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第6章

6 - 3 紅の盗賊団

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ここはゲルルフ市街の外れにある所謂スラム街と言われている区画
そこにある建物のとある一室

「今日も大量だったな!」「ヒャッホー!」「酒盛りだー!」

と騒ぐ男達を俺は一喝するが

「てめーら!騒ぐんじゃねぇ!今回のシノギはこのスラムの皆の食い扶持だ。特に親も居ないスラムの子供達は俺たちが面倒みねーとならねーんだから…いつも通り半分を山分け、残りは街の皆のために食料・衣服・薬に回す。異論はねーな⁉」と男は鋭い眼光で周囲の男達を見渡す

「勿論です!マトモに生きられない俺たちをお頭がこうして俺たちを纏め上げてくれたからこそ…こうやって俺たちが生活できるんですから!」

「そうだな!」「そうだそうだ!」「お頭万歳!」

と集まった皆は一様に俺を称えてくれる…正直やっていることは紛れもなく犯罪だが、それも全てはここスラムの住人を助けるため…ここに居る人々は市街の人々からは疎まれ蔑まれ…まともな仕事になぞ有り付けはしないのだ

俺はそんなスラムで燻っている男達を纏め上げ、紅の盗賊団を結成したのだ

そして何より俺がお頭として敬われているのは剣の腕が人並み以上に優れているからに他ならない
俺の生家はこの市街ではそこそこの家柄で、幼少の頃剣の手ほどきをしてくれる先生が居たほどだ
だが、ゲルルフの圧政により俺の生家は没落、親は首を吊り兄は幼い俺を置いて夜逃げした…今は何処に居るのかもわからない
俺は幼いながらも剣の腕一本でこのスラムで生活してきた
生きる為にはやむなく人も殺めたし、食う為にやむなく男色の館で尻を差し出しもした…
全ては生きる為…泥水を啜りゴミを漁り…差し出せる物は全て差し出して来た

そして大きくなるにつれて力が付いて来た俺は街の若い男達を連れて街道で狩り…商隊を襲ったり貴族の馬車を襲ったりと行為はエスカレートしていった
そうして得た収入でスラムの捨てられた子供達や動けない老人に女共を食わせて来た──

そして…20になった俺は気が付けば盗賊団の頭として収まっている

「頭!次の標的は何処にしやしょうか?」

「次はもっと大きい所を狙いやしょう!」「商業ギルドの倉庫なんてのもいいな!」
「なら俺はアクセサリーショップのアイテムを根こそぎで!」

と楽しそうに宴の席で酒を飲みながらはしゃぐ部下達を見て俺は思わず笑みを漏らす

「そう慌てるな。まずは入念な下調べだ…今まで通り慎重に行動しねーと…俺たちの肩にはスラムの皆の生活が懸かってるんだからな。分かったら返事!」

「「「「へい!お頭!」」」」

「ならば今日は呑んで次のシノギへの英気を養え。下調べは俺がするから、その間にファリド市街で今日の収穫を売りさばいて皆に食料を配っておけ」

「了解でさあ!」「ついでに娼館で遊んできてもいいですか⁉」「おっ!俺も行くぜ!」

再度騒ぎ出す仲間を微笑ましく眺め…俺も酒に手を付けた──



翌日──

市街へと足を運んだ俺は先日話題に出た商業ギルドへ目を付けた

(そろそろデカい稼ぎを決めてある程度養える金が出来たら盗賊団ごと別の街に移動せねば…いつ足が付くかわからないし…なによりこの街一つでは皆をいつまでも養えはしない…)

とりあえず俺は商業ギルドの中に入るため冒険者風の服装に身を包んで、少し前に商隊を襲って手に入れた宝石を持って、あたかも宝石を売りに来た冒険者を装って商業ギルドの扉を潜る

「いらっしゃいませ~本日は当商業ギルドにどういったご用件でしょうか?」

と受付嬢は営業スマイルで俺を迎える

「今日初めてなのだが…この宝石を鑑定して頂きたいと思って…」と俺は用意していた宝石を懐から取り出して受付嬢の前に差し出すと

「鑑定には手数料がかかりますが構いませんか?」

「あ~…一応買い手の目星は付いているので…手数料を払ってまでは…そうだ!売れるまでこちらの蔵で預かって頂くことは可能でしょうか?」

「一応貸し金庫がありますので可能は可能ですが…一日銅貨1枚で月額だと銅貨25枚となっておりますが…如何致しますか?」と言う受付嬢の顔には不信感など微塵も感じない

「その貸し金庫とやらは自分で管理ができるのですか?他にも預けたい物があるので出し入れを自分で出来るのなら借りたいと思うのですが…」

「貸し金庫は大保管庫にありまして、その中にある小金庫をお客様毎に宛がいまして、専用の鍵を持っていればいつでもご自分の金庫から出し入れができますよ」
という説明にイケる!と判断した俺は「それでは一月でお願いします」と銅貨25枚を渡して大金庫へと案内してもらう

受付嬢に案内され、大金庫へと移動する間…俺は通路の作りや間取りの把握に努める
そして大金庫の中へと入った俺は、その壁に埋まった小金庫の数に驚きつつもどうやって中の物を奪うか思案する

そうこうしている間に受付嬢による金庫の諸注意と使用方法の説明を片隅に記憶しつつ更に思案を続ける

大金庫の鍵は俺が借りている鍵で開くが…中の小金庫はそうもいかない…爆破でもできれば簡単なのだろうが、中の物に傷を付けては意味がない…ここは手間だが鍵を全て自力で突破するしかないな

これは今までで一番の大仕事になりそうだ───


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