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風の大陸編
魔族になっちゃった!
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朝になって寝床につこうとフラムが戻ってくると、屋敷の前が騒がしい。リベルタとアリエッタが、深刻そうな面持ちをしている。
「あっ! フラムチャン! もーどこほっつき歩いてたのよ!」
リベルタはかなり怒っているようで、首根っこを掴まれた。
「考え事をしていてな……何かあったのか?」
「あったもあったわ、大事件よ! 陽介チャンがいなくなっちゃったのよ!」
「なんだと!」
彼女から陽介が深夜にいなくなったこと、昨日助けてくれと駆け込んできた奴隷の女もいなくなっていることを聞いたフラムは、傍にいなかったことを悔やんだ。
「奴の手先だったか」
「窓が割れる音がして、走っていったら外に陽介チャンの服が落ちてたの。でも本人がどこにもいなくて、明るくなったから探しに行こうってことになったの」
「わかった、同行しよう」
フラム、アリエッタ、リベルタの三人は町の男たちを引き連れて、大規模な捜索隊を結成し、陽介の足取りを追うことにした。
死の淵を彷徨う陽介は、見知らぬ場所にいた。体の痛みは不思議となくなっていたが、頭がふわふわして、足取りもふらふらとおぼつかない。自分が今どこにいて、どうなっているのかわからないまま、出口のない靄の中をひたすらに歩いていた。
(今回はマジで死んじゃったな。歩いてはいるけど、どこにいけばいいんだろう……?)
靄の向こうに人影が見えて、やっとやっと足を前に進め追いかけていくと、ビスクドールが立っていた。彼女が足を撫でるとふらつきがすうっと溶けていく。頭はすっきりしないままではあるが、誘われるままに進んでいく。
段々と歩く速度が遅くなり、ビスクドールが大きくなっていく。いや、陽介の視線が下がっているのだ。感覚があるはずなのに二足では歩けなくなり、へたり込んで手をつくと、腕が毛むくじゃらになっていた。手のひらを反すと、ぷにぷにとした肉球と小さな爪が生えている。
(あれ、俺、の体? どうなって……?)
一歩も動けなくなり、ビスクドールが遠のいていくと共に、意識も遠ざかっていった。
目を覚ますと、陽介は森の中にいた。辺りを見渡そうと立ち上がるが、足が思うように動かず転んでしまう。なんとか這いつくばって腕を伸ばして木につかまるが、立っていられない。手もついたほうが楽だと感じる。四足歩行に恥ずかしさと違和感があるが、このほうがまだ動けそうだと思った。
喉も乾き、どこかに水はないかと歩き探して覗き込んだ水たまりには、犬のような姿をした生き物が映っていた。
「わうっ!」
うわっ、なんだこれ! と声を出したつもりが、獣の鳴き声に変わっていた。人間の言葉が喋れないことに驚き、戸惑う。人間でないものは大体魔族だというフラムの言葉を思い出し、もう一度覗いてみたが、結果は変わらなかった。
(ま、まさか俺、魔族になっちゃったのかー!?)
鳴き声、前足、後ろ足、もふもふの尻尾、顔立ち。どこからどうみても立派な人ならざるものである。
(まいったな、これじゃみんなに会っても俺だってわかってくれない……いや、待てよ、フラムさんは竜とも会話出来てたし、いけるんじゃないのか?)
ここから出てみんなと合流したい、こんな不衛生な水たまりに口をつけるのは嫌だと、陽介はとぼとぼ森の中を歩いた。抜ければ町や村が見えるかもしれない。みんながいるかもしれないし、水くらいならこっそり飲めるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら。
「ねえ、あなたもひとりぼっちなの?」
道に迷い、同じところをグルグル回っていたところへ声をかけてきたのは、スピカだった。おともだちを引き連れて、興味深そうに様子を伺ってくる。さながらペットショップで犬猫を見る子供のようだ。
「見たことない子ね。スピカがおともだちになってあげる! いっけー!」
いきなり虫の魔族を前に出し、襲いかかるよう命令する。武器も無く慣れない体を動かす陽介は、転がって避けるのが精いっぱいだ。
「わうっ! わうわう!」
伝わりはしないだろうが、お前のおともだちなんてまっぴらごめんだね、と言ってやった。
「ひどい! せっかくスピカがおともだちになってあげるっていってるのに! いいもん、アンタはスピカのめしつかいにしちゃうから!」
スピカが指を指揮するように振ると、虫魔族は隊列を成して突っ込んでくくる。
「ガルルルル!!」
そこへ、今の陽介の何倍も大きい狼のような魔族が割って入り、虫たちを喰い千切った。塵になって消えていくまで見届けると、スピカに強烈な殺意を向ける。
「おい、お前」
陽介の背後から、狼魔族が数匹現れた。魔族が人の言葉を喋るとは思っていなかったので、キョトンとしていると、また声をかけられた。
「そこの犬っころ、お前のことだ」
「え、俺? ってか、なんで喋れるの!?」
「同じ魔族なのだから当たり前だろう、それより逃げるぞ」「さっさとしろ」
驚く陽介をよそに、先頭に立つ一匹がスピカに向かって黒い煙を吹きかけると、一斉に逃げ出した。ところが陽介がモタモタしているので、最後尾の狼が仕方なさそうに咥えて走った。
狼の魔族に連れられて、陽介は森深くの洞窟へ。そこから更に坂道を下っていくと、薄暗い地下で魔族たちが身を寄せ合っていた。
「あっ! フラムチャン! もーどこほっつき歩いてたのよ!」
リベルタはかなり怒っているようで、首根っこを掴まれた。
「考え事をしていてな……何かあったのか?」
「あったもあったわ、大事件よ! 陽介チャンがいなくなっちゃったのよ!」
「なんだと!」
彼女から陽介が深夜にいなくなったこと、昨日助けてくれと駆け込んできた奴隷の女もいなくなっていることを聞いたフラムは、傍にいなかったことを悔やんだ。
「奴の手先だったか」
「窓が割れる音がして、走っていったら外に陽介チャンの服が落ちてたの。でも本人がどこにもいなくて、明るくなったから探しに行こうってことになったの」
「わかった、同行しよう」
フラム、アリエッタ、リベルタの三人は町の男たちを引き連れて、大規模な捜索隊を結成し、陽介の足取りを追うことにした。
死の淵を彷徨う陽介は、見知らぬ場所にいた。体の痛みは不思議となくなっていたが、頭がふわふわして、足取りもふらふらとおぼつかない。自分が今どこにいて、どうなっているのかわからないまま、出口のない靄の中をひたすらに歩いていた。
(今回はマジで死んじゃったな。歩いてはいるけど、どこにいけばいいんだろう……?)
靄の向こうに人影が見えて、やっとやっと足を前に進め追いかけていくと、ビスクドールが立っていた。彼女が足を撫でるとふらつきがすうっと溶けていく。頭はすっきりしないままではあるが、誘われるままに進んでいく。
段々と歩く速度が遅くなり、ビスクドールが大きくなっていく。いや、陽介の視線が下がっているのだ。感覚があるはずなのに二足では歩けなくなり、へたり込んで手をつくと、腕が毛むくじゃらになっていた。手のひらを反すと、ぷにぷにとした肉球と小さな爪が生えている。
(あれ、俺、の体? どうなって……?)
一歩も動けなくなり、ビスクドールが遠のいていくと共に、意識も遠ざかっていった。
目を覚ますと、陽介は森の中にいた。辺りを見渡そうと立ち上がるが、足が思うように動かず転んでしまう。なんとか這いつくばって腕を伸ばして木につかまるが、立っていられない。手もついたほうが楽だと感じる。四足歩行に恥ずかしさと違和感があるが、このほうがまだ動けそうだと思った。
喉も乾き、どこかに水はないかと歩き探して覗き込んだ水たまりには、犬のような姿をした生き物が映っていた。
「わうっ!」
うわっ、なんだこれ! と声を出したつもりが、獣の鳴き声に変わっていた。人間の言葉が喋れないことに驚き、戸惑う。人間でないものは大体魔族だというフラムの言葉を思い出し、もう一度覗いてみたが、結果は変わらなかった。
(ま、まさか俺、魔族になっちゃったのかー!?)
鳴き声、前足、後ろ足、もふもふの尻尾、顔立ち。どこからどうみても立派な人ならざるものである。
(まいったな、これじゃみんなに会っても俺だってわかってくれない……いや、待てよ、フラムさんは竜とも会話出来てたし、いけるんじゃないのか?)
ここから出てみんなと合流したい、こんな不衛生な水たまりに口をつけるのは嫌だと、陽介はとぼとぼ森の中を歩いた。抜ければ町や村が見えるかもしれない。みんながいるかもしれないし、水くらいならこっそり飲めるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら。
「ねえ、あなたもひとりぼっちなの?」
道に迷い、同じところをグルグル回っていたところへ声をかけてきたのは、スピカだった。おともだちを引き連れて、興味深そうに様子を伺ってくる。さながらペットショップで犬猫を見る子供のようだ。
「見たことない子ね。スピカがおともだちになってあげる! いっけー!」
いきなり虫の魔族を前に出し、襲いかかるよう命令する。武器も無く慣れない体を動かす陽介は、転がって避けるのが精いっぱいだ。
「わうっ! わうわう!」
伝わりはしないだろうが、お前のおともだちなんてまっぴらごめんだね、と言ってやった。
「ひどい! せっかくスピカがおともだちになってあげるっていってるのに! いいもん、アンタはスピカのめしつかいにしちゃうから!」
スピカが指を指揮するように振ると、虫魔族は隊列を成して突っ込んでくくる。
「ガルルルル!!」
そこへ、今の陽介の何倍も大きい狼のような魔族が割って入り、虫たちを喰い千切った。塵になって消えていくまで見届けると、スピカに強烈な殺意を向ける。
「おい、お前」
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「そこの犬っころ、お前のことだ」
「え、俺? ってか、なんで喋れるの!?」
「同じ魔族なのだから当たり前だろう、それより逃げるぞ」「さっさとしろ」
驚く陽介をよそに、先頭に立つ一匹がスピカに向かって黒い煙を吹きかけると、一斉に逃げ出した。ところが陽介がモタモタしているので、最後尾の狼が仕方なさそうに咥えて走った。
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