【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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チキン・ヒーロー

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 それから1週間後、真姫は焦燥感に駆られながら、準七の打合せに参加していた。


    焦燥を感じているのには理由があった。

「任務決行日は8月16日。任務内容は侵入する陽炎の駆除と、手を貸してしまった同胞の捕捉並びに懲罰」

 支援部隊隊長の金嶋が資料を手に続けた。

「現在までの調べによると、明日の夏祭りに『同胞』が『陽炎』を地区内に侵入させる予定。
尚、『同胞』は相手が『陽炎』である事を知らない。
漏洩されたと思われる情報は『同胞』宅住所、それに伴う周辺道路情報、今回の準七選考結果、並びに今年の準七選抜候補者の一部個人情報」


 この直前、真姫は望から1通のキャリアメールを貰っていた。

『曇天の夏祭りの次の日に、ガトコブでライブあるじゃん?あれに出るヘルファイアさん前日に前乗りするから、夏祭りに来てくれるんだって!
一緒に飯食うんだけど、真姫もどう?(^^)/』


 打合せ終了後に返信しようと、返して無かったのだが…。

「内偵では『陽炎』は曇天に侵入前に『同胞』と合流する予定。二者らが合流したら尾行開始。地区内に入ったらすぐ両者の身柄を捕捉する。
『同胞』を人質にする可能性もあるが、身柄の拘束と一般人の身の安全の2点を優先して欲しい」

 情報を漏らす奴の生死は二の次という訳だ。この場で真姫は頭を抱えてしまいたかった。


 予感が的中した。やはり最初に思った通り、ヘルファイアは陽炎だったのだ。

 望は何も知らず、久々にヘルファイアと再会する事を楽しみにしている。
    任務の相手は選べないとは言え、初任務が幼馴染の取り締まりなんて、酷い巡り合わせだ。


 どうすればいい。


 二手に分かれての任務で、ツイてない事に赤城とは別班になってしまった。

   赤城に相談しては機密漏洩になってしまうし、望にヘルファイアと会う予定を止めさせても、取り締まりが後に伸びるだけだろう…。




「あらぁ、新米準七の真姫ちゃんじゃないの」

 曇天内の個人スーパー『クロハ』のアイス売り場で、芽衣と出くわした。芽衣は笑って言った。

「考え事? 眉間にシワ寄せて」

 夏休み中だからか、手の爪は綺麗なピンク色に施されていた。薬指には『カレ』から貰ったのか、シルバーリングも。

「それとも…。次はどの幹部とヤるか考えてたのかな?」

「…は?」

 真姫は思わず声を発した。芽衣はこちらを見る事無く、アイスを吟味しつつ言った。

「満場一致だそうじゃん。上の人、何人垂らし込んだか知らないけど」

「…本気でそんな事考えて?」

「違うの? じゃあ、現役七神衆の口利き? それともアレか、セフレの望ちゃん、東京のお友達と仲良すぎて怪しいって、チクって売ったからなのかな?」 


 怒りで我を忘れそうだった真姫だが、芽衣の口ぶりを聞いて逆に冷静になれた。

(この人、下品な噂のメール流してたんだっけ。望に追跡がついた原因の1つは芽衣だろう。中央会の耳に噂が入ったのね)

    やーね。セフレ(笑)ですか。


「お詳しいんですね。来年準七になったら満場一致で公安になれますよ」

「なれないわよー。誰かさんみたいに裏工作してないし」

「裏工作でなれるなら、先輩もヤればいいじゃないですか。…それともまだ『未経験』でしたか?」

 真姫の言葉に、芽衣は敵意を剝きだしにした。

「調子のんなよ、真姫」

 芽衣は吐息がかかる程真姫に近づくと、囁くように続けた。

「お前のセフレ、モグリじゃん? 記憶消されて追放されるから、せいぜい今の内にヤりまくっとけば?」

 真姫は一歩も引かず、むしろ上から見下ろすようにして、アイドルの様な笑みを浮かべて言い返した。

「先輩ったら、下ネタ大好きなんですね。まーだ夜じゃないですよ?」

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