【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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クリムゾン・ヘル

February-3

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 程なく陸ら3人の姿が見えた。


    赤城の車のシートは2列4席しかないが、ステーションワゴンタイプで最後部の荷物スペースは広い。
 積んであったベースと機材の隣に、何とか陸と望を乗せ発進させた。


    真姫が皇介と望の方を見て、眉をひそめた。

「…あんた達、今度は何したの?」

「2人を責めないで。本当に、俺のせいなんだ」

 久井が謝罪する。陸の携帯が鳴った。柏木所長だ。

『陸!今どこにいる?』

「久井さんと赤城さん達と一緒に、車で移動してます!」

『電話代われるか?』

「はい!」

「代わりました」

『陽炎が現場に来たのは何でだ?どういう事だったんだ?』

「禁言系感知で仕掛けてあった式獣が聴取で作動して、赤沼が配下の陽炎4人と共に襲撃してきました。
月島さんが攻撃を受けている隙に、現場から離脱しました。
…途中で偶然会った七神衆の赤城氏の車で、検閲点に向かってます」


 久井の電話中、赤城と真姫は信じられないと言いたげな顔をしていた。


『了解。ウツブシから式獣のジャックが起きたと知らせを受けた。雨天内の該当者を全員眠らせる措置を取ったが、幾人か地区外に出てるようだ。追撃に気をつけろ』

「はい!」

 電話が切れると、真姫が言った。

「赤沼さん、モグリだったの…?」

「そうだよ。あのオッサンが式獣を通じて、召喚者を乗っ取って操ってんだよ。自分の手を汚さずに邪魔者を消す為にね」

 陸が後ろを見つつ答えると、赤城がバックミラー越しに久井に問う。

「おたく、…一体何者なんだ?」

「…国家公安庁糸遊陽炎部門に所属している。…母が陽炎だから、俺は陽炎二世になる」

 赤城と真姫は目を丸くして振り向いた。すぐに前を向いた赤城が言う。

「陽炎の二世? なのに天番? どういう事よ。天番に陽炎側から潜入してたのか?」

 陸が反論する。

「違います! 天番も政府関係者にも、沢山の陽炎が居るんです! 糸遊も勿論、皆分け隔て無く働いてるんです!!」


「…赤城さん、陽炎が『敵』だという認識事体が間違いだったんですよ」

 望の静かな言い方に、真姫が助手席から、赤城がバックミラー越しに見つめた。

   皇介も口を開いた。

「陽炎を悪者に仕立てて、それを俺達が取り締まる。青山さんがそういうシステムに仕組んでたんです」

「何だって⁈ 嘘だろ?」

 赤城が掠れた声で呟いた。


    古い家庭用ビデオカメラを手に持ち、望が口を開く。

「親父と…、真姫の姉ちゃんや色んな人がビデオに写ってたんです。青山さんのやり方を政府に暴露しないといけないって…」

「まさかその、映っていた人達って…」

 真姫の問いに久井が答えた。

「全員殺されたのさ。赤沼に操られた陽炎達の手によって…。
もっと言うなら、奇襲以降の糸遊や一般人に危害を加えたりした陽炎も、全て赤沼に操られていたんだろう」

「…何てこった」

 赤城が絶句する。真姫は携帯を開く。

「にわかに信じられない話だけど、本当の様ね。警報メールが来ないもの」

「何で?」

 皇介が問う。

「もし久井さんが言っている事が嘘なら、理由をつけて警報を発令させる筈よ。陽炎を捕捉せよって。それが無いって事は…」

 後ろから工事現場仕様の中型トラックが、猛スピードで追いかけて来るのが見えた。

 真姫が目を鋭くさせる。

「陽炎によって陽炎を制す、同士討ちで片付けるつもりなのよ」

「あちゃー、追尾されてたか。いっぱいいっぱいで気付かなかった」

 陸が顔をしかめる。赤城がハンドルを切り、十字路を左へ。

「裏道から赤東ラインへ行く。一般への被害を抑えるぞ」

 車は山沿いを進んだ。一挙に交通量が減る。

    皇介が言う。

「中央会信じられないけど、この状況…。緊急令頼めないかな?」

「ここまで来ると水神が近い」

 車を加速させ赤城が言った。久井が唇を噛みしめる。

「ここで下手に曇天へ知らせると、君達がモグリで処分される。
…もし奴らに捕まったり、俺と一緒の所を曇天民に見られてた場合は、俺に脅され手を貸した事にしてくれ」

「はあ⁈ 何言ってんだよ」

 赤城が怒鳴る。

「巻き込んだのは俺だ。俺が落とし前をつける…!」

「そんな!!」

 陸が喚く。

    中型トラックは距離を詰め、助手席側から何者かが炎術を放った。真姫が手をかざし、車外に『術護』を展開させる。

    火球は何とか当たらずに済んだ。赤城が道路標識を見て眉間に皺を寄せた。

「インターチェンジまで、もつか…⁈」

 今度は中型トラックの荷台に居た人間が、再度炎術を放つ。再度真姫が防ぐ。
    すると、荷台が一瞬明るくなったかと思うと、光輝く巨鳥が出現した。

 式獣だ。

    巨鳥は赤城の車の右側に体当たりして、避けられず左側を斜面に擦りつけるよう車が接触した。

 轟音。

 左前輪が破裂し、ハンドル操作の効かなくなった車は、すぐに止まれず左側面をガリガリと擦り続ける。


 皆、無意識に自身へ『防護』をかけて耐える。やっと止まった車内で、赤城が1番に声を上げた。

「大丈夫か⁈」

「…何とか」


 真姫が割れた硝子の破片を払い、陸がぶつけた頭をさする。50メートル程後ろで、中型トラックが停まるのが見えた。

    壊れた車の部品が散らばっているのが、トラックのライトに照らされている。

    久井がドアに手をかける。

「走ってインターチェンジに行け! トンネル抜けた先だ」

 何とかドアを開けて、皆を外へ出す。陸が叫ぶ。

「久井さんは⁈」

「残る」

「嫌だ…!」

 泣きそうな陸に、久井はテープレコーダーを渡す。

「月島さんの話、入ってる。ちゃんと持って行け! 
…望、父ちゃんが伝えたかった事、伝えろ!」

「はい…!」

 中型トラックから、男が降りるのが見えた。それを合図に、少年少女は走り出した。


    赤城は頭を掻いて呟いた。

「あっちの4人…。陽炎さんか」

「…赤城さんも逃げないと、モグリ扱いされますよ?」

 久井は自身の武器である『葉(糸遊陽炎の言葉で幅広の長刀)』を出現させ、構えた。

「いや。逃げんの嫌いなんだわ、俺」

 赤城も武器である『風(刀)』を出現させた。

「大丈夫、死なせねえ。そうすりゃ、誰が悪い事してたかハッキリするんだろ?」

「赤城さん…」

 向こうの4人もそれぞれ武器を現した。それを合図に、2人は駆け出した。



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