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第3殿 未来への道程
第50洞 空っぽの器
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「うっ!!」
ホノカゲがまとっていた薄暗いマナの様相が、じわじわと金色に光り始めた。
「きゃぁぁあっ!」
ベルが短く悲鳴を上げる。俺も普段通りなら声を上げていただろう。だが今は視界がいつもと違う。もとに戻りつつあるが、まるで半分夢の中にいるような、ぼやけた状態と重ね合って見えている。
「ホノカゲ…… 体が溶けてきとるやん」
這いつくばったままのイレーナさんが、なんとか顔を上げて戦況を見守る中、突然ホノカゲの皮膚が崩れ落ち、筋肉や神経がただれて腐り落ち始めたのだ。
「い、痛いっ! くそ、マナが、力が、なくなる! 腐るっ! うしなうううぅぅ!!」
落ちる肉片を拾っては骨の間にねじ込み、拾っては腹に収め、拾っては崩れ落ちる。
「あああ! あああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁ!!!!!」
うっすら見えていた骨がしっかりと形を出す頃、上半身はほぼ肉を失い、下半身もグズグズになってなおホノカゲは散らばる肉片をかき集めるが、それらはもう肉の体すら保てず、土とほぼ変わらなくなっていく。
「ごぼ、ごぼぼ、ごぼぼほ……」
ついに声も出なくなり、こぼれる眼球すらもう形をなくして土くれの一部となるのに、さほど時間はかからない。
「……光が、消えた」
ホノカゲがまとっていた光が弾け、視界もほぼ元に戻った。手の中にある妙な欠片は既に砂となり手からこぼれ落ちていた。
そこに残ったのは、黒ずんだ土くずと赤黒く濁った骨だけだった。
◇
ホノカゲとの戦闘は終わったが、何故か体は火照ったままで冷める気配がない。
……命のやり取りを行ったからとはいえ、この状態は少し恥ずかしいのだが。
『んっ、……はぁ、はぁ、んぐっ!!?』
「あっ、そう言えば! ええっと、レスクス、様でいいのかな?」
脅威は去ったが、別の意味でまだ終わっていない。
ベルに抱えられたままの女性に声をかける。
『体が、熱い……』
「ベル、どんな状態か分かるか?」
「自信はないけど、人と同じだとして体温が高いのと、極度の興奮状態なのはわかる。ウイルス性というより魔法由来の発熱っぽいのよ」
「魔法由来?」
「マナ酔いとか、回復薬の過剰摂取とか」
俺も彼女に触れてみる。確かに体はかなり熱い。体格はイレーナさんとベルの間くらいの姿で、もちろん何も着ていない。ついさっきまでホノカゲが好きなようにしていたせいだ。
『ああっ、んっ、ふ、ぅぅぅ……』
よく見ると、レスクス様がさっきのホノカゲ同様強い光を発し始めている。
「もしかしてこの光」
そこで俺はある仮説を立てた。
「レスクス様、ひょっとしてホノカゲが奪った勇者の力、戻ってきてたりしませんか?」
『勇者の、ちから……? はぐぅ!』
彼女は苦しそうな顔をしながら体を弓なりに反らす。
「だめ! 何らかの方法で溜まってるエネルギーを放出しないと、体がもたない!」
手を伸ばす。
思ったほど熱くない。ならば。
「ディ、ディグ!?」
俺は彼女を抱きしめた。高熱であるにも関わらずその体はむしろひんやりと冷たく、俺の体温と混ざりあって安らぎすら覚えた。
「苦しくないですか?」
『はっ、んっ、く…… 苦しくは、ない、です』
ただ抱きしめられていたレスクス様は、徐々に体を俺に預けてくる。腕を回し、足を投げ出し、少女が甘えるように肌を重ね、体温を交換しあう。
『はぁ…… はぁ……』
しかし光はますます強くなり、彼女の息もどんどん荒くなっていく。
『あなたに…… 掛けるしかない、ごめ……なさい』
「俺でよければ。何をすればいいですか?」
『そのまま、わたくしを、受け入れて、くだ、っさい』
ん?
今『受け入れて』って言いました?
それって、そういうことです?
「どうしたの、ディグ!?」
「い、いやその」
公開浮気しろって、やたら難易度の高いことを……
「方法があるなら試してみて! やらずに後悔するくらいなら、やってから後悔しなさい!」
「そ、それはそうなんだけど……」
何とか別の方法を求めるべくマイナさんにも視線を向ける。しかし彼女も真剣な笑顔を浮かべるだけで期待した解決策はないようだ。
「――信じてるから」
せ、せめてイレーナさんなら!
「ディーやん! いったれ!」
くっそおおおおおーーーー!!
「どうにでも、なれ!!」
俺は彼女を抱きしめたまま、自分の欲望すべてを一気に捧げた。
『んっ!!』
「おふっ?」
繋がった瞬間、まるで抱きしめているレスクス様がとろけた気がした。
もっとも心地よい温度の湯船に浮かぶような浮遊感、あるいはふわふわの温かい泡に包まれているような、えも言われぬ快感の中に放り込まれた。
『あっ、これ…… は……』
耳元で囁くような繊細な声に、俺は思わず身をよじらせた。抱擁の力に緩急が宿り、体全体が快楽を求める器官に変わってしまったかのような気持ちよさに脳が置き換わっている。
「あの、痛くないですか?」
「ディーやんのいかいからなぁ~」
『は、はい。さっきのよりも、ぜんぜん、あたたかくて……』
少女がまどろむ時のような、とろけた声。
そして気がついたのだが、彼女の中で弾けそうになっていた光の輝きが、繋がった部分を通じて俺に流れ込んでいた。
『あ、あなたは、大丈夫です、か?』
「え、ええ。気持ちいいくらいですよ」
実際ホノカゲのようになるんなら別の策も考えないとと思っていたが、むしろ何も起きないことに自分が一番驚いている。
気持ちいいのは、強く否定しない。
「それより、レスクス様は具合どうですか?」
『はい、とても…… 夢心地です』
とろんとした表情、体重すら俺に預けてその快楽に身を委ねているようだ。
男としては嬉しいのだが、ちょっとずつ女性陣の圧力が強くなっていくのを感じる。あまり長くこの状態を続けるわけにはいけないだろうな……
「すいません、少し、動きます」
『えっ、ほぅっ!?』
彼女の中に溜まったと思われる過剰なマナを俺の方へ流し込むために、彼女の体を刺激する。簡単に言うとマッサージだ。既に半分近く流れ込んでいるのであとは勝手に流れてくるのを待てばいいのだろうが、出来るだけこの密着姿勢は早く解除したい。
『ま、って! まだ! ぁぁぁあ!』
「すいません、すいません!」
多少強い刺激であっても我慢してもらう。さっきのホノカゲのような乱暴な所作ではないが、この短期間で恐怖に感じた体験を再び味わわされる時間は短い方がいいだろう。
『あっ、来る、来る、来ますっ!!』
彼女の抱擁が強まる。俺も快楽だけを感じるわけにはいかず、しかし限界は来る。
『ああああああぁぁぁーーー!!!! ぁ、ぁ……』
彼女の中に眠る光の粒が、完全にはじけ飛ぶ。それを見守った俺もまた生を実感したことで、この所作がうまくいったのだと確信した。
「はぁ、はぁ、っぶねぇ」
「――お疲れ様、ディグ」
「マイナさん、なんか背中に柔らかいものが」
「癒し――」
「むしろ、休憩をください……」
ベルにレスクス様を確認してもらうと、体の異変はほぼ消えており安心していいとのことなので、簡易ベッドに寝かせて俺たちも休憩に入った。もちろん俺も身なりを整えないと。
「外の様子はどうかしら?」
「どやろ? こっちに流れて来うへんってことは、一応大人しゅうしとるんちゃうか?」
「発生源は処理したんだ。すぐに倒しに行かなくても増えはしないさ」
「一応この後、処理しに行くのでござろう?」
「まあ、そうなんですけどね……」
とにかく、いろんな事がありすぎた。
ありすぎたにしては、俺たちが知るべきことが多すぎて、手に入れた情報は少なすぎる。
俺たちだけの問題ならいざ知らず、ギルドはおろか世界すら巻き込む事態に逃げたいやら立ち向かわなきゃならないやら。
俺個人で言えばもっと苦境に…… いや、自ら飛び込んでるんだからここは言い訳できないな。
「ひとまずはこの城の中を徹底的に潰して、そこから城の中庭、最終的に橋を境にして森の掃討だな」
「森が―― 一番心配」
「せやな。ほっぽって突っ切ったからわかるけど、あれを掃討すんのは相当苦労するで」
「……」
「……」
「……」
「……」
「み、ミサオまで静かぁなんなや!」
『ん……』
この部屋を出た後の相談をしていると、レスクス様が目を覚ました。
『あっ! 私としたことが…… お世話になりました』
迷宮の主が深々と頭を下げる。謝罪よりまず目の毒をなんとかしてほしい。
「いえ、その、体は大丈夫ですか?」
『ええ。おかげさ…… その、貧相な体で申し訳ありませんでしたぁ……』
「とととんでもない! すごく堪能させていただきました!」
「へえ、そうなんだディグ。堪能したんだぁ」
たすけて。
「それより―― どうしてこんなことに?」
マイナさんナイス!
『そうですね…… 私も役目を終えたので、お話します』
ミサオさんに携帯毛布を掛けてもらったレスクス様は、ぽつぽつと話し始めた。
『このお城は、先の魔王討伐を終えた勇者様が、その力を後世に残すべく立ち寄られた迷宮なんです。当時のパーティに未来視ができる方がおられて、必要になるであろうことを見通されたんだとか』
未来視、か。そういえばラスキーさんもそんな力があるとか言ってたような。
『勇者様は、私の核に直接力を注ぎこんで残す方法を取られました。しかし、この力を取り出すには〝器〟を持たないと取り出せない仕組みにしたとおっしゃいました』
「〝器〟? とは?」
『さあ、そこまでは……』
そもそも、俺とホノカゲの共通点は何だろう。男であることくらいだ。まさか、勇者の力が宿るには男じゃないとダメ、とか言わないよな。
だってもしそうだとしたら、女のクリストリス…… あ!!
「もしかしてそういうことか!」
「なんか変なこと考えてない、ディグ?」
『私が聞いた〝器〟とは、勇者の力を受け止める〝空っぽの器〟とのことです』
なんか、最近そんな話を聞いた気がするぞ?
『その器を持って私と魂を繋ぐことで、勇者の力を譲渡できるらしいのですが…… 魂の繋がりって、気持ちよいのですね』
頬を赤らめるレスクス様。
周りの視線が痛い俺。
「あ、でもつまり、今のディグには勇者の力が備わったって事?」
「へぁ!? 俺に??」
そう言えば先ほど俺に流れてきたあの妙な光の奔流はどこに行ったやらで、俺の体は全く光っていない。
「特に、変化はなさそうだけど?」
「んーどれどれ、ディーやんわっちにハグしてみぃや」
両手を広げて迎えてくれるミナナギの女性に思いっきりハグを仕掛ける。
「どう! です! か!!」
「……普通やな」
「いたたたたたたたた! ギブ、ギブぅっ!!」
落胆するイレーナさんは、仕返しとばかり俺を抱きしめる。
どっちかっていうと彼女の体の方が心配だが。
『詳しくは知りません。お力になれず……』
「あーいや、いいんです! 相手に渡らなかっただけでも儲けものですから」
『相手? やはりあの男は魔王の?』
「それは…… どうなんでしょうか。俺たちもまだ確信ないし、まだそいつが魔王として動きだすのかすら分かんない状態なので」
いや、こうしてホノカゲがこの迷宮に潜り込んでいたことが証拠にならないだろうか。
なにより、俺たちより先にこの城に足を運び、勇者の足跡から力のありかにたどり着き、未遂に終わりつつも一時はその力を手にしたわけだし。
ちょうど話がひと段落したとき、ミサオさんが突然叫んだ。
「む、足音が近づいて来るでござる!」
「モンスターか!?」
俺たちは素早く立ち上がり戦闘態勢を整える。
「む、この歩みは人間の歩き方みたいやで」
「人? 増援は聞いてないけ……」
待て。必ずしも俺たちの増援とは限らない。
「ホノカゲの仲間か、ランビルドの可能性もある。いったん遠くで構えよう」
全員が俺の意見に賛同し、なるべく扉から距離を取りつつ侵入者を迎え撃てる状態で待機した。
足音は着実に近くなってくる。人数で言うと、三人ぶんか。
「……止まったわ」
「あれ、なかなか開けないでござるぞ」
『ああ、あの扉は閉まるたびに鍵がかかるから』
なるほど、ってことは鍵を開けてるわけか。
……あれ、俺たちが来た時は特別なにもせずに開いた気がするんだけど。
「ってことは、ランビルドじゃあないのか?」
「――ありえる」
「でもそれだとしたら、一体誰がこの城に来るって言うのよ」
「それもそうなんだよな……」
がちゃり、と鍵はあっさり開き、扉が大きく開かれた。
「生きてるかー!? 『迷宮たらし』の面々は!?」
扉を開けて入ってきたのは、現役最強パーティ『無限の大地』ら三名だった。
「ラスキーさん、ブラブレイスさん、ロードレムさん!?」
「おお、無事だったか。外のモンスターがまるまる残ってたから心配したんだ。もう外は綺麗さっぱり退治して来たから安心しろ!」
「えぇえ!? あの量のモンスターを、全部ですか!?」
「当然だ! それも任務だろう? 本来なら君たちの仕事なんだぞ」
「いや、頭を叩いてから掃討するのが定石じゃないですか!?」
俺の意見に大男二人は「?」と顔を見合わせる。
なるほど最強のパーティを背負うだけあるな。
ホノカゲがまとっていた薄暗いマナの様相が、じわじわと金色に光り始めた。
「きゃぁぁあっ!」
ベルが短く悲鳴を上げる。俺も普段通りなら声を上げていただろう。だが今は視界がいつもと違う。もとに戻りつつあるが、まるで半分夢の中にいるような、ぼやけた状態と重ね合って見えている。
「ホノカゲ…… 体が溶けてきとるやん」
這いつくばったままのイレーナさんが、なんとか顔を上げて戦況を見守る中、突然ホノカゲの皮膚が崩れ落ち、筋肉や神経がただれて腐り落ち始めたのだ。
「い、痛いっ! くそ、マナが、力が、なくなる! 腐るっ! うしなうううぅぅ!!」
落ちる肉片を拾っては骨の間にねじ込み、拾っては腹に収め、拾っては崩れ落ちる。
「あああ! あああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁ!!!!!」
うっすら見えていた骨がしっかりと形を出す頃、上半身はほぼ肉を失い、下半身もグズグズになってなおホノカゲは散らばる肉片をかき集めるが、それらはもう肉の体すら保てず、土とほぼ変わらなくなっていく。
「ごぼ、ごぼぼ、ごぼぼほ……」
ついに声も出なくなり、こぼれる眼球すらもう形をなくして土くれの一部となるのに、さほど時間はかからない。
「……光が、消えた」
ホノカゲがまとっていた光が弾け、視界もほぼ元に戻った。手の中にある妙な欠片は既に砂となり手からこぼれ落ちていた。
そこに残ったのは、黒ずんだ土くずと赤黒く濁った骨だけだった。
◇
ホノカゲとの戦闘は終わったが、何故か体は火照ったままで冷める気配がない。
……命のやり取りを行ったからとはいえ、この状態は少し恥ずかしいのだが。
『んっ、……はぁ、はぁ、んぐっ!!?』
「あっ、そう言えば! ええっと、レスクス、様でいいのかな?」
脅威は去ったが、別の意味でまだ終わっていない。
ベルに抱えられたままの女性に声をかける。
『体が、熱い……』
「ベル、どんな状態か分かるか?」
「自信はないけど、人と同じだとして体温が高いのと、極度の興奮状態なのはわかる。ウイルス性というより魔法由来の発熱っぽいのよ」
「魔法由来?」
「マナ酔いとか、回復薬の過剰摂取とか」
俺も彼女に触れてみる。確かに体はかなり熱い。体格はイレーナさんとベルの間くらいの姿で、もちろん何も着ていない。ついさっきまでホノカゲが好きなようにしていたせいだ。
『ああっ、んっ、ふ、ぅぅぅ……』
よく見ると、レスクス様がさっきのホノカゲ同様強い光を発し始めている。
「もしかしてこの光」
そこで俺はある仮説を立てた。
「レスクス様、ひょっとしてホノカゲが奪った勇者の力、戻ってきてたりしませんか?」
『勇者の、ちから……? はぐぅ!』
彼女は苦しそうな顔をしながら体を弓なりに反らす。
「だめ! 何らかの方法で溜まってるエネルギーを放出しないと、体がもたない!」
手を伸ばす。
思ったほど熱くない。ならば。
「ディ、ディグ!?」
俺は彼女を抱きしめた。高熱であるにも関わらずその体はむしろひんやりと冷たく、俺の体温と混ざりあって安らぎすら覚えた。
「苦しくないですか?」
『はっ、んっ、く…… 苦しくは、ない、です』
ただ抱きしめられていたレスクス様は、徐々に体を俺に預けてくる。腕を回し、足を投げ出し、少女が甘えるように肌を重ね、体温を交換しあう。
『はぁ…… はぁ……』
しかし光はますます強くなり、彼女の息もどんどん荒くなっていく。
『あなたに…… 掛けるしかない、ごめ……なさい』
「俺でよければ。何をすればいいですか?」
『そのまま、わたくしを、受け入れて、くだ、っさい』
ん?
今『受け入れて』って言いました?
それって、そういうことです?
「どうしたの、ディグ!?」
「い、いやその」
公開浮気しろって、やたら難易度の高いことを……
「方法があるなら試してみて! やらずに後悔するくらいなら、やってから後悔しなさい!」
「そ、それはそうなんだけど……」
何とか別の方法を求めるべくマイナさんにも視線を向ける。しかし彼女も真剣な笑顔を浮かべるだけで期待した解決策はないようだ。
「――信じてるから」
せ、せめてイレーナさんなら!
「ディーやん! いったれ!」
くっそおおおおおーーーー!!
「どうにでも、なれ!!」
俺は彼女を抱きしめたまま、自分の欲望すべてを一気に捧げた。
『んっ!!』
「おふっ?」
繋がった瞬間、まるで抱きしめているレスクス様がとろけた気がした。
もっとも心地よい温度の湯船に浮かぶような浮遊感、あるいはふわふわの温かい泡に包まれているような、えも言われぬ快感の中に放り込まれた。
『あっ、これ…… は……』
耳元で囁くような繊細な声に、俺は思わず身をよじらせた。抱擁の力に緩急が宿り、体全体が快楽を求める器官に変わってしまったかのような気持ちよさに脳が置き換わっている。
「あの、痛くないですか?」
「ディーやんのいかいからなぁ~」
『は、はい。さっきのよりも、ぜんぜん、あたたかくて……』
少女がまどろむ時のような、とろけた声。
そして気がついたのだが、彼女の中で弾けそうになっていた光の輝きが、繋がった部分を通じて俺に流れ込んでいた。
『あ、あなたは、大丈夫です、か?』
「え、ええ。気持ちいいくらいですよ」
実際ホノカゲのようになるんなら別の策も考えないとと思っていたが、むしろ何も起きないことに自分が一番驚いている。
気持ちいいのは、強く否定しない。
「それより、レスクス様は具合どうですか?」
『はい、とても…… 夢心地です』
とろんとした表情、体重すら俺に預けてその快楽に身を委ねているようだ。
男としては嬉しいのだが、ちょっとずつ女性陣の圧力が強くなっていくのを感じる。あまり長くこの状態を続けるわけにはいけないだろうな……
「すいません、少し、動きます」
