入れ替わった彼女

チャロコロ

文字の大きさ
75 / 84

追及 2

しおりを挟む
 「うーん……」
 腕組みをして必死に思い出そうとする佐々木。できれば、付き合いの長いこいつから話を訊き出したい。だが、刑事さんとの約束もある。時間がない。
 「安藤、お前からも話を訊かせてくれ」 
 「私は……」
 「警察の捜査は確実に進んでいるし、お前が重要参考人であることも既に特定している。
 もう逃げ切れないことぐらい、お前も分かっているだろう?そうじゃなかったら、ここ
 には来ていないはずだ」
 会社では言ったこともないくらい語気を強めた。安藤は眼を伏せて考えていたが、やがて思いきったように口を開いた。
 「分かりました先輩。だけど、これから話すことは先輩にとって必ずしも良い話とは限
 らないすよ」
 「佐々木と同じこと言うんだな。分かってるよ」
 「私と琴音は中学時代からの親友でした」
 「琴音……。そうか、琴音はいたんだな」
 琴音はいない。半信半疑ながらそう思っていた。
 登録していたはずの琴音の電話番号やメールアドレスがなくなっていたのも、私が発作的に消してしまったのだろう。
 安藤は会社の入社が私より遅いので後輩扱いだが、年齢は私と同じだ。琴音は私や安藤の二学年下になることから考えると、中学時代は一年かぶることになる。
 「私はいじめや親の不仲が原因で小学6年の時から登校拒否になっていました。
  ついには両親が離婚して母親についていくことになった関係で、母親の故郷の中学校
 に入学することになったんすけど、既に性格の歪んだ私は一日も学校に行くことはあり
 ませんでした。
  結局、母親は私の祖母や親戚連中とうまくやっていけず、居心地が悪くなって一
 年もしない内にまた引っ越すことになったんすよ」
 彼女はまるで他人事のように自分のことを説明した。
 「過去の自分が不幸だとか、他の人に比べて恵まれていなかったとか、今更そんなこと
 を言うつもりはないですし、そんなことを皆さんに同情されても仕方ないので、その辺
 の事情は省きます。
  一年弱しかいなかったその田舎町で、私はいつも小さな丘の中にある公園で一人で遊
 んでいました。
  遊んでいたと言っても何をしていた訳でもないんすけど、家にいても祖母ちゃんや親
 戚連中から厄介者扱いを受けるだけだったんで時間を潰していると言った方が正しいす
 けど……。
  その公園は人が来ることもあまりない公園だったんで、人間嫌いの私にはうってつけ
 の場所でした」
 「そこで出逢ったのが琴音?」
 安藤は私に微笑んで頷く。その笑顔は私に見せたものというより、過去の楽しい思い出に向けられたもののような気がした。
 「私が公園にいると、琴音は現れたんす。
  彼女はじめじめと薄暗い性格だった私に話しかけてくれました。
  当時中学一年だった私から見た小学生の琴音はガキ臭くて嫌いでした。
  最初は鬱陶しくて無視していたんですが、琴音はそんな私の態度を気にする様子もな
 く屈託ない笑顔で毎日話しかけてきたんす。
  私はそんな彼女のことが羨ましかった。憧れていたんだと思います。
  本当に嫌いだったら、公園に行かなければ済む話ですからね」
 安藤の優しい表情を見ているだけで、彼女にとっていかに琴音の存在が大きかったかが分かった気がした。
 人生のどん底で泥水をすすっていた安藤にとって、琴音は人間としての魂を吹き込んでくれた存在だったのだろう。短い言葉でも、彼女と琴音との深い信頼関係が形成されていたことが分かる。
 「いつの間にか、私達は親友になっていました。
  特に学校にも行かず、友達も全くいなかった私にとって琴音は唯一無二の存在で、そ
 れは転校後も変わりませんでした。
  それどころか絆は強くなっていった。
  琴音は何も育たない渇いていた土に種を蒔いて、潤沢な水で芽を出させてくれたんです。
  でも、琴音にとってショッキングなことが起きた……。
  それは彼女の父親が運転していた車が海に転落し、家族を失ってしまった事故です」
 私は思わず口を挟んだ。
 「おいっ、それって……。それって……。俺が付き合っていた相手はつまり……」
 「月野遥さんの妹です」
 安藤は断言した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

処理中です...