシルキーは、ジュリアの血の繋がらない父親。
 バンシーとは書類上は夫婦だが、夫婦として接する事は殆ど無い夫婦。

《辛さより、勝るんだな》

「僕らに時間の制限はほぼ無い、それにいつか、きっと彼女なら分かってくれる筈だから」

《引いたら悲しませるから、だから引けないだけ、じゃないのか》
「それは無いよ、寧ろ葛藤させている事に罪悪感を感じる、最初の頃の方が遥かに苦しかった。だから最初は一緒になんて住めなかった、けれど少しずつでも、受け入れようとし続けてくれているから」

 もう、愛が有るも同義なんだよな。

 けど、どんだけ気が長いんだよ。
 この関係を続けて、100年は軽く超えてるだろ。

 いや、傷が癒えてるべきだ、とは思わないが。
 逆に、どう考えてるのか、全く分からない。

《振り上げた拳を下ろせない、それとはまた違うのか?》

「そうだと、良いんだけれどね」

 ジュリアやヒナ、他人の気配は読めても。
 奥さんのだけは、読めない魔法が掛かってるんだよな。

《もう少し任せた、けどあんまりなら呼んでくれ、ヒナもそう望む筈だ》
「ありがとう」

 子煩悩な母親を見て、ヒナは空虚感を覚えたらしい。
 ジュリアとは違い空っぽで、何も無い、その寂しさとも言い難い何かが広がったそうだ。

 同じ感覚に陥る、だなんて。
 一種の共感覚だろ。

 確かに打たれ強いだろうが。
 辛いは辛いだろうに。

『アレでも父親なんだ、そう心配する事は無いさね』

《っくりしたなオリアス、マジで勘弁してくれよ》
『ひひっ、全くどうにも、人も人種も過保護だねぇ』

《俺は特に優しいからな》
『はいはい、そうだね』

《と言うかだ、ソッチこそ》
『語られる辛さが有るなら、文章にして貰えば良いだろう。アレも本の中で生きているんだ、少しの繋がりでも、模索を止めるんじゃないよ怠け者が』

《おう、頼んだ》
『全く、本当に悪魔使いが荒いね、精々頼まれてやるさ』

 何だかんだ言いつつ受けてはくれるんだな、オリアス。

《ありがとう》



 大きな穴に気付きました。
 前から有ったのか、いつ空いたのかは分かりません

 真っ暗な穴です。

 私には無い。
 そう思い知らせる穴かも知れません。

 何もかも吸い込まれそうな穴です。

 埋める事は難しい。
 けれど大きさは良く分からない、ですが大きいだろう穴です。

 何故、有るのかは何となく分かる気がします。

 有る筈なのに無いからです。
 何も無い、それだけは良く分かる穴だからです。

《じゃ、おやすみ》
『はい、おやすみなさい』

 ロミオは大丈夫だと言っていましたが、配慮をしたかったので、今回はアズールも居ません。
 本当に1人で眠るのは、久し振りです。



「眠れないんだね」
『はい、すみません、もしかすれば怖いのかも知れません』

「いつもはどうしているのかな」
『アズールかレンズが寝かし付けてくれます、以前は灰色兎も居ました、コレより肌触りが良いです』

 強い感情は眠気を妨げる。
 けれど時には逃避の為、眠気を催す事も有る。

 それが人や人種。
 嘗て僕もそうだった種属。

「とても肌触りが良いね、けれど灰色兎はもっと心地良い」
『はい、とても凄いです、帝国の次期女王も眠りに落ちました』

「なら、暖かさが足りないのかも知れないね、少し温かいミルクを飲もうか」
『はい、そうします』

 眠る気は有る。
 それに奥底では眠気を感じてはいる。

 けれども眠れない。
 眠る事が出来無い。

 真っ暗で大きな穴が、眠気を邪魔している。

「はい、クッキーもどうぞ、ウチはいつもコレがセットだからね」

『はい、頂きます』

「僕が焼いたんだよ、どうかな」
『美味しいです』

「それは良かった、食べ終わったら歯磨きをしてあげよう、ジュリアも良くそうしていたんだよ。バンシーには内緒でね」

『内緒にした方が良いですか』
「そうだね、怒られてしまうから」

『歯を磨いても、ですか』
「彼女は眠れない辛さだけは、知らないから」

 彼女は泣き疲れては眠り、起きては涙を繰り返し。
 疲弊し、そのまま死を選んだ。

 そして彼女が死んだ日、僕は憤りと悲しみから全く眠れなかった。
 それから彼女の葬式まで、1日起きては椅子で記憶を失い、また起き続けては椅子で気を失う事を繰り返した。

