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71 褒めると口説く。
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非常に、プロでした。
社交辞令としての褒める、本気で口説く、勘違いさせる為の口説きと褒め。
この3つを見事に演じ分け、気を付けるべき男の注意点を上げ、無事にカウンセリングを終えました。
「本当にプロですね、色んな意味で」
《実に複雑な感想をどうも》
『褒めているだけ、口説いている、は分かりましたが。恋や愛は良く分かりませんでした』
「やっぱり、時期かと」
『初潮を迎えないと分からないかも知れませんか』
《まぁ、それか、恋愛に興味が向く程の安定感が無いからか。だな、アンタなら分かるだろ》
「はい、正直、そうでした」
『何でも分かりますね』
《何でもじゃないけどな。ヒナ、想定は幾つか出来てるか》
『はい、でも怖いです、動物園で泣いたみたいに泣くのは嫌です』
同意します。
もう、アレは色々と混ざって高ぶった様な状態でしたから。
《それはどっちだろうな、泣くのが怖いのか、悲しいのが怖いのか》
『両方です、台風みたいでした、中もぐちゃぐちゃで水浸しでした』
分かります、ほぼ同じでした。
《言葉が溢れたか、それとも気持ちが溢れたか》
『気持ちでした』
《ならまだだな、恋愛以外で言葉に出来無い気持ちが多いなら、まだ準備が出来て無い》
あぁ、そこは大丈夫ですね。
悲しい、悔しい、そうした言葉で溢れてましたから。
『捨てられた時は準備が出来てましたか』
《いや、かも知れないとは少しだけ思ってたが、本当にほんの少しで。空っぽになった、まさかと当然がせめぎ合って、考える事が勝手に止まる時も有るが。敢えて、自分で止めた、気を紛らわせる為に》
分かります。
『ずっと空っぽでしたか』
《いや、不意に思い出して泣いたり、どうして分かってくれないんだって怒ったり。心配になったり、またボーっとしたり、だな》
分かります。
まるで熱が出ている時みたいに、思考出来無い、纏まらない時も有る。
『死にたくなりましたか』
《勿論、もうどうしようも無い失敗をしてしまったと思って、何度も包丁を手にした。けど弟は悲しむ、後悔するかも知れない、そう思って何も出来無かった》
『だから準備をしておけと言いますか』
《そうだな、台風に耐えられる様に、水浸しになっても直ぐに水が出せる様になってからが理想だが。知りたい、対処したいんだろ》
『はい、どうにかしたいです』
《けど時期が早い、なら気を逸らす必要が有る。アンタならどうしてた》
「全く無関係なゲームの実況を繰り返し流してました、そしてテトリスをして、食べて寝て起きてを繰り返してました」
『あぁ、なら俺達がゲームをしてるのを見るのはどうだ、ヒナは見てるだけ』
『それは、楽しいんでしょうか』
《した事が無いから分からないが、試してみて良かったなら、ジュリア達にも頼めるぞ》
『じゃあ試してみます』
「それで、何をするんですか」
《ごっこ遊びだ》
この流れで、まさか仲の悪い夫婦を演じるとは思いませんでしたが。
ごっこ遊び、シミュレーションは教育には良いそうですし、してみましょか。
「お帰りなさい」
《あぁ》
こんな険悪なごっこ遊び。
初めてなんですが。
「はい、どうぞ」
《あぁ》
本当にコレされたら、秒で離婚しか無いと思うんですが。
「あの、休憩で、どうしてコレで離婚しないんでしょうか」
《お互いに離婚すると生活が苦しくなる、大嫌いでも無いが、好きでも無い》
「原因は、何でしょう」
《お互いに無理して合わせてたが、お互いに疲れた。この前にはそこそこ喧嘩もしたが、もう決定的に合わないと悟り、同居人として過ごす事になった》
「細かい、お客さんですか」
《まぁな、続けるぞ》
「あ、はい」
本当にごっこ遊びに戻り、食べるフリをして。
《もう寝るわ》
「そう」
コレで、ヒナちゃんは何を学べるんでしょうか。
