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旅立ち。
ワイナミョイネン。
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ローシュ様が言うには、女神イルマタール様に導かれて、セレッサとロヴァニエミの端にあるココへ来たらしい。
そこで魔道具を探しに来たのだと、このお爺さんに伝えると、何が欲しいのかを聞かれ。
「ドアで何処へでも繋がれれば、と、それでセレッサにドアを運んで貰ったの。その間、お話を聞かせて貰ったのだけれど」
『ロウヒとイルマリネンは争ったまま、私がココで魔道具を管理しているのだよ。本当に、酷い事をしてしまった』
ココに広まっているのはカレワラと呼ばれる叙事詩、ココの神話だそうで。
けど転移転生者により広まった事で、神が操られる側となってしまった、らしい。
「物語に左右されまいと頑張ったそうなのだけど」
『因果律とでも言うのだろうか、争いを避けフィン族を纏め上げるつもりが、結局は物語に流されてしまった』
ワイナミョイネン様は、気が付いたら既に居たらしい。
そして少しだけ先の事を知ってて、どうしたら良いのかを分かってたって。
「改変される前の物語では、彼が最初の男性、天地創造の神なの」
『ギリシアやローマを追われた者が、エストニアからカレリアへ、そうしてフィンランドへ。その詩に書かれている野蛮な巨人だとされるカレヴィポエグ、彼らこそカレリア人。木を切り倒し畑を肥やす、ココでの生き方を事を教えてくれたのは彼らなんだ』
《そしてケルト、ドルイドも元になってらっしゃいますよね、世界樹信仰》
『神の声を聞き、神に従い、北へ北へと逃れた者が合流している。最早ココの者にドルイドである自覚は無いだろう、けれども確かに、神との繋がりを感じている』
《ファウスト、女神ケリドウェンの大釜を覚えてますか。ドルイドもまた、大釜を儀式に使ったとされているんです》
『そしてココではサンポと呼ばれている、それが何を意味するのか、分かるだろう』
《聖杯を奪い合う、争いが起きてしまったんですか?》
『あぁ、最も北にあるとされる地ポホヨラ、そこに居る大魔女ロウヒなる者が持っていると。王杯だと思った一族の者が争い始め、神話と同じ様に手先が器用な者をイルマリネンとし、争いながらも北を目指し始めた。そうして同じ様な争いが起こり、同じ様な悲劇が起きてしまった。神話と違う事と言えば、若い者が私が何を言っても止まらなかった事だった』
《でも、ロウヒ様もイルマリネン様もいらっしゃるんですよね?》
『争い合ったが、一神教の者や隣から恐ろしい話を聞き、一時は停戦もしたのだが。打倒一神教の為、再び争い合う事になり、ロウヒとイルマリネンは決別する事になった。そこでやっと、因果律から解放され、私が魔道具を取り上げたのだよ』
《では、大釜もココに》
『いや、アレはロウヒの物だ、美しい娘を持つ魔女ロウヒの物』
「ケリドウェン様に相当する方」
《ドルイド、マビノギオン、カレワラに共通する大釜の魔女。ですね》
『そう思うならそうなのだろう、お主らがそう思うなら、我々は我々を定義する事は不可能なのだよ』
「そうしてアナタは役目を終え、神々も幸せに暮らす死の国、トゥオネラへと至るのですね」
『ぁあ、パイヴァタールへ、アッカの元へ』
お爺さんは話し終えると、すっかり止まってしまった。
そうして指先から灰になると、暖炉から外へと行ってしまった。
《嘗ては人であったのかも知れませんね》
ローシュ、泣いてる。
「はぁ、ね、どうしましょうね、この魔道具達」
《ローシュ様、返すにしても、会ってみては?》
「そうね、そうしましょう、宜しくねセレッサ」
ローシュが影から2組のドアを出して、1組を家の壁に取り付けて。
それから竜化した僕より大きいセレッサの手に運ばれて、着いたのは、イルマリネンって神様の家ぽっい。
『男の匂いがする、最初にコッチなんだね』
「成程。じゃあちょっとだけ、脅かしてみましょうか」
『老いる指輪?』
指輪を付けて、ショートベールまで付けて。
それから僕らに手で下がれ、って。
「失礼します、イルマリネン様のお宅でしょうか」
