55 / 255
53 日常と誘拐と忘却。
しおりを挟む
『とうとう、事件になってしまった』
「すまない、お客に声を」
『1度や2度なら、それも事件にならなければ、今回も見逃していたでしょう』
「すまない、許してくれ、すまない」
『無理です、少なくともこの子は、もう産めない』
「そんな、まさか」
『はい、居ますが、無理です』
「そんな、待ってくれ、もうしない」
『途中で忘れた事が何度か有る、と知っているんですよ。今は穏やかな気候の時期だから良かったものを、もし子供に何か有ったらと不安でしたが、アナタは事件を起こした』
「違うんだ、そんなつもりは」
『どんなつもりだろうと、事実は事実。子を安心して任せられない相手とはもう居られません、まかり間違って私が殺されるのは嫌です、そしてあの子は施設へ行かせます』
「そんな」
『私はこの子と離れ修道院へ参ります、アナタなんかと結婚するんじゃなかった、子を成すべきでは無かった』
この日の為に、持っていた薬。
まさか、本当に使う日が来るとは思わなかった。
「違うんだ!許してくれ!!」
『さようなら、私は私で謝罪し、子に説明します。さようなら、永劫に、来世でも』
「待ってくれ!違うんだ!!」
こんな日が来ない様に祈りながら、出来るだけ手を回していたつもりでした。
もし近所の方が見掛けた際には、息子が荷台に居ないか確認して頂き。
保育園には、時間までに来なかった場合、直ぐに連絡をして頂ける様にし。
出来るだけ、私が送り迎えを担当しておりました。
ですが、庶民の妻にはする事が多い。
家の修繕、掃除、洗濯。
繕い物に買い出し、料理、近所の方との交流。
皆さんに負担をお掛けしているのですから、当然、その分を補う。
具合の悪く無い時は、保育園での雑用、近所の方の困り事に手を貸していた。
正直、元夫は仕事だけ。
でも、それで良かったんです。
優しくて酒も女も博打もやらず、家に居て私達と一緒に居てくれた。
不器用だけれど良い人、でした。
私が補えば良い、そう一緒に居ましたが。
『アナタは人種、何事にも限界は有ります』
『ですが、申し訳御座いませんでした』
「お母さん、血が出てるよ、大丈夫?」
『大丈夫、ちょっと怪我を』
『この子はアナタに似ています、良い子です』
この件を耳にした時、私はもう育てる自信が無くなった。
この子が1人で生きるだけ、なら構わない。
けれどきっと、いつか誰かと結婚し、子を成す。
その時、あの血が受け継がれていたなら、今度こそ誰かが死ぬかも知れない。
このまま手元に置けば、厳しくし過ぎてしまうだろう。
けれど、誰も殺さない様に育てる自信が無い。
『ありがとうございます、ですが』
《アナタが危惧する事は起きない、もう、心配する必要は無いのですよ》
悪魔と精霊の予言は絶対です。
誰もが欲しがる言霊を。
『あぁ、勿体無いお言葉を』
《ですが、しっかりと躾けをお願い致します、反面教師とし自己嫌悪に至らぬ様に》
「補佐を受けて下さい、それに治療も、アナタに非が有るとは思いません」
『ですが、アレを選んでしまった』
《善を信じ、信頼した、責めるべきは寧ろご両親かと》
「そうです、警告文位はしっかりと出すべきです、それとも有ったのでしょうか」
『いいえ、まさか、子供を忘れるだなんて。何も、有りませんでしたが、私が』
「ではご両親です、アナタは騙された、私も騙された事が有るから良く分かります」
《ご説明なさってみて下さい、意外にも子供は賢く、理解が早い時が有る》
「お母さん」
『最初、お父さんはとても陽気で明るくて、友達も多い楽しい人だった』
「うん」
『だから結婚したの、この人となら大丈夫だろう、って』
「うん」
『でも違った、こんな騒動を起こす人だとは最初は思わなかった、でもお父さんは騒動を起こした』
「うん」
『途中から、いつかこうなるかも知れないと思っていたの、でも私が頑張れば良いと思っていた』
「お母さん、頑張り過ぎたから、具合が悪いの?」
『そうね、だからもう、お父さんとはさよならするの』