《ヒナ、混ざりたいと思ったか》
『いえ、あんまり入りたく無かったです』
《どっちが悪そうだ》
『どっちもどっちだと思います』
《で、どっちかが浮気をして、子供が出来て出て行った。この想定は有ったか?》
『無いです』
《なら、まだまだだな》
『はい、まだ想定が甘いです』
《よし、じゃあ次はお医者さんごっこだな、先生任せた》
「えっ、はい、今日はどうなさいましたか」
《吐くし腹が痛いです》
「痛くなる前、何を食べましたか」
《サンドイッチ》
「食中毒かもしれませんね、看護師さん、点滴の用意を」
『先生、在庫切れです』
《マジか》
「残念ですが、お帰り頂くしか無いかと。次の方」
『アズールさん、診察です』
「え、あ、はい」
《もう退場かよ》
「今日はどうなさいましたか」
「手が、痒くて、皮が剥けて困るんです」
「あー、手湿疹ですね。看護師さん、お薬を塗ってあげて下さい、処方箋をお渡ししますから、後でお受け取りになって下さいね」
「はい」
『先生、お薬を塗ったらベタベタすると思います、どうすれば良いですか』
「では包帯を軽く巻いてあげて下さい」
『はい、分かりました』
考えるな、は難しい。
執着するな考えるな、言うのは簡単だが、修行にすらなる事なんだ。
何も無しに気にするな、考えるな、は大人ですら難しいのに。
それが子供なら、余計に難しいだろ。
「寝ましたね」
《あぁ、貴重な体験だろ》
「あぁ、まぁ、そうですね」
《それに、紛れたかは分からないが、紛らわせ方は教えたつもりだ》
「在庫切れ、ふふふ」
《アレは本当に驚いた、まさか梯子を外されるとは本気で思わなかったからな》
「凄いですよね、あの発想力と言うか、型に嵌まらない感じ」
《けど、型に嵌めなきゃならないんだよな》
「人の中で生きるなら、ある程度のルールは必要ですからね」
《家族が要らないなら、母親と言うものは全部はそうだ。当たり前で特別に驚く必要は無い、それが常識だ、と言えば終わる事なんだがな》
「凄い斬新ですが、ココなら、それもアリだったかも知れませんね」
《加減が全く分からない、どの程度悲しむべきだと示せば良いか、物差しが不安定なんだ》
「そこは、個体差が有る、で大丈夫では」
《それは悲しむ側だろ、悲しまない側としては、無くは無い。なんだよ》
「あぁ、ですけどやっぱり個人差、学園で学ぶ事では」
《そこも心配なんだ、今回は友人候補が居るとは言わないんだ》
「それこそ、やはりジュリアさん達に伺うべきかと」
《アンタより優しくないんだが》
「そりゃ、綺麗な場所で生きてきたからでは」
《だからか、少し腹が立つ。知らない癖に、あの苦労が分からないだろう、って》
「弟さんには思わなかったんですかね」
《捨てられるまでは、無かった。けど今でも、そう無い、俺にとっては幼い弟だから》
「あ、知ってます、そうやって弱みを見せて口説く手法」
《なら何でアンタは騙された》
「多分、最初に私が妥協したせいだと思います。顔は好きでも無いけど嫌いでも無い、けど胡散臭くも無いし、居心地も悪くない。結婚するならこう言う人なんだろう、コレで穏やかな結婚生活が叶うんだろう」
《その、だろう、何処の誰から知った》
「家族は相応しい相手を其々に見付けてました、居心地が良い相手、分かり合える相手。周囲は色々と、今となっては綺麗事や社交辞令だけの、無難な言葉を選んでただけだと思います」
《家族からは抽象的だが正解を、周囲からは具体的だが半ば虚偽の常識を鵜呑みにした》
「はい、ですね、馬鹿でした」
《自信が無かった》
「はい」
《自分にはコレ位だろう、そう見積もった結果と相手が合致した様に思えた》
「はい」
《相手は、アンタはもっと高望み出来るだろ、と思っていたが言わなかった。でアンタに問題が有るんじゃないかと思ったが、無かった、でもアンタに相手にされたんだもっと高みを目指すぞ。失敗した、優しいし1度は俺を選んだんだ、復縁出来るだろ。出来なかった、本当にバレて無かった、失敗した》
「はい、だと、思います」