『どちら様でしょうか』
「老婆の、魔女の首輪を受け取りに参りました」
ドアを押し開けられ、思わず彼女が来たのだと腰を抜かしてしまった。
けれども彼女の声とも違う、重く、魔力の籠った声。
『そんな物は、作ってはいないんだ』
「あら、そう伺ってますが」
『そう言えば、そうすれば、その場が収まると思って出まかせを言っただけなんだ』
「そうですか。ワイナミョイネン様が幸福なる死者の国へと旅立たれましたので、魔道具をお返しに参りました」
『君は、ロウヒなのかい?』
「いえ、ローシュと申します」
『そうか、なら全ては彼女へ、ロウヒに渡して下さい』
「私が持ち去ってしまう心配は無いのでしょうか」
『ワイナミョイネンが君を家へと招いた時点で、信用される者だと言う事、そう託したのなら君の物と同義だよ』
「ワイナミョイネン様を殺し、略奪しただけかも知れませんよ」
『それ程の力が有り、魔道具を持っているなら、僕に太刀打ち出来るワケが無い』
「なら彼女に謝って下さい」
『謝って許される事では無いんです、帰って下さい』
傷付け、酷い事を言ってしまった。
そうして彼女はその通りに、老いてしまったのだから。
「締め出されちゃったわね」
『ね、次はロウヒの所かなセレッサ』
そうだと言うかの様に、セレッサの手が開いた。
中は柔らかく、暖かい、そして音も無く静か。
ルツさんは勿論、アーリスもローシュも寛いでいるし、ファウストも。
《ローシュ様、大丈夫ですか?》
『涙、直ぐに引っ込んだね』
「泣いてもどうしようも無いし、片付けなきゃいけない問題が有るしね」
《イルマリネンさんが好きにして良いって言ってたのにですか?》
「善人、善神か分からない感じだし、念の為よ」
《ローレンス、随分と静かですね》
『こう、指を開けられてしまったら、落ちてしまうなと』
ローレンスは意外に臆病と言うか。
セレッサには、確か。
《大丈夫ですよ、セレッサには水掻きが有りますし、ほら》
『そっ、セレッサ、分かったから指を閉じてくれないかな』
《えー、良いじゃないですか真下が見えて》
『確かに、便利、偉いねセレッサ』
「凄い度胸ね、アーリスもファウストも」
『ローシュも怖いんですか?』
「だって自力で飛べないし、油断して死にたくないし」
『ですよねローシュ』
《いい景色なのに》
『ねー』
《ルツさんは、慣れですか?》
《私が死んだら嫌われるのはセレッサですから、そこを信頼して、ですね》
「にしても無理だわぁ、もう少し慣れないと」
《じゃあ一緒に落ちても良い様に、抱いておきましょうね》
「ありがとう、ネオスは大丈夫?」
『はい』
『君は、良く平気だねネオス』
『ずっと、ココへ来てから不思議な感じなんです、意識が少し浮いている様な感覚で。夢を見ている様で、怖いと言うか、寧ろセレッサの手の中は安心する感じなんですけど』
『セレッサを信じていないワケじゃないんだ、ただ落ちた先を考えてしまうんだよね、どうにも』
《他の事を考えたら良いんじゃないですか?》
『例えば何かなファウスト君』
《あの流れは、本当に因果律のせいなんですかね?》
「寧ろ人が神話を利用して、威光を借りる為に、なぞろうとしたんじゃないかしら」
《長い歴史の中、同じ人間がしたと言うよりは、誰かが神話と同じ事をしただけか。彼が言う通り大きな流れに逆らえなかったのか、死者に聞いても答えは出ないでしょうね》
「そうなの?」
《大概の死は突然ですから、その死が衝撃的か、その前の衝撃的な事に囚われている事が殆どだそうで。だからこそ穏やかにと宥め、慰め、死んだ事を納得して貰う。その為の死者の国だと聞いていますよ》
「学校で?」
《キャラバンでも、ウチでも》
《まぁ、ココもじゃよね》
《地獄とは違うんですよね?》
《ココでは生者の国とは正反対、真反対じゃとされてるで、あまり飾り立てたり贅沢はせぬのだよ。贅沢をし天秤がコチラに傾けば、コチラが地獄じゃろ、じゃが贅沢でなければ同じ様な生活が出来るでな》
《それだと、清貧なら天国なんじゃ?》
《真冬に薪をケチれば死ぬでな、死に支度でも無い限り、過不足無く生きる事が重要なんじゃよ》