「もう一緒に住まないの?」
『そうね、騒動を起こしたから、もう嫌いになってしまったの』
「僕も?」
『いいえ、でも騒動は起こさないで欲しい。間違った事を言ったり、しないで欲しい』
「うん、しない」
『お父さんには良い所も有るけれど、どうしてもダメな所が有った、アナタを危ない目に遭わせた』
「僕、危なかったの?」
『そうよ、お姉さんが居てくれなかったら、もしかしたら死んでいたかも知れない』
「僕、まだ死にたくない」
『そうね、私も、だからさよならするの』
「うん」
『さよならのお手紙を書きましょうね、会えるかどうかは、もうシトリー様達が決める事なの』
「うん」
《賢明なご判断かと、さ、病院へ送りましょう》
『行って下さい、私にはもう何の不満も有りませんから』
「アナタも被害者、どうか任せて下さい、その子の為にも」
『はい、ありがとうございます』
色々な事が少しだけ、分かった気がします。
『来てくれて嬉しいです、ありがとうございました』
「いえいえ、何も出来ませんでしたが、無事で安心しました」
言っても、良いのでしょうか。
『少し、今回の事で話し合いがしたいと思っています』
「どうぞ、遠慮せず仰って下さい」
『それは少し難しいです、本当は楽しい事ばかり話したいです』
「私もです、でもバランス調整が難しい、割合の計算は今でも出来上がっていません」
『どの位、話しても良いのでしょうか』
「分かりません、ただ、少し思い当たる節が有ります」
『それは何でしょうか』
「根本を解決する姿勢が少なく、何度も同じ問題で躓き、半ば愚痴だけの場合。聞く側は非常に疲弊し易い、かと」
『解決への姿勢は問題無い筈ですが、私は同じ問題で悩んでいます』
「ですが、愚痴だけ、では無いかと」
『愚痴とは、弱音かと、少しは有ります』
「では解決しようと努力する姿勢の強弱、ですかね」
『凄く解決したいです』
「ではどうぞ」
『私は私の事を考えていました、私が居なくなったらどうなっていたか、あんな風に心配して貰えたかを考えていました』
「私は、女性に自身を重ねていました。そしてアナタは悪くは無い、と、そう自分にも言い聞かせていたのだと思います」
『ネネさんもあの女性も悪く無いと思います、あんな事を言い出す男です、善人だとは思えません』
「私もです、どんな心積もりであろうと、行いこそ結果です。偶々なら許せましたが、彼は常習犯だった」
『なのに私を責めた、逃げです、擦り付けは悪い事です』
「はい」
『私を1番に心配してくれるのが誰か、分かりません、あんな風に心配してくれる誰かが居たか分かりません』
「それは、何故でしょう」
『なった事が無いのと、良く知らないからです』
「今はどうでしょう」
『ネネさんが来てくれました、それにアズールも怒ってくれました、嬉しいです』
「それにシトリー騎士爵も、少し憤っていたかと」
《勿論です。あぁ、驚かせてすみません、私の名が出るだろうと待機させて頂いておりました》
『容体はどうですか』
《残念ですが、ですが直ぐに回復されますでしょう、まだ妊娠の初期段階でしたから》
「アレは、まさか」
《はい、例え間違いを犯したにせよ、彼女は償った》
『アレとの結婚は間違いでしたか』
《いいえ、アレが、間違えただけです。そしてアナタも、向こうが間違えたのです、勿体無い事をなさった》
『でも良い面も有ります、ネネさんがココに来れた理由かも知れませんから』
《ふふふ、そうですね》
「あの、お見舞いを」
『私もそうします、あの子は良い子です、良い子に育たないといけません』
《では、お手紙を添えて、お送り致しましょうか》
「はい」
『そうします』
僕のお父さんは、悪い事をした。
その悪い事をされたお姉さんが、お手紙とプレゼントをくれた。
【お母さんが大事なら、良い子に育って下さい。
お父さんが今でも好きなら、良い子に育って下さい。
私の為にも、良い子に育って下さい。】
「良い子って、どの位、良い子にすれば良いのかな」
『ふふふ、コレはね、悪い子にならないで欲しいって事よ』
