鳴瀬ゆず子の社外秘備忘録 〜掃除のおばさんは見た~

羽瀬川璃紗

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「最近どうなの? 婚活は」

 フランクな言い方に思わずゆず子が目をやると、そこには茶髪で耳の下部分の毛だけピンクに染めたアラサー女性と、黒のロングヘアをざっと後ろでまとめ髪にしたアラサー女性の2人組が、斜め向かいに座っていた。


 本日もカフェテリア白樫、ゆず子は書類作成だ。


 質問したのは黒髪の女で、答えたのは桃色髪の女だ。

「全然ダメだねぇ。この前も合コンに既婚者が混じっててさ」

(へえ、婚活なんて人に知られたら恥ずかしいもの、みたいだったのに、最近はオープンに語り合うものなのね)

「つーか、マジ既婚者来ないで欲しい。マジ迷惑‼」

「ほんとそれ! こっちは既婚者に構ってる暇ないんだってば」


 絶賛婚活中らしい2人は、情報交換と戦果を報告し合っているようだ。

(見た感じ、2人共とっても美人なのに彼氏居ないのね…)

 さり気なく観察するゆず子だが、黒髪の女がアイスティーを口にした後、話を切り出した。

「そう言えばランって、双木ふたきさんとやり取りしてるっけ?」

「双木さん? ああ、SNSでフォロー申請来てフォローしたけど、それっきり何の連絡もしてないわ~」

 桃色髪の女の返答を聞いた黒髪の女は、鋭い目をして口を添えた。

「あの人、ちょっと怪しい。メッセージ来ても反応しないで、距離を置いた方がいいよ」

(ムムム?その『双木さん』も既婚者なのかしら?)
 話が気になるゆず子。桃色髪の女は『忠告』に首を傾げた。

「え、何で? 何かトラブったの?」

「直接トラブってはないけど、おかしな事があってさ…。
双木さん、『合コンの幹事をよくしてるから合コンやる時に呼ぶから教えて』って言われて、連絡先交換をしたんだけど、半年近く経つのに、結局合コンは1度もやってないんだよね」

「えー、なかなか男側のメンツが揃わないとか? もしくは、『自称幹事キャラ』?」

「ただその代わり『婚活情報交換会』的な女子会は2,3回ぐらいしていて、そこでは幹事をちゃんとしているわけ」

(合コン目的で個人情報を聞き出した割に、実際開くのは女子会ねえ…。て、事は双木さんは女性なのかしら)

 ゆず子と桃色髪の女は怪訝な顔をした。

「男性を合コンを誘うのが出来ないとか? 男性恐怖症は仕方ないとしても、それじゃ幹事としてダメじゃん」

「そうなんだよ。『情報交換会』自体は楽しくていいんだけど、本末転倒っていうの? それで、ある時に『あれ?』って思うきっかけがあって、離れる事にしたんだ」

「何あったん?」

「『情報交換会』をした場所が、A駅前にある『B』ってお店だったのね。2時間飲み放題料理8品で、1人4800円だったかな?
まあ、飲み物も種類あったし、お料理も美味しかったし、文句の付け所は無かったの」

「ああ、あそこいいよね。無難だし」

「でさ。交換会の次の週に、会社の先輩の送別会を同じ店でやる事になったの。2時間飲み放題料理8品。1人4200円」

(ほほう?)

 ふとペンの動きを止めたゆず子と同時に、違和感に気づいた桃色髪の女が口を開く。

「え? 同じお店の同じプランなのに、値段違ったんだ?」

「そうなの。SNSフォロー割とか、系列店の会員登録とか、そういうやつで割引効いたのかなって思って。
幹事やった先輩にさり気なく訊いたら、『ネット予約特典で、デザートのアイスがおまけにつくけど、値引きは無いよ』って」

「飲み物メニューとか、料理も同じ? なのに値段違うの?」

「そう。何なら開始時間も同じだし、深夜料金とか、土日はちょっと高いとか、そういうのも全く無いみたい」

 女性2人は腕組みをした。桃色髪の女が顔を上げる。

「例えば『店員がプランの値段を勘違いして請求した』とか? でもなぁ、仮に双木さん自身が皆から会計集める時に間違ったとしても、支払いの時に分かるじゃん。
差額を戻さないのはマズイっしょ?」

「そうなんだよ。でも確証がないんだよね。誰かが飲み放題範囲外のお酒頼んじゃったから、上乗せして集めたとかもあり得るし」

(うーん。双木さんが幹事の立場を悪用して、上乗せ請求して自分の物にしちゃったなら、まずいぞ。でもお酒の場だと、お互いハッキリ覚えてないものだからね…)

 黒髪の女は更に切り出した。

「それから少しして、次の『情報交換会』のお誘いがあったの。前回顔見知りになった人がその時も来ていて、齢も同じだから色々聞いたんだよね。
『双木さんと知り合ったのいつ?』とか、『双木さん主催の合コンて行った事ある?』とか」

「どうだったん?」

「その人…、アベさんて言うけどさ。アベさんは私の半年前に双木さんと出会ってて、『情報交換会』はその時が4回目だったかな?
やっぱり合コンに関しては『主催してる』って言う割に開催ゼロ。その代わり『情報交換会』だけよく開いてるらしいんだよね」

「え…。その双木さんて、目的何なん? コワッ!」

「でしょ? それに『不透明な会計』に関しても、『宴の途中で他の頼むかもしれないから、多めに集めておくね!って声掛けられて500円くらい何故か徴収された事あった』って、言われたんだよ」

(わぁ。明らかに手口めいたものを感じるわ)

 ゆず子はコーヒーを1口飲み、書類記入を再開した。桃色髪の女は引いている。

「絶対それクロじゃん…」

「そしたらさ、私達のその話を訊いていた別の女子…チフユちゃんも双木さんがトイレに行ったタイミングで加わって来てさ。
『あたしも合コン行った事無い。本当にあの人、合コン開く気あるのかな?』みたいな事言って来て…。ただ、そのチフユがヤバイ奴でさ」

 黒髪の女は思い出し笑いをした。

「店員が『お会計で~す』って来たタイミングで、『すんません店員さん、1人何円コースでしたっけ?』って、大声で言ってさ…。
店員が『2時間飲み放題4300円コースです』って返答したら、双木さんの表情が微妙に強張ってて、チフユちゃんが『あ~4300ね。ハイ!双木さんこれお金~!』って!!」

(どんな場面でも、空気読めない人が強いのね…)

 桃色髪の女も吹き出した。

「強メンタル! すごっ!! で、双木さんの『割増請求』を阻止したんだ、その女子」

「そういうこと。双木さんそのあと微妙に機嫌悪くてさ、しまいには『いやもう、今度からアナタが幹事やりなよ』ってチフユちゃんに軽くキレててさ。
…で、これで私の中でハッキリしたんだよね。双木さんが、余分にお金を集めようとしてるって事が」

「そうなんだぁ。でも確かにそこまで来ると怪しいね」

「帰りチフユちゃんと途中まで一緒で、『あなたすごいね』って言ったら『双木さん、前から思ってたけどパーティー屋かもしれないよ』って教えられてさ」

(何、それ?)

 思わず顔を上げると、黒髪の女は補足をした。

「『催し物の為に人を集めて報酬を貰う』的な? 双木さんの場合は人を集めて、個人情報を吸い取っていたのかも。どんなアカウントで何のSNSしてるとか、人との繋がりとか。目的は不明だけど」

 黒髪の女はスマートフォンを取り出した。

「でね。これが『情報交換会』の2日後に来た双木さんのメッセージなんだけど…」

「はぁ?『北海道へ急な転勤が決まりました』? こんなタイミング良く?!」

「そうなんだよ。これにて『情報交換会は休止します』だって! 都合良過ぎだよね~」

「怖い! 婚活中の女子に『何か企む人』って、異性だけでなく同性も居るんだね」


 そう。人の集まる所には『欲と陰謀』も集まるものである。

(成程ね、ならば婚活はオープンにして、進捗を相談したり危なかった話を注意喚起するために、同志が必要になるわけだ)

 婚活を内密にする時代は、終わったのかもしれない。

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