エイトゲヘナ~出会って秒で食べられました、けど今は凄く幸せです~

中谷 獏天

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65 舞台。

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「凄い」
『はい、凄かったです』

「私、それなりに様々な舞台を観てきたんですが、コレは初めてで本当に凄いんです」
『どの位観てきたのでしょうか』

「オペラ、ミュージカル、バレエや演奏会です。それらが融合した、真に観るべき舞台でした」
『そこまでですか』

「初めてがコレはとても幸運な事です、最高傑作で最高峰です」
『成程、お礼を言わなければなりませんね』

「です、是非にも」

 ネネさんがこんなに興奮しているのは、初めてかも知れません。

《喜んで頂けて何よりです、さ、楽屋へご案内致しましょう。大丈夫、真のプロフェッショナルばかり、ですから》

 今日はナベリウスの案内です。
 そうして楽屋へ行くと。

「最高の歌手、最高のダンサー、最高の楽器と演奏家達が集まった。まさに最高の舞台、最高の美女と野獣でした」

 凄い熱量です。

『まるでエルみたいです、そんなに好きでしたか』
「好きと言うか、コレはもう、完璧なモノに対する感動です」
《ピアノ等も少々なさっておいでですので、きっと、実感も籠もっての事かと》

「ただ少し耳が良いだけの、簡単な譜面通りがやっとの素人ですが」
《それなりに見聞きなさったかと》
『私は初めてでしたが楽しめました、あの飛ばすのは特に楽しそうで羨ましかったです』

「アレはお互いの技量が有ってこそですから、ヒナ様は真似なさらないで下さいね」
『やはり練習が必要ですか』
《若しくは、プロに委ねるか。大丈夫、もし万が一には、私が受け止めますよ》

『是非、お願いします』



 向こうでなら、明らかに過体重だとされるバレエダンサーが標準。
 けれどココでは軽々と持ち上げられ、空中に投げられ、受け止められる。

 何故なら、男性も同じく向こう以上に大きいからこそ。
 もう、本当に、生きる彫刻。

「おぉ、流石です」
『お花になったみたいで楽しいですね』
『安心しました、あの劇を理解して下さっていた様で、コレは花の妖精の舞う姿を表した演出なんです』
《如何ですか、スズランの姫》

「いいえ、恐怖心が勝るのと、恥ずかしさから遠慮させて頂きます」
《演奏会にはお出にならなかったので》

「出ましたが」
『ご安心下さい、大人には大人の方の投げ方をしますので』
《こんな機会は滅多に無いかと》
『楽しいですから是非』

 ココには、魔法が有る。
 しかも相手はプロ。

「宜しく、お願い致します」



 ネネさんは回転させられてはいませんでしたが、投げられて飛びました。

『大丈夫でしたか』
「はい、実は夢だったんです」
《それは良かった》
『今からでも遅くは有りません、是非、ダンスの世界へお越し下さい』

「はい、ありがとうございました」

 先程とは違って、何だか夢心地の様に見えます。

《経験者でらっしゃいましたか》

「いえ、幼い頃、舞台が怖くてバレエを辞めてしまったんです」
『勿体無いと思うのですが、そんなに怖かったですか』

「はい、大勢の大人がコチラを真剣な顔で見ている、それだけでもう泣いていましたから」
『でも、今は大丈夫ですよね、ダメですか』

「今は、まぁ、緊張する程度だとは思いますが」
『私は練習してみるつもりです、一緒にどうですか』

「いいえ、ですがピアノでなら、是非」
『恥ずかしいですか』

「ですね、踊る楽しみより羞恥心が勝つので、ピアノが限界ですが。楽しみにしています、怪我に気を付けて下さいね」
『はい、気を付けます』

「では、練習衣装を選びに行きましょうか」
『良いんですか』

「見るのは良いんです、見るのは」
『成程』
《では、ご案内致しましょう》

 それからネネさんは、バレエについて少し教えてくれました。
 しっかりと柔軟して、準備運動するのが最も大事で、あまり寒い場所で働く練習しない様にって。

 私には怖いモノが殆ど無いので、やっぱり少し勿体無いなと思いました。

『あの』

「はい、どうしましたか?」

『家族を知る為の、舞台だった筈ですが』

「申し訳」
《それは敢えて、で御座います、舞台に圧倒され内容が入らないのでは意味が無い。次こそ、幾ばくかお分かり頂けるだろう舞台を、ご用意させて頂きたいと思っております》
『そうなんですね、早とちりしました、楽しみにしています』

 良かった、間違いでは無かったんですね。



「何故、あの最高峰の舞台について教えてくれなかったのでしょうか」

 そう言いながらネネが差し出した半券は、世界1とも言われる舞台の半券だった。

《それは、失望させてしまったからこそ、頃合いを見て》
「感動しました、見直しましたよ」

《けれど、一流の教育や指導が有るからこそ、ある種の上流階級社会だからこそだよ》
「そこはよく分かりますが、向こうには無い程の完成度なんですよ」

《そこまで》
「はい」

《正直、色々と混ざったものだからこそ、正統では無いと》
「もうアレが逆に正統ですよ、私、歌劇が幾ばくか苦手だからこそかも知れませんが。アレは舞台の最高峰です」

《そこまで好きだとは》
「コレは好きとは少し違います、なまじ素人では無いからこそ、技術等について特に感動しているんです」

《成程》
「頭だけが獣の男性ダンサーが特に最高でした、あの跳躍力と優雅さは素晴らしかったです。確かに向こうではバレエダンサーとは思えない程の恵体ながらも、女性ダンサーも軽々と飛び、舞台が狭く感じる程の躍動感。そして差し挟まれる歌も素晴らしかった、入るべき場所に存在し邪魔はしない。あ、生演奏もですが、衣装が特に素晴らしかった。色合いもデザインも素晴らしく、演出とも合っていた。そしてやはり最後まで獣のまま女性と結ばれるのが、最高に良かったです、アレこそ美女と野獣です」

《もしかして、向こうは違うのかい?》
「はい、ダンサーの体型もですが、物語の結末が違う」

《ほう》
「終盤で呪いが解け、人種の男性となる」

《成程、ココではマナー知らずが紳士となる、ある意味で男性版の灰かぶりと呼ばれているけれど》
「はい、そこが特に良かったです。折角、獣姿でも愛したと言うのなら、人の姿になられたら寧ろ残念がるべきなのに、喜んで幸せ暮らしたと締めくくられる」

《もしかして、ダンサーが好みだったのかな?》
「正直、子供の頃なら確実に惚れていました。ずっと、そんな物語だろう、と題名から勘違いしていたんです」

《そして落胆した》
「と言うか嫌いになりましたね、あくまでも人の姿の彼を投影し、呪いを解く為に必死だった様にしか思えない。歌劇で私は憤り、以降は家族で歌劇を観に行く事は滅多に無くなりました」

《けれど、ココで全てが最高の舞台に出会った》
「はい、是非にもあのクオリティーでパレードをして頂きたいですね」

《はぁ、僕が連れて行きたかったよ》

「他にも観てみたいです、眠り姫やジセル、それに黒鳥も」
《一緒に行ってくれる?》

「と言うか、帝国で公演が有るのでしょうか」
《勿論、大規模な集団だからね、各国を巡ってくれているよ》

 各国で約2ヶ月、他とは被らない公演を行い、そして国を移動する。
 演目は7種類。

「7種類、7団体居ると言う事ですか」
《そうだよ》

 そして今季の演目はジゼル、白鳥の湖、かぐや姫。
 メディア、白蛇伝説、シバの女王とソロモン。

「そして美女と野獣」
《そうだね》

「なんて大規模な」
《トップ中のトップだし、予備も常に控えている。しかも向こうで言う正統派のバレエの舞台は、その予備が担当しているそうだよ》

「なんて贅沢な、バレエも観に行かせて下さい」

《アレよりは派手さに欠けるよ、滅多に飛ばす事は無いし》
「単独でも飛距離と高さが違いますし、生演奏では無いんですか?」

《いや、生演奏だけれど歌は無いよ?》
「正統派自称するなら正しいかと。あの、シバの女王とソロモンが全く分からないのですが」

《どちらかと言えば恋愛劇だね》
「成程、それとかぐや姫や白蛇伝説なんですが」

《東洋アレンジと言うか、まぁ、観てのお楽しみだね》
「成程、お詳しい、飽きてらっしゃるなら両方他の者と行きます」

 悩ましい。

 正直、ネネの反応は見たいけれど。
 アレはもう、飽きている。

《なら、ソッチはレオンハルトに譲るよ》
「流石、見飽きてらっしゃる」

《まぁ、ね》
「もし私がココ生まれならダンサーになってたかも知れませんが、きっと出会う事は無かったのでしょうね、残念です」

《ネネ》
「冗談です、約束しましたよ」

《勿論》
「じゃあ失礼します、レオンハルト様にもお伝えしないといけませんから」

《分かった、行っておいで》
「はい、では」

 ネネは無欲で見識が有る。
 だからこそ、僕らが与えられるモノが少なく、同じく何かを与える機会も少ない。

 だからこそ、存分に甘やかさせて貰おう。

 観劇用の衣装を一式に、アクセサリーや靴を揃えてしまおう。
 レオンハルトと共に、ネネへのプレゼントとして。

 僕らに出来る僅かな事を、与えられる機会を逃さない様に。
 慎重に、熟考し、行動しよう。
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