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扉を開ける者 ※犯罪行為表現あり

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 私は結婚4年目にして、結婚式を挙げる事になっていた。

 子供が生まれてから、ウエディングドレスを着るとは思わなかった。
 感慨と余韻に耽りつつ、挙式披露宴後の両家親族での二次会の支度をしていると、聞き覚えのある声がした。

「ママー!!」

 振り返ると、義両親と一緒の筈の娘が居た。

「カノン? おばあちゃんと一緒じゃなかったの?」

「ママいないから、さがしにきたの!」

 着替えや手荷物の受け取りで、私と夫は1度控室に戻る。その間、娘は義両親と共に待機する手筈だった。

(スタッフ専用口から中に入って来た…?いや、でもそんな事あり得る?)

 すると、実母から着信。

『あ、もしもし?急にごめん!カノンちゃんが居なくなったの!』

「え?」

 実母は焦っているのか、私の言葉を遮り早口で説明を始めた。

『夕食会へのタクシーに乗る寸前で、【ママと行く!】って式場に引き返しちゃって。追いかけたのに何処にも姿が無くって…!今みんなで敷地の外探してる!』

 それを聞き、私は悟った。

(…遺伝した)


 私には瞬間移動の能力があった。
 部屋のドアや引き戸を開ける前に強く念じると、望んだ場所へ行ける。

 私が初めて能力を発動したのは、4歳だった。

 テレビで素敵なドレスのアイドルを見て、『あの服をもっと間近で見たい』と思い部屋の戸を開けると、テレビ局の衣裳部屋と繋がった。


(ママ会いたさに、能力を発動させたのか)

「母さん、落ち着いて。今ここにカノン来てる。大丈夫だから」

『え!そうなの…。良かった』

「ところでうちのお姑さんは?」

『それが、トクシゲおじさんと揉めちゃって…』


 トクシゲは実父の従兄で、直接的な所縁が無いので呼ばない予定だったが、『どうしても行きたい』と所望したため招待した親族だ。
 自己顕示欲強めで何事にも首を突っ込みたがる、面倒な男である。


『披露宴でかなり呑んで酔ってて、【あーあ、ちゃんと手を繋がないと。きっと今頃死んでるよ?】とか【どれ、死体でも探しに行くかな。何せ俺、消防団長だし今まで何体も見つけて来たから、得意だ】とか言っちゃって…。
神地家のお母さん、お冠だよ。【こんな時に言う事か!】って』

 姑は娘を溺愛している。怒りの様が目に浮かんだが、それ以上に。

(勝手に人の結婚式に来た挙句、そういう暴言を言ったんだ?あのくそジジイ!)

 私は怒りで頭が逆に冷えるのを感じた。


 母との通話後、別室で担当プランナーと話し込み何も知らぬ夫に『ちょっと電話かける』と告げ、私は娘とトイレへ向かった。

「ママ、トイレ?」

「ちょっとね」

 2人でトイレの個室に入り、ドアを閉めすぐドアを開ける。
 その先は見知らぬ子供部屋。遊ぶ2歳くらいの女児が、私達に気づき固まる。

 私は微笑んで手を招くと、娘を興味深そうに見つつ、女児は近づいてきた。優しく手を取り、ドアの外へ連れ出し、ドアを閉める。

 娘は私に尋ねる。

「このこは?」

「ママの友達の子。この子のママのとこ、連れてくの」

 私が再度ドアを開けると、風光明媚な景色の見える旅館の一室が広がった。

 女児と共に3人で部屋に入る。

「わー。おへやひろいね」

「そうだね」

 答えた私は娘の手を引き、女児だけを部屋に置いて、再度トイレ側に戻りドアを閉めた。

 娘は目をぱちくりさせた。

「あのこは?」

「あの子のママ、あのお部屋に来るから、先に待っててもらう」


(新婚旅行で夫と行った旅館、変わってないな。窓のカギは開けられないし、あの子トクシゲの孫娘も危ない目には遭わないでしょう。
まあ、高速使って3時間かかる場所にあるけどね)


 私はまたドアを開けると、目の前に現れた別の女子トイレの個室に、娘を伴い移動した。
 この寂れた駅のトイレを出てすぐに、公衆電話がある。

 私は小銭を入れて、電話を掛けた。

「すみません、匿名でお願いしたいのですが…。今日○○ホテルで知人の結婚式があったのですが、列席者の身内の幼い女の子が、姿を消して騒ぎとなっています。
そして、トクシゲと言う名の列席者が『あの子は今頃死んでいる』、『自分はその死体の在処が分かる』などと言っております。
…何らかの事情を知っているかもしれません、どうか捜査お願いします」


 そして私は、トクシゲへ娘だけでは無く実の孫への嫌疑もかけるという、復讐を仕組んだ。


 私が娘と共にトイレから戻ると、話し込んでいた夫がようやくやって来た。

「あれ?カノン、ばあちゃんと一緒じゃなかったの?」

「うん。ママにあいたかったから」

「そうだね。『ママに逢いたい』時だけ『ドア』を開けるんだよ、カノン」

 私は娘を抱きしめて諭した。

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