『えっ、ほぅっ!?』
彼女の中に溜まったと思われる過剰なマナを俺の方へ流し込むために、彼女の体を刺激する。簡単に言うとマッサージだ。既に半分近く流れ込んでいるのであとは勝手に流れてくるのを待てばいいのだろうが、出来るだけこの密着姿勢は早く解除したい。
『ま、って! まだ! ぁぁぁあ!』
「すいません、すいません!」
多少強い刺激であっても我慢してもらう。さっきのホノカゲのような乱暴な所作ではないが、この短期間で恐怖に感じた体験を再び味わわされる時間は短い方がいいだろう。
『あっ、来る、来る、来ますっ!!』
彼女の抱擁が強まる。俺も快楽だけを感じるわけにはいかず、しかし限界は来る。
『ああああああぁぁぁーーー!!!! ぁ、ぁ……』
彼女の中に眠る光の粒が、完全にはじけ飛ぶ。それを見守った俺もまた生を実感したことで、この所作がうまくいったのだと確信した。
「はぁ、はぁ、っぶねぇ」
「――お疲れ様、ディグ」
「マイナさん、なんか背中に柔らかいものが」
「癒し――」
「むしろ、休憩をください……」
ベルにレスクス様を確認してもらうと、体の異変はほぼ消えており安心していいとのことなので、簡易ベッドに寝かせて俺たちも休憩に入った。もちろん俺も身なりを整えないと。
「外の様子はどうかしら?」
「どやろ? こっちに流れて来うへんってことは、一応大人しゅうしとるんちゃうか?」
「発生源は処理したんだ。すぐに倒しに行かなくても増えはしないさ」
「一応この後、処理しに行くのでござろう?」
「まあ、そうなんですけどね……」
とにかく、いろんな事がありすぎた。
ありすぎたにしては、俺たちが知るべきことが多すぎて、手に入れた情報は少なすぎる。
俺たちだけの問題ならいざ知らず、ギルドはおろか世界すら巻き込む事態に逃げたいやら立ち向かわなきゃならないやら。
俺個人で言えばもっと苦境に…… いや、自ら飛び込んでるんだからここは言い訳できないな。
「ひとまずはこの城の中を徹底的に潰して、そこから城の中庭、最終的に橋を境にして森の掃討だな」
「森が―― 一番心配」
「せやな。ほっぽって突っ切ったからわかるけど、あれを掃討すんのは相当苦労するで」
「……」
「……」
「……」
「……」
「み、ミサオまで静かぁなんなや!」
『ん……』
この部屋を出た後の相談をしていると、レスクス様が目を覚ました。
『あっ! 私としたことが…… お世話になりました』
迷宮の主が深々と頭を下げる。謝罪よりまず目の毒をなんとかしてほしい。
「いえ、その、体は大丈夫ですか?」
『ええ。おかげさ…… その、貧相な体で申し訳ありませんでしたぁ……』
「とととんでもない! すごく堪能させていただきました!」
「へえ、そうなんだディグ。堪能したんだぁ」
たすけて。
「それより―― どうしてこんなことに?」
マイナさんナイス!
『そうですね…… 私も役目を終えたので、お話します』
ミサオさんに携帯毛布を掛けてもらったレスクス様は、ぽつぽつと話し始めた。
『このお城は、先の魔王討伐を終えた勇者様が、その力を後世に残すべく立ち寄られた迷宮なんです。当時のパーティに未来視ができる方がおられて、必要になるであろうことを見通されたんだとか』
未来視、か。そういえばラスキーさんもそんな力があるとか言ってたような。
『勇者様は、私の核に直接力を注ぎこんで残す方法を取られました。しかし、この力を取り出すには〝器〟を持たないと取り出せない仕組みにしたとおっしゃいました』
「〝器〟? とは?」
『さあ、そこまでは……』
そもそも、俺とホノカゲの共通点は何だろう。男であることくらいだ。まさか、勇者の力が宿るには男じゃないとダメ、とか言わないよな。
だってもしそうだとしたら、女のクリストリス…… あ!!
「もしかしてそういうことか!」
「なんか変なこと考えてない、ディグ?」
『私が聞いた〝器〟とは、勇者の力を受け止める〝空っぽの器〟とのことです』
なんか、最近そんな話を聞いた気がするぞ?
『その器を持って私と魂を繋ぐことで、勇者の力を譲渡できるらしいのですが…… 魂の繋がりって、気持ちよいのですね』
頬を赤らめるレスクス様。
周りの視線が痛い俺。
「あ、でもつまり、今のディグには勇者の力が備わったって事?」
「へぁ!? 俺に??」
そう言えば先ほど俺に流れてきたあの妙な光の奔流はどこに行ったやらで、俺の体は全く光っていない。
「特に、変化はなさそうだけど?」
「んーどれどれ、ディーやんわっちにハグしてみぃや」
両手を広げて迎えてくれるミナナギの女性に思いっきりハグを仕掛ける。
「どう! です! か!!」
「……普通やな」
「いたたたたたたたた! ギブ、ギブぅっ!!」
落胆するイレーナさんは、仕返しとばかり俺を抱きしめる。
どっちかっていうと彼女の体の方が心配だが。
『詳しくは知りません。お力になれず……』
「あーいや、いいんです! 相手に渡らなかっただけでも儲けものですから」
『相手? やはりあの男は魔王の?』
「それは…… どうなんでしょうか。俺たちもまだ確信ないし、まだそいつが魔王として動きだすのかすら分かんない状態なので」
いや、こうしてホノカゲがこの迷宮に潜り込んでいたことが証拠にならないだろうか。
なにより、俺たちより先にこの城に足を運び、勇者の足跡から力のありかにたどり着き、未遂に終わりつつも一時はその力を手にしたわけだし。
ちょうど話がひと段落したとき、ミサオさんが突然叫んだ。
「む、足音が近づいて来るでござる!」
「モンスターか!?」
俺たちは素早く立ち上がり戦闘態勢を整える。
「む、この歩みは人間の歩き方みたいやで」
「人? 増援は聞いてないけ……」
待て。必ずしも俺たちの増援とは限らない。
「ホノカゲの仲間か、ランビルドの可能性もある。いったん遠くで構えよう」
全員が俺の意見に賛同し、なるべく扉から距離を取りつつ侵入者を迎え撃てる状態で待機した。
足音は着実に近くなってくる。人数で言うと、三人ぶんか。
「……止まったわ」
「あれ、なかなか開けないでござるぞ」
『ああ、あの扉は閉まるたびに鍵がかかるから』
なるほど、ってことは鍵を開けてるわけか。
……あれ、俺たちが来た時は特別なにもせずに開いた気がするんだけど。
「ってことは、ランビルドじゃあないのか?」
「――ありえる」
「でもそれだとしたら、一体誰がこの城に来るって言うのよ」
「それもそうなんだよな……」
がちゃり、と鍵はあっさり開き、扉が大きく開かれた。
「生きてるかー!? 『迷宮たらし』の面々は!?」
扉を開けて入ってきたのは、現役最強パーティ『無限の大地』ら三名だった。
「ラスキーさん、ブラブレイスさん、ロードレムさん!?」
「おお、無事だったか。外のモンスターがまるまる残ってたから心配したんだ。もう外は綺麗さっぱり退治して来たから安心しろ!」
「えぇえ!? あの量のモンスターを、全部ですか!?」
「当然だ! それも任務だろう? 本来なら君たちの仕事なんだぞ」
「いや、頭を叩いてから掃討するのが定石じゃないですか!?」
俺の意見に大男二人は「?」と顔を見合わせる。
なるほど最強のパーティを背負うだけあるな。
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