《貧乏にも贅沢にもならない様に適度に、中道、中庸を生きる。素晴らしい道標ですね》
「難しいけど理に適ってるものね、バランスの概念が存在してる」
《他者との関わりでも同じく、出し抜き目立てば殺される、良い死者の国の概念ですね》
「けど、贅沢だと思われたらキリが無さそう」
《そこでクレルヴォの話が出るんじゃよ》
ローシュやネオス、アーリスにはどう見えているのか分からないけれど、ローシュの姿に良く似た女神が話し始めたのは、悲惨としか良いようの無い子供の話だった。
カレルヴォ、カレリア人の本当の兄弟なのか、ゲルマン人の事を同志と認めて兄弟としたのかは不明だが、カレルヴォにはウンタモと呼ばれる兄弟が居た。
そしてウンタモはウンタマラと呼ばれる妊娠した女以外、カレルヴォ家全員を虐殺し、ウンタマラが生んだ男児にクレルヴォと名付けた。
「カレルヴォ家の子ですよね、名からして」
《そうなると妹さんだったって事ですよね》
そしてクレルヴォが3ヶ月の時、ウンタモは恨みの声を聞き子供を殺そうとした。
《溺死、火事、首吊りでも死なぬで、成長させたんじゃが》
「じゃが」
《3つ、仕事をさせても上手く行かず、放置され売り払われたんじゃ》
買われた先の妻に悪戯をされ、彼が大事にしていた形見のナイフが壊れてしまった。
怒った彼は魔法を使い熊と狼を牛に変え、襲われる様に仕向けて殺し、逃げ出した。
だが通りがかった者に両親が生きていると知らされ、家族と合流すると妹が行方不明だと知らされる事に。
そうして本当の家族の元で過ごすも上手くいかず、3つ目の仕事、税の取り立てに行く途中に次々と女に声を掛けるも失敗し。
物乞いをしている少女を何とか口説き、集めた金品全てを渡すからと、そうして一夜を共にしたが。
「妹さん」
《じゃよね、翌朝に互いに名乗り、直ぐに気付いた妹は川に身を投げ自殺した。そしてクレルヴォは取り乱し、母親に泣き付いた》
そして自殺では無く、ウンタモに復讐する事に。
それを母親が止めた、父親や兄弟や将来、復讐の不毛さを諭したが。
決意は変わらず。
けれどクレルヴォは最後に家族に尋ねた、自分が死んだら悲しんでくれるかどうかを。
父親達は答えた、より賢い息子や弟を望む、と。
「良い意味でなら、思い留まれって事だけれど」
《母親は泣くと答えたが、それでも結局じゃよね》
次々に入る家族の死の知らせでさえも復讐心は止まらず、母親の時だけは少し悲しみ、魔法の剣を手に入れた。
そうしてウンタモ家を滅ぼし村を焼き、家に戻ったが、家族の死体が散乱しているのを発見する事に。
《カレルヴォ家の使者だったワケじゃないんですね、知らせたのって》
「ウンタモ家の者か、他の一族の者か、神性か」
そして母親の霊が、犬と共に急いで森に避難する様にと伝えたが。
見付けたのは避難場所では無く、妹と寝た川沿い、その場所だった。
寝た場所には草木も生えず、川には朽ちる事の無い妹が漂い続け、彼を責め立てる様に森も轟々と鳴り響き。
《神から手に入れた剣にクレルヴォは尋ねた、命が宿るかどうかを、剣は答えた。誰の血を飲むかどうかは気にはしない、既に以前にも無実の血も有罪の血も飲んだ事が有ると。そしてクレルヴォは剣に身を投げ自殺した、その事を知ったワイナミョイネンは、人々に伝えたんじゃよね》
子には教育を、虐待は避け、手を掛けよと。
「そうすれば、悲劇は避けられたかも知れない、と」
《例え生きていたとしても、老いても幼いまま、愚かなままじゃろうとな》
俺には彼の気持ちが分かってしまう。
手を掛け、目を掛けられないと、自暴自棄になってしまうと。
愚かに争えば、更に愚かな事になる、分かってはいる。
けれどネオスに、どうしても苛立たしさを感じてしまう。
「だからなのか、フィンランドの教育は素晴らしいと聞いてますよ」
《じゃがアレじゃろ、医療が少し、もう少し母体に優しくても良かろうよ》
「その面倒を見るのこそ、家族かと」
《居らんかったら困るじゃろ、離縁で親の間を行き来させられ、辛かったと聞いておるで》
「ココの方が転移転生者だったのですか?」
《いや、かなり前のキエフ公国の者としてな、カレワラの研究者じゃったで。手書きで何枚も、何冊も認め、残したんじゃが。当時のキエフは一神教の勢力が強くての、神々も保護はしておったんじゃが》
「それでも、良かれと思って」
《ほれもう泣くでないよ、随分と昔の事じゃ。もうクーペリンヴォーリ、処女の死の国へ行ったで、大丈夫じゃよ》
そこで魔道具を探しに来たのだと、このお爺さんに伝えると、何が欲しいのかを聞かれ。
「ドアで何処へでも繋がれれば、と、それでセレッサにドアを運んで貰ったの。その間、お話を聞かせて貰ったのだけれど」
『ロウヒとイルマリネンは争ったまま、私がココで魔道具を管理しているのだよ。本当に、酷い事をしてしまった』
ココに広まっているのはカレワラと呼ばれる叙事詩、ココの神話だそうで。
けど転移転生者により広まった事で、神が操られる側となってしまった、らしい。
「物語に左右されまいと頑張ったそうなのだけど」
『因果律とでも言うのだろうか、争いを避けフィン族を纏め上げるつもりが、結局は物語に流されてしまった』
ワイナミョイネン様は、気が付いたら既に居たらしい。
そして少しだけ先の事を知ってて、どうしたら良いのかを分かってたって。
「改変される前の物語では、彼が最初の男性、天地創造の神なの」
『ギリシアやローマを追われた者が、エストニアからカレリアへ、そうしてフィンランドへ。その詩に書かれている野蛮な巨人だとされるカレヴィポエグ、彼らこそカレリア人。木を切り倒し畑を肥やす、ココでの生き方を事を教えてくれたのは彼らなんだ』
《そしてケルト、ドルイドも元になってらっしゃいますよね、世界樹信仰》
『神の声を聞き、神に従い、北へ北へと逃れた者が合流している。最早ココの者にドルイドである自覚は無いだろう、けれども確かに、神との繋がりを感じている』
《ファウスト、女神ケリドウェンの大釜を覚えてますか。ドルイドもまた、大釜を儀式に使ったとされているんです》
『そしてココではサンポと呼ばれている、それが何を意味するのか、分かるだろう』
《聖杯を奪い合う、争いが起きてしまったんですか?》
『あぁ、最も北にあるとされる地ポホヨラ、そこに居る大魔女ロウヒなる者が持っていると。王杯だと思った一族の者が争い始め、神話と同じ様に手先が器用な者をイルマリネンとし、争いながらも北を目指し始めた。そうして同じ様な争いが起こり、同じ様な悲劇が起きてしまった。神話と違う事と言えば、若い者が私が何を言っても止まらなかった事だった』
《でも、ロウヒ様もイルマリネン様もいらっしゃるんですよね?》
『争い合ったが、一神教の者や隣から恐ろしい話を聞き、一時は停戦もしたのだが。打倒一神教の為、再び争い合う事になり、ロウヒとイルマリネンは決別する事になった。そこでやっと、因果律から解放され、私が魔道具を取り上げたのだよ』
《では、大釜もココに》
『いや、アレはロウヒの物だ、美しい娘を持つ魔女ロウヒの物』
「ケリドウェン様に相当する方」
《ドルイド、マビノギオン、カレワラに共通する大釜の魔女。ですね》
『そう思うならそうなのだろう、お主らがそう思うなら、我々は我々を定義する事は不可能なのだよ』
「そうしてアナタは役目を終え、神々も幸せに暮らす死の国、トゥオネラへと至るのですね」
『ぁあ、パイヴァタールへ、アッカの元へ』
お爺さんは話し終えると、すっかり止まってしまった。
そうして指先から灰になると、暖炉から外へと行ってしまった。
《嘗ては人であったのかも知れませんね》
ローシュ、泣いてる。
「はぁ、ね、どうしましょうね、この魔道具達」
《ローシュ様、返すにしても、会ってみては?》
「そうね、そうしましょう、宜しくねセレッサ」
ローシュが影から2組のドアを出して、1組を家の壁に取り付けて。
それから竜化した僕より大きいセレッサの手に運ばれて、着いたのは、イルマリネンって神様の家ぽっい。
『男の匂いがする、最初にコッチなんだね』
「成程。じゃあちょっとだけ、脅かしてみましょうか」
『老いる指輪?』
指輪を付けて、ショートベールまで付けて。
それから僕らに手で下がれ、って。
「失礼します、イルマリネン様のお宅でしょうか」
『どちら様でしょうか』
「老婆の、魔女の首輪を受け取りに参りました」
ドアを押し開けられ、思わず彼女が来たのだと腰を抜かしてしまった。
