薔薇とジャガイモの花〜平凡な40代の女が美麗な少年伯爵に溺愛されるまで〜

中谷 獏天

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3 美少年伯爵の思惑。

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 家に東の国の者が来た。
 しかも魔獣無しの来訪者。

 入って5日目に知らされたが、全く違和感が無かった。

 コチラが侍女長達に試されているのかと思い、観察を続け、面談を行ってみたが。
 見事に侍女長の言い付けを守り、嘘を言わなかった。

《気に入ったのか坊っちゃん》

 私の魔獣の小鳥は、外見とは裏腹に言葉遣いが勇ましく低い。
 他の者には単なる小鳥、しかも綺麗な声で囀るが、コレだ。

『あぁ、気に入った』

 あの女は何の特技も無いと言っていたが、家が崩れる要因を直ぐにも的確に挙げ。
 初めてだと言うのに侍女見習いとしての役目をそつなくこなし、私に言い寄る気配も全く無い、弁えた女。

 そして何より、あの紅茶を喜んだ事だ。

《年増が過ぎるだろう》
『若返りの秘儀が有るだろう』

《だが寿命は伸びないぞ》
『なら、アレは不健康で短命か』

《いや、もし遡れたなら、どちらかに転ぶ匂いがする》

 覇気が有り活き活きとしているモノが、必ずしも長く生きるとは限らない。
 しかも東の国はコチラでも長寿国として知られている、今年の最年長者は112才、耳は遠いが頭はハッキリとしているらしい。

 寿命と健康は深く関わる、だからこそ使用人の健康管理は怠らない。
 一々変わっては費用対効果が悪い、長く使える者は重要だ。

『私もそう思う、なら問題無いだろう』
《それで言い寄られたらどうする》

『塔に返品するだけだ』

 監督所と言う名の付いた、幽閉塔。
 どんなに質が悪いのかと思って居たとが、少なくとも彼女はマトモだった。

《物好きだな》

『本能を優先させれば捨てられた虎になる、だが私は捨てられない虎を目指している、なら選択肢は多い方が良いだろう』

 結婚相手を正しく選べなければ、家は簡単に壊れる、潰える。
 以前の私の祖父は妻選びを失敗し、結果家は断絶した。

「ご主人様、失礼しても」
『あぁ、入れ』

「コレが今現在までに届いたコーリングカードです」

 貴族の面倒な風習、訪問日。
 会いたいと思える者が居れば会うが、今の私には見合いの為の訪問が殆ど。

 仕事に繋がるならまだしも、私の年齢まで婚約者が居ない者は、問題が有るか無能かのどちらか。

『良いのは居たか』

「私の印象から勝手に決め、裏に印を付けておきました」
《おぉ、嘘を吐いたぞ、この女》
『そうか、助かった』

「良さそうな方も居ましたよ、少しはお会いになられては?」

『分かった、次に良いと思えたら通せ』
「はい、承知致しました、では」

《どう処分する》
『いや、脅しのつもりだろう。あまり消極的でも体面が悪い、次は会ってやるか』

《良いのか、結婚は失敗に終わった女だぞ》
『下手に夢を見ているよりは、ずっと良いだろう』

 寧ろ失敗を知らない女よりは、ずっと良いだろう。



『ご主人様、準備が整いました』
『分かった、直ぐに向かう』

『いえいえ、少し待たせましょう、アチラで御座います』

『あぁ、随分と気合が入っているな』
『ですが中身がどうかは分かりません、必ずしも、ご令嬢に選ぶ権利が有るとは限りませんから』

 坊ちゃまにも婚約者が居りましたが、ずっと、他に慕う者が居られた方。
 爵位が上がった際、向こう方から破棄の申し出が有り、破談となりました。

 そしてご令嬢は、直ぐにも筋骨隆々で雄々しい方とご婚約。

 坊ちゃまは気になさる素振りは全く無いのですが。
 やはり男として、幾ばくか傷付かれたご様子でした。

『役に立つのなら、何でも良い』

 それだけで家族が成り立つモノなら、誰も苦労はしないのですが。
 まだ坊ちゃまは若いですし、復讐の念も未だ衰えず、ですからね。

『少なくとも家柄に問題は無く、ご両親も立派なお方でらっしゃいます』
『だが子は別だろう、もう良いか、さっさと終わらせたい』

『はい、では』
『あぁ』

 お仕事中毒、と申しましょうかね。
 復讐の為にお仕事をなさるのは結構な事ですが、それだけでは、いずれ行き詰まるでしょう。

 余裕が出た時、ふとした瞬間。
 虚しくなり全てを投げ出されては、結局は復讐を遂げられたとは言えません。

 相応のお立場となり、且つ、お幸せに暮らす。
 コレこそが真の復讐である、私はそう思うのですが。

 坊ちゃまはまだ、復讐の先をお考えではらっしゃらない。
 はい、まだ坊ちゃまは若い、ですからね。



《また、帰らせてしまったのですね》

『侍女長、アレでマシなのか』

《何が問題でしょう》
『決まり切った似た答えばかり、深く突っ込めば黙るか逃げるか』

《坊ちゃま、ご自分のお年をお考え下さい、全く同じ年でアナタ様と同じ方はそう居ない事はお分かりでしょう》
『だが』

《多少はお育てになるお覚悟をお持ち下さい、愛で育て、共に成長するのが本来のお姿ですよ》

 坊ちゃまには、復讐の根幹となる要因が御座いますが。
 それは我々、私と執事長のみが知る所。

『アレを育てろ、と』
《ですから、多少なりとも情が持てる者を選ぶべきなのです。坊ちゃま、切り捨てればキリが無いと分かってらっしゃる筈です、何処かで目安を付けねばご結婚は難しいですよ》