「ならないのに」
『お父さんも、ならないと思っていたし、私もそうなると思って無かったわ』
「どうしたら良い?」
『良い子の見本を沢山知るの、そして出来るだけ同じ事をする』
《出来るだけ、ですよ、無理をしては失敗してしまうかも知れませんから》
「シトリー様、無理ってどんなの?」
《夜に起きてようとしても、起きていられない、そんな感じですね》
「分かった、無理はしません」
《そして出来無い事を素直に認め、出来る事を伸ばす、今のアナタには何が出来るでしょうか》
「嘘は言わない、誰かを困らせたり、傷付けない。です」
《良い子ですね、大丈夫、悪い子の気配は有りません。では特別に、今日は一緒に眠れる許可を出しましょう、ですが今日だけですよ》
「はい」
『ありがとうございます』
「ありがとうございます」
《では、また》
『はい、本当に、ありがとうございました』
「ありがとうございました、さようなら、シトリー様」
それから僕はお父さんにお手紙を書きました。
離れて暮らすのは寂しい事と、もう悪い事はしないでとお願いしました。
それと、今でも僕はお父さんの事が好きだって書きました。
でも、僕はお姉さんも好きなので、頑張って償って下さいって書きました。
お姉さんは良い匂いで、優しくて綺麗だから。
嫌われない様に、良い子でいようと思います。
《刑罰が確定致しました、コチラをどうぞ》
「あぁ、ありがとうございます、ご丁寧にどうも」
《いえ》
シトリー騎士爵が強欲国まで来て下さり、事の顛末を教えて下さった。
父親の刑罰は、故意では無いネグレクトの常習犯である、とする印を首に刻まれる。
と言うものでした。
「あまり身近では無い、刑罰なのですが」
《良く有る対処です、そして控訴も無く、既に済んでおります。本来なら、侮辱罪や名誉棄損もセットになっていましたが、ヒナ様が不問にと仰いましたので。子々孫々への不名誉は、回避されました》
「王侯貴族への侮辱は、国家反逆罪」
《はい、子孫は途絶える》
「貴族である、と示すのは、時に庶民を守る事にも繋がる」
《ですが稀に紛れる事も、治安維持や平和に繋がる》
あの父親は、ヒナちゃんを国家に関わる重要な者だとは思っていなかった。
庶民の学園の制服を着た、単なる子供だ、と。
「まさにご老公様」
《分かります、我々の理想とも言えますから》
「お好きですか」
《はい、勧善懲悪こそ、良き事が正しいと示せる事象ですから》
「ですが、偉いから言わない、偉くないから言う。それはいけない事だと分かっていた筈ですが、結果としてあの父親は、間違いを犯した」
《騒がず謝罪し礼を言い、問題とならなければ、あの女性も踏み止まっていたでしょう》
「一線を越えてしまった」
《悪いのはあの男です、もう、仕事は変えるしか無いでしょう》
「仕事を、奪うワケには、いかないでしょうね」
《はい、誰かの大切なモノを、預けるワケですから。ですが絶望は無敵の無謀な者を作り出してしまう、面会権は立ち合い有りで存在し、手紙のやり取りは自由。既に次の仕事先も有ります、ご心配無く》
「ありがとうございます」
《いえいえ、罪を犯させないのも、司法の役割ですから。では、失礼致します》
無敵の人を作らせない。
コレは確かに、国や司法の管轄だと思います。
《ネネ》
「はい、何でしょうか」
《ごめんねネネ、この前は調子に乗って》
絶賛、我慢大会と試し行為をしている最中でして。
正直、単に間を開けていただけ、なんですが。
「単に間を開けているだけ、とは」
《かも知れないけれど、期待に応えられなかったなら謝りたいから》
静観を続けるだろう筈のルーイ氏が、たった2日で不安を訴えた。
もし作戦だったなら、もう1日は我慢するだろうと踏んでいたんですが、どんな心情なのでしょうか。
「間を開けただけですよ」
《良かった、まだ失格じゃないんだね》
どうやら本気で不安だったらしい。
「今日を入れて、たったの2日ですよ?」
《けど顔を合わせる機会も無かったし、不安だったから》
多分、嘘じゃない、筈。
