アイドルになるのを諦めたら、後輩だった現役アイドルに捕まった話

梨の全て

文字の大きさ
6 / 43

一夜明けて






 ——体のあちこちが痛い。

 久しく感じたことのない筋肉痛が今は色んなところで起きている。何か慣れない動きでもしたのだろうか? 昨日何があったのかあまり思い出せない。自分がどうしてここにいるのか、そもそもここはどこなのか。そんなことを疑問に思っていれば、突然奥の扉が開き、そこから誰かが入ってきた。

「あっ、先輩、起きましたか」

 ルルの顔を見た途端、フラッシュバックするように昨日の記憶が呼び起こされた。そうだ私、昨日ルルに……。どうりで、見覚えのない部屋だと思った。そもそも一度も来たことがないのだから。

「ちっ、近寄らないで!」
「えっ?」

 ——なんで驚く?

 拒絶されて当然のことをしたのはルルの方なのに、そんなリアクションを取られるとまるでこっちが悪い事をしたような気分にさせられる。でも、ここはちゃんと言わないと。ルルのためにもならない。

「あんた、自分が何したか分かってるの?」
「せんぱい……」
「あのね、女同士でも犯罪だからね、あんなの。分かってんの?」

 あの時のことは思い出すのも憚れるくらいだ。今は手も足も解放されて自由の身だけど、心なしか錠をつけられていたところがひりひりするような気がする。起きた時まで裸じゃないのは良かったけれど、この服をどうやって着させられたか考えたくない。

——頭ごなしに叱っても意味ないか。

 まずは動機だ。ルルがどうしてこんな蛮行に及んだのか、私はその理由を知らなくてはならない。

「なんでこんなことしたわけ?」
「……だって、先輩がルルともう会わないとか言うから」

 ——はっ? そんな理由で?

 不安になったからってこと? 意味分かんないんだけど。そんなんでいちいちこんなことをしていたら、世の中世紀末もいいところだ。でも嘘を言っているような様子もないし、多分本心なんだろう。

 ——待てよ、そういうことか。

 小さい内から売れてしまった子が倒錯的な行動を取ることはままあることだ。特に芸能界なんて歪な世界、何があってもおかしくない。ルルもきっとそのおかしな慣習に染まってしまっただけなのだ。

 ——いや、だからと言って別にそれをしていい理由にはまったくならないけどね!

「はぁ……。じゃあ、今回が初めてってわけ?」
「初めて?」
「だから、ああいうことをしたのは、私で初めてかって訊いてんの。他の誰かにしたの?」
「先輩以外にするわけないもん」

 言い方に気になるところはあるが、ルルの言うことを信じるなら初犯ってことか。……いや、初犯だとしてもかなりえぐいことしてるな? 法律のこととか全然知らないけど、多分一発で実刑になるとかそういうレベルだよ、これ。

 ——でも、まさかルルがこんなことをするなんて。

 自分で体験しておきながら、未だに信じ切れていない部分もあった。あれだけのことをされたのに、今もこうしてルルと冷静に話せているのはきっとまだ受け止め切れていないからだろう。今までのルルとあの時のルルが余りにも違いすぎて、私の中で一致していないのだ。

 ——まあ、だから、今回のは気の迷いということにしてあげよう。

「はぁ、まあいいわ。今回だけは目を瞑ってあげる。二度とこういうことはしないこと、そして金輪際私の前に現れないで」
「——出ていくんですか?」
「当たり前でしょ?」

 ここの部屋には窓もなければ時計もないので、正確な時間は分からないけど、体感一日くらいは経っている気がする。卒業式が終わってそのまま帰るはずだったのに一向に帰っていないのだ。母がそろそろ警察に通報とかしていてもおかしくない。早く連絡なり何なりしないと。

 そうして立ち上がろうとした私を引き留めるようにルルは言った。

「待ってください」
「何よ、まだなんかあるわけ?」
「先輩。あれ、何だと思います?」

 ルルが指さしたのは部屋の奥。そこにはどこまでも無機質な三脚のついたカメラがあった。カメラの角度的に撮られる場所は、このベッドだ。

「はっ、撮ってたってわけ? 悪趣味ね」
「そういう目的で撮ってたわけじゃないんですけどね。見てみますか?」

 そう言いながらルルが操作すると、近くの机に置いてあったパソコンから動画が流れ始めた。映し出されたのは、無様なまでに痴態を晒す私とそこに乗っかるルルの姿だった。

「分かったから、止めてちょうだい。——で? 何かしら、それで脅しでもするわけ?」
「はい、その通りです。先輩がこの部屋を出た瞬間にこの動画を全世界に公開します」
「……っつ」

 ルルの言葉に下唇を噛む。脅し文句が怖いんじゃない、そんな言葉がルルから出てきたことが悲しかったからだ。

 ——なんでもっと見てあげられなかったんだろう。

 大事な後輩がこんな外道に堕ちてしまったことが悲しくて仕方がなかった。私がもっと傍で気にしていてあげれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

 ——でも、もう起きてしまったことは変えようがない。

 私にできることはこれ以上ルルに罪を重ねさせないことだけだ。

「はっ、馬鹿ね、あんた。そんなことしたらあんたの方がただじゃ済まないわよ? あんたは天下のアイドルで、私は普通の高こ、うせいでもないのか、卒業したから。とにかく、ただの一般人の私とあんたとじゃ受ける被害が桁違いだわ」

 その動画にはがっつりルルの顔も映っていた。あんなのが流出すればルルのアイドル人生は幕を閉じる。そんなことも分からないほど馬鹿じゃないでしょうに。 

「はい。あの動画が世に出たら、大量の違約金や賠償金でルルは終わりです。一生日の目を見ることはできなくなると思います」
「だったら——」
「でも、公開します」
「なんでよ⁉ そこまで分かってるなら公開しなければいいじゃない!」
「先輩がいない人生に意味なんてありませんから」

 ——はっ? なんなの、こいつ?

 破滅願望でもあるわけ? さっきから言ってること訳分かんないし、本当にどうしちゃったの、ルル?

「出ていくなら、どうぞ、先輩。ルルは止めません。先輩が部屋から出れば、この動画を流すだけですから」
「あっそ。勝手にすれば? 私に同情してもらいたいんだろうけど、自分がやったことを考えてみれば? あんたが何しようと、私は出ていくから。だからあんたも無駄な真似はしないで」
「どうぞ」
「本当に出るからね?」

 ルルは私を止めようとはしなかった。止めようとはせず、ただ真っすぐに私を見ていた。その目だけは昔と変わらず、澄んでいるようにも見えた。

 ——これで本当に流したりしたら、もう知ったこっちゃない。

 そもそも私は被害者だ。なんで加害者のこいつのことを考えなくちゃいけない? 今回のことはなかったことにするって言ってるのに、これ以上何を望むの?

 ルルが本当にどうしようもない奴にはなっていないことを祈りながら、私はドアノブに手を掛けた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで国民的アイドルと友達になったら、周りの美少女達から激重感情をぶつけられる件――え!? トップアイドルの君まで!?

沢田美
恋愛
クラスの隅で一人静かに過ごしていた沢渡の高校生活は、転校してきた国民的トップアイドル・白須賀沙也加に「私と友達になろっか」と声をかけられたことで一変する。 住む世界の違うはずの彼女は、なぜか沢渡にだけ無防備に距離を詰め、教室でも屋上でも当たり前のように隣にいるようになった。 そんな沢渡と白須賀の関係をきっかけに、今度はクラスでも一目置かれる静かな美少女・天雨美鈴も沢渡へ近づいてくる。最初は白須賀と話すためだったはずなのに、ある出来事を境に、彼女の視線は少しずつ沢渡本人へ向き始め――。 「優しいよね」 その何気ない一言は、いつしか好意に変わっていく。 軽い気持ちでトップアイドルと友達になっただけのはずだった。 なのに気づけば、才色兼備な美少女たちの感情は“友達”では済まないほど重くなっていて……? トップアイドル×静かな正統派美少女×ぼっちな男子高校生。 “たった一つの優しさ”から始まる、激重感情ラブコメ。

『桜色の高校デビューしたら、百合の美少女モデルに迫られて、なぜか女の子たちの争奪戦が始まりました』

杏仁豆腐
恋愛
中学時代、いじめが原因で引きこもっていた佐倉ひより。 「高校では変わりたい」と決意して、桜色の髪留めをつけて高校デビューを果たす。 しかし入学初日、 ひよりは校内で有名な“百合のように美しい”ファッションモデル、 朝比奈みゆに突然声をかけられる。 「ねえ、あなた……すごく可愛いね。友達になってもいい?」 それが、すべての始まりだった。 ひよりは誰も好きにならないと決めている。 でも、みゆはひよりにだけ距離が近くて、甘くて、独占欲が強い。 さらに―― ほんわか癒し系のこはる クールなS系美人のすみれ 子犬みたいな後輩のりん 真面目で巨乳の委員長まゆ なぜか女の子たちまでひよりを狙い始め、 気づけば毎日が恋と修羅場の連続に。 「私は誰も好きにならない……はずだったのに」 ひよりの心は、 桜のように揺れて、 百合のように誰かを求め始める。 これは、 “恋をしない”主人公と、 “恋を教えたい”美少女モデル、 そして彼女を奪い合う女の子たちが織りなす

陽キャ♀に執着される陰キャ♀の話

Babell
恋愛
陽キャ♀ヤンデレが、陰キャ♀を手中に収める話 百合です カクヨム、pixivにも掲載しています

俺を好きだと告白してきた美少女を嘘告だと思い軽くあしらったら、なぜか俺の専属メイドとして雇われ始めたんだが!?〜専属だからって、俺を独占しよ

沢田美
恋愛
豊橋財閥の跡取り候補として生まれた高校二年生・豊橋凛は、完璧すぎる兄と常に比べられながら、平凡を装って学園生活を送っていた。 そんな凛の前に現れたのは、成績優秀、容姿端麗、運動万能の学園一の美少女・雪乃光莉。 誰からも憧れられる完璧な彼女は、なぜか凛だけを見つめ、近づき、そしてある日、静かに告白する。 「私は、あなたのことが好きです」 だが凛は、その告白を本気だと信じられなかった。 財閥の名前に寄ってきた人間。 兄と比べて離れていった人間。 そんな過去がある凛にとって、完璧な少女からの好意など、あまりにも都合がよすぎた。 だから彼は、彼女の告白を“嘘告”だと思い、軽くあしらってしまう。 けれど――雪乃光莉の想いは、本物だった。 傷ついた彼女が選んだのは、諦めることではない。 「本日より、あなたの専属メイドとしてお仕えいたします」 翌日、制服ではなくメイド服姿で現れた雪乃は、凛の専属メイドになることを宣言する。 完璧すぎる美少女による、丁寧で甘く、少しだけ危ういご奉仕生活。 「凛様。私は専属ですから」 「いや、専属ってそういう意味じゃないだろ!?」 すれ違いから始まる、ハイスペックすぎる二人の学園ラブコメ。 これは、嘘だと思われた本気の告白から始まる、独占欲強めな最強ヒロインと、素直になれない跡取り候補の恋の攻防戦。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

男女比が偏っている世界で女性アイドルのマネージャーになる

普通
恋愛
加藤正行はアイドルにハマっていた。 この生を受けるよりも前からずっとアイドルが好きだった。 握手会やライブなどに行きのは当たり前。 彼は今日もアイドルを推している。 そんな彼の住んでいる世界は貞操が逆転している世界で男よりも女の方が多く、男が重宝される世界だ。 どんな世界でも彼は変わらず、アイドルを推す。 そんな彼に転機が訪れる。 彼が押しているアイドル、齋藤麻衣から『私たちのマネージャーになってくれませんか?』と言われる。 そこから彼の人生は大きく変わっていく。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?