けれども彼女の声とも違う、重く、魔力の籠った声。
『そんな物は、作ってはいないんだ』
「あら、そう伺ってますが」
『そう言えば、そうすれば、その場が収まると思って出まかせを言っただけなんだ』
「そうですか。ワイナミョイネン様が幸福なる死者の国へと旅立たれましたので、魔道具をお返しに参りました」
『君は、ロウヒなのかい?』
「いえ、ローシュと申します」
『そうか、なら全ては彼女へ、ロウヒに渡して下さい』
「私が持ち去ってしまう心配は無いのでしょうか」
『ワイナミョイネンが君を家へと招いた時点で、信用される者だと言う事、そう託したのなら君の物と同義だよ』
「ワイナミョイネン様を殺し、略奪しただけかも知れませんよ」
『それ程の力が有り、魔道具を持っているなら、僕に太刀打ち出来るワケが無い』
「なら彼女に謝って下さい」
『謝って許される事では無いんです、帰って下さい』
傷付け、酷い事を言ってしまった。
そうして彼女はその通りに、老いてしまったのだから。
「締め出されちゃったわね」
『ね、次はロウヒの所かなセレッサ』
そうだと言うかの様に、セレッサの手が開いた。
中は柔らかく、暖かい、そして音も無く静か。
ルツさんは勿論、アーリスもローシュも寛いでいるし、ファウストも。
《ローシュ様、大丈夫ですか?》
『涙、直ぐに引っ込んだね』
「泣いてもどうしようも無いし、片付けなきゃいけない問題が有るしね」
《イルマリネンさんが好きにして良いって言ってたのにですか?》
「善人、善神か分からない感じだし、念の為よ」
《ローレンス、随分と静かですね》
『こう、指を開けられてしまったら、落ちてしまうなと』
ローレンスは意外に臆病と言うか。
セレッサには、確か。
《大丈夫ですよ、セレッサには水掻きが有りますし、ほら》
『そっ、セレッサ、分かったから指を閉じてくれないかな』
《えー、良いじゃないですか真下が見えて》
『確かに、便利、偉いねセレッサ』
「凄い度胸ね、アーリスもファウストも」
『ローシュも怖いんですか?』
「だって自力で飛べないし、油断して死にたくないし」
『ですよねローシュ』
《いい景色なのに》
『ねー』
《ルツさんは、慣れですか?》
《私が死んだら嫌われるのはセレッサですから、そこを信頼して、ですね》
「にしても無理だわぁ、もう少し慣れないと」
《じゃあ一緒に落ちても良い様に、抱いておきましょうね》
「ありがとう、ネオスは大丈夫?」
『はい』
『君は、良く平気だねネオス』
『ずっと、ココへ来てから不思議な感じなんです、意識が少し浮いている様な感覚で。夢を見ている様で、怖いと言うか、寧ろセレッサの手の中は安心する感じなんですけど』
『セレッサを信じていないワケじゃないんだ、ただ落ちた先を考えてしまうんだよね、どうにも』
《他の事を考えたら良いんじゃないですか?》
『例えば何かなファウスト君』
《あの流れは、本当に因果律のせいなんですかね?》
「寧ろ人が神話を利用して、威光を借りる為に、なぞろうとしたんじゃないかしら」
《長い歴史の中、同じ人間がしたと言うよりは、誰かが神話と同じ事をしただけか。彼が言う通り大きな流れに逆らえなかったのか、死者に聞いても答えは出ないでしょうね》
「そうなの?」
《大概の死は突然ですから、その死が衝撃的か、その前の衝撃的な事に囚われている事が殆どだそうで。だからこそ穏やかにと宥め、慰め、死んだ事を納得して貰う。その為の死者の国だと聞いていますよ》
「学校で?」
《キャラバンでも、ウチでも》
《まぁ、ココもじゃよね》
《地獄とは違うんですよね?》
《ココでは生者の国とは正反対、真反対じゃとされてるで、あまり飾り立てたり贅沢はせぬのだよ。贅沢をし天秤がコチラに傾けば、コチラが地獄じゃろ、じゃが贅沢でなければ同じ様な生活が出来るでな》
《それだと、清貧なら天国なんじゃ?》
《真冬に薪をケチれば死ぬでな、死に支度でも無い限り、過不足無く生きる事が重要なんじゃよ》
《貧乏にも贅沢にもならない様に適度に、中道、中庸を生きる。素晴らしい道標ですね》
「難しいけど理に適ってるものね、バランスの概念が存在してる」
《他者との関わりでも同じく、出し抜き目立てば殺される、良い死者の国の概念ですね》