「成長に魔力を使わせているんですし、枯渇させない為だったんですが」
《そこも考えたんだけど、ごめんね。あ、吸い上げて良い?》
「吸い上げる、何を」
《魔力を、大きくなってる時だけ》
「あぁ、どの程度ですかね」
《1割も無いかな、その分で補えるから》
「どうぞ」
《じゃあハグ》
「どうぞ」
《ありがとう》
正直、こんなに短期間で堪え性が無い状態になるとは思いませんでした。
凄いギューってしますね。
どんだけ。
「ルーイ氏にも人の心が有るんですね」
《勿論だよ、だから不安要素は排除していたんだし》
「試す者の気持ちが、やっと分かった気がします、前の男なら好き放題していた筈。自分の自由な時間を満喫して、不安にすら思わなかったんでしょうね、はぁ」
言っていて虚しくなりましたが。
事実なんです。
態度が、全く違う。
《懲らしめたい?分からせたい?》
「その両方で」
《このまま、その話をしよう?どう懲らしめるか、どう分からせるか聞かせたい》
どう懲らしめるか、どう分からせるか。
コチラの刑罰を勉強すべきかも知れない。
あの罰に納得出来たのだし、意外な方法が有るかも知れない。
「いえ、勉強を優先します、その後お願いします」
《うん、分かった》
まだまだ学ぶべき事は沢山有る。
納得する為、ココに馴染む為に。
「すまない、お客に声を」
『1度や2度なら、それも事件にならなければ、今回も見逃していたでしょう』
「すまない、許してくれ、すまない」
『無理です、少なくともこの子は、もう産めない』
「そんな、まさか」
『はい、居ますが、無理です』
「そんな、待ってくれ、もうしない」
『途中で忘れた事が何度か有る、と知っているんですよ。今は穏やかな気候の時期だから良かったものを、もし子供に何か有ったらと不安でしたが、アナタは事件を起こした』
「違うんだ、そんなつもりは」
『どんなつもりだろうと、事実は事実。子を安心して任せられない相手とはもう居られません、まかり間違って私が殺されるのは嫌です、そしてあの子は施設へ行かせます』
「そんな」
『私はこの子と離れ修道院へ参ります、アナタなんかと結婚するんじゃなかった、子を成すべきでは無かった』
この日の為に、持っていた薬。
まさか、本当に使う日が来るとは思わなかった。
「違うんだ!許してくれ!!」
『さようなら、私は私で謝罪し、子に説明します。さようなら、永劫に、来世でも』
「待ってくれ!違うんだ!!」
こんな日が来ない様に祈りながら、出来るだけ手を回していたつもりでした。
もし近所の方が見掛けた際には、息子が荷台に居ないか確認して頂き。
保育園には、時間までに来なかった場合、直ぐに連絡をして頂ける様にし。
出来るだけ、私が送り迎えを担当しておりました。
ですが、庶民の妻にはする事が多い。
家の修繕、掃除、洗濯。
繕い物に買い出し、料理、近所の方との交流。
皆さんに負担をお掛けしているのですから、当然、その分を補う。
具合の悪く無い時は、保育園での雑用、近所の方の困り事に手を貸していた。
正直、元夫は仕事だけ。
でも、それで良かったんです。
優しくて酒も女も博打もやらず、家に居て私達と一緒に居てくれた。
不器用だけれど良い人、でした。
私が補えば良い、そう一緒に居ましたが。
『アナタは人種、何事にも限界は有ります』
『ですが、申し訳御座いませんでした』
「お母さん、血が出てるよ、大丈夫?」
『大丈夫、ちょっと怪我を』
『この子はアナタに似ています、良い子です』
この件を耳にした時、私はもう育てる自信が無くなった。
この子が1人で生きるだけ、なら構わない。
けれどきっと、いつか誰かと結婚し、子を成す。
その時、あの血が受け継がれていたなら、今度こそ誰かが死ぬかも知れない。
このまま手元に置けば、厳しくし過ぎてしまうだろう。
けれど、誰も殺さない様に育てる自信が無い。
『ありがとうございます、ですが』
《アナタが危惧する事は起きない、もう、心配する必要は無いのですよ》
悪魔と精霊の予言は絶対です。
