38 / 52
土の大陸編
人間不信の人間
しおりを挟む
「痛い、痛い痛い痛い痛い……! ああ、生きている。幸せです」
顔は見るも無残に溶けて上半身はほぼ焼け爛れ、立つことなど不可能なほどダメージを受けているにもかかわらず、カノープスはゆらりと立ち上がって、享楽のため息をついた。
ミシミシと身体を鳴らし、骨が露出する腕で、何事もなかったかのように針を振るう。
「ぐっ……!」
突き刺すだけでなく曲がりくねる針の動きが読めず、フラムは体を拘束され尻尾を掴まれた。
「離せ! このっ!」
逃げようとジタバタ暴れるが、前足に枷をはめられて地面に叩きつけられた。炎を吐こうとするも、すぅーすぅーと息が出るばかりだ。
「馬鹿な! 私の力が使えないだと!」
「エルメス様にお力をいただいた特別な枷です。精霊の力など恐れるに足りません」
フラムを足で踏みつけ、カノープスは心底嬉しそうに笑う。焼けていたはずの肌は徐々に回復し、表情がわかるほどになっていた。
「フラムチャンから離れな!」
リベルタは敵をどけようと腕を振って旋風を巻き起こした。しかし、直後にグラグラと視界が歪み、片膝をついた。呼吸も荒く、肩で息をしていたことに気づく。
「……毒か」
「これでお前もおしまいです」
カノープスは細長い針を数本束ね鞭のようにしならせると、二人を突き刺そうと振り上げた。
そこでへガラガラと大きな崩れる音と共に、陽介率いる解放戦線が乗り込んできた。部屋の側面、アリエッタたちが閉じ込められている部分の壁が競りの会場に繋がっていたのだ。
「みんな無事か!」
男たちは炎弾を受けてひしゃげた部分から檻をこじ開けて、陽介はアリエッタの傍に駆け寄った。
「今自由に……って、枷を付けられているのか。鍵穴は……?」
持っている鍵で開けてみようと枷に触れると、するりと落ちて砂になった。
「私は大丈夫。それより彼と、フラムたちを助けてあげて!」
アリエッタは獣人の方を手で示す。
「君、声が……!」
「いいから、早く!」
陽介が獣人の枷に手を触れると、同じように砂となって消えていった。
「礼を言う」
縛るものがなくなり自由になった獣人は、立ち上がり咆哮した。壁も床も天井もビリビリと振動が走り、地震のような激しさを放つ。しかし不思議と心地よい揺れは、カノープスの体制だけを崩し、解放戦線には足の裏から沸き上がるような力を与えた。
「……テラ様」
サビアは小さな声をこぼした。記憶が地の底から湧くように駆け巡り、守護者がいた平和な時代を鮮明に思い出した。
土の民は皆獣人を囲み、土の精霊テラの復活を喜んだ。テラは愛しい民を抱きしめ、よく耐えてくれたと涙を流した。
「アーシア、何故同族を売った」
檻から出てフラムたちの前に立つテラの呼びかけに、カノープスは首をかしげる。
「アーシア? 誰のことでしょう。私は生まれた頃よりエルメス様の物でしかありません」
「違う、お前は我が民。我らが家族」
歩み寄るテラに、憎悪の感情をむき出しにする。
「お前にはわからない! ずっとひとりぼっちだった私の孤独を! 誰からも哀れみの目を向けられる悲しみを! 家族など誰もいなかった!! そんな私に、痛みを感じることこそが生きる喜びだと、エルメス様は教えてくださった!」
感情的になって、初めて彼女は記憶が混同していることを知る。小さい頃から聖都にいたという記憶が曖昧で不鮮明になり、怯えながら森を歩き、誰かに捕まったものに変わっていく。
聖都でエルメスに貢がれ、調教という名の性的拷問により恐怖と快楽と絶望に支配されたこと、もっと楽しみたいからという理由で大人の体に変えられ今の自分があるということ。
全てを思い出し、絶叫したカノープスは魔法が解けて少女の姿に戻ったが、既に息絶えていた。
