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ある家族の物語

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 私がテレビを点けると、アニメが流れていた。 

 小学5年生のケイタはある時、家族旅行でとある地方へ行った。滞在先の温泉街に住む、同い年の少女タマキと出会う。 

 タマキは父親と暮らしていたが、仕事の都合で家を空ける事が多く、現在は父方の祖父母と暮らしてるという。 

 タマキの父は年に数回しか祖父母宅に来ず、母もとうに他界していたため、タマキはとても寂しい思いをしていた。 

 滞在期間はあっという間に過ぎ、『またね』と約束し帰って来たケイタ。心の隅では、タマキの事を忘れられずにいた。 

 元気の無さを指摘され、タマキの事を親友:ハルカに話すと『文通をしてみては?』と提案される。
 だが住所を聞き忘れたケイタに残る手掛かりは、『タマキの少し変わった苗字』と『父親の所在地』のみ。
 ところが、ハルカには聞き覚えがあった。 

 ハルカの父が経営する会社で、最近取り引きを開始した関係者と『苗字』『居住地』が合致したのだ。
 直接会った事があるハルカの父によると『性格に難があり、アル中でパチンコ狂』との事だ。 

 だが、ケイタは休日にバスを乗り継いでタマキの父かもしれない男の元へ向かった。
 勤め先に行ったが居らず、同じ会社の人へ聞くも『無断欠勤が多いから、いつ来るか判らない』『パチンコ屋に居ると思う』との返事だった。 

 ケイタは教えられた自宅アパートで待ち伏せし、やってきたタマキの父に『タマキともっと話してあげて欲しい』と言ったが、反応は冷たかった。 

 遅いケイタの帰宅に、父は激怒し母は猛烈に心配していた。理由を問われても、ケイタは頑として話さなかった。 

 ケイタがハルカにこの1件を話すと、『自分たちで頑張ってタマキの住所を割り出し、手紙を出そう』という結論に達した。
 何とかタマキの連絡先を割り出し、ケイタは文通をしたい旨とタマキの父とのやり取りを文面にしたため、手紙を投函した。 

 数日後、学校から帰宅したケイタは姉に呼び止められた。見た事の無い住所からの手紙を不審に思った姉が、事もあろうかタマキからの手紙を勝手に開封し、読んだと言う。 

 姉は『人様の家の事情に首を突っ込むとは何事だ』と怒ったが、ケイタは『姉だからと言って、弟の手紙を勝手に読むとは何様なんだ』と怒り心頭。 

 ケイタは家を飛び出し、タマキの元へと家出した。 


(え、今日って特番か何かなの?このアニメってこんなにシリアスじゃなかったのに) 

 エンディングテーマは、いつもの様にのどかであった。

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