誰もが欲しがる言霊を。
『あぁ、勿体無いお言葉を』
《ですが、しっかりと躾けをお願い致します、反面教師とし自己嫌悪に至らぬ様に》
「補佐を受けて下さい、それに治療も、アナタに非が有るとは思いません」
『ですが、アレを選んでしまった』
《善を信じ、信頼した、責めるべきは寧ろご両親かと》
「そうです、警告文位はしっかりと出すべきです、それとも有ったのでしょうか」
『いいえ、まさか、子供を忘れるだなんて。何も、有りませんでしたが、私が』
「ではご両親です、アナタは騙された、私も騙された事が有るから良く分かります」
《ご説明なさってみて下さい、意外にも子供は賢く、理解が早い時が有る》
「お母さん」
『最初、お父さんはとても陽気で明るくて、友達も多い楽しい人だった』
「うん」
『だから結婚したの、この人となら大丈夫だろう、って』
「うん」
『でも違った、こんな騒動を起こす人だとは最初は思わなかった、でもお父さんは騒動を起こした』
「うん」
『途中から、いつかこうなるかも知れないと思っていたの、でも私が頑張れば良いと思っていた』
「お母さん、頑張り過ぎたから、具合が悪いの?」
『そうね、だからもう、お父さんとはさよならするの』
「もう一緒に住まないの?」
『そうね、騒動を起こしたから、もう嫌いになってしまったの』
「僕も?」
『いいえ、でも騒動は起こさないで欲しい。間違った事を言ったり、しないで欲しい』
「うん、しない」
『お父さんには良い所も有るけれど、どうしてもダメな所が有った、アナタを危ない目に遭わせた』
「僕、危なかったの?」
『そうよ、お姉さんが居てくれなかったら、もしかしたら死んでいたかも知れない』
「僕、まだ死にたくない」
『そうね、私も、だからさよならするの』
「うん」
『さよならのお手紙を書きましょうね、会えるかどうかは、もうシトリー様達が決める事なの』
「うん」
《賢明なご判断かと、さ、病院へ送りましょう》
『行って下さい、私にはもう何の不満も有りませんから』
「アナタも被害者、どうか任せて下さい、その子の為にも」
『はい、ありがとうございます』
色々な事が少しだけ、分かった気がします。
『来てくれて嬉しいです、ありがとうございました』
「いえいえ、何も出来ませんでしたが、無事で安心しました」
言っても、良いのでしょうか。
『少し、今回の事で話し合いがしたいと思っています』
「どうぞ、遠慮せず仰って下さい」
『それは少し難しいです、本当は楽しい事ばかり話したいです』
「私もです、でもバランス調整が難しい、割合の計算は今でも出来上がっていません」
『どの位、話しても良いのでしょうか』
「分かりません、ただ、少し思い当たる節が有ります」
『それは何でしょうか』
「根本を解決する姿勢が少なく、何度も同じ問題で躓き、半ば愚痴だけの場合。聞く側は非常に疲弊し易い、かと」
『解決への姿勢は問題無い筈ですが、私は同じ問題で悩んでいます』
「ですが、愚痴だけ、では無いかと」
『愚痴とは、弱音かと、少しは有ります』
「では解決しようと努力する姿勢の強弱、ですかね」
『凄く解決したいです』
「ではどうぞ」
『私は私の事を考えていました、私が居なくなったらどうなっていたか、あんな風に心配して貰えたかを考えていました』
「私は、女性に自身を重ねていました。そしてアナタは悪くは無い、と、そう自分にも言い聞かせていたのだと思います」
『ネネさんもあの女性も悪く無いと思います、あんな事を言い出す男です、善人だとは思えません』
「私もです、どんな心積もりであろうと、行いこそ結果です。偶々なら許せましたが、彼は常習犯だった」
『なのに私を責めた、逃げです、擦り付けは悪い事です』
「はい」
『私を1番に心配してくれるのが誰か、分かりません、あんな風に心配してくれる誰かが居たか分かりません』
「それは、何故でしょう」
『なった事が無いのと、良く知らないからです』
「今はどうでしょう」
『ネネさんが来てくれました、それにアズールも怒ってくれました、嬉しいです』