《あぁ、見下してたからフラれたのかもよ、とか言われたか》
「はい」
《それは無い、自分より遥かに上に居る者に着いて行くには物凄いエネルギーが居る、だから賢い者は同じか少し下を選ぶ。けど、それは下も同じ、しかも後から上がったり下がったりする場合も有る。自分が無理無くどうにか出来る範囲内の相手を選んだ、だけだ、その下振れだっただけ》
「自分では、そう思っていたつもりなんですが」
《まさか、好意を偽るだなんて思わなかった、そんな事をする奴は少数だ》
「はい」
《善性を信じて裏切られた、しかも前科が有ると知ってるなら未だしも、偽りの経歴と面接態度に騙された。重要な職業なら、経歴詐称、犯罪だぞ》
「はい」
《互いに好き合っている、と互いに思い込む方が利が有る、と思わせる。それがホスト、詐欺師、結婚じゃないか》
「利を、私が提供出来ていなかった」
《いや、価値が分からない奴には何をしても無駄だ。他人にアレは良いぞ、と勧められて買ったとしても、気に入らなければ結局はゴミ同然の扱いになる。確かに馬鹿に利用されたが、珍しくない、しかも擬態方法がそこらに転がってる。1番は、その擬態方法を悪用する奴だろ、情報だけなら善も悪も無い筈だ》
「詐欺師の理屈が若干見え隠れしてましたが、包丁は悪くない、悪いのは犯罪に使う奴ら。ですが、良く殺せる包丁です、因みにこうすると良く殺せます。と売るのはどうかと」
《全く、その通りだと思う。けどな、騙された事が無い奴なんて、本当に稀有だと思うぞ。それこそ神頼みが最たるものだろ》
「屁理屈に近い道理ですね」
《癌が治る、目が良くなる、良縁に恵まれる。騙される機会が有れば、誰だって騙される事が有る》
「しかも、騙された事に気付かない事も」
《アンタの事を謗った奴は、親が老いた時か子供で悩んだ時に騙される》
「どうすれば騙されませんでしたか」
《俺が兄弟だったら、もっと褒めてる、自分の価値をしっかり分からせて俺も選ぶ》
「なら、アナタなら、それを信じましたか」
《いや、自分だけが平凡だと思ってたんだろ、おためごかしだろうと思うね》
「半ばそうでした」
《なら叔父とかが良かったんだろうな、そうすれば両方が救われた》
有り得ない、もしも。
もしも叔父に居たなら、少しは何か変わっていたかも知れない。
「では叔父として回避させて下さい」
《敢えて松竹梅で男を選ばせてから、1番上を狙わせ、上位3人は実は肩並びだと教える。そして幾ら付き合っても、中身は探りきれない事を認識させる。結局は家族ぐるみで付き合って、合うか合わないか、別れを特別扱いさせない》
「離婚も、珍しくない」
《そう、結婚まで猫を被ってる奴が少なくないからこそ、騙されたって言って離婚する奴が居る。確かに大袈裟に言う奴は居るが、本当に騙された奴が居ないワケじゃない。利を見出したら殆どは媚びる、偽る、無意識に無自覚に騙そうとするやつが居る》
「じゃあ、もう、面倒臭いので叔父さんが選んで下さい」
《勉強が出来て俺位は賢い奴で、気の良い友人が居て、立場が安定している奴。敬ってくれる、後回しにせず、常に一緒に過ごそうと努力し、正直に話せる。何の依存症も無く、奨学金以外の借金も無く、共感能力の有る奴だな》
「やっぱり、自信が無かったせいで」
《そこは家族の問題だろ、何人も居たんだ、もう少しマトモに自信を付けさせるべきだった》
「いや、協力してくれてたんですけど」
《他にも何か有ったのか》
「ざっと言うと、初恋の人に編んだ手編みのマフラーが盗まれ、その人の誕生日の翌日に見付かった。別の子が、その彼に自分が編んだと偽り渡してたんです、けど発覚後も彼は何も言わなかった。それに、私がイジメてると勘違いしていたクラスメイトも、何も言わなかった」
《よし、殺そう》
「ありがとうございます、そして就職先も、画家で売れてる妹と勘違いして私を採用しドタキャンした」
《潰れろ》
「無理ですね、かなりの大手ですから」
《何で新聞社だとかにタレ込まなかったんだ》
「恥だと思ったので、実績が本当に私だけ、無かったですから」
