49 / 83
クリムゾン・ヘル
February-3
しおりを挟む
程なく陸ら3人の姿が見えた。
赤城の車のシートは2列4席しかないが、ステーションワゴンタイプで最後部の荷物スペースは広い。
積んであったベースと機材の隣に、何とか陸と望を乗せ発進させた。
真姫が皇介と望の方を見て、眉をひそめた。
「…あんた達、今度は何したの?」
「2人を責めないで。本当に、俺のせいなんだ」
久井が謝罪する。陸の携帯が鳴った。柏木所長だ。
『陸!今どこにいる?』
「久井さんと赤城さん達と一緒に、車で移動してます!」
『電話代われるか?』
「はい!」
「代わりました」
『陽炎が現場に来たのは何でだ?どういう事だったんだ?』
「禁言系感知で仕掛けてあった式獣が聴取で作動して、赤沼が配下の陽炎4人と共に襲撃してきました。
月島さんが攻撃を受けている隙に、現場から離脱しました。
…途中で偶然会った七神衆の赤城氏の車で、検閲点に向かってます」
久井の電話中、赤城と真姫は信じられないと言いたげな顔をしていた。
『了解。ウツブシから式獣のジャックが起きたと知らせを受けた。雨天内の該当者を全員眠らせる措置を取ったが、幾人か地区外に出てるようだ。追撃に気をつけろ』
「はい!」
電話が切れると、真姫が言った。
「赤沼さん、モグリだったの…?」
「そうだよ。あのオッサンが式獣を通じて、召喚者を乗っ取って操ってんだよ。自分の手を汚さずに邪魔者を消す為にね」
陸が後ろを見つつ答えると、赤城がバックミラー越しに久井に問う。
「おたく、…一体何者なんだ?」
「…国家公安庁糸遊陽炎部門に所属している。…母が陽炎だから、俺は陽炎二世になる」
赤城と真姫は目を丸くして振り向いた。すぐに前を向いた赤城が言う。
「陽炎の二世? なのに天番? どういう事よ。天番に陽炎側から潜入してたのか?」
陸が反論する。
「違います! 天番も政府関係者にも、沢山の陽炎が居るんです! 糸遊も勿論、皆分け隔て無く働いてるんです!!」
「…赤城さん、陽炎が『敵』だという認識事体が間違いだったんですよ」
望の静かな言い方に、真姫が助手席から、赤城がバックミラー越しに見つめた。
皇介も口を開いた。
「陽炎を悪者に仕立てて、それを俺達が取り締まる。青山さんがそういうシステムに仕組んでたんです」
「何だって⁈ 嘘だろ?」
赤城が掠れた声で呟いた。
古い家庭用ビデオカメラを手に持ち、望が口を開く。
「親父と…、真姫の姉ちゃんや色んな人がビデオに写ってたんです。青山さんのやり方を政府に暴露しないといけないって…」
「まさかその、映っていた人達って…」
真姫の問いに久井が答えた。
「全員殺されたのさ。赤沼に操られた陽炎達の手によって…。
もっと言うなら、奇襲以降の糸遊や一般人に危害を加えたりした陽炎も、全て赤沼に操られていたんだろう」
「…何てこった」
赤城が絶句する。真姫は携帯を開く。
「にわかに信じられない話だけど、本当の様ね。警報メールが来ないもの」
「何で?」
皇介が問う。
「もし久井さんが言っている事が嘘なら、理由をつけて警報を発令させる筈よ。陽炎を捕捉せよって。それが無いって事は…」
後ろから工事現場仕様の中型トラックが、猛スピードで追いかけて来るのが見えた。
真姫が目を鋭くさせる。
「陽炎によって陽炎を制す、同士討ちで片付けるつもりなのよ」
「あちゃー、追尾されてたか。いっぱいいっぱいで気付かなかった」
陸が顔をしかめる。赤城がハンドルを切り、十字路を左へ。
「裏道から赤東ラインへ行く。一般への被害を抑えるぞ」
車は山沿いを進んだ。一挙に交通量が減る。
皇介が言う。
「中央会信じられないけど、この状況…。緊急令頼めないかな?」
「ここまで来ると水神が近い」
車を加速させ赤城が言った。久井が唇を噛みしめる。
「ここで下手に曇天へ知らせると、君達がモグリで処分される。
…もし奴らに捕まったり、俺と一緒の所を曇天民に見られてた場合は、俺に脅され手を貸した事にしてくれ」
「はあ⁈ 何言ってんだよ」
赤城が怒鳴る。
「巻き込んだのは俺だ。俺が落とし前をつける…!」