「それにシトリー騎士爵も、少し憤っていたかと」
《勿論です。あぁ、驚かせてすみません、私の名が出るだろうと待機させて頂いておりました》
『容体はどうですか』
《残念ですが、ですが直ぐに回復されますでしょう、まだ妊娠の初期段階でしたから》
「アレは、まさか」
《はい、例え間違いを犯したにせよ、彼女は償った》
『アレとの結婚は間違いでしたか』
《いいえ、アレが、間違えただけです。そしてアナタも、向こうが間違えたのです、勿体無い事をなさった》
『でも良い面も有ります、ネネさんがココに来れた理由かも知れませんから』
《ふふふ、そうですね》
「あの、お見舞いを」
『私もそうします、あの子は良い子です、良い子に育たないといけません』
《では、お手紙を添えて、お送り致しましょうか》
「はい」
『そうします』
僕のお父さんは、悪い事をした。
その悪い事をされたお姉さんが、お手紙とプレゼントをくれた。
【お母さんが大事なら、良い子に育って下さい。
お父さんが今でも好きなら、良い子に育って下さい。
私の為にも、良い子に育って下さい。】
「良い子って、どの位、良い子にすれば良いのかな」
『ふふふ、コレはね、悪い子にならないで欲しいって事よ』
「ならないのに」
『お父さんも、ならないと思っていたし、私もそうなると思って無かったわ』
「どうしたら良い?」
『良い子の見本を沢山知るの、そして出来るだけ同じ事をする』
《出来るだけ、ですよ、無理をしては失敗してしまうかも知れませんから》
「シトリー様、無理ってどんなの?」
《夜に起きてようとしても、起きていられない、そんな感じですね》
「分かった、無理はしません」
《そして出来無い事を素直に認め、出来る事を伸ばす、今のアナタには何が出来るでしょうか》
「嘘は言わない、誰かを困らせたり、傷付けない。です」
《良い子ですね、大丈夫、悪い子の気配は有りません。では特別に、今日は一緒に眠れる許可を出しましょう、ですが今日だけですよ》
「はい」
『ありがとうございます』
「ありがとうございます」
《では、また》
『はい、本当に、ありがとうございました』
「ありがとうございました、さようなら、シトリー様」
それから僕はお父さんにお手紙を書きました。
離れて暮らすのは寂しい事と、もう悪い事はしないでとお願いしました。
それと、今でも僕はお父さんの事が好きだって書きました。
でも、僕はお姉さんも好きなので、頑張って償って下さいって書きました。
お姉さんは良い匂いで、優しくて綺麗だから。
嫌われない様に、良い子でいようと思います。
《刑罰が確定致しました、コチラをどうぞ》
「あぁ、ありがとうございます、ご丁寧にどうも」
《いえ》
シトリー騎士爵が強欲国まで来て下さり、事の顛末を教えて下さった。
父親の刑罰は、故意では無いネグレクトの常習犯である、とする印を首に刻まれる。
と言うものでした。
「あまり身近では無い、刑罰なのですが」
《良く有る対処です、そして控訴も無く、既に済んでおります。本来なら、侮辱罪や名誉棄損もセットになっていましたが、ヒナ様が不問にと仰いましたので。子々孫々への不名誉は、回避されました》
「王侯貴族への侮辱は、国家反逆罪」
《はい、子孫は途絶える》
「貴族である、と示すのは、時に庶民を守る事にも繋がる」
《ですが稀に紛れる事も、治安維持や平和に繋がる》
あの父親は、ヒナちゃんを国家に関わる重要な者だとは思っていなかった。
庶民の学園の制服を着た、単なる子供だ、と。
「まさにご老公様」
《分かります、我々の理想とも言えますから》
「お好きですか」
《はい、勧善懲悪こそ、良き事が正しいと示せる事象ですから》
「ですが、偉いから言わない、偉くないから言う。それはいけない事だと分かっていた筈ですが、結果としてあの父親は、間違いを犯した」
《騒がず謝罪し礼を言い、問題とならなければ、あの女性も踏み止まっていたでしょう》
「一線を越えてしまった」
《悪いのはあの男です、もう、仕事は変えるしか無いでしょう》
