上 下
13 / 36
女Ωと女αの世界。

1 佐藤 香。

しおりを挟む
 私はΩ。
 死別Ω。

 主にα同士が番、そのどちらかがΩへと変化する。
 男女のα同士なら女がΩに、もしくはαがβと居続けるとΩ化させられる場合も有る。

 私はαだった女Ω。
 普通に惹かれ合い、普通に結婚した筈だった。

 彼が自死するまでは。

 では何故、彼は自死したか。
 理由は未だに分からない。

 番を解除された者とは違い、誰にでも軽く発情し、発情を促せる存在。
 それが死別Ω。

 番を解除されたΩよりはマシだ。

 相手を求め続け、相手の影響が体内から完全に消えるまで、発情を続ける。
 体液接種量が少なければ抜けも早いが、多ければ多い程、地獄の苦しみが長く続く。

 けれど死別Ωは違う。
 番の死の匂いを嗅ぐだけで、直ぐに変化を始める。

 番の死の香りは、甘い匂いだった。
 雨上がりの匂いに似た、切なく悲しい香り。

『佐藤』
「佐藤かおりです、宜しくお願いします」

 αは、必ずしもモテるワケでは無い。
 α同士は身体的相性の良さが無ければ、本来は忌避し合い、Ωへの変化は起こらない。

 だからこそ、α同士より、男αと女βの組み合わせの方が多い。
 αで居るつもりがΩとなれば、望まない変化が勝手に起きてしまうからだ。

 男なら、体は劇的にホルモンを分泌し始め、寿命を縮める程に体へと変化を齎し妊娠する側へ。
 そして女はαが身体的変化をし、精巣と生殖器が生える事になる。

『鈴木 音々ねねと申します、宜しくお願いします』



 私はα。
 死別α。

 主にα同士が番、そのどちらかがΩへと変化する。
 男女のα同士なら本来は女がΩに、もしくはαがβと居続けるとΩ化させられる場合も有る。

 私はα。
 普通に惹かれ合い、普通に結婚した筈だった。

 彼が自死するまでは。

 では何故、彼は自死したか。
 驚く事に、彼がΩ化したからだ。

 Ωとは違い、番が居ても他に発情し、発情を促せる存在。
 それがα。

 男すら孕ませられるのがα。

 私は女だからこそ、男αに抱かれる事が出来た。
 そしてある時、彼が私を抱けなくなってしまった。

 発情はしても抱けない。

 けれど、太古ならまだしも現代には様々な文明の利器が存在してる。
 愛するαを満足させ続けていると、私にも変化が訪れた。

 そして定期検査後、彼は亡くなった。

 本来なら死別αに特に変化は無い。
 ただ女αは変化する、再び元の身体に戻り、受け入れられる様にと変化する。

 番の死の匂いを嗅ぐだけで、直ぐに変化を始める筈だった。

 番の死の香りは、甘い匂いだった。
 雨上がりの匂いに似た、切なく悲しい香り。

「女性の相手は初めてですか」
『はい、前はα男性でした』

 私達は今、お見合い会場に居る。

 国の認定を受けた、安心安全なお見合い斡旋業者の開催する、お見合いパーティー。
 αもΩもβも居るお見合い会場にはΣも存在し、発情する危険性は無い、とされているΣが初めて同席するお見合い会場。

 この女性に魅力を感じているのは、単に同性としての親近感からなのか、Σの抑制力が弱く本能が働いてしまっているのか。

「あの、ココ、どう思われますか」
『Σの抑制力が弱い気がします』

「ですよね、私もそんな気がします」

 あぁ、彼女はΩかαなんだろうか、それか過敏なβか。

『一応、避難しておきましょうか』
「ですね」

 そうして避難し、相談する者が多かった為、お見合いは一時中断。

 けれども影響は無かった。
 私達が怯え、過敏になっていただけだ、と。

 確かにフェロモン独特の香りはしなかった。
 ただ柔らかい香水の香りや、石鹼やシャンプーの香りだけ。

『すみませんでした』
「いえいえ、どうですか、こうして僕と居ると少し嫌悪感が湧くかと」

 何とも言えない嫌悪感、忌避感。
 そこから改めて意識し匂いを吸い込むと、得も言われぬ悪臭が。

『あぁ、言われれば、はい』
「因子が強い人程、僕を忌避したくなるそうですから。では」

『はい、ありがとうございました』

 Σ久し振りに会った。
 成人し番の居るβやαだけが住む地区に居る為、Σが存在しない地区に住んでいる。

 Ωだけの特区は勿論、αを嫌うβ専用の地区、それらが混在する地区等が各地に存在している。

 大昔は大勢の人々が顔を合わせながら仕事をしていたらしい、けれど今は、文明の利器により殆ど人と顔を合わせる事無く過ごせる。

 ただ病院や役所などの要所には、どうしても通わなければならない。
 そうして相手と出会った。

 幸福の中、幸せな家庭を築ける筈だった。

「大丈夫だったみたいですね」
『表向きは、かも知れませんし、自衛するに越した事は無いかと』

「そうですね、どうぞ、交換カードです」

『良いんですか?男性の方が』
「あ、お友達作りもと、なので」

『あぁ、はい、ありがとうございます。私のも、どうぞ』
「はい、また」

『また』

 可愛らしい、と思った。
 自分には無い要素、自分には無い可憐さ。

 少し、羨ましいのかも知れない。
しおりを挟む

処理中です...