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第11話 亡霊先生と魅了の魔術
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それから俺たちは魔術基礎の試験を受けるため、魔術訓練場に移動した。
魔術訓練場は闘技場ほど広くはないものの、十分に魔術の演習が行える、最高の環境だ。
タイフーン先生は引率が終わると、最後に「応援してるよ、みんな」と言って、すぐに職員室かどこかに帰っていった。
俺たちを待っていたのは黒魔術基礎のソーサリー・スペクター先生。
最初に言っておくが、彼は人間じゃない。
亡霊だ。黒魔術を極め過ぎて、自らを亡霊へと変えてしまったらしい。考えるだけで怖い話だ。
スケスケの体は上半身だけで、外見だけでいうと年齢は60歳くらいのおじさん先生。
「我が魔術基礎の監督もすることとなった。決して無理をするではない。無理し過ぎて我のようになりたくなければな。イヒヒ」
そう、スペクター先生はいかれてしまっていた。
別に嫌いな先生ってわけじゃないが、先生のギャグを面白いと思ったことはない。
「貴殿らの担任はイーグルアイであったな。やつから聞かされた。魔術基礎の筆記で満点を取った優秀な亡霊がいると──いや、人間が。イヒヒ」
「相変わらず面白いぜ、スペクター先生」
「感謝する、人間ゲイルよ」
「恐縮っす」
クラスの生徒のほとんどはうんざりしていた。
このやり取りはいつものことだ。ゲイルはやっぱりすごい。
俺だったら好んでスペクター先生と関わりたいとは思わないのに。
「では早速魔術基礎の実技試験を始めよう。今回の試験は、先ほどの剣術ほど難解なものではない。安心したまえ。イヒヒ」
「先生、ちょっと怖いよぅ」
隣でリリーが囁いた。
幸い、スペクター先生本人には届いていない。
「貴殿らにしてもらうのは単純な攻撃魔術、守備魔術のみ。その精度に応じて点数を与えよう。上位3名はクラスの仲間より称えられるという景品つきである。そして、我からもひとつ……イヒヒ」
「焦らすな! ったく、全然燃えてねーんだよ! さっさと言え!」
ここでブレイズが怒鳴った。
やばい。先生に怒られる。
そう思うだろ?
だが実際は──。
「人間ブレイズ、非常に熱意のある意見だ。我も人間の頃は黒魔術の熱意に満ちていた。イヒヒ」
「だから早く言え! オレが1位になってやる! 何くれんだ!」
「落ち着きたまえ。もし上位3名に入ったのであれば……我が魅了の魔術をかけてやろう」
女子と男子数名から歓声が上がった。
男子生徒の主格はもちろんエロスだ。
魅了の魔術をかけられると、その人物は3日限定で好きな人を魅了し、相手を落とすことができるらしい。
効果が切れたとしても、落ちた状態には変わらないため、そのままうまく持っていくことができれば交際に発展させることだってできる、と。
ちなみに魅了の魔術をかけることは難しく、危険が伴うため、俺たち人間にはできない。
だが人間でない、もう死んでいる亡霊先生にはできるわけだ。
「リリー、絶対トップ3に入るね!」
隣にいるリリーはやけに気合いが入っていた。
誰か落としたい人でもいるのか。
マーリーンも本気だ。
ゲイルには悪いが、たぶんその対象はタイフーン先生だろう。
「ねえねえ、ジャックくんは魅了の魔術かかりたい? どうかな?」
ハローちゃんが気づけばすぐ近くにいた。
さっきまでは反対側にいたはず。
どういうことだ?
「いや……俺はただ1位になりたいだけだな」
正直俺に魅了の魔術をかけたところで、何も効果はない。
俺に好きな人はいないからだ。
1位になろうが、トップ3に入ろうが、俺は先生からの魅了の魔術を断る。
***
「我のスキルは分身である。それは人間の頃から変わらないのだ。しかし、そこに今では浮遊能力、透過能力、何も食べなくていいという能力も加わり、我は最強となったのだ。イヒヒ」
「で、早速始めましょー」
今度はゲイルが急かした。
「実に興味深い。人間は時間に厳格である。イヒヒ」
気まずい沈黙。
誰もスペクター先生に反応しようとはしない。
「我が分身して貴殿らを見る。ここは十分な広さがあるため、各自それぞれのタイミングで魔術を発動するがよい」
クラスメイトそれぞれ、好きなところに散らばった。
ようやく集中して試験が受けられる。
それじゃあ──。
「燃えろ燃えろ! 炎の乱舞!」
ブレイズの大きな声が聞こえてくる。
攻撃魔術か。彼はスキル『炎』の持ち主。だから魔術にはめっぽう強いわけだ。
そう、この魔術基礎は本人の持っているスキルが大きく影響している。
誰でも訓練すれば魔術が使えるようにはなるが、最初から魔術系のスキルを持っている者に勝つことは不可能。それは剣術でも、剣系のスキルを持っている者に魔術系が勝てないことと同じだ。
俺とフロスト・ブリザードは例外的に剣術で上位2位の成績だったが、剣系のスキルを持つ3位のエレガントが本気で訓練を積めば、最終的にはフロストを超えるだろう。
が、残念ながら俺は超せない。
スキルがそもそも例外だからだ。
「ジャックくんのスキルって、剣系だったんだね。初めて見てびっくりしちゃった」とリリーが言っていたが、たぶん他のみんなも俺のスキルを剣系だと勘違いしている。
そしてこう思っているだろう。
剣術では確かに剣系スキルを持つジャックが勝った。だが魔術ではそんなアドバンテージなんてない。だから勝てる!
残念だったな、みんな。
俺のスキルはただのスキルじゃない。チートスキル『適応』を、女神からもらったんだ。
魔術訓練場は闘技場ほど広くはないものの、十分に魔術の演習が行える、最高の環境だ。
タイフーン先生は引率が終わると、最後に「応援してるよ、みんな」と言って、すぐに職員室かどこかに帰っていった。
俺たちを待っていたのは黒魔術基礎のソーサリー・スペクター先生。
最初に言っておくが、彼は人間じゃない。
亡霊だ。黒魔術を極め過ぎて、自らを亡霊へと変えてしまったらしい。考えるだけで怖い話だ。
スケスケの体は上半身だけで、外見だけでいうと年齢は60歳くらいのおじさん先生。
「我が魔術基礎の監督もすることとなった。決して無理をするではない。無理し過ぎて我のようになりたくなければな。イヒヒ」
そう、スペクター先生はいかれてしまっていた。
別に嫌いな先生ってわけじゃないが、先生のギャグを面白いと思ったことはない。
「貴殿らの担任はイーグルアイであったな。やつから聞かされた。魔術基礎の筆記で満点を取った優秀な亡霊がいると──いや、人間が。イヒヒ」
「相変わらず面白いぜ、スペクター先生」
「感謝する、人間ゲイルよ」
「恐縮っす」
クラスの生徒のほとんどはうんざりしていた。
このやり取りはいつものことだ。ゲイルはやっぱりすごい。
俺だったら好んでスペクター先生と関わりたいとは思わないのに。
「では早速魔術基礎の実技試験を始めよう。今回の試験は、先ほどの剣術ほど難解なものではない。安心したまえ。イヒヒ」
「先生、ちょっと怖いよぅ」
隣でリリーが囁いた。
幸い、スペクター先生本人には届いていない。
「貴殿らにしてもらうのは単純な攻撃魔術、守備魔術のみ。その精度に応じて点数を与えよう。上位3名はクラスの仲間より称えられるという景品つきである。そして、我からもひとつ……イヒヒ」
「焦らすな! ったく、全然燃えてねーんだよ! さっさと言え!」
ここでブレイズが怒鳴った。
やばい。先生に怒られる。
そう思うだろ?
だが実際は──。
「人間ブレイズ、非常に熱意のある意見だ。我も人間の頃は黒魔術の熱意に満ちていた。イヒヒ」
「だから早く言え! オレが1位になってやる! 何くれんだ!」
「落ち着きたまえ。もし上位3名に入ったのであれば……我が魅了の魔術をかけてやろう」
女子と男子数名から歓声が上がった。
男子生徒の主格はもちろんエロスだ。
魅了の魔術をかけられると、その人物は3日限定で好きな人を魅了し、相手を落とすことができるらしい。
効果が切れたとしても、落ちた状態には変わらないため、そのままうまく持っていくことができれば交際に発展させることだってできる、と。
ちなみに魅了の魔術をかけることは難しく、危険が伴うため、俺たち人間にはできない。
だが人間でない、もう死んでいる亡霊先生にはできるわけだ。
「リリー、絶対トップ3に入るね!」
隣にいるリリーはやけに気合いが入っていた。
誰か落としたい人でもいるのか。
マーリーンも本気だ。
ゲイルには悪いが、たぶんその対象はタイフーン先生だろう。
「ねえねえ、ジャックくんは魅了の魔術かかりたい? どうかな?」
ハローちゃんが気づけばすぐ近くにいた。
さっきまでは反対側にいたはず。
どういうことだ?
「いや……俺はただ1位になりたいだけだな」
正直俺に魅了の魔術をかけたところで、何も効果はない。
俺に好きな人はいないからだ。
1位になろうが、トップ3に入ろうが、俺は先生からの魅了の魔術を断る。
***
「我のスキルは分身である。それは人間の頃から変わらないのだ。しかし、そこに今では浮遊能力、透過能力、何も食べなくていいという能力も加わり、我は最強となったのだ。イヒヒ」
「で、早速始めましょー」
今度はゲイルが急かした。
「実に興味深い。人間は時間に厳格である。イヒヒ」
気まずい沈黙。
誰もスペクター先生に反応しようとはしない。
「我が分身して貴殿らを見る。ここは十分な広さがあるため、各自それぞれのタイミングで魔術を発動するがよい」
クラスメイトそれぞれ、好きなところに散らばった。
ようやく集中して試験が受けられる。
それじゃあ──。
「燃えろ燃えろ! 炎の乱舞!」
ブレイズの大きな声が聞こえてくる。
攻撃魔術か。彼はスキル『炎』の持ち主。だから魔術にはめっぽう強いわけだ。
そう、この魔術基礎は本人の持っているスキルが大きく影響している。
誰でも訓練すれば魔術が使えるようにはなるが、最初から魔術系のスキルを持っている者に勝つことは不可能。それは剣術でも、剣系のスキルを持っている者に魔術系が勝てないことと同じだ。
俺とフロスト・ブリザードは例外的に剣術で上位2位の成績だったが、剣系のスキルを持つ3位のエレガントが本気で訓練を積めば、最終的にはフロストを超えるだろう。
が、残念ながら俺は超せない。
スキルがそもそも例外だからだ。
「ジャックくんのスキルって、剣系だったんだね。初めて見てびっくりしちゃった」とリリーが言っていたが、たぶん他のみんなも俺のスキルを剣系だと勘違いしている。
そしてこう思っているだろう。
剣術では確かに剣系スキルを持つジャックが勝った。だが魔術ではそんなアドバンテージなんてない。だから勝てる!
残念だったな、みんな。
俺のスキルはただのスキルじゃない。チートスキル『適応』を、女神からもらったんだ。
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