《バレエやってたんだろ》
「続けていても実績になったかは別です、あ、後はプロにアレンジが1回だけパクられた程度ですかね」
《結構、有るな》
「それはあんまり問題だとは思って無かったんですけど、まぁ、微妙な思い出と言う感じですね」
《成程な、方々から削り取られたら、家族でも埋めるのは難しいか》
「しかも引っ込み思案で泣き虫で、遊園地以外は特に興味が無かった」
《しかもなまじ賢いから言いくるめるのも難しい》
「家族の言う事は、素直に聞いていたつもりだったんですけどね、はいはいと流していたのは確かです」
《俺と同じ位に賢い男にしろ》
「はい、でも無理ですよ、そこそこ年上なんですから」
《けど年上は嫌だ》
「上手い様に使われるだろう、浮気だって隠すのは上手だろう、ですね」
《それも何か原因が有るのか》
「ドラマとか、テレビ、ですかね」
《あぁ、多かったからな》
「年上はろくでも無い、有名人はろくでも無い、顔が良い奴はもっとろくでも無い」
《何でも、大した事じゃないと思ってるんだろ、けど被害はその後に来る》
「実感が籠もってらっしゃる」
《まぁ、実感したからな》
叔父でも、良かったかも知れないな。
それなら、きっと誰も不幸にならなかった筈だ。
社交辞令としての褒める、本気で口説く、勘違いさせる為の口説きと褒め。
この3つを見事に演じ分け、気を付けるべき男の注意点を上げ、無事にカウンセリングを終えました。
「本当にプロですね、色んな意味で」
《実に複雑な感想をどうも》
『褒めているだけ、口説いている、は分かりましたが。恋や愛は良く分かりませんでした』
「やっぱり、時期かと」
『初潮を迎えないと分からないかも知れませんか』
《まぁ、それか、恋愛に興味が向く程の安定感が無いからか。だな、アンタなら分かるだろ》
「はい、正直、そうでした」
『何でも分かりますね』
《何でもじゃないけどな。ヒナ、想定は幾つか出来てるか》
『はい、でも怖いです、動物園で泣いたみたいに泣くのは嫌です』
同意します。
もう、アレは色々と混ざって高ぶった様な状態でしたから。
《それはどっちだろうな、泣くのが怖いのか、悲しいのが怖いのか》
『両方です、台風みたいでした、中もぐちゃぐちゃで水浸しでした』
分かります、ほぼ同じでした。
《言葉が溢れたか、それとも気持ちが溢れたか》
『気持ちでした』
《ならまだだな、恋愛以外で言葉に出来無い気持ちが多いなら、まだ準備が出来て無い》
あぁ、そこは大丈夫ですね。
悲しい、悔しい、そうした言葉で溢れてましたから。
『捨てられた時は準備が出来てましたか』
《いや、かも知れないとは少しだけ思ってたが、本当にほんの少しで。空っぽになった、まさかと当然がせめぎ合って、考える事が勝手に止まる時も有るが。敢えて、自分で止めた、気を紛らわせる為に》
分かります。
『ずっと空っぽでしたか』
《いや、不意に思い出して泣いたり、どうして分かってくれないんだって怒ったり。心配になったり、またボーっとしたり、だな》
分かります。
まるで熱が出ている時みたいに、思考出来無い、纏まらない時も有る。
『死にたくなりましたか』
《勿論、もうどうしようも無い失敗をしてしまったと思って、何度も包丁を手にした。けど弟は悲しむ、後悔するかも知れない、そう思って何も出来無かった》
『だから準備をしておけと言いますか』
《そうだな、台風に耐えられる様に、水浸しになっても直ぐに水が出せる様になってからが理想だが。知りたい、対処したいんだろ》
『はい、どうにかしたいです』
《けど時期が早い、なら気を逸らす必要が有る。アンタならどうしてた》
「全く無関係なゲームの実況を繰り返し流してました、そしてテトリスをして、食べて寝て起きてを繰り返してました」
『あぁ、なら俺達がゲームをしてるのを見るのはどうだ、ヒナは見てるだけ』
『それは、楽しいんでしょうか』
《した事が無いから分からないが、試してみて良かったなら、ジュリア達にも頼めるぞ》
『じゃあ試してみます』