「そんな!!」
陸が喚く。
中型トラックは距離を詰め、助手席側から何者かが炎術を放った。真姫が手をかざし、車外に『術護』を展開させる。
火球は何とか当たらずに済んだ。赤城が道路標識を見て眉間に皺を寄せた。
「インターチェンジまで、もつか…⁈」
今度は中型トラックの荷台に居た人間が、再度炎術を放つ。再度真姫が防ぐ。
すると、荷台が一瞬明るくなったかと思うと、光輝く巨鳥が出現した。
式獣だ。
巨鳥は赤城の車の右側に体当たりして、避けられず左側を斜面に擦りつけるよう車が接触した。
轟音。
左前輪が破裂し、ハンドル操作の効かなくなった車は、すぐに止まれず左側面をガリガリと擦り続ける。
皆、無意識に自身へ『防護』をかけて耐える。やっと止まった車内で、赤城が1番に声を上げた。
「大丈夫か⁈」
「…何とか」
真姫が割れた硝子の破片を払い、陸がぶつけた頭をさする。50メートル程後ろで、中型トラックが停まるのが見えた。
壊れた車の部品が散らばっているのが、トラックのライトに照らされている。
久井がドアに手をかける。
「走ってインターチェンジに行け! トンネル抜けた先だ」
何とかドアを開けて、皆を外へ出す。陸が叫ぶ。
「久井さんは⁈」
「残る」
「嫌だ…!」
泣きそうな陸に、久井はテープレコーダーを渡す。
「月島さんの話、入ってる。ちゃんと持って行け!
…望、父ちゃんが伝えたかった事、伝えろ!」
「はい…!」
中型トラックから、男が降りるのが見えた。それを合図に、少年少女は走り出した。
赤城は頭を掻いて呟いた。
「あっちの4人…。陽炎さんか」
「…赤城さんも逃げないと、モグリ扱いされますよ?」
久井は自身の武器である『葉(糸遊陽炎の言葉で幅広の長刀)』を出現させ、構えた。
「いや。逃げんの嫌いなんだわ、俺」
赤城も武器である『風(刀)』を出現させた。
「大丈夫、死なせねえ。そうすりゃ、誰が悪い事してたかハッキリするんだろ?」
「赤城さん…」
向こうの4人もそれぞれ武器を現した。それを合図に、2人は駆け出した。
赤城の車のシートは2列4席しかないが、ステーションワゴンタイプで最後部の荷物スペースは広い。
積んであったベースと機材の隣に、何とか陸と望を乗せ発進させた。
真姫が皇介と望の方を見て、眉をひそめた。
「…あんた達、今度は何したの?」
「2人を責めないで。本当に、俺のせいなんだ」
久井が謝罪する。陸の携帯が鳴った。柏木所長だ。
『陸!今どこにいる?』
「久井さんと赤城さん達と一緒に、車で移動してます!」
『電話代われるか?』
「はい!」
「代わりました」
『陽炎が現場に来たのは何でだ?どういう事だったんだ?』
「禁言系感知で仕掛けてあった式獣が聴取で作動して、赤沼が配下の陽炎4人と共に襲撃してきました。
月島さんが攻撃を受けている隙に、現場から離脱しました。
…途中で偶然会った七神衆の赤城氏の車で、検閲点に向かってます」
久井の電話中、赤城と真姫は信じられないと言いたげな顔をしていた。
『了解。ウツブシから式獣のジャックが起きたと知らせを受けた。雨天内の該当者を全員眠らせる措置を取ったが、幾人か地区外に出てるようだ。追撃に気をつけろ』
「はい!」
電話が切れると、真姫が言った。
「赤沼さん、モグリだったの…?」
「そうだよ。あのオッサンが式獣を通じて、召喚者を乗っ取って操ってんだよ。自分の手を汚さずに邪魔者を消す為にね」
陸が後ろを見つつ答えると、赤城がバックミラー越しに久井に問う。
「おたく、…一体何者なんだ?」
「…国家公安庁糸遊陽炎部門に所属している。…母が陽炎だから、俺は陽炎二世になる」
赤城と真姫は目を丸くして振り向いた。すぐに前を向いた赤城が言う。
「陽炎の二世? なのに天番? どういう事よ。天番に陽炎側から潜入してたのか?」
陸が反論する。
「違います! 天番も政府関係者にも、沢山の陽炎が居るんです! 糸遊も勿論、皆分け隔て無く働いてるんです!!」
「…赤城さん、陽炎が『敵』だという認識事体が間違いだったんですよ」
望の静かな言い方に、真姫が助手席から、赤城がバックミラー越しに見つめた。
