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勇者祭編
その70 教室半壊事件
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エイダンの拳がすぐ目の前に迫っていた。
常人は反応できないだろうが、俺は違う。
受け止めることも、受け流すことも、華麗にかわすことも――なんだって可能だ。
拳の弾道がスローモーションとなり、周囲の様子まで鮮明に確認できた。
ちっとも心配していないグレイソンに、小さな両手で小さな顔を覆っているクルリン。ミクリンは癇癪を起こしたエイダンか、もしくは火に油を注いだ俺に対して呆れた表情を見せている。
そして、気づけば拳は眼前にあった。
『――西園寺!』
理由はわからないが、ついさっきまで俺に嫌悪感むき出しだった東雲が叫ぶ。俺の命を気にかけてくれているんだろうか。
――西園寺オスカーの顔が吹っ飛ぶ。
俺の実力を知る数名の生徒を除いて、ほとんどがそう思った。
『――ッ!』
大砲が放たれたかのような、凄まじい爆音。
旋風が巻き起こり、教室のあらゆるものが飛び散る。
ある者は耳を押さえ、鼓膜が破けるのを防いでいた。ある者は目を押さえ、破片が目に入るのを防いでいた。ある者は口を押さえ、災害並みの衝撃に絶句していた。
間違いなく、この爆音は学園全体に轟いただろう。
今頃教師陣は大慌てだ。
また魔王が出た、とバタバタしているかもしれない。
「どうかしたか?」
「「「「……」」」」
俺は首を傾げた。
たった今の爆音&爆風に気づいていないかのように。
――え、何か起こりました?
そういう雰囲気を生み出す。鉄拳が俺の顔面に当たる直前、俺は恐ろしいほどの速さで左に顔を傾け、全身を魔力でコーティングすることによって、近距離での高威力爆発に対処したのだ。
瞬発力と魔力の操作技術が必要になる大技。
身体能力と魔力の両方を兼ね備える、勇者ならではの防御方法である。
神でない限り、先ほどの俺の動きは確認できない。
三つの選択肢の中で、俺が選んだのは最後の「自然にかわす」ものだった。
クラスメイトの動揺に合わせ、周囲をキョロキョロと見回す。
後ろを振り返り、大袈裟に驚いた。
「壁が……吹き飛んでいる……どうしてだ……?」
名演技。
最近はなかなか演技の機会がなかったので、渾身の出来をクラスで披露できて嬉しい限りだった。
「そういえば思い出した。君が天王寺エイダンか。生徒会の連中によろしく伝えておいてくれ」
「おめぇ! わざとかわしやがったな!! いい加減――」
「急に胸ぐらを掴むのはやめてくれ。俺はこの世界の平穏を望んでいる」
これには天王寺も固まった。
どう反応すべきか迷っているのかもしれないし、こんな状況でも一切の動揺を見せない俺を恐れているのかもしれない。
それでも、俺の胸ぐらを乱暴に掴む手は離さない。
制服が破けそうだ。もし天王寺のせいで制服が駄目になったら、彼の上司である生徒会長に弁償してもらおう。
「天王寺先輩、いくらなんでも教室を破壊するのはやり過ぎではないですか? それに、オスカーも嫌がっていますし、これ以上――」
「何だおめぇ? これは俺様と西園寺の問題だ! モブが口出すんじゃねぇ!!」
グレイソンが冷静かつ丁寧に声をかけるも、失礼どころではない横暴な態度でその言葉を突き飛ばす。
一ノ瀬グレイソンはクラスで人気の美男子だ。
貴公子のような――というか実際貴公子ではあるが――長めの金髪をなびかせ、爽やかに微笑むアイドル。
特に女子人気が高い。
今の天王寺の酷い態度は、このクラスの女子のほとんどを敵に回すものだとわかる。女子からの軽蔑の視線が、一斉に天王寺に注がれた。
「……いなんだよ……」
「?」
「……嫌いなんだよ……本気出さずにクソみてぇな結果に甘んじてるおめぇみてぇな奴が!」
天王寺の真っ赤な瞳が灼熱の炎を上げて燃えている。
それは美しく煌いていた。
穢れはない。迷いもない。
ただ、真っ直ぐな眼差し。
彼はきっと気に食わないんだろう。
実力を持っているのに、それを見せない西園寺オスカーが。自分を超し得る力を宿すのに、野心のない西園寺オスカーが。
俺と天王寺のすぐそばで、セレナの瞳孔は小刻みに震えていた。
天王寺エイダンという存在は、威圧感の塊だ。
闘争心を掻き立てる赤髪に、強靭で大柄な肉体。二つも年上で、かつ生徒会の幹部。性格も乱暴で、冷静に話ができるような相手ではない。
その圧力を、セレナをはじめとするクラスメイトの多くが感じている。
グレイソンのように堂々と天王寺に意見できる生徒なんて、稀だ。
「俺はいつだって本気だ」
天王寺の直線の瞳を見つめ返す。
この言葉は嘘ではない。
常に全力で、「かっこよさそう」な演出を試している。全力で努力し、全力で「かっこよさそう」な言動を模索してきた。
最近ようやく、その極意がさらなる進化を迎えようとしている。
まあ、「かっこよさそう」な演出を求める旅に、終わりなどないわけだが。
「お前がそこまで望むのなら、勇者祭でその言葉に応えてやろう。神に誓って、嘘はつかない。誰もが目指す栄光を、俺が掴み取るだけだ」
天王寺がようやく俺を解放した。
ここまで待ったのは、俺が無抵抗な生徒であることを演出するためだ。まだ早い。実力を見せるということは、いつだって大きな祭りでの見世物なのだから。
「おもしれぇ。俺様がおめぇをぶっ殺してやる」
「好きにするといい。俺はいつでも構えて待っている」
天王寺の大きな背中が、俺、そして〈1-A〉のクラスメイト全員に向けられる。
ほんの少し機嫌が良さそうな天王寺は、一度もこちらを振り返ることなく教室を去っていった。
《キャラクター紹介》
・名前:東雲ルビー
・年齢:17歳
・学年:ゼルトル勇者学園1年生
・誕生日:5月2日
・性別:♀
・容姿:緋色のツインテール、栗色の垂れ目
・身長:154cm
・信仰神:炎の神ボルケー
常人は反応できないだろうが、俺は違う。
受け止めることも、受け流すことも、華麗にかわすことも――なんだって可能だ。
拳の弾道がスローモーションとなり、周囲の様子まで鮮明に確認できた。
ちっとも心配していないグレイソンに、小さな両手で小さな顔を覆っているクルリン。ミクリンは癇癪を起こしたエイダンか、もしくは火に油を注いだ俺に対して呆れた表情を見せている。
そして、気づけば拳は眼前にあった。
『――西園寺!』
理由はわからないが、ついさっきまで俺に嫌悪感むき出しだった東雲が叫ぶ。俺の命を気にかけてくれているんだろうか。
――西園寺オスカーの顔が吹っ飛ぶ。
俺の実力を知る数名の生徒を除いて、ほとんどがそう思った。
『――ッ!』
大砲が放たれたかのような、凄まじい爆音。
旋風が巻き起こり、教室のあらゆるものが飛び散る。
ある者は耳を押さえ、鼓膜が破けるのを防いでいた。ある者は目を押さえ、破片が目に入るのを防いでいた。ある者は口を押さえ、災害並みの衝撃に絶句していた。
間違いなく、この爆音は学園全体に轟いただろう。
今頃教師陣は大慌てだ。
また魔王が出た、とバタバタしているかもしれない。
「どうかしたか?」
「「「「……」」」」
俺は首を傾げた。
たった今の爆音&爆風に気づいていないかのように。
――え、何か起こりました?
そういう雰囲気を生み出す。鉄拳が俺の顔面に当たる直前、俺は恐ろしいほどの速さで左に顔を傾け、全身を魔力でコーティングすることによって、近距離での高威力爆発に対処したのだ。
瞬発力と魔力の操作技術が必要になる大技。
身体能力と魔力の両方を兼ね備える、勇者ならではの防御方法である。
神でない限り、先ほどの俺の動きは確認できない。
三つの選択肢の中で、俺が選んだのは最後の「自然にかわす」ものだった。
クラスメイトの動揺に合わせ、周囲をキョロキョロと見回す。
後ろを振り返り、大袈裟に驚いた。
「壁が……吹き飛んでいる……どうしてだ……?」
名演技。
最近はなかなか演技の機会がなかったので、渾身の出来をクラスで披露できて嬉しい限りだった。
「そういえば思い出した。君が天王寺エイダンか。生徒会の連中によろしく伝えておいてくれ」
「おめぇ! わざとかわしやがったな!! いい加減――」
「急に胸ぐらを掴むのはやめてくれ。俺はこの世界の平穏を望んでいる」
これには天王寺も固まった。
どう反応すべきか迷っているのかもしれないし、こんな状況でも一切の動揺を見せない俺を恐れているのかもしれない。
それでも、俺の胸ぐらを乱暴に掴む手は離さない。
制服が破けそうだ。もし天王寺のせいで制服が駄目になったら、彼の上司である生徒会長に弁償してもらおう。
「天王寺先輩、いくらなんでも教室を破壊するのはやり過ぎではないですか? それに、オスカーも嫌がっていますし、これ以上――」
「何だおめぇ? これは俺様と西園寺の問題だ! モブが口出すんじゃねぇ!!」
グレイソンが冷静かつ丁寧に声をかけるも、失礼どころではない横暴な態度でその言葉を突き飛ばす。
一ノ瀬グレイソンはクラスで人気の美男子だ。
貴公子のような――というか実際貴公子ではあるが――長めの金髪をなびかせ、爽やかに微笑むアイドル。
特に女子人気が高い。
今の天王寺の酷い態度は、このクラスの女子のほとんどを敵に回すものだとわかる。女子からの軽蔑の視線が、一斉に天王寺に注がれた。
「……いなんだよ……」
「?」
「……嫌いなんだよ……本気出さずにクソみてぇな結果に甘んじてるおめぇみてぇな奴が!」
天王寺の真っ赤な瞳が灼熱の炎を上げて燃えている。
それは美しく煌いていた。
穢れはない。迷いもない。
ただ、真っ直ぐな眼差し。
彼はきっと気に食わないんだろう。
実力を持っているのに、それを見せない西園寺オスカーが。自分を超し得る力を宿すのに、野心のない西園寺オスカーが。
俺と天王寺のすぐそばで、セレナの瞳孔は小刻みに震えていた。
天王寺エイダンという存在は、威圧感の塊だ。
闘争心を掻き立てる赤髪に、強靭で大柄な肉体。二つも年上で、かつ生徒会の幹部。性格も乱暴で、冷静に話ができるような相手ではない。
その圧力を、セレナをはじめとするクラスメイトの多くが感じている。
グレイソンのように堂々と天王寺に意見できる生徒なんて、稀だ。
「俺はいつだって本気だ」
天王寺の直線の瞳を見つめ返す。
この言葉は嘘ではない。
常に全力で、「かっこよさそう」な演出を試している。全力で努力し、全力で「かっこよさそう」な言動を模索してきた。
最近ようやく、その極意がさらなる進化を迎えようとしている。
まあ、「かっこよさそう」な演出を求める旅に、終わりなどないわけだが。
「お前がそこまで望むのなら、勇者祭でその言葉に応えてやろう。神に誓って、嘘はつかない。誰もが目指す栄光を、俺が掴み取るだけだ」
天王寺がようやく俺を解放した。
ここまで待ったのは、俺が無抵抗な生徒であることを演出するためだ。まだ早い。実力を見せるということは、いつだって大きな祭りでの見世物なのだから。
「おもしれぇ。俺様がおめぇをぶっ殺してやる」
「好きにするといい。俺はいつでも構えて待っている」
天王寺の大きな背中が、俺、そして〈1-A〉のクラスメイト全員に向けられる。
ほんの少し機嫌が良さそうな天王寺は、一度もこちらを振り返ることなく教室を去っていった。
《キャラクター紹介》
・名前:東雲ルビー
・年齢:17歳
・学年:ゼルトル勇者学園1年生
・誕生日:5月2日
・性別:♀
・容姿:緋色のツインテール、栗色の垂れ目
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・信仰神:炎の神ボルケー
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