美しき吸血鬼は聖女に跪く

朝飯膳

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猫かぶり聖女×奴隷吸血鬼

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「そんな顔してどうしたのよ」

 わたしがそう聞くと、ドドは不機嫌な顔なんてしてませんけど、とでも言いたげに「何がでしょうか」と言った。わたしがありのままでいないことを、自分のせいだと思っているのか、未だにあの事件を気にしているのか、それとも、そのままのわたしを受け入れない周囲に不満があるのか、わたしには分からないけど。

「いいじゃない、別に。本当のわたしを知っているのはドドだけでも。わたしはアンタがありのままのわたしを愛してくれるなら、それで十分なんだけど?」

 そう言えば、ドドは黙ってしまった。俯いたところで、わたしの座っている場所からは、ドドの顔がよく見える。真っ赤になったその顔は、全然隠せていない。

「ドド?」

 わたしがからかうような声を出せば、ドドと目があう。わたしからドドの顔が見えていることに気が付いたようだ。ふっと分かりやすく目線がそらされる。
 正直、これだけ密着して座っていれば、多少顔をそむけたところで、表情は見えるものなのに。
 わたしは軽くドドのあごを掴んで、目線が合うように顔を上げさせる。でも、視線は合わないままだ。
 それでも、じっとドドを見つめていれば、観念したように、ちら、と目がこちらを向く。

「た、しかに、俺はシャシャ様を慕っていますけど、でも……」

「じゃあなんの問題もないわね」

 わたしはにっこりと笑う。

「どうせ猫を被っているのもあと数年よ。そうしたらこの国を出て、自由気ままに生きるわ。――でも、それでも猫を被ってたら、本当のわたしを知っているの、正真正銘、ドドだけになるわね」

 今は、教団にいる人間の半数以上がわたしの本性を知らないとはいえ、それでもかつてのわたしを知っている人間はそれなりにいる。ヴィヴィーナなんかがいい例だ。
 でも、わたしと一緒に国を出たら。こんなわたしを知るのは、ドドだけになる。

「独り占めとか、したくないの?」

「か、考えたことも、ありません。俺は、ただ――」

 そこまで言って、ドドは口を閉じる。また視線がうろついた。言葉を探しているらしい。
 そして、どこか、観念したように、「俺は、貴女が生き生きとしていれば、それで十分なので」と言った。

「欲のない子」

 少しくらい我がままを言ったっていいのに。

「欲のない俺は、嫌いですか?」

 ドドが自信なさげに聞いてくる。まさか、そんなわけがあるまい。ドドは、わたしの可愛い可愛い、吸血鬼。
 わたしは返事をする代わりに、ドドにキスをした。
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