『考えておく』

《では以降は》
『仕事が溜まっているんだ、次回の訪問日に改めて答えを出す、茶会は入れてくれるな』

《分かりました、では》
『あぁ』

 復讐は結構ですが、お幸せにならなければ意味が無い。
 その事に、まだお気付きでは無い。

 だからこそ、あの子を呼んだのですが。

《はぁ》
「どうなさいました侍女長」

《本当に、子育てってたいへんね》
「その様ですね、肩でもお揉みしましょうか」

《ありがとう、お願いね》
「はい」

 この子、全く坊ちゃまに興味を示さないんですよ。
 もう少し、食い付いて下さると思っていたんですが。

 本当に、謙虚な国の出身でらっしゃる。



『ご主人様、そろそろご休憩なさって下さい、侍女達は先に休憩されてしまいましたよ』

『誰の指示だ』
『侍女長と、例の方です』

 また、あの女か。

『そうか、分かった、休憩にする』
『はい、因みにですが侍女長達は、キッチンで休憩しております』

『注意されに行ってやるか』
『はい、お供致しましょう』

 幾ばくか、この家は変わった。

 以前より円滑に回り始めたのは彼女のお陰だ、と侍女長は言うが。
 特段に何が上手いワケでも、特筆すべき何かを持っているワケでも無い。

 だが、実際に使用人達の雰囲気は確かに和らいでいる。
 そして仕事の質も問題は無いが。

 それは単に慣れただけ、だろうに。

《あらぼ、ご主人様、やっと休憩でらっしゃいますか。痺れを切らして私達は先に済ませて頂いております》

 例の女が居ないが。

『アレはどうした』

《あぁ、あの子は少し目眩がしたと、少し休ませて居りますが》
《気のせいか、あの紅茶は飲ませては不味いモノじゃないのか》

 紅茶か。

『執事長、ココを見張れ。全員動くな話すな、分かったな』
『はっ、承知致しました』

『侍女長、付いて来い』
《はい》

 まさか、ココに毒を盛る者は居ない筈だが。
 一体私は、何を見逃した。

『入るぞ』
「えっ」

『具合が悪いのだろう、そのままで居ろ』
「いえ、少し動悸がするだけで、少しすれば収まるかと」
《脈が早い、盛られたな》

『何を口にした』
「紅茶とお菓子ですが、デカフェを頂いたので大丈夫かと」
《そう言う事か、だが確かめる必要が有るな》

『収まるまで休んでいろ、それと水を良く飲め』
「はい、申し訳御座いません、ありがとうございます」

『侍女長、付いて来い』
《はい》

 あのキッチンの紅茶は、本当にデカフェだったのかだ。
 そうで無ければ、別の体調不良だろう。

 だがその可能性は低い、アレは真剣に体調管理に務めていた筈。

『コレを飲んでいたのか』
《はい》

《あぁ、カフェインの味がするぞ、コレだろうな》

『この紅茶は誰が選び、誰が淹れた』
《それは》
《申し訳御座いません!まさか、本来の紅茶が本当に苦手だったなんて》

『以降コレと一切の接触を禁ずる、お前は部屋に居ろ、出たら殺す。侍女長、嘔吐剤とアイツのミルクを用意しろ』
《はい、只今》

 死にはしない。
 だが苦痛は苦痛だ。

 意図せず酒を飲まされたら、誰であろうと不便さを感じるだろう。
 だと言うのに。



『吐け』

 あぁ、デカフェでは無かったんですね。
 良かった、また発作が再発したのかと思いましたよ。

《コチラ》
「あ、嘔吐剤は結構です、何も無くても吐けますから」

 食中毒で倒れて以来、簡単に吐ける体質になってしまったんですよね。

 なのでもう、それは盛大に吐いては飲み、吐いては飲みをし。
 疲れたので、そこで止めさせて頂きました。

 コレ以上は流石に、発作が出そうなので、はい。

『どうだ』
「驚いているので、どちらか分かりかねますが、そこまでご心配頂く必要は無いかと」

 まさか、カフェイン入りを飲まされるとは。
 いっそお酒なら、まだリラックス出来て楽なものを。

『少し仕事を片付けてくるが、無理はするなよ』
「はい」

『任せたぞ、良いな』
《はい》

 全く、感情が見えないんですが。
 怒ってらっしゃる?

「あの」
《本当にごめんなさい、まさか、こんな事をする者がココに居るだなんて。本当に、ごめんなさい》

「いえ、私も、分からない様に確認していれば」
《いいえ、それこそ私のすべき事、私の責任よ。ゆっくり休んで、何か有ればちゃんとベルを鳴らすのよ》

 アレルギーでは無い。
 死なないのに、コレは少し大事では、そう思っていました。

「はい」
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