顔は見るも無残に溶けて上半身はほぼ焼け爛れ、立つことなど不可能なほどダメージを受けているにもかかわらず、カノープスはゆらりと立ち上がって、享楽のため息をついた。
ミシミシと身体を鳴らし、骨が露出する腕で、何事もなかったかのように針を振るう。
「ぐっ……!」
突き刺すだけでなく曲がりくねる針の動きが読めず、フラムは体を拘束され尻尾を掴まれた。
「離せ! このっ!」
逃げようとジタバタ暴れるが、前足に枷をはめられて地面に叩きつけられた。炎を吐こうとするも、すぅーすぅーと息が出るばかりだ。
「馬鹿な! 私の力が使えないだと!」
「エルメス様にお力をいただいた特別な枷です。精霊の力など恐れるに足りません」
フラムを足で踏みつけ、カノープスは心底嬉しそうに笑う。焼けていたはずの肌は徐々に回復し、表情がわかるほどになっていた。
「フラムチャンから離れな!」
リベルタは敵をどけようと腕を振って旋風を巻き起こした。しかし、直後にグラグラと視界が歪み、片膝をついた。呼吸も荒く、肩で息をしていたことに気づく。
「……毒か」
「これでお前もおしまいです」
カノープスは細長い針を数本束ね鞭のようにしならせると、二人を突き刺そうと振り上げた。
そこでへガラガラと大きな崩れる音と共に、陽介率いる解放戦線が乗り込んできた。部屋の側面、アリエッタたちが閉じ込められている部分の壁が競りの会場に繋がっていたのだ。
「みんな無事か!」
男たちは炎弾を受けてひしゃげた部分から檻をこじ開けて、陽介はアリエッタの傍に駆け寄った。
「今自由に……って、枷を付けられているのか。鍵穴は……?」
持っている鍵で開けてみようと枷に触れると、するりと落ちて砂になった。
「私は大丈夫。それより彼と、フラムたちを助けてあげて!」
アリエッタは獣人の方を手で示す。
「君、声が……!」
「いいから、早く!」
陽介が獣人の枷に手を触れると、同じように砂となって消えていった。
「礼を言う」
縛るものがなくなり自由になった獣人は、立ち上がり咆哮した。壁も床も天井もビリビリと振動が走り、地震のような激しさを放つ。しかし不思議と心地よい揺れは、カノープスの体制だけを崩し、解放戦線には足の裏から沸き上がるような力を与えた。
「……テラ様」
サビアは小さな声をこぼした。記憶が地の底から湧くように駆け巡り、守護者がいた平和な時代を鮮明に思い出した。
土の民は皆獣人を囲み、土の精霊テラの復活を喜んだ。テラは愛しい民を抱きしめ、よく耐えてくれたと涙を流した。
「アーシア、何故同族を売った」
檻から出てフラムたちの前に立つテラの呼びかけに、カノープスは首をかしげる。
「アーシア? 誰のことでしょう。私は生まれた頃よりエルメス様の物でしかありません」
「違う、お前は我が民。我らが家族」
歩み寄るテラに、憎悪の感情をむき出しにする。
「お前にはわからない! ずっとひとりぼっちだった私の孤独を! 誰からも哀れみの目を向けられる悲しみを! 家族など誰もいなかった!! そんな私に、痛みを感じることこそが生きる喜びだと、エルメス様は教えてくださった!」
感情的になって、初めて彼女は記憶が混同していることを知る。小さい頃から聖都にいたという記憶が曖昧で不鮮明になり、怯えながら森を歩き、誰かに捕まったものに変わっていく。
聖都でエルメスに貢がれ、調教という名の性的拷問により恐怖と快楽と絶望に支配されたこと、もっと楽しみたいからという理由で大人の体に変えられ今の自分があるということ。
全てを思い出し、絶叫したカノープスは魔法が解けて少女の姿に戻ったが、既に息絶えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる