入れ替わった彼女

チャロコロ

文字の大きさ
19 / 84

里帰り 3

しおりを挟む
 母は手を休めないままフライパンで肉を焼いている。
 「その電話したのっていつだっけ?」
 「そんなこといちいち覚えてないわよ。あっ、でも確かお父さんの一周忌の辺りだった
 気がするわ」
 父が死んだのは8月だった。今から3ヶ月くらい前だ。佐々木と同時期に婚約することを報告したことになる。
 婚約する相手として二人に伝えた名前は遥だった。やはりおかしい。
 どうして出会ってもいない相手の名前を伝えているんだ?
 「琴音って名前じゃなかった?」
 冗談っぽく言ってみる。
 「あれ?そうだったっけ?そうだったかもね」
 「何だよ、いい加減だな」
 「そう言われるとそんな気がしただけよ。琴音ちゃんって名前なの?」
 興味のなさそうな母の態度に苛立ちながら、「さあな」とだけ応えた。
 だが、母が遥という名前を出したということは、母はやはり私からその名前を聞いたのだろう。
 私と佐々木以外で遥と婚約することを知っている人間はこの町にいない。佐々木が母に伝えるというのも考えにくい。
 母が琴音という名前を聞いた時の反応はよくなかった。母の性格から考えるとその名前は初耳だったように感じる。
 早めの晩御飯を食べた後、帰宅することにした。実家を出ると辺りは既に暗くなっており、寒さが増していた。
 マンションに着いて車から降りると、言いようのない違和感に突如襲われた。周囲を見渡してみるが帰宅途中のサラリーマンが一人歩いているだけで、他には誰もいない。
 気のせいか。
 エントランスに入る場所でマンションの鍵を落としてしまった。
 軽い溜息が出た。立ったまま鍵を拾うと、逆さになった視界に何かが見えた。
 「ん?」
 即座に鍵を拾い上げて振り返るが、そこには何もなかった。
 あれは何だったんだろう。マンションの柱の横に女の人が立っていた?
 まあいいか……。帰ろうとするが、気になって踵を返すと柱へ駆け寄った。
 そこには誰もいなかった。
 やはり勘違いだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...