「それで、何をするんですか」
《ごっこ遊びだ》
この流れで、まさか仲の悪い夫婦を演じるとは思いませんでしたが。
ごっこ遊び、シミュレーションは教育には良いそうですし、してみましょか。
「お帰りなさい」
《あぁ》
こんな険悪なごっこ遊び。
初めてなんですが。
「はい、どうぞ」
《あぁ》
本当にコレされたら、秒で離婚しか無いと思うんですが。
「あの、休憩で、どうしてコレで離婚しないんでしょうか」
《お互いに離婚すると生活が苦しくなる、大嫌いでも無いが、好きでも無い》
「原因は、何でしょう」
《お互いに無理して合わせてたが、お互いに疲れた。この前にはそこそこ喧嘩もしたが、もう決定的に合わないと悟り、同居人として過ごす事になった》
「細かい、お客さんですか」
《まぁな、続けるぞ》
「あ、はい」
本当にごっこ遊びに戻り、食べるフリをして。
《もう寝るわ》
「そう」
コレで、ヒナちゃんは何を学べるんでしょうか。
《ヒナ、混ざりたいと思ったか》
『いえ、あんまり入りたく無かったです』
《どっちが悪そうだ》
『どっちもどっちだと思います』
《で、どっちかが浮気をして、子供が出来て出て行った。この想定は有ったか?》
『無いです』
《なら、まだまだだな》
『はい、まだ想定が甘いです』
《よし、じゃあ次はお医者さんごっこだな、先生任せた》
「えっ、はい、今日はどうなさいましたか」
《吐くし腹が痛いです》
「痛くなる前、何を食べましたか」
《サンドイッチ》
「食中毒かもしれませんね、看護師さん、点滴の用意を」
『先生、在庫切れです』
《マジか》
「残念ですが、お帰り頂くしか無いかと。次の方」
『アズールさん、診察です』
「え、あ、はい」
《もう退場かよ》
「今日はどうなさいましたか」
「手が、痒くて、皮が剥けて困るんです」
「あー、手湿疹ですね。看護師さん、お薬を塗ってあげて下さい、処方箋をお渡ししますから、後でお受け取りになって下さいね」
「はい」
『先生、お薬を塗ったらベタベタすると思います、どうすれば良いですか』
「では包帯を軽く巻いてあげて下さい」
『はい、分かりました』
考えるな、は難しい。
執着するな考えるな、言うのは簡単だが、修行にすらなる事なんだ。
何も無しに気にするな、考えるな、は大人ですら難しいのに。
それが子供なら、余計に難しいだろ。
「寝ましたね」
《あぁ、貴重な体験だろ》
「あぁ、まぁ、そうですね」
《それに、紛れたかは分からないが、紛らわせ方は教えたつもりだ》
「在庫切れ、ふふふ」
《アレは本当に驚いた、まさか梯子を外されるとは本気で思わなかったからな》
「凄いですよね、あの発想力と言うか、型に嵌まらない感じ」
《けど、型に嵌めなきゃならないんだよな》
「人の中で生きるなら、ある程度のルールは必要ですからね」
《家族が要らないなら、母親と言うものは全部はそうだ。当たり前で特別に驚く必要は無い、それが常識だ、と言えば終わる事なんだがな》
「凄い斬新ですが、ココなら、それもアリだったかも知れませんね」
《加減が全く分からない、どの程度悲しむべきだと示せば良いか、物差しが不安定なんだ》
「そこは、個体差が有る、で大丈夫では」
《それは悲しむ側だろ、悲しまない側としては、無くは無い。なんだよ》
「あぁ、ですけどやっぱり個人差、学園で学ぶ事では」
《そこも心配なんだ、今回は友人候補が居るとは言わないんだ》
「それこそ、やはりジュリアさん達に伺うべきかと」
《アンタより優しくないんだが》
「そりゃ、綺麗な場所で生きてきたからでは」
《だからか、少し腹が立つ。知らない癖に、あの苦労が分からないだろう、って》
「弟さんには思わなかったんですかね」
《捨てられるまでは、無かった。けど今でも、そう無い、俺にとっては幼い弟だから》
「あ、知ってます、そうやって弱みを見せて口説く手法」
《なら何でアンタは騙された》
「多分、最初に私が妥協したせいだと思います。顔は好きでも無いけど嫌いでも無い、けど胡散臭くも無いし、居心地も悪くない。結婚するならこう言う人なんだろう、コレで穏やかな結婚生活が叶うんだろう」