皇介も口を開いた。
「陽炎を悪者に仕立てて、それを俺達が取り締まる。青山さんがそういうシステムに仕組んでたんです」
「何だって⁈ 嘘だろ?」
赤城が掠れた声で呟いた。
古い家庭用ビデオカメラを手に持ち、望が口を開く。
「親父と…、真姫の姉ちゃんや色んな人がビデオに写ってたんです。青山さんのやり方を政府に暴露しないといけないって…」
「まさかその、映っていた人達って…」
真姫の問いに久井が答えた。
「全員殺されたのさ。赤沼に操られた陽炎達の手によって…。
もっと言うなら、奇襲以降の糸遊や一般人に危害を加えたりした陽炎も、全て赤沼に操られていたんだろう」
「…何てこった」
赤城が絶句する。真姫は携帯を開く。
「にわかに信じられない話だけど、本当の様ね。警報メールが来ないもの」
「何で?」
皇介が問う。
「もし久井さんが言っている事が嘘なら、理由をつけて警報を発令させる筈よ。陽炎を捕捉せよって。それが無いって事は…」
後ろから工事現場仕様の中型トラックが、猛スピードで追いかけて来るのが見えた。
真姫が目を鋭くさせる。
「陽炎によって陽炎を制す、同士討ちで片付けるつもりなのよ」
「あちゃー、追尾されてたか。いっぱいいっぱいで気付かなかった」
陸が顔をしかめる。赤城がハンドルを切り、十字路を左へ。
「裏道から赤東ラインへ行く。一般への被害を抑えるぞ」
車は山沿いを進んだ。一挙に交通量が減る。
皇介が言う。
「中央会信じられないけど、この状況…。緊急令頼めないかな?」
「ここまで来ると水神が近い」
車を加速させ赤城が言った。久井が唇を噛みしめる。
「ここで下手に曇天へ知らせると、君達がモグリで処分される。
…もし奴らに捕まったり、俺と一緒の所を曇天民に見られてた場合は、俺に脅され手を貸した事にしてくれ」
「はあ⁈ 何言ってんだよ」
赤城が怒鳴る。
「巻き込んだのは俺だ。俺が落とし前をつける…!」
「そんな!!」
陸が喚く。
中型トラックは距離を詰め、助手席側から何者かが炎術を放った。真姫が手をかざし、車外に『術護』を展開させる。
火球は何とか当たらずに済んだ。赤城が道路標識を見て眉間に皺を寄せた。
「インターチェンジまで、もつか…⁈」
今度は中型トラックの荷台に居た人間が、再度炎術を放つ。再度真姫が防ぐ。
すると、荷台が一瞬明るくなったかと思うと、光輝く巨鳥が出現した。
式獣だ。
巨鳥は赤城の車の右側に体当たりして、避けられず左側を斜面に擦りつけるよう車が接触した。
轟音。
左前輪が破裂し、ハンドル操作の効かなくなった車は、すぐに止まれず左側面をガリガリと擦り続ける。
皆、無意識に自身へ『防護』をかけて耐える。やっと止まった車内で、赤城が1番に声を上げた。
「大丈夫か⁈」
「…何とか」
真姫が割れた硝子の破片を払い、陸がぶつけた頭をさする。50メートル程後ろで、中型トラックが停まるのが見えた。
壊れた車の部品が散らばっているのが、トラックのライトに照らされている。
久井がドアに手をかける。
「走ってインターチェンジに行け! トンネル抜けた先だ」
何とかドアを開けて、皆を外へ出す。陸が叫ぶ。
「久井さんは⁈」
「残る」
「嫌だ…!」
泣きそうな陸に、久井はテープレコーダーを渡す。
「月島さんの話、入ってる。ちゃんと持って行け!
…望、父ちゃんが伝えたかった事、伝えろ!」
「はい…!」
中型トラックから、男が降りるのが見えた。それを合図に、少年少女は走り出した。
赤城は頭を掻いて呟いた。
「あっちの4人…。陽炎さんか」
「…赤城さんも逃げないと、モグリ扱いされますよ?」
久井は自身の武器である『葉(糸遊陽炎の言葉で幅広の長刀)』を出現させ、構えた。
「いや。逃げんの嫌いなんだわ、俺」
赤城も武器である『風(刀)』を出現させた。
「大丈夫、死なせねえ。そうすりゃ、誰が悪い事してたかハッキリするんだろ?」
「赤城さん…」
向こうの4人もそれぞれ武器を現した。それを合図に、2人は駆け出した。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる