お前もダンジョンマイスターにならないか?

国見 紀行

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第2殿 急ごしらえの救助隊

第40洞 探索者ディグ、誕生

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 通された演習場は、なぜか青空が広がる場所で風も通り、まさに「外」と言える場所だった。足元にはむき出しの土と瑞々しい草が茂り、目を閉じれば風の音すら聞こえてきそうな雰囲気だ。

「うっわ、外じゃん」
「空間制御魔法と環境再現学科の研究成果よ」
「両方とも学園で聞いたことあるな」

 強く踏み固められた土の地面が広がる中、ポツンと置かれた机にスピカは資料を置いて、自慢のピンクの髪を後ろにまとめた。

「ところで、試験官は?」
「私よ?」
「えっ、聞いてない」
「だって今から言うつもりだったし」

 スピカは短く魔法を唱える。体内のマナがそれに応え、一振りの刺突剣が生成された。試しに一薙ぎしてみると、まるで鞭のしなるような音で空気を裂いた。

「ディグ君ならこれが何に見えるか、わかるわよね?」
「あ、ああ。競技用のマナサーベルだよな。相手に当たったら破裂するヤツ」
「はい、じゃあ試験内容を言います」

 スピカはサーベルを一振りして言い放った。受付嬢のエプロンドレスにサーベルの構えが、なぜかマッチしている。

「これが砕ける前に、私に一撃を当ててください」
「はぁ!? ちょっと待て! ライセンス獲得試験ってそんなに厳しいのか!?」

 実はスピカのやつ、対人戦闘では在学中トップ三位に名前を連ねてたほどの腕前だ。同世代の俺がかなうはずない。
 だが彼女の顔はいたって真剣だ。

「別に致命の一撃を当ててって言ってないでしょう? そもそも生き残るには『相手の攻撃を受けない』ことと『こちらの攻撃は当てる』こと。これができない人間を迷宮に送り出すなんて無責任な仕事はしたくないの」

 一応さっき渡された木剣はサーベルを受けることができる。とは言え、やってることは新人の足切りも同然だ。

「横暴だろそんなの!」
「ああ、一応私はこれ以外の武器も魔法も魔工具も使わないわ。君は何を使ってもいいから、全力で来てね」
「……言ったな」

 魔法がアリなら勝機はある。
 だけど、魔法を使いまくっての勝利では納得してもらえないだろうな。

「それじゃあ、いつでもどうぞ」

 スピカは半身になって俺にサーベルを向ける。俺は数歩下がって両手を背中に回して木剣を隠し、相手の行動に備えた。

「言っとくけど、サーベルは木剣以外に当たってしまうと折れるわ。それが魔法であっても同じ。受け止めようとか考えないことね」
「もちろん」

 俺はすう、と息を吸い込んだ。
 右手に持っていた木剣を左手に持ち変え、逆手に抱える。
 その勢いで軸足を踏み込み、一気に前方へダッシュをかける。

「ふっ!」
「甘い!」

 俺の移動先に合わせるようにサーベルが閃く。そこは予想通り。そのサーベル…… 正確にはサーベルを持つ手に意識を集中する。なるべく重い魔法を選び、言霊を展開させる。

黒き鎖コサ永劫の礎エンレ儚くも重なれば静かに蝕みファッジーム……」
「甘いって言ったでしょう!」

 俺の詠唱を彼女は力任せにカウンターする。魔法は完成することなく霧散し、使われるはずだったマナが澱んで彼女の足元に散らばった。

「打ち消し、早っ!」

 一瞬だけ勢いの逸れたサーベルを転がりながら避け、木剣を振りかざしながら再度魔法を紡ぎ出す。

「重力系の魔法なんか、相手の見えるところで唱えたって完成するわけないでしょう!」
「どうかな? 対象がサーベルじゃないから抵抗するには生身で割らないといけないから、結構手間だろ?」
「君もでしょうが!」

 相手の攻撃の合間に魔法を放ち、時には成功するも結局抵抗されたりと、魔法は全く意味を成さない。
 あくまでは。

「……しつこいわね。デタラメに木剣振り回すより息が上がってない?」
「ああ、もう少しなんだけどな」

 体内のマナが足りない。
 だが、それは俺だけじゃない。スピカ自身も魔法の抵抗に一定のマナを使っている分、俺よりもマナの消耗が激しいはずだ。

 そして、彼女は体力がある分そこに気づいてない。

「……ちょっと期待したんだけどな」
「それはどうも」
「いいわ。終わらせる」

 スピカはすう、と息を整えた。
 今しかない!

現れよ、昏き闇ゲード! かの者を縛りあげよシャバク!」
「おっそい!」

 何度も見たスピカのマナカウンターは、体内のマナ不足から対応が一瞬遅れる。

「今だ!!」
「遅いって言ってるでしょう!」

 しかしスピカは周囲のマナを取り込み、再度カウンターを狙う。

「!?」

 ピタ、と彼女の動きが止まった。
 俺も見せかけのダッシュを止めて、歩いて近づいた。
 そして、トンと木剣で肩を叩く。これで合格のはずだ。

「はい、俺の勝ち」
「な、にが!?」

 スピカは絞り出すように声を上げる。これには俺も驚いた。常人なら気を失うほどの不純マナを吸い込んだはずなのに。

「何度も俺の魔法をカウンターしたろ? 正常使用されなかった不純なマナがお前の周りに溜まってたんだよ。最後に、お前がマナ切れを起こすタイミングで、カウンターにそのマナを吸い込むようにこっちの魔法を合わせたんだ」

 案の定カウンター不全を起こした彼女のマナ器官が、体全体の機能ごと止めてしまったわけだ。

「そん、な、ねら、って!?」
「ま、普通は澱んだマナを狙って使うことはないからな。みんなが知る知識の外の話さ」

 机の上にあるポーションを一つ、蓋を開けて彼女に飲ませる。うまく飲み込めず口元から滴る青い液体が、なぜか艶めかしく見えた。

「……合格ね。ねえ、今夜空いてない?」
「悪いけど、売約済みなんだ」



   ◇



「ディグラッド・ホーリーエールさん」
「はいはいー っと」
「はい、これがあなたのギルドライセンス。大事にしてね」

 後日、ギルドに呼び出された俺は出来たてのギルドライセンスを受け取った。
 ライセンスカードは希少金属のエーメルに彫り込まれる形で作られている。コイツを変形させるには相当量の魔法力を要するので、なくさない限り体が灰になるような環境でも判別が可能だ。
 ある意味、最強の身元確認証と言える。物騒だが。

「え? いきなりトリプルアップランク!?」

 カードの表記は『四七四』の順位が書かれていた。通常一万位メニランクと呼ばれる有象無象から始まるはずだが、なぜこうなった?

「私に勝ったのよ? それくらい当然」
「いや、普通に一番最初のランクでよかったのに」
「……ディグ君さ、学園の迷宮へ申請なしに潜りたいって言ってなかった?」
「うん、言ってたけど」
「ギルド管理下の迷宮に申請なしで入れるようになるの、最低トリプルアップそのランクなのよ」
「!」

 そういうことか。スピカなりの親切だったわけだ。

「サンキュー! 知らずにライセンスだけ取って意味なくなるところだったぜ」
「まったく…… よくそれで学園卒業できたわね」
「ははは。そこはアンカー教授様々、ってね」

  笑いながらカードをしまうと、スピカが突然俺の手を握ってきた。

「ねえ、今って特定の誰かと付き合ってるの?」
「特定!? い、いや…… 特定なのはいないかな」

 やばい。ただでさえ二人と関係を持ってるなんて知れたら瞬く間に学園中に知られる。
 いや、ギルド全体に知れ渡るぞ。
 かといって「ベルと付き合ってる」なんて言った日にはマイナさんに何を言われるか分からない。いや、多分ナニをされるんだろうけど。

「じゃあさ、私とセフレになってよ」
「……」

 杞憂だったわ。
 そういえばそういうやつだった。

「遠慮するよ。俺はそういうの、ちゃんと好きな人とするべきだと思うし」
「ベルちゃんとか?」
「……まあな」
「んー! ディグ君がこんなにできる人だったんなら、先に唾つけとくんだった!」

 心底悔しそうにするスピカ。これはアレかな? 結構認められたってことなのかな?

「ちなみに、ダブルアップランクになればギルドの呼び出し義務も発生するから、下手に上げないようにね」
「わかった」

 俺はギルドを出たその足で教授のところへ向かった。ちょうど授業の帰りのようで、俺を見つけるとニコっと笑った。

「お、それが君のライセンスカードか」
「いきなりトリプルランクですよ」

 俺は出来たてのカードを教授に見せる。しかし教授は少し不満げに顔をしかめた。

「そんなバカな。君ならダブルダウンクラスでも低いくらいだ」
「買いかぶりすぎですよ! でも、迷宮を自由に出入りできるには、これくらいじゃないとダメなんでしょ?」
「まあそうなんだが、あそこに行くにはダブルランクは必要だぞ?」
「あそこ?」
「もちろん、『からの迷宮』だ」
「行きませんって!」



   ◇



「取ってきたぜ!」

 俺は家に戻り、ベル達に出来たてのギルドライセンスを掲げて見せた。

「……」
「……」

 ベルは苦笑いしながらテーブルの上にカードを出す。

「うぇ!? ギルドランク、二三三!?」

 さらにマイナさんもカードを出す。

「はぁあ!? 一三七!??」

 俺よりかなり高いんですけど!?

「あのね、学園卒業者はだいたい取得するし、その時点でだいたい四〇〇は切るものなんだけど」
「――私は一度卒業もしてるしね」
「嘘、だろ?」

 じゃあスピカとか一体どれだけ高いランクなんだ……

「なに? 結構期待してたの?」
「いや、結構メンドい試験受けさせられたから、苦労に見合ってないって思っただけ」
「まあ―― 五〇〇切れただけでも結構すごいよ」

 うぐぐ、二人のランクを見た今となってはぬか喜びもいいところだ。

「とにかく、無事取得おめでとう」
「これでいつでも―― いっしょに行けるね」
「別にいきなりあちこち行く気はないよ。クリストリスの種をもらった迷宮に調査しに行くくらいだから」
「そういえば、あの水晶連石の迷宮、あたし入ったことないのよね」
「――私も」

 そう言えば、学園が演習で使う迷宮は「業火炎の洞窟」がほとんどだ。もう一つの「虚空の神殿」は管理とは名ばかりでほとんど使われたことはないと聞く。

「ていうか、ベルたちなら入れるんじゃないのか?」
「そもそも、あたしは一人で迷宮行くのイヤだし」
「――依頼クエストもないのに迷宮へ行くのはちょっと」

 まあ、普通は迷宮に入ることそのものが探索者の仕事だ。用事もなく迷宮に出入りするのは、まさにダンジョンマイスターくらいなものだろうな。

「じゃあ、いつ行く?」
「とりあえず次の休みの時に行こうかなって思ってる」
「了解―― 準備しとく」
「あ、みんな一緒に行く?」
「もちろんよ! 素材生成型とはいえ、一応ね」
「――クリストリスちゃんはどうする?」
「ああ、多分連れてっても問題ないだろ。それに、一緒の方がいいと思う」

 血が、とは言わないが親でもある迷宮に、生まれてからまだ会えてないんだし。

「さ、それじゃあ」
「――ディグちゃん」

 二人がそれぞれ俺の手を取る。
 最近の、夜のお誘いの合図になりつつある。

「お祝いも兼ねて、今日はもう休みましょっか」
「――たくさん労わってあげるから」

 うーん、ライセンスも取れたし、いつまでも教授の家に居続けるわけにもいかないなぁ。早く家を見つけて引っ越さないと。

 今夜も騒がしくすることを、どうか大目に見てください。
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