《その、だろう、何処の誰から知った》
「家族は相応しい相手を其々に見付けてました、居心地が良い相手、分かり合える相手。周囲は色々と、今となっては綺麗事や社交辞令だけの、無難な言葉を選んでただけだと思います」
《家族からは抽象的だが正解を、周囲からは具体的だが半ば虚偽の常識を鵜呑みにした》
「はい、ですね、馬鹿でした」
《自信が無かった》
「はい」
《自分にはコレ位だろう、そう見積もった結果と相手が合致した様に思えた》
「はい」
《相手は、アンタはもっと高望み出来るだろ、と思っていたが言わなかった。でアンタに問題が有るんじゃないかと思ったが、無かった、でもアンタに相手にされたんだもっと高みを目指すぞ。失敗した、優しいし1度は俺を選んだんだ、復縁出来るだろ。出来なかった、本当にバレて無かった、失敗した》
「はい、だと、思います」
《あぁ、見下してたからフラれたのかもよ、とか言われたか》
「はい」
《それは無い、自分より遥かに上に居る者に着いて行くには物凄いエネルギーが居る、だから賢い者は同じか少し下を選ぶ。けど、それは下も同じ、しかも後から上がったり下がったりする場合も有る。自分が無理無くどうにか出来る範囲内の相手を選んだ、だけだ、その下振れだっただけ》
「自分では、そう思っていたつもりなんですが」
《まさか、好意を偽るだなんて思わなかった、そんな事をする奴は少数だ》
「はい」
《善性を信じて裏切られた、しかも前科が有ると知ってるなら未だしも、偽りの経歴と面接態度に騙された。重要な職業なら、経歴詐称、犯罪だぞ》
「はい」
《互いに好き合っている、と互いに思い込む方が利が有る、と思わせる。それがホスト、詐欺師、結婚じゃないか》
「利を、私が提供出来ていなかった」
《いや、価値が分からない奴には何をしても無駄だ。他人にアレは良いぞ、と勧められて買ったとしても、気に入らなければ結局はゴミ同然の扱いになる。確かに馬鹿に利用されたが、珍しくない、しかも擬態方法がそこらに転がってる。1番は、その擬態方法を悪用する奴だろ、情報だけなら善も悪も無い筈だ》
「詐欺師の理屈が若干見え隠れしてましたが、包丁は悪くない、悪いのは犯罪に使う奴ら。ですが、良く殺せる包丁です、因みにこうすると良く殺せます。と売るのはどうかと」
《全く、その通りだと思う。けどな、騙された事が無い奴なんて、本当に稀有だと思うぞ。それこそ神頼みが最たるものだろ》
「屁理屈に近い道理ですね」
《癌が治る、目が良くなる、良縁に恵まれる。騙される機会が有れば、誰だって騙される事が有る》
「しかも、騙された事に気付かない事も」
《アンタの事を謗った奴は、親が老いた時か子供で悩んだ時に騙される》
「どうすれば騙されませんでしたか」
《俺が兄弟だったら、もっと褒めてる、自分の価値をしっかり分からせて俺も選ぶ》
「なら、アナタなら、それを信じましたか」
《いや、自分だけが平凡だと思ってたんだろ、おためごかしだろうと思うね》
「半ばそうでした」
《なら叔父とかが良かったんだろうな、そうすれば両方が救われた》
有り得ない、もしも。
もしも叔父に居たなら、少しは何か変わっていたかも知れない。
「では叔父として回避させて下さい」
《敢えて松竹梅で男を選ばせてから、1番上を狙わせ、上位3人は実は肩並びだと教える。そして幾ら付き合っても、中身は探りきれない事を認識させる。結局は家族ぐるみで付き合って、合うか合わないか、別れを特別扱いさせない》
「離婚も、珍しくない」
《そう、結婚まで猫を被ってる奴が少なくないからこそ、騙されたって言って離婚する奴が居る。確かに大袈裟に言う奴は居るが、本当に騙された奴が居ないワケじゃない。利を見出したら殆どは媚びる、偽る、無意識に無自覚に騙そうとするやつが居る》
「じゃあ、もう、面倒臭いので叔父さんが選んで下さい」
《勉強が出来て俺位は賢い奴で、気の良い友人が居て、立場が安定している奴。敬ってくれる、後回しにせず、常に一緒に過ごそうと努力し、正直に話せる。何の依存症も無く、奨学金以外の借金も無く、共感能力の有る奴だな》
「やっぱり、自信が無かったせいで」
《そこは家族の問題だろ、何人も居たんだ、もう少しマトモに自信を付けさせるべきだった》
「いや、協力してくれてたんですけど」
《他にも何か有ったのか》
「ざっと言うと、初恋の人に編んだ手編みのマフラーが盗まれ、その人の誕生日の翌日に見付かった。別の子が、その彼に自分が編んだと偽り渡してたんです、けど発覚後も彼は何も言わなかった。それに、私がイジメてると勘違いしていたクラスメイトも、何も言わなかった」
《よし、殺そう》
「ありがとうございます、そして就職先も、画家で売れてる妹と勘違いして私を採用しドタキャンした」
《潰れろ》
「無理ですね、かなりの大手ですから」
《何で新聞社だとかにタレ込まなかったんだ》
「恥だと思ったので、実績が本当に私だけ、無かったですから」
《バレエやってたんだろ》
「続けていても実績になったかは別です、あ、後はプロにアレンジが1回だけパクられた程度ですかね」
《結構、有るな》
「それはあんまり問題だとは思って無かったんですけど、まぁ、微妙な思い出と言う感じですね」
《成程な、方々から削り取られたら、家族でも埋めるのは難しいか》
「しかも引っ込み思案で泣き虫で、遊園地以外は特に興味が無かった」
《しかもなまじ賢いから言いくるめるのも難しい》
「家族の言う事は、素直に聞いていたつもりだったんですけどね、はいはいと流していたのは確かです」
《俺と同じ位に賢い男にしろ》
「はい、でも無理ですよ、そこそこ年上なんですから」
《けど年上は嫌だ》
「上手い様に使われるだろう、浮気だって隠すのは上手だろう、ですね」
《それも何か原因が有るのか》
「ドラマとか、テレビ、ですかね」
《あぁ、多かったからな》
「年上はろくでも無い、有名人はろくでも無い、顔が良い奴はもっとろくでも無い」
《何でも、大した事じゃないと思ってるんだろ、けど被害はその後に来る》
「実感が籠もってらっしゃる」
《まぁ、実感したからな》
叔父でも、良かったかも知れないな。
それなら、きっと誰も不幸にならなかった筈だ。
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六山葵
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生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
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優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
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しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
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事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
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異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
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当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
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