【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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ハルシネイション・ヘヴン

星野広空-1

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「金田さん、お客様が来ています」


 木曜日。昼休み中の皇介に呼び出しがかかる。

 応接スペースに行くと、平井、穂香、そして広空の姿。何故、広空が居るのか。

「こんにちは。…どうかされたんですか?」

「ええ、捜査の事で、お話したい事が」

 穂香がにこやかに言うと、平井も口を開いた。

「別の手法での捜査をしたいので、協力をお願いしたいのです」

 意味が解らず、皇介は尋ねた。

「『別の』、ですか?」

「金田さんにも捜査班に入っていただきたいのです」

 平井の言葉に、皇介は耳を疑った。

「えええ⁈ ど、どうして?」



「えーと早速だけど、望くんは彼女を地元に連れてった事ある? もしくは、彼女と会った事のある友達は居る?」


 上司の許可はスムーズに下り、会議室を使い打ち合わせをする事になった。途端に穂香の口調が一変した。


 皇介は呆気に取られた。

「あの、ちょっと待って下さい。そもそも何で天番でもないのに、俺が捜査班に?」

「凪原。ちゃんと説明してから、本題を切り出して」

 平井がたしなめる。穂香はきょとんとした後、ハッとした。

「ご存じない? あら、すみません。
公安は案件によっては天番ではない、糸遊や陽炎を捜査班に任命して、協力体制を組んでイイって決まりがあるの。捜査本部はあなたを抜擢してる。OK?」

「抜擢…⁈ 何でまた」

「あなたは行方不明の2人と20年以上の付き合いで、尚且つ曇天事情にも明るい。まあ、それだけじゃないですけど」

「はあ。…お前も?」

 皇介が広空に尋ねると、こちらは見ずに真っ直ぐ前を見据えて答えた。

「俺は志願した。元から知ってたから、昨日」

「ちょ…、言えよ!」

 2人のやり取りの後、穂香は口を開いた。

「…話は戻りますけど、私、望くんの彼女のフリをして、地元の聞き込みをしようと思います」

「地元の? 聞き込みまだなんですか?」

 広空の問いに、平井が答えた。

「初動での聞き込みは済んでます。けれども政府から来た公安への警戒心が異常に強いうえに、焦りからか頭に血がのぼっていて、話の通じない人が居る。
今回凪原には、公安である事を隠して、よく見知った金田さんと共に行ってもらい、話を聞きだして欲しいと考えている」

「成程…」

 穂香が口を開く。

「それで、彼女さん…、紘子さんね。あの小さくて可愛らしい子。曇天に行った事あるか判ります?」

「えっと…。行ってないかと。ただ、望のお母さんやお姉さんは、こっちに来た時に会ったかもしれないです」

 皇介が答えると、広空が小声で尋ねた。

「あの子大丈夫だったん?」


 半沢紘子はんざわひろこは望と2年前から付き合っている、一般人で26歳の美容師だ。

 皇介や広空も顔は知っているものの、個人的に連絡は取り合わない。望の行方不明の事は、勿論知っている。


 聞こえていたらしい穂香が答えた。

「心配してたよ。でもね、2人の行方不明については、仲を疑ってるね。仕方ないけどさ」


 彼氏が女の幼馴染と一緒に居なくなったら、無理もないだろう。


 平井が提案する。

「凪原は御影さんの友人でもあり、羽黒さんの恋人という事で。一般人だと門前払いになる可能性があるから、晴天出身で行くか」

「…で、私は2人を心配して、故郷まで手がかりを求めやって来た、と。羽黒家に行った時は同僚のフリで」

 穂香がそこまで言った時、皇介の携帯に出版社からの着信があった。
 席を立ち、部屋を出て通話をする皇介を尻目に、広空は口を開いた。

「1つ、いいですか?」

「何でしょう?」

「そちらさんの考えは存じませんが、随分曇天をマークしますね?」

 平井はボールペンを動かす手を止め、言った。

「…今も昔も、あそこは疑惑だらけだからですよ」

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