60 / 102
猫かぶり聖女×奴隷吸血鬼
30
しおりを挟む
「そんな顔してどうしたのよ」
わたしがそう聞くと、ドドは不機嫌な顔なんてしてませんけど、とでも言いたげに「何がでしょうか」と言った。わたしがありのままでいないことを、自分のせいだと思っているのか、未だにあの事件を気にしているのか、それとも、そのままのわたしを受け入れない周囲に不満があるのか、わたしには分からないけど。
「いいじゃない、別に。本当のわたしを知っているのはドドだけでも。わたしはアンタがありのままのわたしを愛してくれるなら、それで十分なんだけど?」
そう言えば、ドドは黙ってしまった。俯いたところで、わたしの座っている場所からは、ドドの顔がよく見える。真っ赤になったその顔は、全然隠せていない。
「ドド?」
わたしがからかうような声を出せば、ドドと目があう。わたしからドドの顔が見えていることに気が付いたようだ。ふっと分かりやすく目線がそらされる。
正直、これだけ密着して座っていれば、多少顔をそむけたところで、表情は見えるものなのに。
わたしは軽くドドのあごを掴んで、目線が合うように顔を上げさせる。でも、視線は合わないままだ。
それでも、じっとドドを見つめていれば、観念したように、ちら、と目がこちらを向く。
「た、しかに、俺はシャシャ様を慕っていますけど、でも……」
「じゃあなんの問題もないわね」
わたしはにっこりと笑う。
「どうせ猫を被っているのもあと数年よ。そうしたらこの国を出て、自由気ままに生きるわ。――でも、それでも猫を被ってたら、本当のわたしを知っているの、正真正銘、ドドだけになるわね」
今は、教団にいる人間の半数以上がわたしの本性を知らないとはいえ、それでもかつてのわたしを知っている人間はそれなりにいる。ヴィヴィーナなんかがいい例だ。
でも、わたしと一緒に国を出たら。こんなわたしを知るのは、ドドだけになる。
「独り占めとか、したくないの?」
「か、考えたことも、ありません。俺は、ただ――」
そこまで言って、ドドは口を閉じる。また視線がうろついた。言葉を探しているらしい。
そして、どこか、観念したように、「俺は、貴女が生き生きとしていれば、それで十分なので」と言った。
「欲のない子」
少しくらい我がままを言ったっていいのに。
「欲のない俺は、嫌いですか?」
ドドが自信なさげに聞いてくる。まさか、そんなわけがあるまい。ドドは、わたしの可愛い可愛い、吸血鬼。
わたしは返事をする代わりに、ドドにキスをした。
わたしがそう聞くと、ドドは不機嫌な顔なんてしてませんけど、とでも言いたげに「何がでしょうか」と言った。わたしがありのままでいないことを、自分のせいだと思っているのか、未だにあの事件を気にしているのか、それとも、そのままのわたしを受け入れない周囲に不満があるのか、わたしには分からないけど。
「いいじゃない、別に。本当のわたしを知っているのはドドだけでも。わたしはアンタがありのままのわたしを愛してくれるなら、それで十分なんだけど?」
そう言えば、ドドは黙ってしまった。俯いたところで、わたしの座っている場所からは、ドドの顔がよく見える。真っ赤になったその顔は、全然隠せていない。
「ドド?」
わたしがからかうような声を出せば、ドドと目があう。わたしからドドの顔が見えていることに気が付いたようだ。ふっと分かりやすく目線がそらされる。
正直、これだけ密着して座っていれば、多少顔をそむけたところで、表情は見えるものなのに。
わたしは軽くドドのあごを掴んで、目線が合うように顔を上げさせる。でも、視線は合わないままだ。
それでも、じっとドドを見つめていれば、観念したように、ちら、と目がこちらを向く。
「た、しかに、俺はシャシャ様を慕っていますけど、でも……」
「じゃあなんの問題もないわね」
わたしはにっこりと笑う。
「どうせ猫を被っているのもあと数年よ。そうしたらこの国を出て、自由気ままに生きるわ。――でも、それでも猫を被ってたら、本当のわたしを知っているの、正真正銘、ドドだけになるわね」
今は、教団にいる人間の半数以上がわたしの本性を知らないとはいえ、それでもかつてのわたしを知っている人間はそれなりにいる。ヴィヴィーナなんかがいい例だ。
でも、わたしと一緒に国を出たら。こんなわたしを知るのは、ドドだけになる。
「独り占めとか、したくないの?」
「か、考えたことも、ありません。俺は、ただ――」
そこまで言って、ドドは口を閉じる。また視線がうろついた。言葉を探しているらしい。
そして、どこか、観念したように、「俺は、貴女が生き生きとしていれば、それで十分なので」と言った。
「欲のない子」
少しくらい我がままを言ったっていいのに。
「欲のない俺は、嫌いですか?」
ドドが自信なさげに聞いてくる。まさか、そんなわけがあるまい。ドドは、わたしの可愛い可愛い、吸血鬼。
わたしは返事をする代わりに、ドドにキスをした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
67
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる