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覚悟 1
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『着いたよ』
震えた携帯電話の画面は、そっけない文字を表示していた。
外に出て遥の姿を探すと、彼女はすぐに見つかった。
寄って来た遥が何か言おうと口を開いたところで、機先を制した。
「行こう」
一言だけ告げると、踵を返して勝手に歩き始めた。
彼女も察しているのか、無言のまま付いてくる。
総合病院の昼中は多くの患者で賑わっていたが、佐々木の病室に向かうまでの道のりで聞こえてきたのは、二人の足音だけだった。
妙な気まずさを残しながらも、お互いに会話を交わさない。
少しでも話をすると、意思の弱い自分の決意が揺らいでしまう気がした。
三階に上がると数え切れないくらいの病室を通り過ぎて、一つの病室の前で立ち止まると佐々木圭吾とマジックで書かれた名札を確認した。
大きく息を吸って、そしてゆっくりと吐くと扉を開けた。
個室に入れられた佐々木は「おおっ」と声を上げて白い歯を見せたが、私の後ろに遥がいることに気付くと笑顔が固まったように見えた。
長い手術で体力を消費したのか、麻酔が切れたばかりで意識がボンヤリしたままなのか、その両方なのか分からないが、佐々木の顔は青白く元気がなかった。
挨拶の声に張りがないようにも感じる。
普段は口数の多い佐々木だったが、私の後ろに隠れるように立っている彼女に気をとられて言葉を探しているように見えた。
佐々木が呆気に取られている間に一気にたたみ掛けた方がいいだろう。
「佐々木、今日は本当のことを話してくれ」
「……何がだよ?」
「惚けんな。一昨日、お前はある女に腹を刺された。警察も事件性を強く疑っている」
「これは勝手に怪我しただけだぞ」
佐々木の眼が泳いだのを見逃さなかった。
「嘘付けっ!お前が腹を刺された件と、過去の遥の事故は関係しているんだろ?」
根拠なんて全くない。、佐々木の口を割らすには鎌をかけた方がいい。
「そんな鎌かけには引っかからねえぞ」
佐々木が呆れ顔を露わにした。
「警察から訊いたんだよ」
「警察から……?」
佐々木の表情に動揺が走った。
「そうだ、警察は今回の事件と過去の事故は関係があるんじゃないかと疑っている。後
で話を訊きたいとも……」
佐々木は俺の眼を真っ直ぐ見つめた。本当のことを言っているか見極めているのだろう。
「だから俺は……」
「佐々木っ!」
声を荒げてしまった。遥も驚いた顔で私を見つめる。
「じゃあ何で一昨日病院に運ばれた時、事情を話さないまま病院からいなくなったんだ?
おかしいじゃねえか!腹を刺された男が搬送されてきて不審に思わない奴がいないとで
も思ってるのか?知られたらまずいことがあったんだろっ?」
「伊吹……」
「頼む。俺は佐々木のことも、遥のことも分かってなかった。それ以上に自分のことも
……。頼むから本当のことを言ってくれ。遥もだ。遥も知っていることは全部教えてく
れ」
佐々木は困惑した顔を浮かべた後、遥の顔を見つめた。
「よし……。よし、分かった」
佐々木が自分に言い聞かせるように呟いた。
「分かったよ。俺が知っていることは全て話す。だけど、お前達二人は話を訊いて後悔
するかも知れないぞ。特に遥ちゃんは」
「分かってる」
「伊吹の人生を変えてしまうことになる」
「それでも知りたいんだ俺は」
返事をしてから、私は遥に身体を向けた。
「遥も過去のことを思い出すのは辛いかも知れないが、ここにいて欲しい」
遥は沈黙のまま頷いた。その眼にはある種の覚悟が滲みとれた。
震えた携帯電話の画面は、そっけない文字を表示していた。
外に出て遥の姿を探すと、彼女はすぐに見つかった。
寄って来た遥が何か言おうと口を開いたところで、機先を制した。
「行こう」
一言だけ告げると、踵を返して勝手に歩き始めた。
彼女も察しているのか、無言のまま付いてくる。
総合病院の昼中は多くの患者で賑わっていたが、佐々木の病室に向かうまでの道のりで聞こえてきたのは、二人の足音だけだった。
妙な気まずさを残しながらも、お互いに会話を交わさない。
少しでも話をすると、意思の弱い自分の決意が揺らいでしまう気がした。
三階に上がると数え切れないくらいの病室を通り過ぎて、一つの病室の前で立ち止まると佐々木圭吾とマジックで書かれた名札を確認した。
大きく息を吸って、そしてゆっくりと吐くと扉を開けた。
個室に入れられた佐々木は「おおっ」と声を上げて白い歯を見せたが、私の後ろに遥がいることに気付くと笑顔が固まったように見えた。
長い手術で体力を消費したのか、麻酔が切れたばかりで意識がボンヤリしたままなのか、その両方なのか分からないが、佐々木の顔は青白く元気がなかった。
挨拶の声に張りがないようにも感じる。
普段は口数の多い佐々木だったが、私の後ろに隠れるように立っている彼女に気をとられて言葉を探しているように見えた。
佐々木が呆気に取られている間に一気にたたみ掛けた方がいいだろう。
「佐々木、今日は本当のことを話してくれ」
「……何がだよ?」
「惚けんな。一昨日、お前はある女に腹を刺された。警察も事件性を強く疑っている」
「これは勝手に怪我しただけだぞ」
佐々木の眼が泳いだのを見逃さなかった。
「嘘付けっ!お前が腹を刺された件と、過去の遥の事故は関係しているんだろ?」
根拠なんて全くない。、佐々木の口を割らすには鎌をかけた方がいい。
「そんな鎌かけには引っかからねえぞ」
佐々木が呆れ顔を露わにした。
「警察から訊いたんだよ」
「警察から……?」
佐々木の表情に動揺が走った。
「そうだ、警察は今回の事件と過去の事故は関係があるんじゃないかと疑っている。後
で話を訊きたいとも……」
佐々木は俺の眼を真っ直ぐ見つめた。本当のことを言っているか見極めているのだろう。
「だから俺は……」
「佐々木っ!」
声を荒げてしまった。遥も驚いた顔で私を見つめる。
「じゃあ何で一昨日病院に運ばれた時、事情を話さないまま病院からいなくなったんだ?
おかしいじゃねえか!腹を刺された男が搬送されてきて不審に思わない奴がいないとで
も思ってるのか?知られたらまずいことがあったんだろっ?」
「伊吹……」
「頼む。俺は佐々木のことも、遥のことも分かってなかった。それ以上に自分のことも
……。頼むから本当のことを言ってくれ。遥もだ。遥も知っていることは全部教えてく
れ」
佐々木は困惑した顔を浮かべた後、遥の顔を見つめた。
「よし……。よし、分かった」
佐々木が自分に言い聞かせるように呟いた。
「分かったよ。俺が知っていることは全て話す。だけど、お前達二人は話を訊いて後悔
するかも知れないぞ。特に遥ちゃんは」
「分かってる」
「伊吹の人生を変えてしまうことになる」
「それでも知りたいんだ俺は」
返事をしてから、私は遥に身体を向けた。
「遥も過去のことを思い出すのは辛いかも知れないが、ここにいて欲しい」
遥は沈黙のまま頷いた。その眼にはある種の覚悟が滲みとれた。
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