「仕事を、奪うワケには、いかないでしょうね」
《はい、誰かの大切なモノを、預けるワケですから。ですが絶望は無敵の無謀な者を作り出してしまう、面会権は立ち合い有りで存在し、手紙のやり取りは自由。既に次の仕事先も有ります、ご心配無く》
「ありがとうございます」
《いえいえ、罪を犯させないのも、司法の役割ですから。では、失礼致します》
無敵の人を作らせない。
コレは確かに、国や司法の管轄だと思います。
《ネネ》
「はい、何でしょうか」
《ごめんねネネ、この前は調子に乗って》
絶賛、我慢大会と試し行為をしている最中でして。
正直、単に間を開けていただけ、なんですが。
「単に間を開けているだけ、とは」
《かも知れないけれど、期待に応えられなかったなら謝りたいから》
静観を続けるだろう筈のルーイ氏が、たった2日で不安を訴えた。
もし作戦だったなら、もう1日は我慢するだろうと踏んでいたんですが、どんな心情なのでしょうか。
「間を開けただけですよ」
《良かった、まだ失格じゃないんだね》
どうやら本気で不安だったらしい。
「今日を入れて、たったの2日ですよ?」
《けど顔を合わせる機会も無かったし、不安だったから》
多分、嘘じゃない、筈。
「成長に魔力を使わせているんですし、枯渇させない為だったんですが」
《そこも考えたんだけど、ごめんね。あ、吸い上げて良い?》
「吸い上げる、何を」
《魔力を、大きくなってる時だけ》
「あぁ、どの程度ですかね」
《1割も無いかな、その分で補えるから》
「どうぞ」
《じゃあハグ》
「どうぞ」
《ありがとう》
正直、こんなに短期間で堪え性が無い状態になるとは思いませんでした。
凄いギューってしますね。
どんだけ。
「ルーイ氏にも人の心が有るんですね」
《勿論だよ、だから不安要素は排除していたんだし》
「試す者の気持ちが、やっと分かった気がします、前の男なら好き放題していた筈。自分の自由な時間を満喫して、不安にすら思わなかったんでしょうね、はぁ」
言っていて虚しくなりましたが。
事実なんです。
態度が、全く違う。
《懲らしめたい?分からせたい?》
「その両方で」
《このまま、その話をしよう?どう懲らしめるか、どう分からせるか聞かせたい》
どう懲らしめるか、どう分からせるか。
コチラの刑罰を勉強すべきかも知れない。
あの罰に納得出来たのだし、意外な方法が有るかも知れない。
「いえ、勉強を優先します、その後お願いします」
《うん、分かった》
まだまだ学ぶべき事は沢山有る。
納得する為、ココに馴染む為に。
0
あなたにおすすめの小説
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】
普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます)
【まじめなあらすじ】
主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、
「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」
転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。
魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。
友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、
「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」
「「「違う、そうじゃない!!」」」
これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。
※他サイトにも投稿中
※旧タイトル
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる