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風の大陸編
ひとまず収まって
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行方知れずの陽介を探すフラムたちは、町より遠く離れた森まで探索範囲を広げていた。踏み込むなりスピカの操る魔族が襲い掛かり交戦状態になったが、何度倒しても別の個体が立ち上がり攻撃を繰り出す。突然糸が切れたように全てが塵となり、風に吹かれて消えていった。
「どういうことかしら……」
肩をパキパキと鳴らして、リベルタは呼吸を整える。
「操る効果が切れたか、あるいは使役していた者が死んだか。いずれにせよ、陽介はこの先にいるはずだ」
一行は道を急ぐ。装備も無しに出ていった陽介が、もし魔族や勇者の手にかかっていたら。夜に部屋に帰っていなかった自分は悔やんでも悔やみきれないと、フラムは内心焦っていた。
カノープスが去り、泣きじゃくる陽介の声も小さくなった避難所。魔族たちは釈然としない様子であった。勇者の手先は仲間割れを起こしているのか、泣いているこいつは誰だと、憶測と混乱が飛び交う。
「まだ子供じゃ、ないか。なのに、なんでこんな酷い目に……」
陽介は涙をぬぐい、スピカの体を持ち上げ弔いたいと言い出した。何度も行く手の邪魔をされたし、高慢な態度に苛立ちはしたが、失敗を理由に子供が死んでいい世界なんてどこにもないと信じているからだ。
当たり前のことだが、魔族たちは大反対した。そいつは今まで死者を侮辱しこきつかったのだから、死んで当然だと。むしろ、八つ裂きにするから寄越せと言うのだ。
「落ち着けお前たち。この者は客人だ、敵意はない」
魔王の威圧的な一喝で、緊張が走りお互いに動けなくなった。
「陽介、お前は人間だ。同族を弔いたい気持ちはわかる。だが、魔族たちは間違いなくその小娘に嫌というほど辛酸を舐めさせられた。処分は我が決める」
魔王が指を上に振ると、スピカの体がふわりと持ち上がり、黒い光に吸い込まれて消えていった。
「この話は保留だ。これ以上争うな」
「何をおっしゃいますかフォリドゥース様! 我々と人間が分かり合えないことは、この五百年続いた戦争で十分経験したではないですか!」
ロブ・ロイが話に割って入る。
「……そうか、ロブ。お前も覚えていないのか」
話しても無駄なようだとため息をついてから、魔王は手のひらを前に出しふうと息を吹きかけ、金色の粉を撒いた。
「これは蘇りし我が記憶。忌々しい勇者に書き換えられた歴史だ」
粉がかかった魔族たちは、流れ込む情報の処理が追い付かないようで、皆頭を抱え、目を回して気絶してしまった。
「目が覚める頃には思い出しているはずだ。さて」
魔王は陽介のほうを向く。
「今のうちに出ていくがよい、外で仲間が探しているようだ。我は皆の傷ついた心に向き合わねばならない」
「……」
陽介は言葉が出せなかった。フラムたちが近くまで来ていることは朗報だったが、この場をこのままにして立ち去ることに、納得がいかなかった。しかし、起きてしまったことはどうすることもできない。
「……絶対、エルメスを倒す」
ぶかぶかの服の袖をまくり、顔を上げて陽介は走って坂を上っていった。
「陽介!」「陽介チャン!! こんなとこにいた!」
避難所を後にした陽介は、色々なことが短い間に起きて整理のつかない心を抱えたまま、ぼんやり倒木の上に座り込んでいたところを、探しに来たフラムたちに発見された。
「そんなになっちゃってまぁ。派手に変えたわね」
とリベルタに言われ彼女の鏡で顔を見ると、黒髪は金髪に変わり、目の色も深い緑色になっていた。
「よく俺だって気づいたな」
ツンツンになった髪の毛を触ってみる。
「精霊は人を魂で判別している。どんなに見た目が変わろうと、間違えることは……」
「って、そんなこと気にしてる場合じゃないんだ、聞いてくれ!」
再会の喜びも束の間、陽介は刺された夜からのことを、必死になって説明した。夢の中を歩いているうちに魔族になってしまったことも、魔王を復活させてしまったことも、スピカがカノープスに殺されたことも
「どういうことかしら……」
肩をパキパキと鳴らして、リベルタは呼吸を整える。
「操る効果が切れたか、あるいは使役していた者が死んだか。いずれにせよ、陽介はこの先にいるはずだ」
一行は道を急ぐ。装備も無しに出ていった陽介が、もし魔族や勇者の手にかかっていたら。夜に部屋に帰っていなかった自分は悔やんでも悔やみきれないと、フラムは内心焦っていた。
カノープスが去り、泣きじゃくる陽介の声も小さくなった避難所。魔族たちは釈然としない様子であった。勇者の手先は仲間割れを起こしているのか、泣いているこいつは誰だと、憶測と混乱が飛び交う。
「まだ子供じゃ、ないか。なのに、なんでこんな酷い目に……」
陽介は涙をぬぐい、スピカの体を持ち上げ弔いたいと言い出した。何度も行く手の邪魔をされたし、高慢な態度に苛立ちはしたが、失敗を理由に子供が死んでいい世界なんてどこにもないと信じているからだ。
当たり前のことだが、魔族たちは大反対した。そいつは今まで死者を侮辱しこきつかったのだから、死んで当然だと。むしろ、八つ裂きにするから寄越せと言うのだ。
「落ち着けお前たち。この者は客人だ、敵意はない」
魔王の威圧的な一喝で、緊張が走りお互いに動けなくなった。
「陽介、お前は人間だ。同族を弔いたい気持ちはわかる。だが、魔族たちは間違いなくその小娘に嫌というほど辛酸を舐めさせられた。処分は我が決める」
魔王が指を上に振ると、スピカの体がふわりと持ち上がり、黒い光に吸い込まれて消えていった。
「この話は保留だ。これ以上争うな」
「何をおっしゃいますかフォリドゥース様! 我々と人間が分かり合えないことは、この五百年続いた戦争で十分経験したではないですか!」
ロブ・ロイが話に割って入る。
「……そうか、ロブ。お前も覚えていないのか」
話しても無駄なようだとため息をついてから、魔王は手のひらを前に出しふうと息を吹きかけ、金色の粉を撒いた。
「これは蘇りし我が記憶。忌々しい勇者に書き換えられた歴史だ」
粉がかかった魔族たちは、流れ込む情報の処理が追い付かないようで、皆頭を抱え、目を回して気絶してしまった。
「目が覚める頃には思い出しているはずだ。さて」
魔王は陽介のほうを向く。
「今のうちに出ていくがよい、外で仲間が探しているようだ。我は皆の傷ついた心に向き合わねばならない」
「……」
陽介は言葉が出せなかった。フラムたちが近くまで来ていることは朗報だったが、この場をこのままにして立ち去ることに、納得がいかなかった。しかし、起きてしまったことはどうすることもできない。
「……絶対、エルメスを倒す」
ぶかぶかの服の袖をまくり、顔を上げて陽介は走って坂を上っていった。
「陽介!」「陽介チャン!! こんなとこにいた!」
避難所を後にした陽介は、色々なことが短い間に起きて整理のつかない心を抱えたまま、ぼんやり倒木の上に座り込んでいたところを、探しに来たフラムたちに発見された。
「そんなになっちゃってまぁ。派手に変えたわね」
とリベルタに言われ彼女の鏡で顔を見ると、黒髪は金髪に変わり、目の色も深い緑色になっていた。
「よく俺だって気づいたな」
ツンツンになった髪の毛を触ってみる。
「精霊は人を魂で判別している。どんなに見た目が変わろうと、間違えることは……」
「って、そんなこと気にしてる場合じゃないんだ、聞いてくれ!」
再会の喜びも束の間、陽介は刺された夜からのことを、必死になって説明した。夢の中を歩いているうちに魔族になってしまったことも、魔王を復活させてしまったことも、スピカがカノープスに殺されたことも
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