子犬の恋

にゃんこ

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擦れた子犬の濡れた恋

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2度目となった今日も、同じ場所、同じ部屋だった。

普通じゃないホテルの中の、普通の部屋。

私の彼は変化を好まない。

事が一段落して落ち着いたのだろう、いつのまにか、彼は寝息をたてていた。

私は、息をするかのように耳元でこう囁く。

「逃がさないように、しっかり捕まえててね」

そうでないと、寂しくて私死んじゃうよ。

私たちの関係にはまだ、少しばかり重たいこの言葉は心にしまっておくことにする。

彼はまだ意識があったのか、うめき声のような返事をして、またスヤスヤと眠り始めた。


恋愛慣れしていない私の今までは、好きな人には振られるわ、友達と好きな人が付き合うわ、好きな人にキモいとか言われるわで散々だった。

そんな今までの失恋を返上しようと、“まずは男に慣れる”なんて自分に体のいい嘘をついて、単純な男を見つけてやっと手に入れたのが今の彼。

好きにならないように、傷つかないように細心の注意を払って。

“自分に本当に好きな人ができたら捨てるだけ”

“好きじゃないから何しても恥ずかしくない”

そうして従順な子犬みたいに、“世の中の男”が何をされたら喜ぶのかを研究するだけ...のつもりだったんだけどな。

いつの間にか研究の対象が“世の中の男”から“私の彼”に変わってしまったみたいだ。

変化を好まない彼が、私の心情の変化に気づいていないか、あれこれ考えると、なんだか訳もなく寂しくなってきてしまった。

涙は見せない。

目覚めた彼の中で今日も鳴く、私はこれからもあなたの従順な子犬で居たいの。

    
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