『眠れませんでしたか』
「大きな感情の揺れ動きにより、眠くなる者と覚醒が促される者が居る、君は僕に似ているね」

 彼女の穴が、更に拡大してしまった。
 けれど、コレは知るべき事実。

 違いを認め受け入れない限り、穴は決して埋まらない。

『ジュリアとシルキーは似ています、血は繋がってはいませんが、親子だから似ています』
「そして君は、似ている所が有るのか分からない」

『はい、血は繋がっている筈ですが、何も似ている所が無い気がします』

 階段を上がる時の癖や話し方、喜び方や食べ方。
 彼女は実の親と自身の類似性を、全く何も思い付かない。

「一緒に過ごしているなら、自然と似る筈だ」
『はい、ですが分かりません』

 全く何も無い。
 その穴は深く、何でも吸い込むけれど、決して埋まらない。

 その穴を塞ぐ唯一の手段は、認め受け入れる事。

 けれど、それには時間が掛かる。
 全てを受け入れるのは、特に。

「先ずは1つだけ、認めてみよう。少なくとも似ている部分が見付からない、それだけ」

『はい、努力してみます』
「簡単だよ、たった1つ認めるだけで、その穴はかなり小さくなる筈だから。歯磨きをしながら、コツを教えてあげるよ」

『はい、宜しくお願いします』



 チョコチップクッキーとミルクを食べ終えたので、シルキーに歯磨きをして貰う事になりました。

「はい、あー」
『あー』

「君はまだ小さい、だから見える範囲は限られているし、見えない部分も有る筈」

『ふぁい』
「僕とお兄さんの似ている部分は何だろうか」

『男です』
「そうだね、はい、開けて」

『あー』
「君とジュリアも実は似ている、知りたがりで血の繋がらない家族と暮らしている」

『ふぁい』
「もう、少しは気付いたんじゃないかな。もしかすると、その穴の大きさは実は錯覚かも知れない、若しくは君が小さいから大きく感じるだけかも知れない」

『ふぁい』
「綺麗な歯だね、ジュリアや僕達とそっくりだよ、それにお兄さんともそっくりだ」

『レンズは虫歯が多かったです、綺麗に治して貰いました』
『そうなんだね、じゃあお兄さんの方から、似てくれたんだね』

『ふぁい』
「それに素直で優しい所も似ているね、僕の事を心配して会いに来てくれたよ。ジュリアも君のお兄さんも、君に似ているし、君はジュリアやお兄さんに似ている」

『ふぁい』
「はい、次はイー」

『イー』
「歯磨きが終わったら、僕ら家族の何処が似ているか、答え合わせをしよう。それから君とお兄さんの、何処が似ているかも」

『ん』
「はい、もう少しだよ、良い子だね」

 ベッドに入る頃には、穴は小さくなっていました。
 それに少し眠い気がします。

『途中で止まってしまうかも知れません』
「構わないよ、穴が小さくなったんだね」

『はい、縁にお花が咲いています』
「そうだね、何色かな」

『ジュリアは黄色です、レンズと混ざったジュリアは、黄色に水色のまだら模様が付いています』
「花の種類はマリーゴールド、お兄さんは青い薔薇」

『はい、レンズの薔薇はグラデーションです、根元が水色や黄色も有ります。シルキーは緑です、優しい色です』
「ありがとう、君もだよ、僕らは似ているね」

『はい、似ています、良い似ているです』



 シルキーに、手紙で報告して貰っていたんだが。

《おう》
『おはようございます』

 ココまで勢い良く抱き着かれたのは、初めてかも知れないな。
 しかも、ココまで力強いのも。

《寂しかったな》
『はい、だと思います』
《意外、全然平気そうだったのに》
『やっぱり家族ね』

 聞いていたよりも、随分と柔らかくなったなバンシーは。
 やっぱり同性の強みか、ジュリアの根の良さか。

 いや、父親が敵にもなる事を理解しての事か。

《ありがとうございました》
『ありがとうございました』
『いえいえ、またいつでも来てね』
《そうそう、またいつでも遊びに来て良いからね》

《おう》
『はい、お世話になりました』

 で、ヒナはシルキーと仲良くなったワケだ。

「楽しかったよ、またいつでもおいで」
『はい』

《じゃ、コレ》
《やったー、ありがとう》

《いや、じゃあまたな》
《うん、またね》
『はい』
『またね』
「またね」

 良く知る母親より、今回は全く知らない父親の影を追ったんだな。
 だからこそ、衝撃が少なかったか。

《バンシーに内緒でクッキーを食っただろ》

『何で知っていますか』
《先ずはどうだったか、洗いざらい話せ》

『はい、白状します』
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