カメレオン小学生

ウルチ

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1章

お前が言うならそうなんだろう

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試験官が連れてきたゴブリンは、俺の知るゴブリンよりもやせ細っていて小さかった。
同じなのは、緑色の肌ぐらいだ。
こんな奴に恐怖心を抱くものなんだろうか?
俺からすれば、自称A級冒険者の及川さんの方が筋肉だるまだしデカいし怖いと思う。

「おいおい、何を不思議そうな顔してんだ?」
「いや、俺の知ってるゴブリンよりも小さいと思ってさ」
「あ?ゴブリンはあのサイズしかいねぇはずだがな」
「ってことは、また騙されてたってことか」
「そんなことよりお前は周りを見ろ。どうだ青いのが多いだろ?」
「そうだね。何をそんなに恐れるているのか…」
「普通の感覚ならこえぇのさ。お前は今の中途半端に壊れてる状態をしっかり理解しとけ。チビの時は怖かっただろ?」
「たぶん、怖くなかった。勇気のある子供だって褒められてたよ」
「ケッ。蛮勇少年とか質がわりぃな」
「それで、見えるようになったのはいいけど、ここからどうするんだ?」
「魔力を奪えるのが一番はえぇんだが、それは今の俺達にゃ出来ねぇから、使われた分とか漏れ出てる分をお前が吸えばいい。あとはこっちでやる」

「吸う?」
「触れられる位置に行けば勝手に吸えるから、細かいことは気にしなくていい」
「なるほど」

カラレと話す為に少し離れていた参加者の輪の中に戻る。
冷静になって周りを見ると、今の俺と同世代が多い印象だ。
見える魔力の色は遠くで見たときよりもオレンジ色が多くなっており、未来への期待が大きいことが伺えた。

「それでは、講習会の最後としてモンスターの討伐を行ってもらう。ここで討伐することが出来ない者には冒険者証を発行することはない。心してかかるように」

いよいよ始まるようだ。
参加者の顔つきも先ほどよりも引き締まっている。
新エネルギーとしての活用が出来る魔石は、小さいものでもお小遣い稼ぎにはちょうどいいので、能力を持っていれば副業として人気というのは何かで見たことがあったので、軽い気持ちで来ている人も多いのだろう。

「私から行かせてください」

待合室で隣に座っていた美人が名乗り出ていた。
そのままの勢いでゴブリンの方へと進んでいく。
美人が何かを呟いたあと、空中に水の塊が現れ、その後に軽く腕を振った。
水はゴブリンへと飛んでいき、頭を覆うように纏わりついた。
水にのまれたゴブリンは苦しそうにもがいていたが、やがて力なく倒れモヤとなって消えさった。
ただの水に何が出来るのかと思っていたが、モンスターも窒息はするらしい。

「なかなかいい魔法の使い方をする嬢ちゃんだなぁ」

カラレが感心したように呟いた。

「ふむ、文句なしの合格だ」
「ありがとうございます」

あの人の顔色は特に変わっていなかったが、魔力の色はオレンジ色が強くなっている。

「それで、感情は食えてるのか?」
「弱っちくなってる俺には十分なくらいにわな」
「ん?今までの話で弱くなってるなんて言ってたっけ?」
「あ?弱くなってなかったらお前に契約なんて持ち掛けねぇだろ」
「なるほど」
「そこで納得で終わんじゃねぇよ」

そうは言っても俺は死のうとしていたからこの辺のことはどうでもよかった。
確かに利用はされているんだと思う。
でも、カラレは俺を縛ろうとはしていない。
それで十分なんだよな。

「方針変更だ!なんかいい感じにあいつらをビビらせるぞ!」
「急にどうした?」
「お前のなんでも受け入れますよ~って態度にイライラさせられたからな。憂さ晴らししねぇとな」
「はぁ」

よく分からなかったが、カラレが言うならそうなんだろう。
でも、ビビらせるって言ってもどうすればいいんだろうか。

まぁ、気乗りしないけど、とりあえずやってみるか。

テストの進み具合を確認すると、若い男がゴブリンを大きな剣で叩き斬っているところだった。
このスマート倒してる様子を見るとビビらせることへのハードルがとても高いように感じる。

「次、よろしくお願いします」

試験官に名乗り出て前に行くと連れらてきたゴブリンが放たれた。
この試験で思ったのは、ここで躊躇すると待機している参加者に向かう可能性があるから冒険者の一般市民の保護的役割を熟せないと判断され不合格になるのかもしれない。

「ぐぎゃぁぁぁぁ」
「いくぞ」

俺は、ゴブリンまでの距離を一気に詰め、腕を硬化させた状態で胸に突き刺す。
この時に倒してしまわないように浅めにする。
暴れるゴブリンを無視して腕を勢いよく引き抜き、吹き出た血を浴びながら目をつぶす。
これをやってもまだモヤにならなかったので、頭を掴み強引に一周回転させたところでゴブリンが小さな魔石を残して消えた。

血を大量に浴びた人間はビビると思ったのでやってみた戦闘だ。

「ケケケケ。及第点だな。付いた血でも舐めておけ。お前にビビらせるぞ」

言われた通りに垂れてきていたゴブリンの血を舐める。

「やっぱり、ゴブリンの血はマズいな…」

これをやったところで、試験官が慌てて駆け寄ってきた。

「おい!何そんなもん舐めてるんだ!すぐに吐き出せ!病気になったらどうするんだ!」

畳みかけるように怒鳴られた。
とりあえず痰を吐き捨てるように唾を吐きだしておいた。

「はぁ。余計なことをしてダンジョンで倒れたら死ぬんだぞ!」
「すみません。思わず舐めてました。気を付けます」
「まったく…危なっかしい部分もあるが、このテストではそこは関係ない。合格だ」
「ありがとうございます」

カラレのせいで危なっかしいやつ認定されてしまった。
いや、最終的には乗り気だったし、自分のせいでもあるか。

合格を言われたので、このまま手続きをしに行ってもいいのだが、カラレはここで生まれる感情を食べたがっていたので終わるのを待つことにした。
参加者が集まっている一角へと足を運んでいると、必要以上に避けられていることに気が付いた。

(いや、気が付いたじゃないな。ゴブリンの血にまみれてる奴に近づこうとは思わないよな)

どうしたもんかと考えていたら、水魔法を使っていた美人が近づいてきた。

「ずっとそのままでいるつもりですか?」
「いや、さすがに洗い流そうとは思うんだけど、方法がなくてですね…」
「すぐに戻ればいいじゃないですか」
「能力って自分の以外に馴染みが無いので、少しでも見たいんですよ」

我ながらよく口が回るなと感心した。
すると美人さんは、水を作り出してくれた。

「これで、洗ってください。少しはマシになると思います」
「ありがとうございます」

助かった。
モヤになって消えるなら付いた血とかも消えてくれればいいのに。
出してくれた水に思いっきり体を突っ込み、体を洗い流す。
あらかた終わったところで話しかけられた。

「あの、もしよかったら名前を教えてもらってもいいですか?私は、芦名 レイナっていいます」
「いいですよ。俺は…久崎リオンです」

一瞬、偽名を名乗るか迷ったが、どうせバレるのでやめた。
名乗った時、芦名さんが少しほおけた様子を見せた。

「どうしたんですか?」
「い、いえ。もしよかったら私のことはレイナって呼んでください!それから敬語も無しで!」
「わ、わかりまし…わかった。よろしくレイナ。俺も同じようにしてもらっていいからね」
「よろしくね!リオン!」

この後は、時折、レイナから話しかけられるのに対し、曖昧な相槌を打ちながら過ごした。
 

 

 
「ケケケケ。この女、くさいな」

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