「けど、贅沢だと思われたらキリが無さそう」
《そこでクレルヴォの話が出るんじゃよ》
ローシュやネオス、アーリスにはどう見えているのか分からないけれど、ローシュの姿に良く似た女神が話し始めたのは、悲惨としか良いようの無い子供の話だった。
カレルヴォ、カレリア人の本当の兄弟なのか、ゲルマン人の事を同志と認めて兄弟としたのかは不明だが、カレルヴォにはウンタモと呼ばれる兄弟が居た。
そしてウンタモはウンタマラと呼ばれる妊娠した女以外、カレルヴォ家全員を虐殺し、ウンタマラが生んだ男児にクレルヴォと名付けた。
「カレルヴォ家の子ですよね、名からして」
《そうなると妹さんだったって事ですよね》
そしてクレルヴォが3ヶ月の時、ウンタモは恨みの声を聞き子供を殺そうとした。
《溺死、火事、首吊りでも死なぬで、成長させたんじゃが》
「じゃが」
《3つ、仕事をさせても上手く行かず、放置され売り払われたんじゃ》
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怒った彼は魔法を使い熊と狼を牛に変え、襲われる様に仕向けて殺し、逃げ出した。
だが通りがかった者に両親が生きていると知らされ、家族と合流すると妹が行方不明だと知らされる事に。
そうして本当の家族の元で過ごすも上手くいかず、3つ目の仕事、税の取り立てに行く途中に次々と女に声を掛けるも失敗し。
物乞いをしている少女を何とか口説き、集めた金品全てを渡すからと、そうして一夜を共にしたが。
「妹さん」
《じゃよね、翌朝に互いに名乗り、直ぐに気付いた妹は川に身を投げ自殺した。そしてクレルヴォは取り乱し、母親に泣き付いた》
そして自殺では無く、ウンタモに復讐する事に。
それを母親が止めた、父親や兄弟や将来、復讐の不毛さを諭したが。
決意は変わらず。
けれどクレルヴォは最後に家族に尋ねた、自分が死んだら悲しんでくれるかどうかを。
父親達は答えた、より賢い息子や弟を望む、と。
「良い意味でなら、思い留まれって事だけれど」
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《カレルヴォ家の使者だったワケじゃないんですね、知らせたのって》
「ウンタモ家の者か、他の一族の者か、神性か」
そして母親の霊が、犬と共に急いで森に避難する様にと伝えたが。
見付けたのは避難場所では無く、妹と寝た川沿い、その場所だった。
寝た場所には草木も生えず、川には朽ちる事の無い妹が漂い続け、彼を責め立てる様に森も轟々と鳴り響き。
《神から手に入れた剣にクレルヴォは尋ねた、命が宿るかどうかを、剣は答えた。誰の血を飲むかどうかは気にはしない、既に以前にも無実の血も有罪の血も飲んだ事が有ると。そしてクレルヴォは剣に身を投げ自殺した、その事を知ったワイナミョイネンは、人々に伝えたんじゃよね》
子には教育を、虐待は避け、手を掛けよと。
「そうすれば、悲劇は避けられたかも知れない、と」
《例え生きていたとしても、老いても幼いまま、愚かなままじゃろうとな》
俺には彼の気持ちが分かってしまう。
手を掛け、目を掛けられないと、自暴自棄になってしまうと。
愚かに争えば、更に愚かな事になる、分かってはいる。
けれどネオスに、どうしても苛立たしさを感じてしまう。
「だからなのか、フィンランドの教育は素晴らしいと聞いてますよ」
《じゃがアレじゃろ、医療が少し、もう少し母体に優しくても良かろうよ》
「その面倒を見るのこそ、家族かと」
《居らんかったら困るじゃろ、離縁で親の間を行き来させられ、辛かったと聞いておるで》
「ココの方が転移転生者だったのですか?」
《いや、かなり前のキエフ公国の者としてな、カレワラの研究者じゃったで。手書きで何枚も、何冊も認め、残したんじゃが。当時のキエフは一神教の勢力が強くての、神々も保護はしておったんじゃが》
「それでも、良かれと思って」
《ほれもう泣くでないよ、随分と昔の事じゃ。もうクーペリンヴォーリ、処女の死の国へ行ったで、大丈夫じゃよ》
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